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60. どう見ても平和そのものなんだけど……

 

「お城?」


「ええ。リコはどうする?」


 王都についてから、今日で四日目。

 今は宿で朝食を食べているところだ。


 今日はどうするか聞いたところ、ソフィはお城へ行くとのことだった。

 イリーネや王女様の様子を見に行くらしい。

 もう明日か明後日にはガザアラスに帰る予定だからね。


 うーん、私もイリーネには会いたいけど。

 正直、王女様とはどう接していいのか分からないんだよね。向こうは気さくに話してくれると思うんだけど。


 それにお城に行くと、また王様と会う流れになる可能性もゼロとは言い切れない。王女様よりもっと無理だよ。

 全体的に考えて、お城に行くのは疲れそうだ。


「私はお城は遠慮しておくよ」


「そう? イリーネもベア様もリコが行くと喜ぶと思うけど」


「んー、それはありがたいんだけど。やっぱ疲れそうだし。二人にはよろしく言っておいて」


「そう、残念だけど、分かったわ。じゃあ今日は別行動にしましょう」


「うん」


 ソフィが一緒じゃないのは残念だけど、私も一人なら一人でやりたいこともある。

 それに、ここ二日間はずっと一緒に王都を回って十分楽しめたしね。




 宿を出てソフィと別れたあと、改めて一人でやりたいことを思い浮かべる。


 いくつかあるけど、やっぱり一番はこれかな。

 ——野営環境の改善。


 これは今回のガザアラスへの帰りの旅から、もっとマシなものにしたいから最優先だ。

 いきなり立派な家、とまではいかなくても、足りないものを買い足すだけでもかなり変わると思う。例えば、テーブルとかお皿とか。


 ということで、まずはギルドショップかな。


 王都でも冒険者・商業・職人の三ギルドは同じエリアにあって、ギルドショップも商業ギルドの隣にある。

 今回はCランクの報酬が入ったこともあってお金の心配は全くないので、気に入った食器類、テーブル、椅子等々を次々選んでいく。

 全て持っていくと言うと怪訝な顔をした店員さんだったけど、『収納箱』にしまうと目を白黒させていた。

 あ、あと光石も売ってたので買っておいた。手に持って念じると光る石だ。これがあれば誰でも明かりを使えるし、私も常に光魔法を使う必要はなくなるからね。


 うん、これでだいたいはそろった。

 もちろん今のテントに全部は設置できないから、しばらくは必要に応じて出したりしまったりだけどね。家具設置済みの一軒家を持ち歩く未来が楽しみだよ。


 で、ほとんどの欲しいものはあったんだけど、唯一、ベッドだけが納得いくものがなかった。

 今使っているベッド、使い心地がいいとは言えないんだよね。

 ガザアラスで買ったときはお金がなかったから、選びようもなかったし仕方ないんだけど、例えば、宿に置いてあるベッドと比べると寝心地がよくない。

 ソフィが一緒に野営することも考慮して、もっといいのに新調しようと思ったんだけど、ギルドショップにはこれよりもよさそうなものは売っていなかった。

 そもそも、ギルドショップはなんでも揃うけど質はそこそこで、一級品は売っていない。

 他の家具なら別にそれでもいいんだけど、睡眠マエストロの私としてはベッドは譲れないところだ。


 と、いうことでベッド専門店的なところがあればいいんだけど。

 まぁもちろん、そんなの私は知らないから、ソフィと合流したら聞いてみようかな。

 とりあえず、野営環境の改善については一区切りだね。



 あ、そうそう。ついでにギルドショップで剣を一本買っておいたよ。

 多分、そんなに性能はよくないやつだと思うけど。ガンスとでも、まともに打ち合ったら折れちゃうかも。

 私は剣も使おうと思えば使えるけど、今後、真面目な戦闘で使うことがあるかは分からないね。


 使わないかもしれないのに武器を買った理由は、他の冒険者を見ていて思うところがあったからだよ。

 私だけ常に手ぶらなの、おかしくない? って。


 この世界には『収納箱』という便利魔法があるから、普段手ぶらなの自体は問題ないかもしれないけど、臨戦態勢のときまで手ぶらなのはやっぱりおかしい。

 私一人のときは大丈夫だけど、グレームたちとのときみたいに一時的に他の冒険者と組むことがあるかもしれない。そういうときに、なんだこいつ武器も持たないで、って思われかねないよ。

