59. リコって……(ソフィア視点)
※6/3 一部加筆
ようやく全員が落ち着きを取り戻してから——主に私のことだけど!——リコはここに来た流れをざっと説明してくれた。
……私たちが四日ほどかけて進んできた道のりを、走って二日ね……。しかも、昨日は午後に出発したらしい。
相変わらずだけれど、めちゃくちゃもいいところね。
そして、グレームの提案により、リコが私たちに同行してくれることになる。
……リコがこの提案を受けるとは思わなかったわ。
でも、これは素直に嬉しいわね。
リコの移動速度のこととめんどくさがりなことを知っているため、私にはそんな提案思いつきもしなかったわ。
ナイスよ、グレーム。
お腹も空いたし、間もなく日も落ちるということで、野営をすることになったのだけれど。
——リコが暴れていた、わね。
はぁ、全くリコは驚かせてくれるわ。
美味しくない携帯食料を配ろうとしたら、出来立てアツアツの豪勢な食事が出てきた。
狭い馬車の中で寝ようとしたら、ベッド付きの家が出てきた。
濡れたタオルで身体を拭こうと思っていたら、立派なお風呂が出てきた。
……これ、本当に野営っていっていいのかしら? 快適すぎるわ。
「あら、おかえりなさい」
グレームたちを呼びに行ったリコが静かに帰ってくる。
「ただいま」
完全に眠りについているイリーネを気遣ってか、リコはほんのりと明るい光球をつくってベッドに潜り込む。
「お疲れ様。それでグレームたちは?」
「上にいるよ。安全だと思うけど、一応見張りもしてくれるって」
「そう、よかったわ。というか、本当に二階ができたのね……。リコは本当になんでもできるわね」
この建物に二階部分ができたらしいわよ……。
グレームたち三人はそこで休むんだとか。
なにそれ、本当に一軒家じゃないの。
ねぇ、野営ってなんだっけ?
私が野営の概念について考えていると、唐突にリコが謝ってくる。
「……ソフィ、ごめんね」
「え? どうしてリコが謝るのよ」
謝られるようなことはなにもされていないのだけれど。
むしろお礼なら、私の方からたくさん言いたいくらいだわ。
なのに、リコは泣きそうな顔をしながら、ポツポツと話を続けた。
その内容は——いつも能天気そうに見えるリコの姿からは予想できないものだった。
え、ええと……?
私が思い詰めてるのに気がつけなかった?
——あのときは私もなんとか感情を殺してあの場を動かすことを優先していたから、リコが気がつかなかったのは当然じゃないかしら。
夕食をいきなり出して驚かせてしまった?
——たしかに驚いたけれど、謝ることではないでしょう。久しぶりに美味しい食事をとれてすごく嬉しかったわ。
お風呂に入りたいなんてリコのわがままに、無理やり私たちを付き合わせた?
——無理やり? いえ、私だって入れるものならお風呂に入りたかったわよ。もちろんイリーネもね。とても気持ちのいいお風呂だったわ。
お風呂の出来が中途半端だった?
——え? あれで? リコはどんな理想を追い求めてるのよ。何度も言うようだけれど、今日は野営なのよ? 一応これでも。
ベッドも一つしかなくて、私に気を使わせた?
——なんのこと? リコは気を使わなくてもいい貴重な友人だと思っているのに。だから一緒にいると気が楽なのよね。
グレームたちにも気を使わせて、謝罪までさせてしまった?
——グレームたちが気を使ったかは分からないけど。総合的にはリコにとても感謝していると思うわよ? 特に食事ね。リコも見たでしょう? あの三人の食べっぷり。喜んでいないわけがないでしょう?
「——ま、まぁこんな感じで私なんてダメダメだから。ごめんね、ソフィは疲れてるのにこんな無駄話しちゃって。もう寝よう?」
……この子、本気でそんなことを考えていたの?
本気なのだとしたら——どれだけ他人との付き合いに慣れていないの?
そんな細かいことまでいちいち考えていたら、他人と付き合うことなんてできないわよ。疲れちゃうでしょう?
完璧な気遣いができる人なんていないのだから、ある程度適当なところで折り合いをつけて関わるものでしょう?
