第010話 料理が美味しい?
俺達は1階に降りていくと、食堂の方に向かう。
すると、食堂はいくつかのカウンター席とテーブル席が6つあったが、他の客は誰もおらず、おばさんがテーブルを拭いているだけだった。
「あれ…………もう食べるのかい?」
おばさんは一瞬、浮いているウェンディを見て固まったが、すぐに平静を取り戻して聞いてくる。
「はい。大丈夫ですかね? お腹が空いちゃったんですよー」
「もちろんだよ。好きな席につきな」
おばさんがそう言うので一番奥のテーブルの席についた。
俺とエルシィが正面に座り、ウェンディはエルシィ側のテーブルの上に立っている。
「何にする?」
おばさんがメニューを持ってきてくれたので見てみる。
「俺、おすすめの日替わり定食で」
「私もそうしまーす」
「じゃあ、私も」
「うん…………うん?」
おばさんが手を挙げたウェンディを凝視する。
「すみませーん。ウチの使い魔ちゃんなんです。日替わりを3つお願いします」
「あ、ああ……ちょっと待っててね」
おばさんは怪訝な顔のまま奥の厨房の方に歩いていった。
「ね? インパクトでしょ?」
人形がドヤ顔になった。
「すごいインパクトだろうな……」
「まあ、私と先輩のことは頭に残らないでしょうね……」
それほどまでに衝撃を受けた顔をしていた。
俺達がそのまま話をしながら待っていると、おばさんが3人分の食事を持ってきてくれた。
メニューはパンと鶏肉の照り焼きみたいなのであり、それにサラダとスープが付いていた。
「おー、美味しそうですね」
「やっとまともな食事にありつけますね。船の中の食事は固いパンと冷たい缶詰でした」
良かったな。
俺は何もなかったわ。
「いただきまーす」
俺達は料理を食べだす。
なお、おばさんは近くのテーブルを拭きながらこちらを凝視している。
というか、ナイフとフォークで鶏肉を切り分け、パンと一緒に食べているウェンディを見ていた。
「いやー、美味しいですねー」
ウェンディは美味しそうに食べているし、スプーンでスープまで飲んでいる。
でも、人形はまったく汚れていない。
「そうだな……」
「何度見ても不思議な光景です……」
エルシィも飛空艇の中で見たんだろうな。
「俺達も食べるか」
「そうですね」
鶏肉を切り分け、口に入れる。
すると、甘辛いソースが鶏肉のジューシーさとぴったり合って非常に美味しかった。
「おー、美味いな!」
「すごいですね! こんなの食べたことがないです!」
ホントだわ。
前世の中でもトップクラスに入るんじゃないだろうか?
「さぞ名のあるシェフじゃないか?」
「きっとそうでしょう」
とんでもなく美味いし、箸というかフォークとナイフが止まらない。
パンとも合うし、サラダにかかっているドレッシングも最高だ。
「あんたら、もしかして、イラドから来たのかい?」
おばさんが呆れた様子で聞いてくる。
「ああ。イラド出身で旅に出ることにしたんだ」
イラドと聞かれて一瞬、ドキッとしたが、ここは嘘をつくところじゃない。
空港がある町なのだからイラドの人間がいても変じゃないのだ。
「新婚でーす」
そういう設定の方が良いかもしれんな。
「そうかい。じゃあ、どこに行ってもご飯は美味しいと思うよ。あんたらの出身国を悪く言いたくないけど、イラドって飯が不味い国で有名なんだよ」
え? そうなの?
「そうなんですか?」
エルシィがおばさんに聞く。
「ああ。味付けも適当だし、ひどいものは塩だけってあるからね」
「塩だけ……」
よく食べていたような……
異世界だし、そういうものかと思っていた。
そして、24年間でそれにも慣れたんだが……
「え? じゃあ、この王様しか食べていないような鶏料理が普通なのか?」
「まあ、ポピュラーなものだよ……ウチの旦那が作ってくれた料理を褒めてくれるのは嬉しいけど、本当に普通の料理だよ、それ」
そ、そうなんだ。
こんなに美味いのに……
「何でしょう? ものすごく人生を損した気分になってきました」
「俺も……」
今までの食事は何だったんだ?
「これから楽しめばいいじゃないですか。女将さーん、パンをもう一個ー」
「いや、それはいいんだけど……いやー、わかんないなー。どうなってんだ?」
おばさんは首を傾げながら奥に行き、ウェンディのおかわりのパンを持ってくれる。
その後も美味しい料理を食べると、ようやくお腹が完全に膨れ、大満足となった。
そして、おばさんに追加注文のワインをもらうと、2階の部屋に上がり、テーブルにつく。
「「「かんぱーい」」」
俺達はイラド脱出記念ということで乾杯をした。
「飲みにくいですね……」
ウェンディは両手でグラスを抱えて飲んでいるが、サイズが合っていないため、ちょっと不安定だ。
「余裕ができたらお前用のグラスなんかの食器類を作ってやるよ」
俺達は錬金術師なのでその辺のことは朝飯前なのだ。
今は材料がないのでちょっと無理。
「おー! ありがとうございます!」
ウェンディが両手を上げて喜んでいる。
ぱっと見は天使ちゃん人形なので非常に可愛らしいのだが、よく考えると不気味だ。
さすがにもう慣れたが、女将さんは夢に出るかもしれんな。
「先輩、寝る前に今後のことを話し合いませんか? さすがに明日にはここを離れる必要があります」
確かにそうだな。
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