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41. イケメンだからできるのか、できるからイケメンなのか


 ソフィと私、お互いに涙を流したまま見つめ合う。


 静かな時間が流れる。

 数秒か、数分だったかもしれない。


 もはや私の頭は正常に機能していないみたいで、ただただそうしていることしかできなかった。



「まぁ、それはそれとして」



 静寂を破ったのはグレームの声だった。声の感じで顔をこっちに向けているのが分かる。


 思わず私とソフィが同時にグレームの方を見る。

 グレームはなぜか楽しそうにニヤニヤと笑っていた。


「悪い、これは真剣な話なんだが。さっきソフィアが言ったことで、少し疑問があって聞きたいんだ。——リコの登場でときめいたってのはどういうことだ?」


「「——は?」」


 ソフィと私の声が重なる。

 というか、グレームの表情はどう見ても真剣な話をするときのそれじゃないんだけど。


「いや、言っていただろう? リコの登場が格好よかったとか。私をときめかせたとか。それがどういう意味なのか、すまないが説明してくれないか?」


 え、そんなこと言ってた?


 と、ソフィに目を向けると、ソフィの顔全体がみるみる真っ赤に染っていくところだった。

 うわ、すごい。……って、この赤さ、大丈夫? 頭、茹で上がっちゃわない? ソフィはもともと色白だから余計に目立つだけかな。


「——あ、あれは! し、仕方ないでしょう!? 本当に死ぬことも覚悟したところだったんだから! そんなピンチに、あんな格好よく颯爽と現れたら誰だってキュンとしちゃうにきまって——はっ!?」


「ほほう。リコにキュンとしたのか。そうなのかソフィア。……ああ、なるほど? お前そんな美人なのに、恋人とかいないと思ったらそういうことか?」


「え」


 いや、私はそういうのは求めてない。

 馬車の中でほとんど動けないけど、少しでもソフィから離れようと座席の隅っこの方にさりげなくお尻を動かす。


 ……もちろんグレームが揶揄ってるだけなのは分かってるけどね。


「はぁああああ!? んなわけないでしょー!! ってちょっと! リコも!! どうして私から距離とってるのよ!? 違うから! 本当に違うからー!! というかグレーム! あんた前向いて操縦しなさいよ! 危ないでしょーが! もぉおおおお!!」


「ははは、そりゃそうだな。こわいこわい」


 グレームはやっと前に向き直った。

 そしていつの間にか馬車の中のしんみりした空気がどこかいってしまった。


 ソフィは女の子を起こさないようにしながらも器用に頬杖をついて、そっぽを向きながら「……ったく、グレームも、リコも、なんなのよ……」みたいなことをつぶやいている。

 というかこの子全然起きないな。あれだけソフィが騒いでたのに。


「リコ」


 私にだけ聞こえるようにグレームが呼びかけてくる。


「ソフィアはああ言ってくれたが、やっぱり今日一番きつかったのはソフィアに決まってる。一番年下なのに一番気丈に支えてくれたんだ。本当に強いと思う。だが、いくら強い奴だって、きついときに支えてくれる人は絶対に必要だ。ソフィアにとってはそれがリコなんだと俺は思う。どうか力になってやってくれ」


 私はしっかりと頷く。

 そんなこと言われても何をすればいいのかなんて全然分からないけど。

 でも不思議と、断るなんて選択肢は私の中になかった。


 ……そういえばなんでグレームはこんなにソフィのこと気にかけてるんだろ。

 あれ? も、もしかしてソフィのこと——


「しかしさっきのソフィアは面白かったな。くくくっ」


 あ、それはないみたいだね。

 笑い、押し殺しきれてないよ。性格悪いね。


「やり過ぎじゃないの?」


「ま、少しな。だが、本人もどうしたらいいのか分からないくらい感情を持て余してるときは、一度忘れさせてやるのも一つの手さ」


 たしかにソフィはもう泣いてはいない。ちょっと頬を膨らませてるけど。

 それでもいい変化だと思う。泣いているよりは私も安心する。


 いやー、それにしてもイケメンってすごいんだなぁ。

 ソフィの気持ちを正確に察してフォローをいれたばかりか、しんみりしすぎて物音すら立てちゃいけないような雰囲気を冗談で壊して、女の子の涙を止めちゃったよ。

 ソフィにとってはいい迷惑だったかもしれないけど。

 そしてダルとアントンはここまで空気。まぁ普通はそんなものだよ。グレームがおかしいんだよ。




「それで? いつになったらリコは私の質問に答えてくれるのかしら?」


 ソフィがすねたような顔で私のことを軽くにらんでくる。

 全然こわくないけど。むしろ可愛い。


「え、私が格好よかったって話?」


「……はぁ。リコまで。もうそれはいいわよ……」


「ごめんごめん。私がなんでここにいるかだよね。えっと——」


 私は昨日ギルドに行ってから今に至るまでの経緯をざっと説明する。

 ただ、ガンスとの決闘のこととかは省略して、たまたま私が依頼を受けたように話しておいた。


「……この辺りにドラゴンが、ね」


「マジかよ! 倒せれば一攫千金じゃねえか!」


 ダルが興奮している。

 やっぱり冒険者ならみんなこういう反応なんだね。


「ダル、落ち着け。俺たちだけでドラゴンが倒せるわけないだろう。それにリコの話だと、ギルドに認められたBランク以上の冒険者以外は討伐に向かうのは禁止されているんだろう?」


