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78. なにもしないのが正解だった、ってことあるよね


 私が何者か、という疑問が解決したとは思えないんだけど。

 ただ、王様はそこにはもう触れないで、次の話を始める。


「では、次はそれだ。そいつの話を詳しくしてほしい」


 みんなの視線が私の頭の上に集まる。


「ネロ? さっきも言ったけど、竜の郷の長の子で、今は私の家族みたいなものですけど」


 ネロを両手で頭からはがして膝の上に乗せながら答える。

 ネロからの抵抗も特になかったよ。


「それは聞いた。今後、そいつをどうするのかということだ。それに、一瞬だったが、朝に俺が見たときはもっと大きかった気がするんだが」


「ああ、あれはネロの本来の姿です。今は私と暮らしやすいように小さくなってくれているんです」


「……ドラゴンとはそんなことができるのか……。では、お前は今後もそいつを連れて街中で生活するつもりなのか?」


「そのつもりですけど」


「他の者にはなんと言って説明するつもりだ?」


「え? ドラゴンの子ども……っていうのは、マズい、ですよね?」


 言ってる途中で気がついた。さすがにダメだよね。


 小型化していれば、ドラゴンのことを詳しく知らないこの世界の人には、ドラゴンだって分からないはず。

 だから、なんとかなるだろと思ってたけど。そうだね、聞かれたときはなんて答えればいいんだろ。


「はぁ、やはり考えてなかったか。……そうだな、お前の従魔とでもしておけ。数は多くないが、珍しい魔物を使役している者もいる。従魔士というやつだな。従魔と言っておけば害がないのは分かるし、それ以上説明する必要も滅多にはないだろう。……害はないんだよな?」


「大丈夫ですよ。私の言うことには従ってくれると思います。ね、ネロ。暴れたりしないよね?」


 くるるー。


 うん、大丈夫そうだね。


「……話ができるのか?」


「なんとなく分かる程度ですけど」


「そうか。では、なにか聞かれたら従魔と説明しておけ」


 私はそれでいいと思うけど。

 ドラゴン的には従魔っていうのはどうなんだろう? ドラゴンとしてのプライドとか。

 まぁ私を母親だと思ってる時点で大丈夫だとは思うけど、一応聞いてみる。


「ネロ、他の人に私の従魔だって説明してもいい?」


 くるるー。


「じゃあ、そう説明することにします。ちなみになんの従魔か、とか聞かれたらどう答えたらいいですか?」


「知らん。一般的にそのような見た目の生物はいない。よく分からないが幻獣だとか言っておけばいいんじゃないか?」


 えええ。最後の最後で適当だよ。


 でも、似た生物がいないのなら、そう言う以外に説明しようがない気もする。

 私の知識でいえば、爬虫類的な特徴からトカゲとかが該当しそうな気がするけど、翼のついたトカゲなんかいない。ごまかしようがないよ。


「改めてだが、リコの家族とはいえ、城下をドラゴンが闊歩していると考えるとゾッとするな。特に今は王都の人間はドラゴンに過敏だろうから、目立たぬようにより一層気を払うことだ」


「分かりました」


「それにしても、竜の郷、か。我が国からそう遠くない場所にそんなものがあったとはな。調査隊でも送りたいところだが——」


「は? ……コホン。それはやめてください」


 ヤバいヤバい。一瞬言葉遣いが。

 いくらなんでも王様相手に喧嘩腰はダメだよね。


 でも、竜の郷はネロの故郷だし、人間が立ち入って荒らしていい場所でもない。

 そもそも、ドラゴンの飛行能力も無し、案内も無しではたどり着けるとは思わないけど、下手に探ろうとするのは絶対にやめてほしい。


 私の態度に何かを感じ取ったのか、王様はすぐに否定してくれた。


「いや、すまん。本当にするつもりはない。だいたい、場所も正確に分からんのだから、まずできん。それに娘が命を落としかけたんだ。藪をつついてドラゴンを出すつもりもない」