 それに、今にして思えば、ガンス相手のときも、こっちも剣を持ってカチンカチン打ち合っておけば、ガンスも負けを納得しやすかったかもしれない。

 なるべく目立たないようにするなら、ある程度、周りに合わせる努力をした方がいいかなってね。

 まぁそんなわけで『収納箱』に剣を一本忍ばせておくことにした。……忍ばせすぎて、忘れないといいけど。




 買い物を終えると、既にお昼前となっていた。

 早めの昼食をとってから、次は冒険者ギルドに向かうことにする。


 正直、依頼を受けるつもりはないんだけど、冒険者らしい冒険者はそのつもりがなくても情報収集のためにギルドにちょくちょく顔を出すものらしいし、私も王都ではどんな依頼があるのか気になってたしね。簡単な依頼なら受けてもいいかもしれない。


 ……ソフィの料理のためにキッチンを作るとか、他にもやりたいことはあったけど、すぐにはできそうにないことばっかりだったよ。




 ギルドの中は閑散としていた。

 カウンターの受付嬢たちは暇そうにしている。


 相変わらず私がギルドに行く時間帯はピークから外れているみたいだ。

 さすがに全く冒険者がいないってわけじゃないけど。


「よう、リコじゃないか」


 依頼ボードを見に行こうとしたところで、後ろから声をかけられた。

 どうやらギルドにいた数少ない冒険者の一人が私の知り合いだったらしい。


「グレーム? どうしたの、こんなところで」


 振り返って、そこに立っていた男に尋ねる。


「冒険者が冒険者ギルドにいるのは当たり前だろう」


「まぁそうだけど。この時間帯って、いい依頼はなくなってるんじゃない? それに今日は一人なんだ?」


「今日は特に仕事をするつもりはないからな。あいつらとは別行動だ。俺がここに来たのは情報収集ってとこだな。リコこそ、こんな時間に一人か」


「うん。グレームと同じ感じかな。私も情報収集? あと、どんな依頼があるのか見に来たんだけど」


「そうか。なにか気になる情報はあったか?」


「ないけど」


 今来たばっかりだしね。

 というか情報収集なんて格好つけたけど、冒険者の知り合いもいないし、収集のしようもないんだけど。


「……やはり聞いていないか」


「なにかあったの?」


 グレームは軽く周囲を見ると少し声を低くして答える。


「俺もまた聞きで確証があるわけではないんだが。昨日、王都の付近でまたドラゴンが目撃されたらしい。それも二体同時に」


「え」


 マジか。

 一体でも倒しきれるか分からなかったのに、二体同時とか、かなりめんどくさいね。

 片方ずつ全力で倒すことになると思うけど、一体に集中できなさそう。

 ……って、なんか戦うこと前提で考えちゃったけど、そんなことにはならないよね。多分。


 でも、それって結構な緊急事態じゃないの?

