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56. 箒ならほしかったよ


「それじゃ、どこ行く?」


 これで差し当たっての用事は全部片付いた。

 ここからは観光のターンだよ! 王都観光!


「え、宿を探すんじゃないの?」


「え?」


「ついさっきまで馬車の旅だったじゃない。まずは体を休めないとでしょう?」


 ……そうだった。


 私は疲れなんて全くないけど、ソフィは違うよね。

 今日まで一週間、ずっと馬車で移動だったんだ。まずは休みたいよね。

 もう、相変わらず気が回らない。


「……そうだね。まずは宿だよね。……王都でも行きつけのところがあるの?」


「……はぁ、まったく。……そういえば、体を休めるもなにも、よく考えたら全然疲れてなかったわ。宿はあとでもいいし、どこか行きましょうか?」


「え、でも、ソフィは一週間も馬車で……」


「ま、ここ二日間は誰かさんのせいで、野営なのになぜかしっかりお風呂に入って、ベッドでぐっすり眠ってたからね。疲れなんてあるわけないわよ。それともリコは疲れちゃった? 先に宿に行きたい?」


「いや、私は大丈夫だけど」


「それならよかったわ。リコ、どこか行きたいところあるの?」


 うーん、ソフィが大丈夫って言うならいいのかな?


 でも、行きたい場所なんて考えてないよ。

 ガイドブックがあるわけでもないし、なにがあるのかすら分からない。

 唯一グレームに教えてもらったお城には、もう行っちゃったし。二度と行きたくないし。


「特にないよ。どこでもいいから、ソフィにお任せで」


「ええ……。それなのに出かけたがってたわけ? ま、いいけど。そうね、それなら今日はそんなに時間もないし、私の用事をすませてもいいかしら? 魔法屋さんなんだけど。本格的に王都を回るのは明日からにしましょう?」


 魔法屋さん!?

 なにそのわくわくする響きは。

 魔法を習得する巻物とか、七色に光る謎の液体が詰められた小瓶とか売ってそう。

 日の当たらない細い路地の薄暗いお店で、魔女みたいな老婆が経営してるのかな。


「うん、いいよ」


 私たちは魔法屋さんなるお店に向かうこととなった。




「いらっしゃいませー。あ、ソフィアさん! お久しぶりです」


 若い女性の店員さんの明るい声で迎えられる。


「こんにちは。いつものメンテナンスをお願いします」


「はーい。少々お待ちくださーい」


 パタパタと奥へ走って行ってしまう。


 ここが魔法屋?

 普通に通りに面した明るいお店だったよ。

 規模は大きくないけど。


 ソフィが持ってるような杖がいっぱい並んでいる。

 それからあっちは装飾品? ネックレスとか指輪とかが並んでるみたい。魔法と関係あるのかな。


 私が店内を見回していると、さっきの店員さんが消えた奥から、今度は40過ぎに見えるおっちゃんが出てきた。


「おう、嬢ちゃんか。久しぶりだな」


「ご無沙汰してます、ゲーレンさん。もう嬢ちゃんって年じゃないんですけど」


「そうだったか? まぁいいじゃねえか。それで、メンテナンスか?」


「はい、お願いします」


 ソフィが杖を出してゲーレンさんに渡す。


「おう。じゃあ、ちょっと待ってろ」


 そう言ってまた奥に引っ込んでしまった。

 ソフィに聞いてみる。


「杖のメンテナンス?」


「ええ、たまにメンテナンスした方がいいのよ。だんだん魔力の通りが悪くなるからね。普通はそこまで気にするほどでもないんだけど、私のは魔力水晶も使ってるし、念のためね。」


 杖のメンテナンスってなんだと思ったけど、そういうことか。

 でも剣とかの刃物ならともかく、杖にもメンテナンスがいるのか。意外だね。

 というか、魔力水晶ってなんだろ。いや、それ以前に——


「そういえば、杖って魔法を使うのに必要なの? アントンも持ってたけど」


 今更だけど。


「はい? ……ああ、そういえばリコは魔法のこと、最近まで全く知らなかったのよね。もうバンバン使いまくっているから忘れてたわ」


「私は杖がなくても魔法使えるんだけど」


「そうね、杖がなくても魔法は使えるわ。私も一応使えるわよ。でも、そうすると魔法の威力が弱くなっちゃうのよ。それに魔力の消耗も多くなるわ。杖は魔力を通しやすい素材、魔法媒体で作られていてね、杖を使って魔力を操ると効率がよくなるってわけ」


「なるほどね。……ん? じゃあ私も杖使った方がいいのかな」


「絶対にいらないと思うわ。あれだけ魔法使ってて魔力減らないんでしょう? 威力もこれ以上必要? 国でも滅ぼすわけ?」


「そんなめんどくさそうなことしないって」


 たしかに今は魔法について不便さはないかな。

 というか、私は近接戦闘も得意だから、むしろ杖が邪魔になる可能性もあるしね。


「で、魔力水晶って?」


「それも魔法媒体の一つなんだけど、その効果がかなり高いの。でも希少なものだからあまり出回らない上に、あっても高価なことが多いわね。採掘でまれに少量採れるか、ゴーレム系の魔物から採れるという話も聞いたことがあるわ」