「そうしてくれると助かります。……というか王女様が命を落としかけたって話だけど、どういう状況だったんですか? あんな危なそうな場所に王女様が一人でいるなんて」


 そうだそうだ。私の話はしたけど、その間、王都がどうなってたのか知らないままだったよ。

 普通なら、あんな場所に護衛もつけないで王女様一人とか、ありえないと思うんだけど。


「ああ、こちらの話をしていなかったな。ドラゴンを退けてくれたお前には知る権利があるだろう」


 そう言って、私が王都を離れている間のことを話してくれる。


 その話の中で、王女様が一人で結界の間にいた理由も明かされた。

 ——結界石を起動するため、ね。


 そして結界の間で散らばっていた結界石の残骸をテーブルの上に出して見せてくれる。

 今はもう魔力は全く感じられないけど、やっぱりこれが結界石だったんだね。

 王族以外は近づくことすらもできなくて、魔力を流すと王都全体に結界が張れる、ってことだったらしいけど。

 なんか都合がいいのか悪いのか。

 でも、今回はそれで王女様が死にかけたわけだから、よくはなかったのかな。


 それにしても、王女様の話も合わせて考えると、時系列的に、私が王都に戻ってきた瞬間には結界石はもう壊れていたはずだけど、その時点でも強い魔力を感じた。

 やっぱりあのドラゴンは竜帝のために結界石を狙ってたんだろうね。既にネロが生まれているのを知らずに。

 私が王都に来たときに結界石に気がつかなかったのは、その時は起動していなかったからなのかな。


 ん? ちょっと待って? これって——


 王都でのドラゴン襲撃についてはこういう流れらしいんだけど。

 王都に向かうドラゴン二体が目撃される。

 王様が結界を起動する。

 ドラゴン二体は結局王都には来ずにどこかへ行く。というか、私が倒した。

 数刻後、別のドラゴンが来て朝まで結界に張り付く。


 ……結果論ではあるけど、結界石を使わなければ、王都がドラゴンに襲われることもなかったんじゃ……?


 最初の二体は私が対処したから結界の意味はなかったし、その後も結界石なんて強力な魔力を発するものを使っていなければ新たなドラゴンに狙われることもなかったよね。


 ……今更過ぎる話だし、知らない方がいいこともある、か。


 でも、その結果として、結界石が壊れることになって——って、そういえば、


「結界石、壊れちゃったけど大丈夫なんですか?」


「ん? ああ、問題ないだろう。結界石のことは一部の者しか知らないし、もともとアテにはしていなかった。俺の祖先が残したものらしいが、今日まで使われたことはなかったくらいだからな。壊れてしまったが、今回少しでも役立ったのなら上々だろう」


 思ったより深刻そうな顔はしていないどころか、あっけらかんとしている。


 今まで無くても大丈夫だったから、これからも大丈夫だろうってことか。

 まぁ今回みたいなことは滅多にないのかな。仮に、次に竜帝が代替わりするときに同じことが起こるとしても、早くとも千年後だしね。


 そもそも今回だって、本当は結界石自体が王都になければ、王様と王女様が大変な目に遭うことはなかったし。

 うわ、そう考えると不幸の石のようにも思えてくるよ。



「お疲れさまでした」



 王女様が小さく呟いて、大切なものを扱うように結界石の欠片を優しく握りしめる。


 ……王女様にはなにか思い入れがあるのかな。


 わざわざ聞くことはしないけど。


 とりあえず——


 不幸の石とか思ってごめんなさい。

 でも、口に出さなくてよかったよ。



リコ「結界石は犠牲になったんだよ……。王都を守るという王様の決断……その犠牲にね」

ソフィア「ちょっとなに言ってるか分からないわ」

リコ「犠牲は、犠牲の犠牲、その犠牲になったってことだよ……」

ソフィア「……ちょっとなに言ってるか分からないわ」


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