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4. 私は16歳だよ。これでも、16歳、なんだよ……

 

「うぅ……」


 クインレオが去った方を放心状態で見つめていると、小さくうめき声が聞こえてきて、はっと現実に引き戻された。


 慌てて声の方に目を向けると、ソフィアさんが膝をついて顔を歪ませている。

 その左腕からは血がダラダラと垂れていた。


 すぐに駆け寄って声をかける。


「ソフィアさん!」


「……だ、大丈夫。死にはしないわ」


「でも、こんな……!」

 

 腕はちぎれてはいないけれど、どう見ても重症だ。

 それに顔は真っ青で大量に汗をかいている。


 私をかばって傷ついてしまったんだ。私のせいだ。

 私がなんとかしないと。落ち着け。取り乱している場合じゃないよ。幸い傷の手当は慣れている。私がやらないと。

 でも道具が必要だ。


「まず血を止めないと。なにか治療できる道具はありますか? 私がやりますから。あと一応聞くけど、魔法で治したりはできないんですか?」


 ソフィアさんの袖をまくりあげながら、早口で尋ねる。

 うぅ、かなりひどい傷だ。見ているだけでもつらい。


「ほ、包帯があるわ……。ぐっ……悪いけれど、お願いしていいかしら」


「はい」


 包帯を受け取り、よく傷を確認し、傷が深そうな箇所から巻いていく。

 もし包帯がなかったら私のジャージで止血しないといけないところだったよ。

 あれ? どこから包帯出したんだろう。荷物を持ってるようには見えなかったけど。

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃないか。


 手早く包帯を巻き終えて、きつく止める。


「——できました。これでとりあえずは血は止まると思いますけど。あまり動かさないでくださいね」


「ありがとう。……あなたこんなに小さいのに的確な治療。すごいのね」


「身長は関係ないですけど」


「ふふっ、そうね」


「ちなみにソフィアさんの魔法では治せないんですか?」


 もう一度聞いてみる。


「私は治癒魔法なんか使えないわよ。治癒魔法を使える人なんて少ないでしょう? ま、たとえ使えたって治るのに何日かかるかしらね」


 いや、当然のことのように言われても知らないけど。

 でも治癒魔法自体はあるみたいだね。ただし、即座に治せるわけではないってことかな。

 自然治癒力を高めるとかなのかな。


 なんにしてもひとまず落ち着くことができた。

 思わずぺたんと座り込んでしまい、大きく息をつく。

 そういえばほんの十数分前には死にかけていたんだ。色々ありすぎて頭の整理が追いついていない。ソフィアさんに聞きたいことも山ほどあるし。

 ええと、まずはなにから話せばいいのか——あっ。まだ、助けてもらったお礼を言ってなかった。


「ソフィアさん。ありがとうございました」


「え? 何が? お礼を言うのは私の方でしょう?」


 は?

 何を言っているんだ、この人は。


「いや、クインレオ? から助けてもらって。しかもそのせいでこんな怪我までさせちゃったし。ごめんなさい。でも本当にありがとう」


「ああ。体が勝手に動いちゃっただけだから。気にしないで。こうして治療もしてもらったしね」


 微笑んで、あろうことか左腕をぶんぶん振ってみせる。


「あ、ちょっと——」


「——(いた)ーっ!」


「あー! だから! 動かさないでって言ったよね!?」


「うぅ……痛い……」


 バカだ、この人。

 でもそれ以上にいい人だ。お人好しとも言えるけど。

 見ず知らずの私なんかを、身を挺してかばっておきながら、気にしなくていいって。

 私だったら命を助けた見返りに一億円くらい請求しているところだ。


「もー! ほら、もう一回腕出して!」


「は、はい……」


 幸い包帯がずれたりはしていなかったけど。

 念のため、もう少しきつく巻きなおしておく。


「はい、終わり。……絶対! 動かしたらダメだからね」


「わ、わかってるわよ。ありがとうね」


 やれやれだよ。全く。

 というかよく考えたら、今ってそんな余裕があるような場面じゃなくない?


