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6. せっかくファンタジーなのに魔法使えないの?

 

 街で過ごそうにも先立つものがない。

 着の身着のままなのを忘れていたよ。まぁもし財布があったとしても、日本円なんか使えなかっただろうけど。

 それにしても通貨制度はあるんだね。


「あー、やっぱりそうよね。……うーん、私がしばらく滞在費を出してもいいけれど……」


 はい、この人やっぱりバカ。バカお人好し。

 今日会ったばかりの他人にお金を援助って。絶対損して生きるタイプだよ。


 でもそれはそれとしてお金の問題は重要だ。

 仮にソフィに当面の資金を借りたとしても、それじゃ根本的な解決にはならない。

 生活できるだけの自分なりの収入が必要だ。ってことはやっぱり……仕事するしかないかな。


「いや、これ以上お世話にはなれないって。それより私でもお金を稼ぐことってできないかな?」


「私は気にしないけど……。ま、そうね、ずっと私がお金を出すわけにもいかないわよね。それで、お金を稼ぐ、よね。もちろんできないこともないけれど……」


 そう言いながらソフィの視線が私の上から下へゆっくり移動してまた頭の方へ戻っていく。

 

 なに? 身長が低いと仕事もできないの?

 私のじとっとした視線に気がついたのか、誤魔化すようにコホンと一つ咳払いをする。


「お金を稼ぐには仕事をしないとだけど、果たしてリコを雇ってくれるところがあるかしらって考えてたのよ」


「ないの?」


「私の腕を治療してくれた手際を見れば、普通なら治癒院とかで雇ってもらえると思うんだけど……」


「普通なら?」


「ええ。ただ、一般的に、見ず知らずの『子供』を雇うところはないわね」


 あぁ、思った通りそういうことなんだね。

 日本でも小学生とか中学生の子を雇う職場はない。私は高校生だけど。

 でも一応抵抗してみる。


「私16歳なんだけど」


「はいはい、もう聞いたわよ。もちろん16歳なら仕事しててもおかしくない年齢なんだけどね。でも証明してくれる人もいないでしょう?」


「ぐぬぬ」


 反論しようがないよ。

 けど、それじゃあどうすればいいんだろう。野宿して、道端の草でも食べて生きていくしかないのかな。


「うーん、年齢関係なく、となると……冒険者くらいかしらね。でも、それはさすがに……」


 冒険者!


 なんだ仕事あるじゃん! そういえば最初にソフィに会ったときも、そんな単語聞いた気がするよ。

 いいね、冒険者! ワクワクする響き!


