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48. いい人が多いのはこの世界だから? それとも……


 即席の寝床も完成したところで、グレームたち三人のもとへ向かう。


 よかった。三人ともまだ寝てなかった。

 焚き火を囲むように座って話してる。


 グレームが最初に私に気がつく。


「リコか? まだ休んでなかったんだな。ちょうどよかった」


「そっちもまだみんな起きてたんだね。で、ちょうどよかったって?」


「ああ。万が一、魔物や盗賊が出た場合、どうやってリコたちに知らせればいいのかと思ってな。リコがそっちに行った後に気がついたんだが、リコの言葉もあったし下手にそちらに近づけなくてな。すぐに気がつけなくてすまなかった」


 ……グレームが悪いわけがない。


 お風呂に入りたいなんていう私のわがままのために、グレームに言うだけ言ってさっさと壁の中にこもってしまったからだ。


 しかもあの時、グレームは急にわけの分からない土壁が出現したことで明らかに動揺してた。

 そんな時にそこまで気が回る人なんていないよ。


 私がちゃんと想像力を働かせて、気がついておくべきだった。

 そのせいでグレームに気を使わせて、謝らせてしまった。どう考えても私が悪いのに。


「いや、グレームが謝ることじゃないよ。グレームたちと離れるなら、私が真っ先に気を回しておかないといけないところだったから。本当にごめん」


 ちゃんと頭を下げて謝る。


 もしかしたらそのことでずっと悩ませていたかもしれない。

 私、本当にどれだけ自分勝手だったんだろう。


「ん? なぜリコが謝るんだ?」


 ……グレームは本当に自分が悪いと思ってるの?

 普通は、リコが大切なことも伝えず勝手に行っちまった、って怒っていてもおかしくないところだと思うんだけど。

 ……いい人過ぎるでしょ。


 もう自分が情けなさすぎて、ちょっと目が潤んできてしまった。

 ……顔、上げられなくなったんだけど。


「おいおい、グレーム。なんだあ? お前、そんな小さな女の子のこといじめてんのか、おい?」


「なにしてるんですか、グレーム。リコをいじめるとか、自殺志願者ですか?」


「なに!? い、いや、違うぞ!? リコ、頭を上げてくれ!」


 ダルとアントンが野次をとばしてくる。

 二人とも声に笑いがにじんでいて、グレームのことを揶揄ってるのが分かる。

 でも、グレームはそれに気がつかないのか必死だ。


 この三人、いいパーティなのかもね。

 私もちょっと笑ってしまった。


 グレームにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないね。

 さりげなく涙をぬぐって顔を上げる。


「……グレームにいじめられた」


「やっぱりか。おい、グレーム!」


「明日のグレームのご飯はありませんね」


「なぜだ!? お、俺が悪いのか!? リ、リコすまなかった! 飯抜きは勘弁してくれ!」


 ……もう。


 みんないい人過ぎだ。

 この世界に来てから、こんな人たちとばっかり関わってる気がする。

 ソフィにパブロ、タニア、イリーネ。マイデルさん……はちょっと分からないけど。

 こんないい人たち、元の世界にはいなかったよ。


 ……いや、本当はいっぱいいたのかもしれない。

 私が他人と関わろうとしなかったから、気がつかなかっただけなのかもね……。



 ……

 ……

 ……



 っと、今は感傷に浸ってるような場面じゃなかったね。


「ごめんごめん。冗談だよ。グレームが悪いわけじゃないから。それで、さっきの話だけど——」


 夜の間の安全と、緊急時の連絡をスムーズにするためにも、即席ハウスに来てほしい旨を伝える。


「——そうすれば見張りもいらないと思うんだけど」


「……あれ、二階建てなのか……? そんなことが……あるんだろうなぁ。ここまでリコのことを見てればなぁ。……ああ、俺たちも移動するのは構わない。そちらの方が安全だろう。だが、念のための見張りは必要だな。もともとそのつもりだったから、リコが気にする必要はないぞ。あの中で焚き火は起こしても構わないか?」


 そっか。みんなゆっくり眠れたらと思ったんだけど。

 グレームがそう言うなら任せよう。


「うん、大丈夫だよ」


「そうか。アントン、ここの火を消して向こうでまた起こしてくれるか? それからダル、馬をあの建物の方に寄せておいてくれ。なるべく近くの方がいいだろう。っと、馬車は……」


 おお、さすがリーダーだ。指示が素早い。


 それにしても馬車か。近くに持っていった方がいいんだろうけど。今から馬を繋ぎなおすのは面倒だよね。

 私なら押すか、持ち上げて運べるかな?

 ……いや、待てよ? そんなことするより——キングレオが入るんだから、これくらいいけるよね?