「それじゃあソフィアさん、これからなんですけど——」


「待って、その前に」


「? どうかしましたか?」


「それよ。なーんか違和感あると思ったら、あなた無理して丁寧に話そうとしているでしょ? 慣れてない、というかすごくしゃべりにくそうよ」


 鋭い。

 丁寧に話すのが苦手なのはその通りだよ。

 尊敬語とか謙譲語とかは頭の中で相当考えないと出てこないから、まぁそれを使っての会話は無理だね。

 です、ます、くらいは使えるけど。

 ただ、ぼっち故に会話すること自体が少なすぎたのも手伝ってか、普通に敬語でしゃべるのですらかなり意識しないと自然にはできない。


「私に対して敬語はいらないわ。さっきみたいにね。呼び方もソフィでいいわ」


 ああ。さっきはこの人バカだーって思ったはずみで、つい普通に話してしまったんだ。

 でもそう言ってくれるならお言葉に甘えよう。その方が楽だし。


「わかった。私もリコでいいよ」


「ふふ、改めてよろしくね、リコ」


「うん」


 私が立ち上がるとソフィアさん、改めソフィもそれにならう。


「もう立ち上がっても大丈夫なの?」


「ええ。それにいつまでもここに留まって、さっきのが戻ってきても嫌だしね」


 それは私も勘弁だよ。

 次こそ本当に死んでしまう。


「ソフィ、これからどうするの? 馬車なくなっちゃったけど」


「そうね……。街道沿いに歩いて、馬車が通ったら一緒に乗せてもらうしかないわね。ここから歩くとガザアラスまで三日はかかりそうだし」


「街道?」


「ええ。ガザアラスまで続いているの。そっちの方にちょっと行くとぶつかるわよ」


 ソフィが指さしたのは、私が来たのとは逆方向。

 なんと私は街道に向かって進めてたらしい。本当に運がよかった。


「だからリコが街道と反対側から一人で歩いてきたときは驚いたのよ。あっちってなにもないでしょう? 本当に何してたのよ?」


「んー。とりあえず歩きながら話そう?」


 私も聞きたいこといっぱいだし。

 まずはこのあとの動きを確認する方が大事だから、ここまで我慢してたけど。


 結局ここはどこ?

 魔法ってなに?

 さっきのクインレオって?


 歩きながらゆっくり聞かせてもらうよ。




 移動開始から数分で街道に合流できた。本当にすぐそこだ。

 ただ、道といってもアスファルトで整備されているわけもなく、土がむき出しになっている。 

 しかも結構幅が狭い。これじゃ馬車はすれ違うことはできなさそうだ。


 なんでもソフィたちは街道を少し逸れて馬車を止め、休憩をしていたらしい。

 休憩するには道を逸れる必要があるわけだ。


「ガザアラスはこっち方面ね。じゃあ運よく馬車が通りかかるまでは歩くわよ。この辺りはあんまり馬車が通らないから、ただ待ってるだけだと下手をすると一週間待つ、なんてことにもなりかねないわ」


「え!? つまり馬車が通らなかったら街までずっと歩き……?」


「もちろん。ま、遅くとも三日後には街に着くわよ」


 えーと。三日間歩きどおしで、その間飲まず食わず……? それに睡眠は?

 体力がある方とはいえ、さすがに私でももたないのでは。

 というかそんなことを考えたら急に喉が渇いてきた。

 ドタバタしすぎて忘れてたけど、ソフィに会う前から割と長時間歩いてたし。


「……ソフィは大丈夫なの? 三日間何も食べないで歩くって……」


「はぁ? 何言ってるの、そんなのできるわけないでしょう? 食料ならちゃんと用意してるわよ。携帯用のだから味はよくないけど」


「え? 何も持ってないじゃん」


「私、これでも『収納箱』使えるから。ほら」


 そう言って差し出した右手にはいつの間にか袋のようなものが握られている。


「お腹が空いてるなら、今食べてもいいわよ?」


「おぉ! すごい! なんかでてきた!?」


 なに、今の。これも魔法?

 あー、さっきの包帯もそこから出したのか。

 『収納箱』だっけ? 便利すぎない?


「えぇ……? そこまで珍しいものでもないでしょう? で、食べるの?」


 呆れたように再度聞いてくる。

 ソフィには私のリアクションがオーバーに感じられたみたい。

 でもソフィだって初めて見たときはこのくらい感動したはずだよ、絶対。


「ごめんごめん。それじゃ飲み物をもらってもいい?」


「はい、どうぞ。水よ」


 さっきの袋がなくなって、なにかの皮でできているような水筒がでてきた。

 私のイメージではカウボーイとかが持ってそうなやつだ。

 もちろん実物は見たことない。


「ありがと」


 受け取って、一気にあおる。

 うん、水だ。日本と水の味は変わらないらしい。ぬるいけど。

 でも喉が渇いているときの水は格別だよ。


「——ぷはっ。ごちそうさま」


 蓋をして水筒をソフィに返す。

 ソフィも少し口をつけてから、また水筒が一瞬で消える。

 魔法って便利だなぁ。


「さて、そろそろ動き始めましょうか。長く歩くことになるけど疲れたら言ってね?」


「大丈夫だよ。体を動かすのは慣れてるから。っていうか、ちょいちょい思ってたけど、ソフィは私のこと子供扱いしすぎじゃない?」


「だって子供じゃない」


「私16歳だけど」


「え!?」


 あ、すごく見たことある反応だ。

 私の年齢を知るとみんなこの反応をする。思っても態度に出すのは失礼だよ。

 

 ちょっとジト目で見つめてみる。


 じー。


「……」


 じー。


「…………」


 じー。


「……コ、コホン。そう、16歳なのね。でも私は18歳だから私より子供でしょう?」


「……何歳だと思ってた?」


「そ、それは……えー……」


 私からはっきりと目を逸らして口ごもる。


「……あ! 急がないと街への到着が遅れちゃうわね。ほら、出発するわよ」


 そんなことを言ってスタスタと歩き出してしまった。


 本当は外見のことをなんて言われようと気にしないけど、ソフィの反応が面白かったからからかってしまった。

 でも身長はもう少し伸びてほしいとは思っている。さすがに低すぎると不便もあるんだよ。

 

「はーい」


 のんびり返事をしながら、先に行くソフィを追いかけることになるのだった。


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