 と思ったら、グレームはそうでもないみたい。現実的だ。

 まぁ私も無理だと思う。


 ちなみに私が実際にドラゴンと戦ったことは話していない。

 あとでソフィにだけ話すつもりだ。


「うん。一部の冒険者がそれに反発したとき、マイデルさんめちゃくちゃ怒ってたよ」


「……マジかよ。……そうだな、ギルドの方針には従わないとだよな!」


 マイデルさんの名前を聞いて、ダルがすごくビビり始めた。

 マイデルさんってそんなに恐れられてるの?


「もしかしたらそのドラゴンのせいかもしれないですね。今日のドスホーンモウの群れは」


「それは……ないとは言えないわね」


 ちゃんと話は聞いてたらしいアントンの推測にソフィも同意する。


 聞けば、ドスホーンモウは単独で行動する魔物で、群れを作るところなんて誰も見たことがないらしい。それが今日はなぜか群れを成していた。それがドラゴンが現れたことによる異常ではないかということみたい。


 そしてもともとドスホーンモウは一対一で倒すには相当な実力がないと難しいが、こちらが複数で対応できるなら簡単に倒せるのでそんなに脅威とはされていない。

 それが全く想定されていなかった群れで襲ってきたことで、ソフィたちは窮地に陥ったということだ。今回はソフィたちの実力不足ではなく、運がなかったのかも。


「だが、そうだったとしても対処のしようがないな。ガザアラスに引き返すわけにもいかないしな」


「そうね……」


 ソフィが膝の女の子に目を落とす。

 この子の王都までの護衛依頼ってことは進む以外に道はないよね。


 グレームが話を続ける。


「今回のようなことがこの先ないように祈るか、いや、若しくは——。……リコ、恥を忍んで頼みがあるんだが」


「なに?」


「このまま俺たちと一緒に王都に向かってくれないか。俺たちの依頼は王都までのイリーネ様の護衛だ。だが情けないことに護衛どころか、俺たちも死にかけてしまった。それにリコが教えてくれたドラゴンの情報もある。王都まであと少しだが、この先も何があるか分からない。リコがいてくれれば心強いんだが」


「それは……」


 どうなんだろう?

 ソフィのことも心配だし、ついていくのもいいかもしれない。一人で走るのも飽き飽きだったし。

 でも私も一応仕事中の身だ。しかも期限付き。

 馬車って遅いよね。間に合うかな?


「いや、まだ聞いてなかったが、そもそもリコはどうやってここまで来たん——」


「——! ごめん、ちょっと待ってて!」


 グレームがしゃべっている途中だったけど。

 私は馬車から飛び降りて、進行方向に駆け抜ける。


 前方に魔力の反応が一つ。

 ここまで一人で街道を歩いている人はいなかった。

 となるとこれは——やっぱり。


 街道から少し逸れたところにドスホーンモウが一体いた。

 サクッと魔法で倒して『収納箱』にしまう。

 まぁ今回は群れじゃなかったから、このまま進んでもどうとでもなったと思う。


「ごめんごめん。で、なんの話だっけ?」


 馬車に戻って、自分の席に座りながらグレームに声をかける。


「……いや、なんだ? 今のは」


「うん? ああ、ちょうど進む先にドスホーンモウがいたから倒してきたんだけど」


「……ソフィア、なんだ? 今のは」


「……本人に聞きなさいよ」


 私が答えたのにソフィに同じこと聞いてるんだけど。なんで?

 ……って、ああ。そういえばどうやってここに来たのかって話だったね。

 まだ話してなかったよ。それで驚いてたんだね。


「さっきの話の続きだけど。私はここまで走ってきたんだよ。今見たと思うけど、私ちょっと足速いから」


「……いや、足が速いってレベルでは……。それになぜ馬車に乗っているのに、魔物がいるなんて……」


「グレーム。深く考えない方がいいわよ。どうせ理解できないわ。この子はこういう子だから」


 どういう子?