 へー。

 でも、そんな希少なものをソフィは使ってるってことだよね。すごいね。


 ソフィの杖が戻ってくるのを待っている間、ソフィに解説してもらいながら店内を回る。

 指輪やネックレス等のアクセサリー類もこれまた魔法媒体を使ってできているもので、杖を持たない魔法使いはこういうものを使うらしい。

 ただ、邪魔にはならないけど性能は杖より低く、戦闘には不向きらしい。


 残念ながら空飛ぶ魔法の箒はなかった。

 そもそも、この世界に空を飛ぶ魔法とかあるのかな。


「またせたな。できたぜ」


 しばらくするとおっちゃんが戻ってきてソフィに杖を渡した。


「ありがとうございます」


「おう。相変わらず大事に使ってくれてるようで嬉しいぜ」


「それはもう。ゲーレンさんに作っていただいたこの子には、何度も命を救ってもらってますから」


「そう言ってもらえるのは嬉しいが、実際は素材がよかったのがでかいがな」


「それを活かせるゲーレンさんの技術があってこそですよ」


「はは。じゃあ素直に誉め言葉として受け取っておくぜ。……それで、そっちの小さいお連れさんはお客様じゃないのか?」


「んー、この子にはここの売り物は必要ないかも」


「あちゃ、魔法使えねえのか。それは仕方ねえな」


「ん、んんんー。リコは……ま、まぁそんなところですかね?」


 お?

 近くの商品棚をぼーっと眺めてたら私の話になってる?


「私がなに?」


 会話に割り込んでみる。


「あ、リコ? ええと、ね——」


「おう、嬢ちゃん。俺はここの店主のゲーレンっていうもんだ。自分で言うのもなんだが、魔法道具の作成に関しては多少腕に覚えがあるぜ。そこのソフィアの杖を作ったのも俺だ。ソフィアとはそれからの付き合いだな。よろしくな」


 ソフィの声を遮っておっちゃん——ゲーレンさんが声をかけてくるので、ぺこりと頭を下げて自己紹介を返しておく。


「リコです。よろしく」


「おう。嬢ちゃんもうちの客になってくれたらありがたいんだがな。だが魔法が使えないんじゃ、うちなんて全くの無用だわな。残念だぜ」


「? 一応魔法は使えるけど」


 ソフィとも話した結果、今のところ、ここの商品は必要そうにないのは確かだけど。

 ゲーレンさんは私の答えが意外だったようで目を丸くしてから唐突に笑い出した。


「ははは、もしそうなら俺としては嬉しいんだが、嘘をつく必要はないぞ。もうソフィアから聞いたからな」


 ソフィから? 私が魔法使えないって? どういうこと?


 ソフィに視線を送ると、なんとも言えない微妙な表情をしている。

 ……? どういうこと? よく分からないけど。


「んー、まぁいいや。どっちにしても今は私には必要なさそうだし、なにか欲しくなったらまた来るね」


 別に魔法が使えないと誤解されてようがどうでもいいね。

 逆に証明のためにここで魔法を使ってみろとか言われた方が困る。


「おう、そうしてくれや」


 ゲーレンさんは笑いながら軽く答える。

 なんか全く私のことをお客さんとは考えてなさそうだけど。


「それじゃあ今日は失礼しますね。メンテナンスありがとうございました」


「またいつでも来てくれよな」


 ぺこりとお辞儀だけしてソフィと二人お店の外に出た。




 ギルドを出た時点ですでにお昼をかなり回ってたので間もなく夕方だ。


「今日はもう宿に行く?」


「そうね。向こうに宿が何軒かあったはずだわ」


 もちろん私は王都の地理はさっぱりなので、ソフィに全部任せてついていく。


「あ、そういえば、私、ゲーレンさんに魔法使えないって思われたみたいなんだけど」


「あー、ごめんね? リコに魔道具が必要ない理由がうまく説明できなくてね。そう思われちゃったみたい」


「そうなんだ。全然構わないから謝ることはないよ」


「そう、それならよかったわ」


「でも、私も必要ないとは思うんだけど、もし杖とか使ったらどうなるんだろってちょっと試してみたかったかも」


「……試すのはいいけど、安全には配慮しなさいね。リコの魔法に常識は通用しないから。やる時は広い場所で周りに誰もいないのを確認すること」


 そんな人のことを危険物みたいに。

 と思ったけど、ソフィの言うことも一理ある。


 魔法は使い方によっては簡単に人間も殺せるし、災害を起こすことだってできる。特に、私は魔法を使い始めたばっかりだし、杖なんか使ったせいで、万が一、制御ができなくなったなんていったら洒落にならない。忠告はありがたく受け取っておこう。




 ソフィも王都では特に決まった宿はなかったようで、適当にお風呂がついているところを探して入った。

 その宿はご飯も美味しかったし、全体的にそれなりだったんだけど、やっぱりピリーゼには勝てなかったね。ピリーゼはなんかこう、もっと暖かみがあるというか。贔屓目も入ってるかもしれないけど。


 そんなこんなで、私の王都での初日は過ぎていくのだった。



リコ「むむむっー!!」

ソフィア「……リコ、なにやってるの?」

リコ「いや、魔法で空を飛べないかと思って」

ソフィア「……リコ、頭は大丈夫?」

リコ「……」




 次回から数話、少し時間を遡ってソフィア視点となります。

 イリーネの護衛依頼を受けて、ガザアラスを出発するところからです。

 リコがいない間、どんなことが起こっていたのか——

 あのときのソフィアの心情は——

 ぜひ、お楽しみに!


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