71. まわってまわって……どうして!?
竜帝の子、黒竜が仲間になった。
……えと、これ、ロールプレイングゲームじゃないんだけど。
ま、まぁいいか。
「じゃあ一緒に行こうか。これからよろしくね。……ええと、あなた名前は?」
くるるー。
うん、分からない。
というか、昨日産まれたばっかりだし、名前ないのかな?
そもそもドラゴンって名前あるの?
……いや、竜帝は最初の方に名乗ってた気がする。もちろん忘れたけど。
「ねぇ、この子の名前は?」
『そなたが決めるがよい』
「え、あなたの子でしょう?」
『最早半分はそなたの子でもある』
ええ? そうはならないでしょ。
魔力的なことはともかく、見た目は100%あなたの遺伝子を継いでますよ。
色を除いては。
というかそんなことを認めたら、竜帝様と私の子みたいなことになるじゃん。
16歳にして子持ち。しかもお相手は1000歳以上年上のドラゴン。
……こんなぶっ飛んだ設定、誰もついていけないよ。
そういえば、竜帝のホントのお相手はどこにいるんだろ。
「まぁ名前は考えるよ。……参考にしたいから、あなたの名前教えてくれない?」
『イグニスだ』
ああー、そんな名前聞いた覚えがあるよ。
忘れてたことについては突っ込まれなくてよかった。
「ありがと。私はリコ。名乗っていなかったと思うから、一応」
『そうか』
うん、やっぱりこの竜、淡泊だ。
まぁ今更過ぎる自己紹介だってのも理由かもしれないけど。
ふむ、竜帝の名前はイグニスか。
なんか、炎とかそれっぽい雰囲気だね。赤竜帝にぴったりだ。誰がつけたんだろ。
この黒竜にもイメージに合った名前をつけたいけど。
いや、そもそも——
「そういえば、この子って雄? 雌?」
『我ら竜帝に雌雄はない』
「へ? え、ならどうやって卵ができたの?」
『我が魔力で作り出した』
なんと竜帝は単為生殖だった。
ホントのお相手などは最初から存在しなかったのだ。
ちなみに他のドラゴンはつがいを成して生殖するらしい。
大きさ以外の見た目は一緒なのに、そんな違いがあるんだね。もはや別種の生物っぽいけど。
「じゃあ、この子もいずれ竜帝になって、魔力で卵を作るんだよね?」
『そうだ』
なら人間でいうと女の子寄り?
黒竜の方を見ると、深紅の瞳を輝かせてこちらを見ていた。
なんか嬉しそうだけど。
こうして改めて見ても雄・雌は分からない。
まぁ竜帝が雌雄はないって言ってるんだから、そういうことなんだと思っておこう。
少なくとも、名前をつけるにあたって考える必要はなさそうだね。
「じゃあ、あなたの名前はネロ。どう?」
くるるー。
喜んでいる。ように見える。
都合のいい解釈かもしれないけど、そういうことにしておこう。
「ネロ、私はリコだよ。よろしくね」
ちなみに『ネロ』は確かヨーロッパあたりのどこかの国で黒を意味する言葉だったと思う。
まぁ間違ってても、この世界には指摘する人はいない。
それに意味だけじゃなくて、響きも可愛いと思う。我ながらいい名前をつけられたよ。
『ネロか。では、そろそろ送るとしよう』
「あ、うん。お願いするよ」
いや、竜帝さん、反応それだけ!?
自分の子に名前がついたんだよ。
産まれたばかりの自分の子としばらく会えないんだよ。
もうちょっと興味持ってー。
やっぱりドラゴンとは感性が違いすぎるよ。
『昨日、我が眷属と邂逅した場所で構わないか?』
「うん。あのあたりなら」
『では魔力を探す』
「? 魔力を探す?」
『転移先の印となる魔力だ。しばし待て』
転移先の印の魔力?
よく分からないままに待つこと数十秒。
『転移先付近に巨大な魔力を確認した。転移は可能だ』
王都付近に巨大な魔力?