……ずっと他人と関わらずに一人で生きてでもこないと、ここまでこじらせることはないと思うのだけれど。
でも、誰とも関わらずに生きるなんてできるものかしら。
ずっと、一人で。
仮にそうだとすると、それは不安にもなるものなのかもしれないわ。
全部一人で決めてきた自分の考え、行動が他人の目にどう映るのか気にしすぎてしまうのかも。
それで、私たちの言動一つ一つに過敏に反応して、考えすぎてしまうのかもしれないわ。
私は、いえ、多分、イリーネもグレームたちも、驚きこそすれ、リコの行動を迷惑に感じることなんて少しもなかったのに。
だいたい、リコが自分のやりたいように行動する中でも、意識してか無意識にかは分からないけど、ちゃんと私たちのことを思ってくれているのは伝わってくるわよ。
食事にしたって、お風呂にしたって、寝床にしたって。
リコは自分勝手なんかじゃないわ。
他人に気を配れる優しい子よ。
まだ出会って日は浅いけれど、どんな瞬間だって、リコは優しかった。
そもそも、本当に自分勝手なら私たちに同行しようなんて思わないわよ。
でも、自分でそれに気がついていない。
自分の身勝手な行動で、私たちに迷惑をかけたのではないかと本気で心配して不安になっている。
……もったいないわね。こんなにいい子なのに。
というか、リコ自身が一番気を使っているじゃない。それも過剰に。
……大切な友人にそんなに過剰に気を使われても、私は嬉しくないわ。
そんなリコに私がかけてあげられる言葉は——
「それじゃ、そんなに不安なら約束してあげる。これからも私はリコに変に気を使ったりしないし、思ったことは言わせてもらう。……大切な友人としてね。できたら信じてくれると嬉しいわ」
「私とソフィは、友達……?」
「今更? 何回も言ったはずでしょう?」
え? リコは私のこと友人と思っていなかったのかしら。
それはとても悲しいのだけれど。
「でも、あの時、言いにくそうにしてたよね……? ほら、グレームたちに私のことを紹介してくれたとき……」
……言いにくそうに? なんのこと?
グレームたちにリコを紹介……ええと……。
『それじゃあ、改めて。詳しい話はこの子も馬車に乗せてゆっくり話したいんだけど、この子を乗せることに納得してもらうためにも、簡単に紹介と状況整理させてもらうわ。まず、この子はリコ。これでも冒険者で、私のしん——コホン、友人よ。私はこの子のことを全面的に信用しているわ』
——あ。
あぁああああ!!
私、なにか言いかけちゃってるー!?
……あ、ああ、あのときはリコが来てくれて嬉しかったのと、それ以上に色々と動揺してしまっていたから、つい口が滑りそうになったんだったわ。
確かに、リコとは会って間もないのに、ただの友人以上に、今まで関わってきたどんな人にも感じたことのない特別なものを感じてはいたけど。
はっきりと思い出した。
と、同時に顔が熱くなるのを感じる。
「あ、あれは、し——って、言おうとして……」
「ごめん。なに?」
……いや、恥ずかしいのだけれど。
友人とも思われていないかもしれないのに、こんなこと言わないといけないの?
リコ、まさか楽しんで……ないわよね。
……リコのこんな悲しそうな顔を見せられて「なんでもない」とは言えないわ……。
……もう! なるようになれ、よ!
「……はぁー。んもう、めんどくさいわね! あのときはリコのこと『親友』って言いかけちゃったの! 悪い!?」
「……」
「でも、私からいきなりそんなこと言うのも恥ずかしかったから——って、リコ? ど、どうしたの?」
リコの頬を涙が伝う。
「なにが?」
「なにがじゃないわよ。泣いてるの?」
「え?」
リコが自分の顔に手をやって確かめる。
自分で気づいていなかったらしい。
でも、リコがいきなり涙を流し始めて驚きはしたけれど、この涙は悲しいものではないことは見れば分かる。
というか、むしろ——
「……なに? 私が親友って言ったことに感動して泣いちゃったの? 嬉しくて泣いちゃったの? へー、リコにも可愛らしいところがあるじゃない。もちろん普段から可愛いけど」
リコの顔が一気に真っ赤に染まる。
それが恥ずかしかったのか、すぐにハンカチで顔を隠してしまった。
……か、可愛いわ! 照れているリコ、可愛すぎない!?
リコがこんなに感情を表に出すところなんて見たことないわ。
珍しいものを見たのに便乗して、さらにリコのことを揶揄ったら、見事に反撃を受けてしまったけれど。
「と、とにかく! リコには驚かされることばかりだし、驚きすぎて疲れちゃうこともあるけど。私はそんなことなんて全く気にならないくらい、リコが一緒にいてくれて楽しいし嬉しいわ。友達と一緒にいるってそんなものでしょう? 自分では納得できないかもしれないけど、リコはそのままで十分魅力的よ」
「……ありがと」
「はいはい。もうかなり遅くなっちゃったわね。早く寝るわよ。ほら、光消しなさい」
「うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
ベッドに横になり、改めてリコのことを考える。
自由で。
能天気で。
めんどくさがりで。
強くて。
優しくて。
可愛くて。
それなのに妙に自信がないところがたくさんあって。
他人のことを考えすぎてしまう。
ちょっと不器用な子。
私の大切な友達。
私には親友と呼べるほどの深い付き合いの友人はいないけれど、リコとなら本当にそんなふうになれるかもしれない。
……なれるといいわね。
ソフィア「リコって……」
リコ「……なに?」
ソフィア「……なんでもないわ。ふふっ」
リコ「……なんなの」
今回のソフィア視点はここまでです。
次回は本編に戻り、王都の話の続きからになります。
よろしくお願いします。




