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34. その急に真剣になるの、やめて?


 私とマイデルさん以外、誰もいなくなった闘技場。


「よーし、それじゃー、リコ、行くよー」

 

 私はギルドマスターの部屋へと連行されていくのだった。




 ……またここに来ちゃったか。

 ついこの間、もう来たくないと思ったばっかりなのに。


「ほらー、入って入ってー。そこに座りなー」


 前と同じソファに座る。

 今回はマイデルさんも向かいのソファに座った。前はデスクに座ってたままだったんだけど。


 というか今更だけど、なんでここに呼ばれたんだろう。


「えと、なにか——」


「リコ、ごめんなさい」


「!?」


 いきなり深く頭を下げて謝られた。


 え、なになに、どうしたの!?

 しかも口調がこわい方だよ!?


「今回はリコの力を完全に利用してしまったね。本来ならあのくらいのいざこざ、あたしたちだけで解決しなきゃいけなかったのに」


「え、ええと。今回は私が戦わなきゃ、どうしようもなかったんでしょ? 誰も死なないようにするためには仕方なかったんじゃない? ギルドマスターとして当然の判断だと思うけど」


 そういう話で、私が戦ったと思ってたんだけど。


 マイデルさんは頭は上げたけど、表情は真剣そのものだ。

 いつものけだるさとかゆるさが一切ない。


「いや、方法がないわけじゃなかった。それこそ、あたし自身が暴力で抑えつける方法だったり、従わないとギルドから除名すると脅したりね。もちろんどちらの方法も今後のギルド運営には著しく支障が出ることになる。だけど、だからといってリコ自身の希望を蔑ろにしていいわけではないからね」


「でも、一応私が自分で戦うって言ったから……」


「ありがとう。リコは優しいね。だけど、あれが強制じゃなかったなんて言うほど、あたしは厚かましくはないよ。あたしは自分の理想のために君のことを犠牲にしたんだ」


 犠牲って……。私が死んだみたいに言わないでほしいよ。

 というか、いい加減もとに戻ってほしい。違和感が強すぎて落ち着かない。


「もう終わったことだしいいって。それに、悪いと思いながらも自分の理想のために今回私にお願いしてきたってことは、また同じようなことがあったらその時も同じように行動するんでしょ? だったらこの謝罪になんの意味があるの?」


「……あらー、案外鋭いねー。もちろん意味はあるよー。誠意を見せておいてー、君の好感度を稼ごうかなーって。つまりー、次回もよろしくねー」


 にっこりと笑いかけてくる。

 しゃべり方も戻った。

 でも——


「……はぁ。結局、全然悪いと思ってないでしょ」


「いやいやー、そんなことはないよー!? もともとあたしは部下に強制したりー、操ったりーっていうのが嫌いなんだよー。状況によってはー、今回みたいにやっちゃうこともあるけどー、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになるんだよー。次回もやらない保証ができないのがー、辛いところなんだけどー」


 言ってることは本音みたいだけど。

 話し方と普段の言動も相まってすごく胡散臭い。


 でも、今回私を利用したのは本当に特別なことみたいだね。

 通常の状況であれば、強制したりなんか絶対しないってソフィも言ってたし。

 ここまで見てきた感じ、それはその通りみたいだ。


「もうそういうことでいいよ。あと、貸し一つって言ってたのは忘れてないからね」


「そりゃーもちろんだよー。困ったことがあったらなんでも言ってねー。ギルドマスター様が解決しちゃうよー。それでー、話は変わるんだけどー、リコ、君強すぎじゃないー? ある程度は分かってたつもりだったけどー、これは完全に想定外だよー?」


「……私の方も、ギルドマスターがこんなに腹黒だったのは想定外なんだけど」


「あっはっはー、それは最初から分かってたでしょー? それとあたしのことはマイデルでいいよー。いや、そんなことよりもー、ガンスの剣を避けてたのもすごかったけどー、最後のはなにー? 素手で剣を受けてたよねー? なんで手が切れてないのー?」


 魔力がどうのって言っても信じてもらえないだろうし、説明がめんどくさい。


「……剣が錆びてたんじゃない? それか使い手の技量不足とか」


「ふーん。まー、いーけどー。というかー、そんなこと言ったらガンスが泣いちゃうよー? いや、もうほぼ泣いてたけどー。たしかにー、ボコボコにしていいとは言ったけどー、まさか精神的にボコボコにするとは思わなかったよー。ガンス、立ち直れるかなー」


「いや、そんなつもりはなかったんだけど。……あの、本当に失礼な質問になると思うんだけど、この際だから聞きたいんだけど、ガンスって最初からずっと全力だったってことだよね? ガンスって、あの冒険者の中で一番強いって本当?」


 正直私からしたら、レオとかコボルトとかの下級と言われている魔物と大差なかったんだけど。


 私の質問が予想外だったのか、マイデルさんは目を丸くすると、一呼吸おいてから答える。


「……へぇ……。リコ、君はどこまで……。コホン。うんー、そうだねー、ガンスは最初の一振りから本気だったねー。だからあたしもー、相手がリコだって一瞬忘れてー、止めかけちゃったしねー」


 ああ。そういえば最初のときマイデルさんが叫んでたな。

 ともあれ、やっぱり本気だったんだ。


「そしてー、ガンスは確かにあの中ではー、一番強いかもー。同格くらいならー、何人かいるけどー。ガンスより明らかに強いって人はいないねー。え、というかー、じゃー、本気じゃないと思ったからー、途中であんなこと言ったのー? あれ、素だったんだー?」


「あー……うん、まあ」


 全力で向かってきてる相手に対して、1ミリも全力を出してないよね、とか言うのは完全に挑発してると思われるよね。

 あれは本当に申し訳なかったと思ってる。


「うわー、本当にガンス不憫だねー。あたしがこんな怪物みたいなのと戦わせちゃったんだけどさー」


「怪物って。失礼なんだけど」


「まー、それはおいといてー、リコ、君を力で従わせようとするのだけはー、得策じゃないってのは分かったよー。でもー、今回はホントーに助かったよー。君のおかげでー、うちの冒険者がー、誰も無駄死にしなくて済みそうだよー」


「それならよかったよ。今後は勘弁してほしいけどね」


 本当に二度とやりたくないよ、こんなのは。


リコ「マイデルさんって、悪い人じゃないと思うんだけど、全面的には信用できないよね」

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