第9話 初闘
「なにボーッとしてんだ、行くぞ」
迅斗が背中から刀を抜いてクリーチャーのところまで行く。
ジャンプ力とスピードがすごい。
脚にエネルギーを込めたんだ。
「私も――」
花楓も同じように刀を抜いて、クリーチャーのところまで向かおうとした。
でも、花楓は動きを止めた。
雨米が花楓の腕を掴んでいたからだ。
「無理です! 私たち、寮を出たばっかですよ!? あんなの倒せるわけが――」
「やってみなきゃわかんないじゃん、そんなの」
雨米の言葉を遮る花楓。
今度は雨米が動かなくなって、花楓を放した。
花楓はそれを確認すると、迅斗と同じようにクリーチャーに向かった。
「――ごめんね、花楓ちゃん、やりたいことができちゃうと、周りが見えなくなっちゃう人だから……。でも、悪気はないと思うよ? 気にする必要なんてないよ」
笑顔をつくって雨米に言う天菜。
雨米は黙って下を見ている。
「風月、戦えそう?」
「まぁ、エネルギーの流し方くらいは知ってるからできると思う」
「じゃあお願いできるかな? 私はサポートと一般人の避難にまわるから」
「わかった」
「無理そうだったらすぐに逃げてね? 花楓ちゃん、ああ見えても強いし」
「そうするよ、無理そうだったらな」
「じゃあ雨米ちゃんは一般人の避難、お願いできる?」
雨米は黙って頷く。
俺も刀を抜いてみた。
しっかりと重みがある。
すごい……、日本刀だ……。
こんな重いの、素早く振り回せる自信はない。
……そうだ、こういうときに使うんだ。
俺は両腕にエネルギーを込める。
すると、刀が一気に軽くなった気がした。
この調子で……。
今度は脚にエネルギーを流して、迅斗たちのところをめがけて跳んだ。
予想通り、跳躍力が一気に上がった。
どんどんクリーチャーに近づいてくる。
クリーチャーは迅斗と花楓を相手にしてて、俺には気づいていない。
俺はそのままクリーチャーの肌に刀を突き刺した。
『──────────』
超音波みたいに高い声で鳴くクリーチャー。
刀を抜くと、真っ赤な血がクリーチャーから流れた。
よし、俺でもダメージは与えられた……。
そう思って傷口を眺めてたら、クリーチャーが突然身体を揺らした。
急なことで追いつかなくて、バランスを崩して落ちる。
どんどん地面が近づいてきてる。
ヤバい、脚にエネルギーを込めて着地しなきゃ――
そう思ったときには、もう遅かった。
クリーチャーが俺に殴りかかってきてた。
なにもできないで、そのまま殴られる。
左腕と肋に想像以上の激痛が走って、俺は吹っ飛んだ。
このままだとビルに衝突する。
でもどうすることもできない。
せめて全身にエネルギーを流して――!
「――大丈夫!?」
ビルには当たらずに、そんな声が聞こえた。
花楓の声だ。
花楓が俺を受け止めてくれていた。
痛すぎて声が出ない。
花楓は俺を抱きながらビルの屋上まで行く。
そして俺を寝かせた。
「無理そうだったらやらなくていいから」
花楓はそう言って、クリーチャーのところに戻っていった。
やっぱ俺じゃ無理なのかな……?
そもそも、俺をあんな化け物と戦わせようと思うこと自体間違ってんだ。
戦い方もろくの教わらないで。
目を閉じる。
だんだん痛みがなくなってきた。
俺、なにしてるんだろう……。
『――その程度じゃないよね?』
声が聞こえる。
女の声だ。
声的に雨米かと思ったけど、口調が違う。
あいつは敬語で話してた気がする。
『君はまだ、エネルギーで戦ってない。ただ、肉体的な力で戦ってるだけ。あんなんじゃ、だいたいの人は死ぬよ』
そんなこと言われても……。
『君は面白いエネルギーをしてる。ま、最初はそれに気づかないだろうけどね。とりあえずやってみな? エネルギーを一気に放出させればいいだけ。簡単なことだよ。吹っ飛ばされないように気をつけてね』
ここで声は聞こえなくなった。
身体が動かない。
目も開けられない。
『エネルギーを一気に放出させればいいだけ』。
確かにそれはやってなかった。
試しにやってみる価値はあるな。
やっと目が開いた。
身体を起こすけど、痛みは消えてる。
辺りを見ると、さっきのクリーチャーが迅斗、花楓と戦ってた。
二人とも服のところどころに血がついてる。
迅斗なんかは額から血を流してる。
俺がやらなきゃ……。
俺は脚にエネルギーを込めて、さっきみたいにクリーチャーに向かう。
クリーチャーはすぐに俺の存在に気づいたみたいで、俺に殴り掛かってきた。
……今だ、一気にエネルギーを放出……!
俺はそのイメージをして、全身からエネルギーを放出した。
その瞬間、台風並みの『風』が吹いた。
クリーチャーの手をそれで押し返す。
俺はまた全身からエネルギーを放出させる。
するとまた『風』が吹いた。
その勢いに乗って、俺はクリーチャーの喉に斬り掛かる。
速すぎて、クリーチャーは身体が追いついてなかった。
俺は隙だらけになったクリーチャーの喉を斬った。
その斬撃は速すぎて、血が吹き出るまで時間が掛かった。
クリーチャーはしばらくしてから倒れて、動かなくなった――。
「――やっぱ面白いじゃん」
戦いの一部始終を見ていた雨米は呟く。
「あの助言であそこまで戦えるって、初めてじゃないかな?」
クリーチャーの上に乗ってる風月を見る。
風月は疲労のせいで今にも倒れそうだった。
「ってか、この班みんなすごいんだよね……。迅斗さんと花楓さんは迷わずに戦う勇気、天菜さんは判断力も確か。問題は風月さんなんだよな――」
「――どこまで成長するんだろう……」