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76. ネロのこだわりを見たよ

 

 しゅたっ。



 イリーネの部屋のバルコニーに着地する。


 このくらいならネロに乗る必要もないし、王様たちと話してた部屋から跳んできたよ。

 せっかく王女様が部屋の場所を教えてくれたのに、城の中を通って部屋を目指すなんてことしたら確実に迷子になるからね。

 それに私一人でお城の中を歩くなんてしたくない。不審者と思われるのがオチだよ。


 コンコンと窓をノックすると、すぐにカーテンが開いてソフィの姿が現れる。

 ソフィの表情は明らかに驚愕しているそれだったけど、それでも窓を開いてくれる。


「リ、リコ!? どうしてまたこんなところから!?」


「ただいま。入らせてもらっていい?」


「……ただいま? いえ、もちろん入るのは構わないけれど。説明はしなさいよ?」


「うん」


 ソフィは私の頭の上にいるネロのことを気にしながらも、まずは招き入れてくれた。


 お、イリーネはベッドで寝てるね。

 いいなあ。私もふかふかベッドで寝たいよ。


 ……イリーネが寝てるのを見たら、本当に私も急激に眠くなってきた。

 ちゃんと落ち着ける部屋に入るの、ものすごく久しぶりな感覚するんだよね。

 昨日は宿の部屋を出たのが午前だから、丸一日くらいしか経ってないのに。いやー、濃い一日だったよ。


 ……あと、それ以上に、ソフィと会って安心したのもあるかもしれないな。


 王様の使いが来るまで眠ってようかな。


「で? どうして窓から入ってくることになるのよ? 今、戒厳令が出ていて基本的に外出禁止なのよ? それに、ただいまってなに? あなた、宿にいたんじゃないの?」


 ああ、ソフィも宿にいなかったから、私が昨日帰ってないのは知らなかったのか。

 余計な心配はかけなかったみたいでよかったよ。


 というか、さすがにソフィになにも説明しないで寝るのは無理があるよね。

 なるべく簡潔にまとめよう。

 でも、戒厳令? ああ、王様がなんか言ってたね。


「ちょっと野暮用で出かけてたんだけど、終わったから戻ってきたんだよ。そしたらソフィはここにいるって聞いたから跳んできたの」


「いや、それは窓から来た説明にはなっていないわよ」


「上からだとこっちの方が近かったからだよ。それから戒厳令だっけ? 私は出てるの知らなかったんだけど、それ、もう大丈夫だよ。王様が解除するって言ってたから」


「……は? お、王様!? あなた、陛下と会ってたの!?」


「うん」


「……リコ、もしかして、ドラゴン討伐してた、とか?」


 ……すごい。これだけの情報でなぜ分かるのか。正確には討伐じゃないけど。


「ま、そんなとこ。とりあえずドラゴンが襲ってくることはなくなったかな」


「やっぱり……。どうしてそうなるのよ、あなたは……。そうだ、ベア様は無事?」


 どうしてそうなるのかなんて私が聞きたいよ。

 昨日から何回考えたと思ってるの。どうしてこうなった、って。


「ベア様は無事だよ。結構危なかったけど」


「え!?」


「え? ああ、大丈夫だよ。怪我一つないよ。ギリギリ間に合ったから」


 ソフィと王女様は仲良しだったからね。

 不必要に心配させてしまった。


「間に合った、って。リコが助けたの?」


「そういうことになるかな? 完全になりゆきだったけど」


「そうなの? でも、ありがとうね」


「うん」


 ふわぁ。


 思わずあくびがでてしまい、それをソフィに見られてしまう。


「あら、お疲れ? 眠たいの?」


「うん、眠い」


 正直に答える。

 私もできるならソフィに昨日からのことを全部話したいけど、眠さの方が勝っている。


「なら一度休んだ方がいいわね。なぜかドラゴンと戦ったりしていたみたいだし、疲れがたまってるのかもしれないわ。もっと詳しく話を聞きたいところだったけど、今は仕方ないかしらね」


