第10話 初勝利
「うう……血出ちゃったよ……」
「俺も血流れたままは嫌なんだけど」
嫌な顔してそう言うのは花楓と迅斗。
花楓は左腕をおさえてる。
迅斗は額からドボドボしてる。
「とりあえず家に行こっか、住所はさっきメールで来たし」
天菜はスマホを片手に俺たちの前を歩いてる。
画面を見るときはちゃんと止まってる天菜。
しっかり育てられたんだな……。
向こうの世界じゃたくさんいたぞ、歩きスマホ。
天菜についていくと、なんか街から出た。
向こうの世界にもありそうだった景色から、一気に異世界っぽいところに変わった。
野原があって、そこに大きめの3階建て家が1軒ある。
「あそこだよ」
「え、すごい!」
花楓がそこに向かって走り出す。
こいつ、怪我してるんじゃないの?
「なんであいつ、あんなに元気なんだ……?」
血が目に入らないように片目を閉じている迅斗がつぶやく。
「花楓ちゃんはいつもああだよ?」
「……マジか」
「とりあえず早くあそこまで行って花楓ちゃんも迅斗も手当てしなきゃね。もうちょっとだけ我慢できる?」
「大丈夫」
「まずは手を綺麗に洗うんだよ? うがいはとりあえずできればでいいから」
天菜、めちゃくちゃ面倒見いいな。
お母さんとかお姉ちゃんって感じ。
こんな感じのお姉ちゃんほしかったな……。
一方花楓はすでに家の中に入ってた。
鍵は掛かってなかったらしい。
なんて不用心な……。
俺たちもすぐにその中に入った。
中は普通の家って感じ。
ただ、ちょっとだけ大きい気がする。
リビングにも大きいテレビあるし、ソファーもある。
こういうところに1回でもいいから住んでみたかったんだよな……。
「天菜ちゃん! 上の階にいっぱい部屋あるよ!」
目を輝かせながら、階段から顔を出す花楓。
「花楓ちゃん、まずは治療でしょ?」
「だってー! 新しい家来たら探検したいじゃん!」
元気だなー、花楓。
最初からああいうキャラだったっけ?
最初はどこにでもいる女子って感じだったけど。
「風月は? 怪我してない?」
優しく訊いてくれる天菜。
「ああ、多分大丈夫」
「でも思いっきり殴られてたよね? 骨折とかしててもおかしくないくらいだったけど……」
「痛みもないし、普通に動けてるから大丈夫だと思う」
「そっか、エネルギーを全身に流して防御力を飛躍的に高めたのかな? もうそんなことできるなんて、すごいね」
いや、そんなことした覚えないんだけど……。
俺の身体が頑丈なだけかな?
「わ、私も手当てくらいはできます。花楓さんは私が……」
遠慮がちに言う雨米。
それを見て天菜はニコって笑った。
「じゃあお願い。薬とか武器とかは家のどこかに置いてあるって。奥の部屋かな?」
天菜が家の奥に向かう。
それを合図にするみたいに、みんな天菜についていくように動いた。
俺はその場にいた。
クリーチャー討伐って、意外とたいしたことないかも。
だって一瞬で倒せたじゃん。
しかも俺、無傷だし。
そういえばスマホに最初から入ってるアプリとか確認しとなきゃ。
俺はポケットからスマホを出した。
そのときに、小さく折りたたまれた紙も同じポケットから落ちた。
こんな紙、ポケットに入れたっけ……?
その紙を拾って、広げてみた。
そこには黒い文字が書いてあった。
『絶対に油断しちゃいけない。今回簡単に勝ったのは、敵が弱すぎたのと、私の力だから。一人でいるときにクリーチャーに遭ったら迷わず逃げて。もしこの忠告を無視したら、もし私が近くにいても助けないで、君の力の様子見するから。でも死にそうになったら助けるから安心してね』
なにこれ。
誰がこんな紙入れたの?
ま、いっか。
俺一人でクリーチャーに遭うこともないだろうし。
そう思って俺はその紙をポケットに入れた。
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午後7時30分。
夕食は雨米がつくってくれた。
雨米曰く、寮の食堂で手伝いをしてたらしい。
確かにいたな、あのとき。
雨米はいろいろつくってくれたけど、全部美味しかった。
夕飯食べ終わったし、散歩行くか。
いつも夕飯食べ終わったら散歩してるんだよね、俺。
そのことをみんなに言ってから家を出た。
この街のことを知るチャンスだ、ちょっと奥まで行っちゃお。
もちろん、装備は持ってる。
とりあえず人がいなさそうな場所を歩いてみた。
建物とか全然ない。
人もいる気配がない。
ただ草原が広がってるだけって感じ。
こういう場所好きなんだよね、俺。
静かで暗い場所。
『星が綺麗だなー』って思いながら歩いた。
だいたい30分ぐらい。
そろそろ引き返すか。
俺は引き返す。
そのときに違和感を感じた。
あのとき――最初にこの世界に来たときと同じだ。
なにかが襲い掛かってくるような殺気がする。
俺は振り向く。
さっきまでいなかったはずなのに、間違いなくいた。
巨大なムカデ型の化け物――クリーチャーが。
……あーあ、一人なのに遭遇しちゃった、クリーチャーと。
俺はその場から逃げようとした。
でもあることに気づいた。
あの手紙を書いた人はきっと、俺がクリーチャーより弱いって思ってる。
もしその通りだったら、俺は逃げる意味がない。
もしクリーチャーが俺より強かったら、俺よりもスピードが速いはずだ。
そしたら簡単に追いつかれる。
追いつかれたら戦うしかないだろうな。
どっちにしろ戦うんなら、カッコつけてここで止めてやるよ、クリーチャーを。
俺は背中から刀を抜いた。
もう戦いを経験したことあるから、最初よりも恐怖は少なかった。
俺はもうエネルギーの使い方を知ってる。
さっきは簡単に勝てたんだ。
今度もやってやるよ――。




