29. 魔法のことくらいは勉強しないと……
ふあぁー、もう朝か。
今は日の出から少し経ったくらい、だいたい6時前ってところだね。
朝ご飯は6時からだ。ちょうどいい時間だよ。
最近は寝るのが早いから、自動的に起きるのも早くなった。
顔を洗って、食堂に行く——前に、洗濯場に寄ってみる。
こんなに朝早くから洗濯場には人の反応がある。
「タニア、おはよう」
「リコさん! おはようございますっ。えと、今日もやっていただけるんでしょうか?」
タニアは遠慮がちに聞いてくる。
「うん、ついでだからね」
数日前、夜に洗濯することができずに寝落ちしてしまった翌朝、私は朝食前に洗濯場に向かった。
するとそこには今日と同じようにタニアがいて、洗濯の真っ最中だった。
聞けば、親御さんが朝食の準備をしている間に洗濯をするのがタニアの仕事だそうだ。
タニアは私の分も洗濯すると言ってくれたけど、既にすごい量だったので丁重に断り、私も場所を借りて自分の分の洗濯をさせてもらった。
そして私が自分の洗濯物を瞬間乾燥しようとしたころ、タニアも大量の洗濯物をまさにこれから干そうと踏み台を用意しているところだった。
そこで、もののついでだとタニアの洗濯物も一気に乾かしてあげて以来、朝食前にここに来ることが私の日課になっている。
今日もタニアの洗濯物はかなり多いけど、ちょうど洗い終わったところだったみたいだね。
すぐに乾燥魔法を使ってあげる。
ほい、もう乾いた。
「すごいです、リコさん! いつもありがとうございます! でも本当にお客様にこんなことをさせてしまっていいんでしょうか……」
「大したことじゃないし、食堂に向かうついでだから。それに今日はたまたま早く起きただけだから、明日は多分来れないよ」
本当に大したことじゃない。
それに毎日来る約束もできないからただの自己満足だ。逆に迷惑かもしれない。
「ふふっ、リコさん昨日と全く同じこと言ってますよ。お洗濯物を干すのはたしかにちょっと大変ですけど、私は慣れてますから大丈夫です! 明日こそはゆっくり寝ててくださいねっ」
タニアこそ、昨日も同じようなこと言ってた気がする。
でもこの様子なら、タニアは私に頼ってサボるようになったりは絶対しないと思う。本当に頑張り屋さんのいい子だ。ちょっとでも手伝ってあげたくなる。
よし、明日も早起きするぞ。
私が冒険者登録をした日から数日が過ぎた。
その間に受けた依頼は二つ。
コボルトの群れの討伐とゴブリンの群れの調査でどちらもEランクの依頼だ。Dランクの依頼はよさそうなのがなかったんだよね。
両方とも何事もなくサクッとその日のうちに終わらせた。
ただ、ゴブリンの群れについては調査が依頼内容だったんだけど、それを忘れていて全滅させちゃったらアネットさんに呆れられた。本当は群れの数や、上位種の有無などを調べて報告すればよかったらしい。でも結局は討伐することになるので、全滅させても怒られることはなかったよ。
ちなみに、ゴブリンの群れの討伐だとDランク相当になるとか。レオやコボルトより強力な魔物の扱いらしい。でも、正直強さの違いが分からなかったよ。
コボルトが人型で犬の顔をした魔物で、ゴブリンが人型で緑色の小鬼っぽいのだった。
元の世界のファンタジー知識とほぼ一致する見た目だったね。
どちらの魔物も実物は見たことがない魔物だったけど、挿絵つきの魔物の図鑑が冒険者ギルドに用意されているとのことだったので、しっかり予習してから倒しにでかけた。
その魔物図鑑は他にも様々な魔物が載っていたので、今後も役に立つことがあると思って一応全部目を通しておいた。詳細は書いてなかったけど、やっぱりドラゴンとかもいるらしい。
この世界で生きていくだけなら、お金の心配はなくなった。
Eランクの依頼の報酬ですら結構な額になるんだよ。
冒険者は基本的にパーティで依頼を受けて報酬は山分けにするけど、私の場合は一人で片付くのでまるまる自分の取り分になる。
宿で普通に暮らしていくだけなら、一週間に一回依頼を受けるくらいで十分かも。