王都に住んでいる人たちの魔力反応のことかな。そういえばさっき、私が帰る場所は人がたくさん住んでいるのか確認してたし。
「転移先に魔力が必要なの?」
『転移先の座標の目標とするために、魔力を印としている』
じゃあ王都の住民の魔力を印に転移するってこと?
それって街の中にいきなり湧きでることになるんじゃ。
ごまかせるかな?
『では、転移させる。我の身体に触れるがよい』
「うん。……あ! 待って、最後に一つだけ教えて!」
『どうした』
自分でも思ったより大きな声を上げてしまった。
でも、転移と聞いて重大なことを思い出した。
「転移魔法で世界を行き来することってできるの?」
『知らぬ。我は異な世界があるなどと聞いたことがない』
「……そうなんだ。分かった。ありがと」
今更地球に未練があるわけではない。
実際に転移を体験するのはこれからだけど、私がこの世界に来たときの状況。
あれがまさしく転移だったんじゃないか、そう思っただけだ。
もし意図して行使された転移魔法なら、誰が、なぜ、どうやって、私を転移させたのか——
でも、転移を使えるドラゴンが異世界なんか知らないと言う以上、すぐにはなにも分からなさそうだね。
まぁ特に支障はないよ。何度も言うようだけど、別に元の世界に帰りたいわけじゃないし。
今度こそ一番近くにあった竜帝の腕の先に手を乗せる。
ネロは私の頭の上に乗っかる。
え、そこ、ホームポジションにするつもり? 重くはないからいいけど。
『では、いくぞ』
竜帝がグルルと低く唸り始めると同時に、私たちの身体を可視できるほどの魔力が覆う。
そして次の瞬間——はるか上空に投げ出されていた。
は、
は、
はぁああああっ!!?
なにこれなにこれ!
回ってる回ってる!
落ちてる落ちてる!
錐揉みしながら落下する中、私の頭からはがれたネロが視界に入る。
私は落ちても死なないかもしれない。
でも、ネロを地面にたたきつけるわけにはいかない。
「ネロッ!」
どうにか身をよじり、ネロを抱き寄せようと手を伸ばす。
くるるー!
ネロは瞬きする間に元の大きさに戻り、翼を広げて私のもとへ向かってくる。
そして伸ばした私の手を躱して私の下に潜り込み、衝撃を殺すように背中で受け止めてくれる。
……そりゃそうだ。翼を持つドラゴンが重力に負けるわけないよ。
私の方が助けられちゃった。
「ネロ、ありがと」
体勢を変えて座りなおしながらお礼を言う。
ネロは昨日のドラゴンと比べて小さいから乗りやすいな。
またがって首に腕を回していれば、かなり安定しそうだ。
そういえば意識してなかったけど、ネロがこれから私について来てくれるってことは、ネロに乗ってどこでも飛んでいけるってこと?
なにそれ、めちゃくちゃ嬉しいんだけど。
遠出するときに毎回走るのはめんどくさいし。
っと、それはあとで考えるとして。
なんでこんな上空に転移させられたのかな。
もしかして転移に失敗した? ちゃんと王都付近に来られたの?
一度落ち着いて状況分析をしようとしたときに、気づく。
下方から魔力反応。
ネロの反応もあるけど、それよりももっと下。
そしてドラゴンであるネロと同じくらいの強さの反応。
慌てて肉眼で確認する。
——私の目に映ったのは、一体の赤いドラゴンが巨大な建造物を破壊した瞬間だった。
リコ「ちょっと、竜帝さーん!? ドラゴンの暴走、収まってないみたいなんだけど! 話が違うよ!!」
次回はなんと別キャラ視点の話になります。
……え、このタイミングで!?
すみません、このタイミングで、なんです……。
ちゃんと理由はありますので、ぜひともお付き合いいただけましたら幸いです。
よろしくお願いします!