「冒険者? えと、ソフィも冒険者なんだよね? 仕事なの? 何するの?」


「ちょ、ちょっと。そんないっぺんに聞かないでよ。というか当然のように冒険者も知らないのね……」


 おっと。興奮してまくしたて過ぎた。

 少し呼吸を落ち着けないと。


「まずは、そうね、私は冒険者よ。それで冒険者についてだけど……。詳しく説明する前に確認なんだけど」


「うんうん」


「リコって魔法使えないのよね」


「……うん」


「魔物を狩ったこともない」


「…………うん」


「じゃあ悪いけど最初に言っておくわ。それじゃほとんど仕事にならないわよ」


「ええええ! なんで!?」


「冒険者の仕事は色々あるんだけど、まず第一に強くないと話にならないのよ」


「えー、私そんなに弱くないよ? 人間相手なら負けないよ? 空手とか柔道とか格闘技全般使えるよ?」


「か、からて……? えと、後半何言ってるか分からなかったんだけど。でも人間相手なら負けないって……リコが?」


 ソフィはクスッと笑う。


 むぅ、全然信じてないよ。

 本当なんだけどな。一対一で私に勝てる人はほとんどいなかった。


「それに年齢は関係ないとは言ったけど、リコくらいの年齢で稼げるような冒険者はほとんどいないわよ。ま、いたとしても魔法の才能がずば抜けている子とかでしょうね」


「じゃあ私も魔法使うよ」


 このままだと無職コースだと思って、無茶を言ってしまう。

 16歳にして求職活動の末、無職なんて嫌すぎる。


「えっ!? いや、無理よ。言ったでしょう? 使える人は10歳くらいからもう使えるようになってるって」


「でも私のいたところは魔法の概念なかったし、気がつかなかっただけかもしれないじゃん。当然誰も教えてくれないし」


 おぉ? これは自分で言ってて一理あるような気がしてきたよ。

 私には魔法の才能が隠されているかもしれない。ついに世に示すときが来たようだね。

 というか、せっかくファンタジーな世界なんだから使えるならぜひとも使ってみたい。


「ソフィが教えてくれれば使えるようになるかも! 教えて?」


 頼み込んでみるけど、ソフィは困ったような顔をした。


「教えてって言われてもねぇ……。魔法の修練のやり方とかなら簡単に説明できるけど、それはもともと魔法が使える人に教えるものだし……」


「ソフィ様、お願いします」


「は? ちょ、やめなさいよ。……もぅ。それじゃ少し休憩ってことにしましょうか」


 ソフィはそう言って街道を逸れて歩き出す。

 おお? 教えてくれるのかな? 私の圧倒的な威厳に屈したか。まだまだ修行不足よの。


「ソフィ様、ありがと」


「様は、やめなさいって」



 しばらく進んだところでソフィは立ち止まった。

 ここなら街道までそこまで離れてないから、馬車が街道を通ればわかりそうだ。


「うん、この辺でいいかしら。座りましょう」


 ソフィはどこからともなく皮の敷物をだす。ピクニックシートのように使うみたい。

 ……別に私はこの草の上に直接座ってもいいんだけど。女子としての格の違いを見せつけられた気分だよ。

 にしても本当に便利な魔法だな。よし、使えるようになるぞ。


「それで魔法が使いたいってことだけど」


 二人とも腰を下ろしたところでソフィが切り出す。


「最初に言っておくけど多分無理。何回も言ってるけどね」


「うん、分かってる。それでどうすればいいの?」


「……はぁ、本当に分かってるのかしら」


 ソフィは一つため息をつくと、ようやく詳しく話し始めた。


「先に簡単に魔法がどんなものか説明するわ。といっても魔法についてはわかっていないことも多いのよね。ただ一応、魔力を使って自然的な現象を意図的に引き起こすのが魔法だって言われているわ。魔力を集めて起こしたい現象をイメージすると魔法になるの。実際に魔法を使う流れとしては、まず魔力を集めて、どんな魔法かをはっきりイメージして、それを撃ち出すって感じね。だから魔力があれば魔法を使えるとも言えるわね」


「ふむふむ。それで、私に魔力はあるの?」


「その魔力っていうのが問題なの。リコに魔力があるかは私には分からないわ。私自身の魔力は自分で分かるんだけど。自分以外の魔力を認識できる人なんていないのよ」


「ほーん? じゃあ、ないとも言い切れないわけだね? で、どうしたら自分に魔力があるか分かるの?」


「知らないわ」


「えっ」


 即答された。

 でもソフィは私の反応も予想してたかのようにそのまま言葉を続ける。


「だって自然に分かるようになったんだもの。他の魔法使いもみんなそんな感じよ?」


 それじゃ私は今、自分に魔力がある自覚がないから、魔法は使えないってこと? 残念すぎるよ。

 これが魔法を使える人と使えない人の違いってことかな。言わば、自分に魔力があるかを認識する才能ってところか。

 使える使えないは努力とか関係ないって言ったソフィの言葉の意味がよくわかったよ。

 でもここで簡単に諦めるわけにはいかない。


「えぇー。あ、じゃあなにか魔法使ってみてくれない? そういえば魔法使うとき何か言ってたよね? あれを言えば私でも使えるってことはない?」


「使えないわよ。魔力を自覚して、それを使うようなはっきりとしたイメージを持たないと。私が魔法を使う時に言っていたのは呪文っていう、単にイメージを強くするためのものね。一般的な呪文の文言は確かに決まってるけど、あくまでイメージの補助だから言葉自体が魔法発動の引き金になるわけではないわ」


「……うぅ。理屈は分かったけどぉ……。それでも! なにか一回だけ、お願い!」


「えぇ……。ま、いいわ」


 目の前で魔法を見ればきっかけが掴めるかもしれないよ。

 いくら口で説明されても分からないことも、実際に身をもってその技をくらってみれば理解できることもあるんだよ。


 ソフィは人差し指を私の鼻先に向ける。

 その指先に何かが集まっていくのが感じられる。


「『風よ』」


 指先からそよ風が吹いて、私の顔をなでる。


 ……地味っ。しかも呪文短っ。やっぱりイメージの補助でしかないのかな。

 でも呪文を言う前にソフィの指先になにかが集まっていたのはなんだったんだろう? あれが魔力かな? でも他人の魔力を感じることはできないって言ってたよね?

 けど要領は分かった。完璧に理解した。やってやりましょうか、私の記念すべき初魔法を。

 目をつむって、右手人差し指に何かを集めるイメージで……


「風よ」


 そうつぶやいて、カッと目を開きソフィを指さす。


 おお!?

 髪の毛一本揺れてないね!


 念のため左手をかざしてみても全くの無風。

 台風の目の中よりも無風。まさに凪。


「だから言ったじゃない」


 呆れたようにソフィが私の手を下ろさせた。


 マジかー。魔法使えないのか。

 根拠はなかったけど、ちょっと魔法が使えるかもと期待してしまった分、ショックは大きいよ。


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