第6話 初授業
早速授業みたいなの受けてみたけど、内容は理解したような理解してないような……。
近接戦のときのナイフの使い方っていうやつを1時間くらい説明された。
ノートにメモるとかそういうのないから、本当にただ聞くだけ。
まだ緊張が残ってたから大丈夫だったけど、慣れが出始めたら眠くなってた。
「――じゃ、今日は終わりな。今日は新しい生徒の風月ってやつがいるから、仲良くなれそうなやつはそいつと仲良くなっとけ。以上」
いや、やめめてくださいよ、そんな事言うの。
注目されちゃうじゃないですか。
「どうだった? 授業」
早速花楓が話しかけてくれる。
この時間が一番幸せかも。
俺、向こうの世界じゃ異性と話したこともあんまりなかったし。
……あ、母さん除く。
「結構すごいことやるんですね……。陸軍でしかやらなさそうなこと……」
「敬語はいいよ。最初は結構混乱するよね」
「混乱しまし……混乱した」
うわぁ……いきなりタメ口だよ。
難易度高いな。
みんながゾロゾロと部屋から出ていく。
……蝶香さんに『みんな風月に話し掛けろ』って言ってたのに、花楓しか話し掛けてくれない……。
なんかさみしいな……。
……? あれ? 迅斗は?
部屋のどこをさがしても迅斗はいない。
多分、もう帰りやがった。
どうしよう、まだ完全にこの建物の構造覚えてないから道に迷う!
「? どうしたの?」
「いや、えっと……」
「言いたいことがあるならハッキリ言いな?」
「コラ、花楓ちゃん。言い方ちょっとキツいよ」
後ろから新しい女子の声がする。
振り向くと、顔が整ってる女子がいた。
……かわいいな……。
うん、やめよう、こういうふうに見るの。
「ごめんなさい、花楓ちゃん、そういうとこ苦手で……」
「向こうの世界で現代文は赤点だったよ!」
「ドヤ顔で言う事じゃないよ」
花楓、現代文赤点だったのか。
俺は古典を1回だけ赤点取ったことあるけど。
『主語を省略するな!』って思いながらやってたなー。
「あの……花楓さんのお友達ですか……?」
「あ、私ですか」
その人は懐からあの名刺みたいなやつを出して、俺に差し出す。
俺はそれを見た。
この人は『天菜』って名前らしい。
流れ的に俺も名刺あげなきゃいけないから、俺も差し出した。
天菜さんは満足そうに受け取って、それを懐にしまった。
「どうでしたか? 初めての授業」
「なんかすごいことやってますね……。あれ、クリーチャー討伐には必須の知識だと思いますけど」
「まぁ、知ってたら有利になりそうですよね」
微笑みながら言う天菜さん。
この世界には顔が整ってるやつしかいないのか?
「そういえばいつクリーチャー討伐するんですかね……?」
「おそらく明日だと思います」
……ん? 明日?
まだクリーチャー討伐の知識、なんもないんですけど。
「大丈夫ですよ、きっと」
「天菜ちゃんが敬語使ってるとこ初めて見た……」
「ちゃんと教官には使ってますー」
「風月となら敬語いらないんじゃない?」
「でもそれじゃ風月さんに――」
「俺は別にいいですよ」
天菜さんの声を遮っちゃった。
花楓も天菜さんも黙り込む。
……マズいことしちゃったかな? 俺。
「それじゃあ……風月……?」
……うん、これもこの世界に慣れるため。
女の子に名前呼ばれて照れてちゃクリーチャーなんか倒せない、多分。
「はい、風月です」
「じゃあ私も敬語いらないよ。面倒臭いでしょ?」
「じゃあ……天菜?」
「ストップ。風月照れてる。もうみんないないし、早く行こ」
花楓が立ち上がったから俺もそうした。
そのまま二人について行って、部屋から出る。
……どこだ、ここ。
俺の部屋への行き方がわからない。
「そういえば風月はお腹空いてる?」
「まぁ……」
「じゃあさ、ご飯食べようよ! 食堂で! 行ったことある?」
「行ったことはあるけど……食べたことはない」
「じゃあ行こ!」
花楓が走り出す。
それを見て『花楓ちゃん、走っちゃダメだよ』って注意してる。
今のところ花楓が元気キャラで、天菜がしっかり者ってイメージ。
俺は花楓について行って、食堂に着いた。
混んでるっちゃ混んでるけど、空席はある。
なんか学校の食堂って感じ。
「券売機で食券買うんだ! お金は入れないで、ボタン押せば出てくるよ!」
間違えてボタンに当たったらどうするんだろう……。
そう思ったけど敢えて言わなかった。
花楓のオススメはささみフライ定食らしいから、俺はそれにした。
本当にお金入れなくても食券出てきた。
「勝手に呼ばれるから、カウンターの近くで待ってれば大丈夫だよ」
花楓が笑いながらそう言ってくれる。
初めての場所でこういう説明してくれるの本当にありがたい。
俺の食券番号は69番だ。
先に天菜が呼ばれて、そのあとに花楓が呼ばれた。
先に席を取っといてくれるみたい。
「――お待たせいたしました! 69番の方!」
あ、俺だ。
俺は食券を持ってカウンターに向かう。
すでにささみフライ定食は用意されてる。
美味しそう。
「食券のほうよろしいですか?」
受け付けの人……って言うの?
まぁその人にそう言われたから食券を差し出した。
俺と同い年くらいの小柄な女子だ。
その人は慣れた手で食券を半分にちぎって、片方を俺に渡す。
……どうしよう、この人も顔整ってる。
この世界にはかわいい人しかいない説を提唱したい。
そう思いながらその人を見てると、その人と目が合った。
すぐに目を逸らそうとしたけど、その前にその人が笑った。
……かわいい……。
俺はそう思ったけど、すぐにささみフライ定食を持って花楓たちのところに向かった。
「――あの人、面白いエネルギー持ってるじゃん」
そうつぶやくのは、食堂のスタッフルームにいる一人の少女。
その少女は先刻、風月に料理を提供した者だった。
「クリーチャーと戦っていけばどんどん強くなっていくタイプだよ――」
「――いつか私を超えちゃうかな?」