第2話 楽観視
「あ、その制服見たことある! 隣にあった家のお兄さんが着てた!」
女の子は俺の制服をジロジロ見ながら、器用に刀を鞘に収める。
俺はまだこの状況に落ち着いてなくて、立ち上がることもできなかった。
目の前で人間が喰われたらトラウマになるに決まってる。
「名前、なんて言うの? 私は『ホノカ』っていうんだ」
女の子はそう言うけど、俺は声が出ない。
喉が震えてる感じがして、声がそこで止まってる。
「ちょっとショックが大きすぎたか……。人が死ぬの、見るの初めてなんだね」
女の子は相変わらずの表情でサラッと怖いこと言って、腰に手を回す。
今気づいたけど、腰に巻いてあるベルトにも色々掛かってる。
ナイフに手榴弾みたいなのがいくつか……。
女の子はそこから緑色の小さい瓶を出した。
「これ、飲んで?」
女の子はそれを俺に差し出すけど、どうしても受け取る気になれない。
別にまだ身体が震えてるわけじゃなくて、知らない人からこんな怪しいもの飲めって言われても飲む気になれないだけ。
「大丈夫、毒とかじゃないよ。キャラメルシェイクの味するよ?」
ん? キャラメルシェイク……?
ヤバい、超美味そう。
でもこんなドス黒い緑の瓶に入ってるものがキャラメルシェイクの味するって、逆に怪しいな。
「飲ませてあげるよ」
女の子は瓶を開けて、俺に飲ませようとする。
今度は別の意味で身体が動かない。
今まで女子に飲めせてもらうこととかなかったから、本能が『これはチャンスだ。飲ませてもらえ』って言ってる。
でもそれと同時に『こんな怪しいの飲んで死んだらどうすんだよ』って本能が言ってる。
クソ……どうするべきなんだよ俺は……。
結果、性欲のほうが強かった。
俺はなんの抵抗もしないで、女の子に飲ませてもらった。
マジでキャラメルシェイクの味する。
これで3000円するって言われても出していいくらい美味い。
飲み終えると女の子は俺の口から瓶を離して、また笑顔になる。
「どう? 落ち着いた? もうなんも怖くないでしょ」
……確かに。
さっきまで感じてた恐怖が嘘みたいに消えてる。
「興奮状態の精神を無理やり落ち着かせる薬だよ、さっきの。身体には悪くないから心配しないで。むしろ10種類の摂取困難な栄養素が入ってるよ」
そんな栄養素が入っててキャラメルシェイクの味がする薬ってなんだよ。
そう思いながら立ち上がる。
「私は『ホノカ』。君は?」
どうしよう、これ名前言ってもいいのかな?
個人情報だし。
……別にいっか。
この人、俺を助けてくれたし、悪い人じゃないだろ。
「風月だ」
「へー、かっこいい名前だね。で、向こうの世界から来たんだよね? いわゆる異世界転移ってやつ」
「まぁ……多分」
「だったら君はたくさんの『クリーチャー』と戦わなきゃいけないね」
……今なんて?
『クリーチャー』?
「とりあえずおいで? 君を保護してくれる場所まで連れて行ってあげるよ」
──────────────────
「――そうか、新しく来たのか」
今俺はここがどういう場所なのかわからない。
あのあと『ホノカ』って子に、いかにも『特殊部隊の基地』ってところまで連れてこられた。
で、俺はその中の内装が『社長室』って感じのところにいる。
俺の前にいるのは、鞘に収まってる刀を背中に掛けてる20代前半くらいの女。
この部屋には俺とその女、それから俺の隣にいる『ホノカ』しかいない。
まだ『ホノカ』からもらった薬が効いてるみたいで、あんまり興奮してない。
「私は『第4教官』の『チョウカ』だ。君の名前は?」
「あ、風月です……」
「……へー……」
え、なにその感じ。
俺なんか変なこと言った?
「おい、『ホノカ』。お前精神安定剤使っただろ?」
「はい! 美味しかったらしいですよ!」
「あれは貴重だからあんまり使うなって言っただろ?」
……これは……俺のせいかな……?
「まぁ、今はそんなこといい。それより、もう『クリーチャー』とは遭遇してるんだよな?」
「はい! 私が倒しました!」
「なら説明は早いな」
チョウカさんは微笑みながらホノカを見てそう言って、今度は俺を見た。
「この世界にはああいう化け物がたくさんいる。君はまだこの世界について知らなさすぎる。だから色々と知識がつくまで君をここで保護する」
「あ、どうも……」
「……その感じからすると、もうしばらく、薬は効きそうだな」
チョウカさんの声が少しだけ低くなった気がする。
気がついたらホノカも笑みを消していて無表情になってる。
「先に謝っておく、本当にすまない」
「……はい?」
「君はこれから死ぬまで命がけで戦ってもらう。他に生きる道はない。それが君の運命だ」
死ぬまで命がけで戦う……?
戦うって、さっきの化け物みたいなやつと……?
なにそれ、めちゃくちゃ――
――かっこいいじゃん!
異世界に行って化け物と戦うのとか、高校生が一度はしたことある妄想じゃん!
俺がめちゃくちゃかっこよくなってる未来が見える!
しかも、つまんない高校生活送ってるより、そっちのほうが何倍も楽しそう!
「はい、やらせていただきます!」
「……そうか……」
チョウカさんは俺から目を逸らす。
ホノカもチョウカさんと同じ表情を浮かべて下を見ている。
「それじゃあホノカ、寮まで連れて行ってくれ」
「……はい……。風月、ついてきて」
ホノカが部屋から出ようとする。
俺はチョウカさんに軽く頭を下げてからホノカについていった。
※バトルシーンまでちょっと長くなりそうです……。もちろん作者も『バトルシーン早く書きたいな』って思ってますからね!? そこにいくまでの説明が長くなっちゃいまして……。
以上、作者の言い訳でした。できる限りそういう説明は短くするよう努力してます。