「……そうか。とにかくリコは走ってここまで来たんだな。いや、昨日ガザアラスを出たって言ってなかったか? ま、まぁそれも今はいい。リコ、君は自分で見なくても魔物の存在が分かるのか?」


 うーん、これはあんまり答えたくないんだけど。


 というのも、魔物の位置が分かるとは言えないんだよね。魔力の反応が分かるだけで、魔物と人間の区別ができない。だから、魔物かと思ったら人間だった、ってことにもなりかねない。

 そしてそこまで詳しく教えれば、納得してもらうことはできるかもしれないけど、人によっては人間の位置が分かるというのは監視されてるみたいでいい気分がしないと思う。

 できるものなら私も普段は人間の反応だけはオフにしておきたいくらいだよ。無理なんだけど。


 なので曖昧にごまかしておく。


「んー、なんとなく分かることがあるって程度だよ」


「ほう。それにしたってすごい能力だと思うぞ。それでどうするんだ? ガザアラスからここまで一日で来られるリコには申し訳ないんだが、やはり同行してもらえると助かるが」


「この馬車って、いつ王都に着くの?」


「そうだな……。早ければ明日の日没前。遅くともその次の日の昼までには着くな」


 それなら大丈夫かな。

 私の依頼の期限は三日後だ。遅くて明後日に着くなら余裕もある。

 マイデルさんも期限内なら十分って言ってたし。

 それに万が一のときには、途中で抜けて私だけ先行してもいい。


「分かった。一緒に行くよ」


「そうか、それはありがたい。よろしくな」


「うん」


「お、おいおいおいおい! やっとそっちの話は終わったか! それでさっきのはなんだ!? それに走ってきたってなんだよ!? つーかグレームもそれで納得するのかよ!?」


 いきなりダルが騒ぎ出す。

 ここまで口を出さないで我慢してたらしい。意外と空気が読めるのかも。


「うるさいわよ、ダル。イリーネが起きちゃうでしょ」


 いや、さっきソフィも叫んでたけどね。

 そして私が質問する番はまだ回ってこないらしい。


「そうですね。どうして魔物がいるなんて分かったのですか? 僕は前方も見ていたつもりでしたが、全く気がつけませんでした。すみません」


 アントンも話に加わってくる。

 気がつかないのは仕方ないよ。まだ視界に入ってないんだもん。謝ることじゃない。

 それにしても説明のしようがないことばかり聞かれて困るな。


「えと、悪いんだけど、走れるものは走れて、分かるものは分かるとしか言えないよ。説明になってなくてごめんね」


「そ、そうなのか……? それにしたって……」


 ダルはまだ納得いってなさそうだけど。


「ちょっと、なにリコのこといじめてるのよ。できるものはできる、それだけじゃない。あなただって、どうして呼吸ができるかなんて聞かれても困るでしょう?」


「そうだぞ、ダル。リコがかわいそうだろ」


 ソフィだけでなくグレームまで味方してくれた。

 というかソフィの例え、あまりにも極端すぎるよ。


「い、いじめてねえよ! ……いや、リコ悪かった。あんまり驚いたもんで動揺しちまったな」


「別に気にしてないよ」


 本当に気にしていない。

 ただうまく説明できなくて困るくらいだ。


「ありがとな。それに一緒に来てくれるなら俺も助かるぜ。改めてよろしくな」


「うん、よろしくね」


「おっと、ついでだから一つだけ聞いてもいいか?」


「答えられることなら」


「リコのその格好はなんだ? とても冒険者には見えねえんだがよ」


 ……。


「私の仕事着で超高性能の防具だよ」


「……そうか」


 いや、適当に言ってみたけど、案外いい答えかもしれない。

 私好みの動きやすくて軽いジャージみたいな服が売ってなかったから、しばらくは本当にこれが仕事着になるし、性能のいい防具って言っておけば私の防御力についても疑問を持たれないかもしれない。納得してくれるかはともかく。

 とりあえず今後もそう答えようかな。



 会話も一段落して、ここで沈黙が流れる。



 こ、これは!

 ついに私から質問できる雰囲気だ! やっとだよ!


 問わせてもらおうじゃないか。

 馬車に乗った瞬間からずっと気になっていたソレについて!


「それでソフィ。その女の子はいったい——」


「…んぅ……ん…ふぁあ……あ…あれ……?」


「……」


 私の質問を遮るようにして、当の女の子が目を覚ましあそばれた。



リコ「ねえ。ねえねえ、ソフィ——」

ソフィア「忘れて」

リコ「えぇ? なん——」

ソフィア「忘れなさい」

リコ「ちぇー」




 完全に忘れていたのですが、昨日で投稿し始めて1ヶ月でした!

 ここまで続けられているのも、読者様方のおかげです。

 非常にテンポの悪い物語ですが、引き続きのんびりとお付き合いいただければと思います。

 よろしくお願いします!


 話のキリがいいところまで、しばらくは毎日投稿予定です!

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