 それこそ緊急依頼がでるくらいの。

 なのにギルド内にそんな緊張感は全くないなんだけど。平和の極みだよ。

 あの受付の子なんか、眠そうにあくびしてるし。


「俺も偶然さっき知り合いの冒険者に聞いてな。そのことを聞きにギルドに来たんだが。この様子じゃ、ギルドマスターはともかく、職員には伝わってないようだな」


 グレームも受付嬢を見やりながら言う。


 うん、私もそう思う。

 王都の近くにドラゴンが二体も出没していて、いつ襲ってくるか分からないってときにのんびりあくびできるなら逆にすごいよ。


「目撃した人はギルドに報告してないってこと?」


「いや、それはするはずだ。だがこの状況ということは、ギルマスが情報を抑えてるのかもしれないな」


「なんで?」


「情報が信憑性のないものだったか、混乱を招かないためか、どうであれ伝えない方がメリットがあると判断したんだろう。実際のところは本人に聞かないと分からないがな」


 確かに混乱を招かないためとかありそう。

 あとはマイデルさんと同じで、無闇に冒険者を死地に向かわせないためとか。


 でも、一度ドラゴンと戦った私としては気になるところだな。

 正直、あれが二体同時に王都に攻め入ってきたら、かなりキツいと思うし。


「それじゃあ本人に聞いてみようよ」


「は? 本人って、ギルマス本人か?」


「うん」


「あのな、リコ。ギルマスはわざわざ情報を止めてるんだぞ。それなのに教えてと言ったって教えてくれるはずがないだろ」


 あー、それはそうかも。

 でも、気になるし。


「まぁ聞くだけ聞いてみたっていいじゃん」


「いや、だいたい、アポもなし、大した理由もなしじゃ面会自体できないと思うが」


 そうなの?

 でもこの間、いつでもいらしてくださいって言ってたような気がするし。

 ダメでもともと、一回聞いてみよう。


 一番近いカウンターに行って受付嬢に話しかける。

 どうせまたお遣いと間違われるから、先にギルドカードを出しておく。

 ちなみにグレームも後ろについてきている。


「すみません。Dランクのリコです。ギルドマスターと会いたいんですけど」


「あ、どうも、こんにちは。えーと、リコさんですね? ……え、Dランク!?」


 ギルドカードを見た後に、まじまじと私の顔を見つめてくる。

 そこは別にそんなに反応しなくていいんだけど。


「Dランクです」


「は、はぁ……っと、失礼いたしました。ギルドマスターとの面会ですね? 何時からのお約束でしょうか?」


 あ、やっぱりアポが必要なのね。

 これは会えなさそうだな。


「えと、約束はしてないんですけど。一応、ギルドマスターからはいつでも来てくれと言われてたので」


「そ、そうなんですか? ……では、念のため確認して参りますので、少々お待ちいただけますか?」


「お願いします」


 受付嬢は席を立つと奥の扉に消えていった。


 グレームが声をかけてくる。


「リコ、王都のギルマスと知り合いなのか?」


「うん。マイデルさんの手紙を渡したときにちょっと話した程度だけど。でも、やっぱりいきなりじゃ会ってくれなさそうだね」


「それはそうだろう。ギルマスともなれば忙しいだろうからな。冒険者でも一度もギルマスに会ったことがないやつも多いだろう」


 マイデルさんなんかそうは見えないけど。会いにきたって言えば、絶対会ってくれそうだし。

 それに、私はなぜか王都でもガザアラスでも、ギルドに行った初日にそれぞれのギルドマスターに会ってるから実感がない。


「グレームもケルトさんに会ったことないの?」


「会ったことはあるが、そこまで深く話したことはないな」


 ふーん、そんなもんなのかな。


 グレームと雑談をしていると受付嬢が戻ってきた。

 なんとも言えない不思議そうな顔をしてる。なんだろ。


「お、お待たせいたしました。ギルドマスターがお会いになるそうです。執務室に来るようにとのことでした」


 えっ、いいのか。

 あ、それでこの表情か。こんなことあまりないことなのかも。


「分かりました。ありがとうございます」


 受付嬢にお礼を言って、この前の部屋に向かうことにする。


 だけど、歩きだしてもグレームがついてこない。


「グレーム、なにしてるの? はやく」


 私が声をかけるとグレームは目を丸くする。

 本当になにをやってるんだ。


「お、俺も行くのか?」


「え、そのために来たんでしょ?」


「……そうだな」


 お、やっとグレームが動き出したよ。



リコ「やっぱり私にとって、ギルドマスターはレアキャラって感じしないよ」

リコ「……あ、そっか。ソフィと別れたから、ここも一人か」

リコ「…………」

グレーム「お、リコか? どうした? そんな寂しそうにして」

リコ「ささささ寂しそうなんかじゃにゃいよ!! ……って、グレーム!? なんでここに!?」

グレーム「は? なにを言ってるんだ、お前は?」

リコ「い、いや、ごめん。なんでもないよ。……私とソフィ以外も登場できるんだ、ここ」


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