第23話 声
頭に冷たい感触が伝わった。
冷たくて、硬い。
赤色の血が宙を浮かんでる。
次の瞬間には地面に落ちてる。
気が付くと、頭からその冷たさが消えた。
ただ、頭に鋭い痛みが走ってるだけ。
頭の中が変な感じがする。
変な感じはするけど、なにも感じない。
だんだん力が入らなくなってきた。
そのまま俺は地面に頭をつけた――
『――わかるか?』
頭の中に響く、老人の声。
『自分のエネルギーの質は、一つだけだと思っちゃいけない』
『君には、これもある』
『これを使えば、憎き五神楽苛を倒すことができる』
『ただ、これは強力な分、欠点がある』
『長時間この状態になると、君は死ぬ』
『本当の目的を忘れるな』
『目的は五神楽苛を殺すことじゃない』
『それはあくまで人生の過程だ』
『君の目的は、『裏切り者』を殺し、幸せになることだ』
『別にお爺さんになるまで生きろとは言わない』
『ただ、幸せになりなさい』
『今の君は、かわいそうな『生物兵器』なんだから――』――
――『自分勝手だよね』
今度は違う声が聞こえた。
10歳くらいの女の子の声。
どこかで聞いたことある気がする。
この声に似た声を。
『自分の身を護るために、似たような生物を使うなんて』
『それで何人もの護殺人は犠牲になってる』
『知ってる? この町で何人の護殺人が死んだか』
『168人だって』
『しかも、みんな20歳未満』
『国は『皆、命を落とすことを望んでいた』って言ってるんだよ?』
『確かに、戦う理由はポジティブだったかもしれない』
『誰かの役に立ちたい』
『誰かを護りたい』
『復讐のため』
『みんなそんなのだよ』
『でも、死ぬのは怖いはず』
『死んだらどうなるかわからないし』
『生きてたときのことを全部忘れて、無になる』
『私はそう思ってるし、みんなもそう思ってる』
『忘れたくないよね、自分と同じ境遇の人――仲間を』
『……キミもさ、私のこと、忘れちゃうのかな?』
『――え? 忘れない? ……アハハ、ありがと』
『その言葉、信じてるから――』――
――身体が熱くなってきた。
頭から流れる液体は冷たく感じる。
嫌だな……死にたくないな――。
――だったら――
何かが、俺の身体から放出された気がした。
歪んでいた視界がもとに戻った。
痛みは決して消えたわけじゃない。
でも、身体が動く。
気づいたら俺は立ち上がっていた。
周囲を包んでいた煙は晴れていて、みんながどこにいるのかよく見える。
あの男は――?
ちょうど、刀で理来の左胸を刺しているところだった。
理来は口から大量に血を吐く。
男は理来から刀を抜くと、理来の頭を掴んでゴミみたいに捨てた。
「……なぜ立っている?」
男は俺を発見して、不思議そうな目で見てくる。
正直、俺はなんにも思わなかった。
「意味がわからない。これだから護殺人は嫌いだ」
男が俺に斬り掛かってくる。
とても速い。
速いけど、見えるし、躱せる。
俺はその斬撃を躱して、カウンターとして男の背中を斬る。
男は背中に再び激痛を感じたみたいで、一瞬だけ喘いだ。
でもそれはほんの一瞬のことで、すぐに俺から離れた。
「……弱体化……だと……?」
男がつぶやく。
こいつが何を言っているかわからなかったけど、わかろうともしなかった。
こいつを殺せば、全て終わる。
「――雷……毒……厄介すぎる……」
『雷』と『毒』。
雷は迅斗の能力、毒は理来か美殊の能力か。
敵にデバフをかけてる感じか。
だったらこのタイミングで――
――殺すしかないな。
俺はそのまま男に斬り掛かる。
不思議と、男は止まってるように見えた。
いや、こいつだけじゃない。
花楓も、迅斗も、みんな止まってる。
俺はそのまま男の脇腹を斬る。
血が俺の顔に掛かった。
「グアァァァ……!」
男は口と胴体から血を流す。
「なんだ……急に……! まさか……教官か……!?」
「……興味ないな」
もう一回、男を斬ろうとした。
だけど、その前に男の姿が煙に変わる。
『……忘れないぞ、その顔と声、姿もな』
男の声がどこからか聞こえる。
でもどこから聞こえるかわからない。
『俺の名は……クアールだ。忘れるな。今回は1体しか殺せなかったが……次は確実に殺す』
そこから男の声が聞こえなくなった――。
同刻、某所。
「――!」
ネコ型の2型クリーチャーを刀で斬ると同時に、雨米は何かを感じ取り、明後日の方向を向く。
「……このエネルギ……教官がここに……!?」
冷や汗を流す雨米。
それは地面に落ちると同時に、音を立てて蒸発する。
「いや、違う。こんなエネルギーの教官は誰もいない……! 教官は数年間変わってないから、新しい人もいないはず……! まさか――」
「――もう……目覚めたの……!?」




