64. 私に非があるなら謝罪も辞さないから
ほんの数秒だったか、それとも数分だったのか——
耳鳴りのような感覚が消え始め、徐々に戻ってきた私の聴覚が、チリチリとなにかが焦げるような音を捉える。
でも、熱さも痛みも感じない。
痛覚おかしくなっちゃった? とも頭をよぎるけど、身体のどこに意識をやっても正常であるように感じる。
状況を確認するために恐る恐る目を開く。
すぐ目の前に、身悶えしているように見えるドラゴンがいた。
……うわぁ、すごく苦しそうだ。
鱗が全体的に焦げていてチリチリと未だに音をたてている。
私の耳に届いていたのはこの音か。
当然、私への拘束は既に解かれている。
ドラゴンブレスは同じドラゴンでさえこんなに苦しめるのか。
やっぱり見た目通りの威力だったね。
そして、私はというと————ノーダメージだよ……。
略してノーダメ。
言い換えると無傷。
——え、えぇええー……。
これにはさすがの私も自分自身にドン引きせざるを得ない。
いや、ダメージはない方が嬉しいけどさ。
なんかここまでの真剣な戦い全てを否定された気分だよ。
身体強化万々歳すぎるでしょ、あまりにも。
……えっと、ということはだよ?
もうフェイントとか連携とかされても、ブレスなんか気にしなくていいってことでしょ? 今まで頑張って避け続けてきたけど。しかも、物理攻撃も簡単に受け止められる。
……これ、勝ちじゃん。
思ったより私の身体がチートすぎたみたいだよ。
若干悪い気もするけど、ここらで反撃といきますか。
全身をバネのように使ってぴょんと起き上がる。
私の方は見ていなかったけど、動きに気づいたのか、目の前のドラゴンがピタリと静止した。
そして、ゆっくりと視線を私へ向けようとする。
だけど、もう遅い。
既に私はドラゴンの頭めがけて勢いよく跳んでいる。
眼前数十センチまで迫り、ドラゴンと目が合った気がする。その目は気のせいか驚愕に彩られているように見えた。
そのまま、ジャンプの勢いに腕の振りも加えて、顎にアッパーカットを決める。
——ドシャァァァ
ドラゴンの巨体が浮き、その数拍後に地面に投げ出される。
……十秒ほど観察していたけど動き出す気配はない。
よし、これで一体だね。
そして、なぜかもう一体は味方がやられているというのに、動きを見せなかった。
改めて、さっきブレスを撃ってきたドラゴンを見据える。
そのドラゴンは私の視線を感じたのか、ビクっと身体を震わせたのち、ようやく思い出したかのように突進してくる。
肉弾戦希望かな?
もうどうやったって負ける要素はないけど。
腕を振り下ろしてくるが、左手一本で受け止めてみせる。余裕だ。
ついさっき、倒れたままとっさにガードしたときも無傷で受けられたんだ。
ちゃんと集中していれば当然こうなる。
その状態からドラゴンの腕に両腕を回して腰を落としつつ、背中側をドラゴンの方に向ける。
私の肩を支点にして、思い切り前下方に身体を倒して腕を引っ張る。
ドラゴンの巨体が浮き上がり、私の頭上を超えて背中から地面に叩きつけられた。
そうだね。背負い投げだね。
投げ飛ばされたドラゴンは、グルルルルと唸りながら首を持ち上げようとしているが、すぐには起き上がれないようだ。
ちなみにもう一体は全く動く気配がない。
多分、気絶してる。あ、魔力反応はあるし、死んではいないよ。
……うん、これで二体とも撃破、ってことでいいかな。
さて、やっと落ち着けそうだね。
まだこっちのドラゴンは意識があるけど、私の勝利は確定的だよね。
あー、結果的には無傷だったけど、疲れたよー。
よし、後はこのドラゴンたちの処理だけど、とどめを——刺していいのかな?
今更ながら、冒険者ギルドでは基本的にドラゴンの討伐を禁止していることを思い出す。
ただ、それは下手に手を出すと、触発されたドラゴンが街にでも行って暴れると大惨事になるからだったよね。触らぬドラゴンに祟りなしって考えだ。
でも、この場合はちゃんと討伐できてるから問題ないよね。
というか、私は全然触りたいと思ってもいないのに、ドラゴンの方から祟りを押し売りしてくるんだけど。
聞いてた話と違いすぎるよ。ひどい。
そもそも、明らかに私を狙ってたから、ドラゴンたちは別に王都に用があるわけでもないと思う。
だから、王都が襲われることはなさそうかな。
今回のドラゴン騒動における災厄の中心は私だ!
よかったね王都の皆さん。私にさえ近づかなければ安心だよ。
ってこれ、私、王都に戻れなくない?
いや、王都だけじゃなく、ガザアラスとか他の街にしたって同じことだ。
仮にこの二体にとどめを刺したとしても、第三第四のドラゴンが私を狙ってくるかもしれない。
私はいくら狙われても死なないかもしれないけど、今回みたいに周りに被害を出さずに対処できるかと聞かれれば、絶対できるとは言えない。
例えば、ピリーゼで寝ているときにでも襲撃があったらと考えただけで背筋が寒くなる。
やっぱり私が狙われている根本的な原因を取り除かないと解決とはならないっぽいよ。
そして、襲撃の理由を一番知っているのは襲撃者本人だよね。
つまり、目の前のドラゴンさんだ。
今のところ、原因を知る唯一の手がかりだから、下手にとどめ刺せないじゃん。
私に原因があるなら、なるべく直すからぜひ教えてほしいんだけど。
できれば分かりやすく日本語で教えてほしいんだけど。
当然、ドラゴンが話すなんてことできるわけもなく——
『人の子よ』
……ん?
今、誰か何か言った?
リコ「いや、まさか、魔物がしゃべるわけが、ね。気のせい、気のせい」




