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第5話 自己紹介

 あのあと、蝶香さんが小さい紙切れを複数枚俺にくれた。

 そこには俺の名前が書いてあった。

 迅斗や蝶香さんが俺にくれたのと同じやつ。


 そこからこの世界のことについてざっと教えてもらった。


 この世界には『クリーチャー』っていう化け物がいて、そいつらは人間を喰い殺す。

 そういうクリーチャーを討伐するのが俺たちの仕事らしい。

 クリーチャーは急に現れて、どうやって増殖するかは不明。

 クリーチャーを討伐することができる能力を持っているのは、異世界転移した人だけ。

 そういう人たちを『護殺人(ごせつじん)』っていうらしい。

 つまり俺は護殺人ってこと。


 さっき言った『能力』っていうのは具体的には『エネルギー』ってものらしい。

 そのエネルギーを使うと、身体を強化できる。

 エネルギーは体力と同じようなもので、消費しても時間が経ったり休めば回復する。


 エネルギーには人によって『質』っていうものがある。

 簡単に言うと属性みたいなもん。

 『炎』の質とか『水』の質とか。


 で、エネルギーを一気に放出すると『技』を出せる。

 これはゲームとかと同じ。

 手から炎出したり、風を巻き起こしたり。


 ……って感じに説明されたけど、覚えられる自身はない。

 クリーチャーの種類も言われたし。

 なんか『1型クリーチャー』とか『2型クリーチャー』とかあるらしいよ?


 クリーチャー討伐するにはこれをマストで覚えなきゃいけないらしいけど。


 ま、蝶香さんも『そのうち勝手に覚えるから今は焦んなくていい』って言ってたし、ゆっくり覚えていくか。


 それより、楽しそうだな、クリーチャー討伐。

 だってバトルゲームの世界を体験できるんでしょ?

 こんな経験、向こうの世界じゃできないよ?


 「……もうこんな時間か。そろそろ教育所に行くぞ」


 壁に掛けてある時計を見てから蝶香さんが言う。

 今は8時前だ。


 この世界のことについて説明されてるうちに、こんなに時間経っちゃった。


 「さっきも言ったけど、まずはみんなに自己紹介だから考えといて。じゃ、私についてきて」


 そうじゃん、自己紹介あんじゃん。

 緊張してきて心臓バクバクいってる。

 どうしよう、精神安定剤ほしい。


 それと、昨日迅斗から『新しい服が支給される』って聞いたんだけど、いつ支給されるの?

 俺ずっとこの制服でいるのなんか嫌なんだけど。

 この世界のみんなと違う感があって。


 蝶香さんは扉の前まで来て止まった。


 「ここだ」


 もう着いたんだ。

 待って、心の準備ができてないの。


 「じゃ、行くぞ」


 俺の心の叫びを無視して、蝶香さんは扉を開ける。


 どうしよう、中に入れない。

 転校生とかってこんな気持なんだね。


 「? なにしてる? 早く入ってこい」

 「い、いや、緊張ですね……」

 「こんなことで緊張してたらモテないぞ?」


 関係ありますか? それ。

 でも仕方ない、行くしかないか。

 こういう気持ちは一瞬だけ。

 『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥 』だ。


 ……ここで使う言葉じゃないか。


 とりあえず中に入る。


 ちっちゃい塾の教室みたい。

 机は4掛ける4で配置されてて、その中の数席が空いてた。

 みんな俺と同じくらいの年齢だと思う。


 ……あ、迅斗がいる。

 こういうときに知り合いいると嬉しいよね。


 みんな、俺のことを不思議そうな目で見てる。

 そんな目で見ないで、俺を。


 「お前らー、今日から新しい仲間できるぞー。仲良くするようにー」


 蝶香さんが喋る。

 みんな静かにそれを聞いてる。


 ……もうちょっとガヤガヤしてよ。

 俺がいにくいじゃん。


 「はい、じゃあ自己紹介頼む」

 「え、もうですか!? なんかもっと喋ってくれないんですか!?」

 「みんな私の話より君の話のほうが興味あるんだよ」

 「そんなことないと思いますけどね……」

 「そうだから自己紹介。みんな待ってるぞ」

 「うう……」


 どうしよう、本当に言う事なんもない。

 俺、特に目立ったことないし、なんも言えないよ。


 向こうの世界にいるとき『自己紹介、コツ』って調べとくべきだった!


 「か、風月です……」

 「……他は?」

 「他も喋らなきゃダメですかね……?」

 「ダメに決まってるだろ。自己紹介初心者か」


 はい、自己紹介初心者です。


 「せ、性別は男です……」

 「そんなの見ればわかる」

 「……本当に言う事ないんですけど」

 「……マジで言ってる?」

 「マジで言ってます」

 「……自己紹介のとき、一番つまらないやつになるタイプだろ?」


 はい、そうです。

 おかげで小学校、中学校、高校で苦しみました。


 「……じゃあもういい。今日から君も私の生徒だ。遠慮なく接するからよろしくな」

 「は、はい……」

 「じゃ、席は――」


 来た、俺の席が決まるとき。

 こういう状況で一番大切なのは席だ。

 仲良くなれなさそうなやつの隣だと終わる。


 今回のベストは迅斗だな、あいつなら話せる。

 奇跡的に迅斗の隣は空いてた。

 蝶香さんは俺が迅斗と同じ部屋で生活してるって知ってるから、そうしてくれるはず――。


 「あそこな」


 蝶香さんは空いてる席を一つ指で差す。

 迅斗からめっちゃ離れてる席じゃん。


 「じゃ、そこに座っとけ。私は忘れ物取ってくるから」


 蝶香さんはそう言ってどっか行っちゃった。


 蝶香さん、空気読んでくださいよ……。


 立っててもなんもないから、とりあえず指定された席に向かう。

 みんな俺のことジロジロ見てくるじゃん。

 やめてよ、俺人に見られる趣味ないんだから。


 そう思いながら席に座る。

 ……ここから馴染めるかな……?


 「――その制服、見たことあるよ」


 隣から声がする。

 その方向を見ると、一人の女子が座ってた。

 ……ヤバい、かわいい……。


 ホノカといい蝶香さんといい、なんでこの世界の人かわいいひとばっかなの?


 「電車で時々見かけてたんだ」


 ヤバい、本当にかわいい。

 髪型も……なんだっけ、この髪型。

 ……思い出した、サイドテールだ。


 「名刺、見せてくれるかな?」

 「あ、はい……」


 ……この世界に来て本当によかったかも。


 俺はさっきもらった名刺みたいなやつをその女子に渡す。

 女子は満足そうに頷いてそれを懐にしまって、胸ポケットから同じようなものを出してそれを俺に差し出す。

 俺は受け取って、それを見てみた。


 この女子の名前は『花楓(かえで)』っていうらしい。


 「これからよろしくね、風月くん」


 花楓は満面の笑みを浮かべて俺に言う。


 ……迅斗の隣よりこっちのほうがよかったわ。

 蝶香さん、ありがとうございます。

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