「ありがと。そうだ、あとで王様から使いがくることになってて、王様には全部説明しないといけないらしいから、ソフィもその時に一緒に来るといいよ」


「んー、そうね。考えておくわ」


 別に全く寝ていないわけではないから、眠くて死にそうってほど重症でもないけど。

 ソフィが話を聞くことよりも私の体調を心配してくれるのはなんか嬉しい。


 お言葉に甘えて寝る準備だ。

 寝巻に着替えて……あとでこのジャージは洗濯しなくちゃね。

 ベッドは自分のを出そう。この部屋は広いからスペースに余裕はある。

 お風呂は起きたら入ることにしよう。

 ネロは枕元に置いて、と。


「ごめん、リコ。寝る前に一つだけいいかしら」


「ん?」


「ベッドやらが出てきたのには今更驚かないけれど。……その黒いのはなに?」


「ネロ? ドラゴンの子どもだけど」


 頭の上からはがしたネロを枕の横に置いて、ちょこんと毛布をかぶせながら答える。

 よし、これで準備おっけーだね。


「ド、ドラゴン!? え、どういうこと? そのドラゴンとどういう関係なの?」


「……関係? えっと、なんだろ? ……仲間?」


 くるくる。


 とりあえずそれっぽいのを言ってみたけど、反応はネロの方からあった。

 しかも否定されたっぽい。えええ。


「と、友達?」


 くるくる。


 これも違うらしい。


 あ、いや、関係性といったらネロが産まれてから信じてるのがあったじゃん。


「親子?」


 くるるーとネロが嬉しそうに肯定する。


 ……謎のこだわりだね。というか、もうこれは本当に親子ということにするしかなさそうだ。じゃないとネロが納得してくれなさそうだよ。

 でも、まさか友達の次は家族ができるなんて思わなかったよ。


「この子はネロって言ってね。私の子どもみたいなものかな」


「子ども!? リ、リコの!!?」


 そういう反応になるのは分かるよ。

 私も最初は全然受け入れられなかったもん。


「まぁこれもあとで一緒に説明するから。大人しくて無害だから安心して」


「……はぁー。ま、分かったわよ。ゆっくり休みなさい」


「ありがと。じゃ、おやすみ」


 私はベッドに潜り込んでネロを撫でてから目を閉じた。






 コンコンというノックの音で目が覚める。


 ソフィがその訪問に対応してくれている間に、寝起きの頭をはっきりさせる。

 そうだ、今は王様からの連絡待ちでイリーネの部屋にいるんだった。


 目を開けると丸くなっている小型ドラゴンが真っ先に目に入る。

 ネロにおはようと挨拶してから、ようやく身体を起こして伸びをする。

 するとソファにイリーネが腰かけているのに気づいた。


「イリーネ、おはよう」


「…おはよう…リコお姉ちゃん……びっくりした…リコお姉ちゃんが…いて……」


「あー、勝手に入っちゃってごめんね?」


「…リコお姉ちゃんなら…大丈夫…」


「ありがと」


 よかった。許してもらえた。

 そりゃ寝てる間に人が増えてたら驚きもするよね。

 ベッドまで増えてるし。


 ベッドを片付けてイリーネの隣に座るころに、戸口での話も終わったみたいだ。

 ソフィが扉を閉めて部屋の中に戻ってくる。


「あら、リコ、起きたのね。おはよう。体調はどうかしら?」


「おはよう。ぐっすり眠れたから元気だよ」


「よかったわ。で、今訪ねてきた方が手紙を持ってきたんだけど」


 このタイミングで来るってことは王様の使いかな?

 でも手紙だけ?


 王様の使いって、王様のところまでの案内人みたいなイメージだった。

 まぁ今「王様のもとへお連れします」なんて言われても無理だったけど。

 寝起きだし、お風呂も入っていない。


 とりあえずは手紙を確認することにする。

 手紙の内容は『午後6の鐘のころに王様の執務室へリコを連れてくるように』というものだった。

 今は夕方くらいだからまだ時間はあるけど、準備してたらすぐだね。

 ちなみに手紙の宛名はソフィになっていた。

 これにはソフィも疑問を浮かべている。……イリーネはあんまり興味なさそうかな。


「リコ、これどういうこと? どうして私宛なのよ?」


「さあ? ソフィと一緒にいるって言ったからかな?」


「そうなの? ってことは、本当に私も一緒に行かないといけないようね。まったく……。でも、執務室なのね。それならまだよかったわ」


 王様に説明するから一緒に行こうって言ってたのに、ソフィの中では行かない予定だったらしい。なんて薄情な。


「一緒に行くって言ってたじゃん。というか、王様と話をするんだから執務室じゃないの? なんかおかしい?」


「いえ、リコが呼ばれるなら謁見の間かと思ったのよ。この国家の一大事に色々活躍して、しかもベア様を助けたんでしょう? 大々的に謁見の間でお褒めのお言葉と褒賞とかやりそうじゃない。それに付き合わされるのは、正直遠慮したかったのよ」


「えええ!?」


 そんなに大事になる可能性があったの?

 謁見の間っていうのは行ったことないけど、仰々しい感じは言葉面だけでも伝わってくる。

 嫌だよ、そんなところでみんなに注目を浴びるの。

 あ、もしかして私がそういうの嫌だって察して王様が気を回してくれたのかな。


 それに、これでソフィも私を連れて行くという役目ができたから、強制的に同行してもらえることになった。

 ソフィが一緒なのは助かるよ。


「それと、この最後に書いてある『今朝一緒にいた黒い生き物も、まだ共にいるなら連れてきてほしい』って、その子のこと? 王様にドラゴンの子どもと一緒にいるってバレてるの?」


 まだ私のベッドで丸くなっているネロを指さして聞いてくる。


「ああ、そういえば、一瞬元の姿を見られたね」


「元の姿?」


「うん。今はこんなちっちゃいけど、元の姿は私が乗って飛べるくらい大きいんだよ」


「……そうなの」


 ソフィはなにやら諦めた顔をしているが、私はネロをどうするか考えてなかったので、言われたからには素直に連れていくことにした。


 そして王様との約束の時間までそんなに時間はなかったので、この部屋付属のお風呂を借りて久しぶりにさっぱりしつつ、無事洗濯されてピカピカになったジャージに着替えた。


 と、もうそろそろ行かないとだけど。あれ、イリーネは……


 イリーネを一人で部屋に残すのはどうなんだろと思っていると、それを見越したようにイリーネ付きだというメイドさんがやってくる。

 おお、さすがVIP待遇だね。これで安心だよ。


 軽くそのメイドさんと挨拶を交わして、ソフィとともにイリーネの部屋をあとにした。



ソフィア「リコは相変わらずめちゃくちゃやってるわね」

リコ「あ、ソフィだ。やっぱりこのスペース、相方がいた方がいいかもね」

ソフィア「……スペース? どういうこと?」

リコ「あ、ごめん、こっちの話。で、私がめちゃくちゃやってる? そうかな」

ソフィア「たった一日会わなかった間に、王都をドラゴンから守って、王女様を救い、子ドラゴンの親になったのよね?」

リコ「……めっちゃくちゃだね……」


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