「私が運ぶよ」


 馬車のそばまで行って、手をかざす。


「馬車をか? どうやって——」


 グレームの言葉の途中で馬車が消える。


「……『収納箱』か。そんな巨大なものも入るんだな」


 いや、私もびっくりしてる。


 ここでもまた常識にとらわれてたみたいだ。

 容量無限だって知ってたはずなのに、今までは細かいものを入れるばっかりで、馬車みたいに大きいものを収納するという発想がなかった。

 キングレオは入ってるのに、なんで気がつかなかったんだろ。


 というか、今までテントも都度バラして収納していたんだけど。組み立ても魔法だし、別に大した手間ではないんだけど、そのまましまって持ち運びできるじゃん。

 ……いや? いやいやいやいやいや!? 待ってよ? それどころじゃなくない? だって、テントって持ち運びしやすいように組み立て式になってるんでしょ? その持ち運びしやすいようにっていう縛りがないなら、組み立て式じゃなくていい。つまり、テントじゃなくていい。持ち運びできなくても、テントよりも快適に過ごせる宿泊施設——例えば小屋とか、いや、もういっそのこと家を『収納箱』に入れておけば!?


 こ、これはヤバいことに気がついてしまったのでは?

 旅の途中、野営するときに家をポンと出す。家の中でご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドで寝る。

 ……ヤバい。ヤバすぎる。


「準備できたぞ、リコ。……リコ?」


「……はっ!? な、なに?」


 あまりの衝撃に呆然と立ち尽くしていた私に、グレームが声をかけてきていたようだ。

 全然聞いてなかった。


「いや、こちらの準備はできたぞ?」


 いつの間にか焚き火も消えて、馬も移動されている。

 ソフィが敷いてくれたシートも片付いてるけど、アントンが『収納箱』にしまったのかな。


「あ、ああ、うん。じゃあ、行こうか。あ、馬車は明日使うまでこのまま『収納箱』の中にしまっておくね」


 家のことはあとでゆっくり考えよう。

 今すぐにできるものじゃないし。


 真っ暗なので光魔法で照らしながら、三人を引き連れて本日の家まで戻ってくる。


「入り口は二階にしかないから。中で一階とつながってるよ」


 階段を昇りながら説明する。


「何もなくて悪いけど——ってどうしたの?」


 後ろで三人の動きが止まったのが分かったので振り返ると、三人ともまだ階段に足をかけていなかった。

 上から声をかけると、グレームが少し戸惑ったような声を出す。


「いや、ここまで来ておいてなんだが、これは俺たちが乗っても本当に大丈夫なのか?」


 ああ、耐久性の心配してたんだ。

 確かにこの階段は見た目頼りないよね。

 でもそれは保障できる。魔力を込めまくったからね。ドラゴンの突進も耐えられる……かは分からないけど、少なくともドスホーンモウくらいなら余裕だ。


「大丈夫だよ、ほら」


 階段の一番上からジャンプして、一番下の段に着地してみせる。

 もちろん折れるどころか、ヒビ一つ入らない。


「それはそれでおかしいと思うんだが……。どうやら心配はいらないようだな」


「これは土魔法なんですよね?」


 アントンが聞いてくる。


「そうだけど」


「……そうですか」


 ……それだけ?

 土魔法って、見れば分かると思うけど。特にアントンは魔法使いなんだし。まぁいいや。


 全員が階段を昇って中に入ってくれたところで、簡単に説明する。


「何もなくて悪いけど、ここは自由に使って。で、そっちの角に下に繋がる階段があるから。私たちは下で寝てるから、万が一の時は起こしてくれると助かるよ。ちなみにさっきもやってみせたけど、この建物はめちゃくちゃ強度高いから、ドスホーンモウの群れが突進してきた程度じゃビクともしないよ。その点は安心していいから」


 アントンが床にシートを敷き、続いて隅で火を起こす準備をしている。

 ダルは不思議そうに壁を手でコンコン叩いている。


「そうか。なにからなにまですまない。それにしても野営なのに屋内とはな。本当にリコには驚かされるな」


 いや、この建物はただのやっつけだ。

 今、私の頭の中では野営用の家作りの計画が渦巻いている。

 この程度で驚いてもらっていちゃ困るよ。


「大したことじゃないから。それじゃ、あとはよろしくね。あ、よかったらこれ夜食にして。すぐ冷めちゃうと思うけど」


 ソフィに返すのを忘れてたプレートに食べ物を乗せて渡す。

 夕食のときと同じようなものしかないのが申し訳ないけど。


「いや、助かる。ありがとう」


「おお、ありがとよ!」


 ダルが食いついてきた。


「うん。見張りよろしくね」


「任せとけ。そんじゃあゆっくり休んでな」


「ありがと。じゃあおやすみ」


 挨拶をすませて一階に降りる。

 これでようやく本当に今日の仕事は終わりかな。



 ……疲れた。



リコ「……ねえ、今日っていつ終わるの? 今日だけで、もう12話使ってるんだよ? 12話だよ、12話」

ソフィア「安心しなさい。次回でついに終わるみたいよ」

リコ「あー、やっとかー。ホントこの物語、進行が遅すぎるよ」

ソフィア「……それはもうどうにもならないわね。我慢しましょう」


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