ちなみに、最初私は毎日依頼を受けようとしたんだけど、それはソフィに止められた。
日本で育った私としては、たまの休み以外は毎日働く大人を見ていたから、それが当たり前だと思ってたんだけど。
冒険者は命がけの仕事。しかも日を跨ぐような依頼も少なくない。
無事依頼を達成したあとは、少なくとも数日は疲れを癒したり、次の仕事に向けて英気を養ったりするらしい。決して無茶しない、それが冒険者として長生きするコツなんだとか。
まぁ私の場合は毎日依頼受けるどころか、一日に数件受けても余裕な気はする。
でもそこまでする理由もないし、またギルマスに呼び出しをくらっても嫌なので、ある程度一般基準に合わせることにした。
で、私がここ数日、依頼以外でなにをしていたかというと、主に魔法のことについて勉強したり、実験したりしていた。
勉強って言っても、魔法についての本を少し読んだのと、あとはソフィの話を聞いていただけだけど。
魔法があることこそが、元の世界と一番異なる点だと思う。
この世界の魔法を使うとは、魔力を使用して自然現象を意図的に引き起こすことをいう。
その自然現象として代表的なものが、風・土・火・水・光の五つで魔法の五大属性と言われている。
魔法に覚醒した人は一応全ての属性が使えるけど、最初は、風ならそよ風が、水ならポタポタと水滴が出せる程度で、現実的に使えると呼べるようになるにはどの属性も修練が必要だ。
ただ、人それぞれ得意不得意な属性があり、得意な属性一つをひたすら修練するのが一般的らしい。また不得意な属性はいくら修練しても、ものにならないことも多いとか。
だから複数の属性をまともに使える魔法使いは珍しい。その点、ソフィは得意な属性は風だが、なんと全部の属性を一定のレベルまで使えるらしい。理由は聞いたけど適当にはぐらかされてしまった。けど、なんか答えにくそうにしていたから、それ以上は追求してない。
ちなみに私も全部使えた。魔力をそれぞれの属性に変換するイメージをしたら普通にできた。特に得意不得意もないみたい。でも、普通の魔法使いは呪文を唱えて魔法を使うみたいだし、私は魔法の使い方がみんなと違うのかも。私は呪文言わないよ。恥ずかしいし。イメージするだけで使えるからいいんだよ。
あと、この五大属性に当てはまらない魔法や、属性を組み合わせて使う複合魔法とかもあるとか。
でもそういう特殊なのは詳しくは知られていないらしい。
また、そもそも魔法を使うための魔力についてだけど。
魔力は、魔法を使うときに消費する魔法使い自身のエネルギー的なもの、というのが一般的な考えなんだそうだ。
そして、自分以外の魔力を感じ取ることはできないとも言われている。
ただ、なぜか私には他の魔力が感じられる。それどころか魔力の密度が高くなると目に見える。
その理由は分からないけど、魔力が感じられることによって、魔力は魔法を行使する以外にも使い方あることがわかった。
まず、なぜか私の体の周りは大量の魔力で常に覆われていて、それによって運動能力と体の頑丈さがありえないくらい上昇している。キングレオに噛みつかれても牙が通らないくらいだ。
ちなみに体の頑丈さと言ったけど、着ている服とかも傷ついたりしない。じゃあ、魔力が邪魔して全く私に接触できないのかと言えばそんなこともない。私はソフィの髪を乾かすときにソフィに触るし、ソフィはよく私の頭をなでたりしている。
どういう基準なのかよく分からないけど、とりあえず攻撃っぽいものは通さないみたいなので、都合がよかったと思うことにしておいた。
また、魔力は属性に変換しなくても、実は物理的に作用することができる。無属性魔法とでも言えばいいのかな。ただこれは実用的じゃないみたいだ。魔力だけだと具体的にどう作用させるかイメージがしにくくて、せいぜい集めた魔力をそのまま撃ち出すくらいしかできない。これなら普通に属性魔法として使った方が使いやすいし大きな力になる。
と、魔法・魔力について自分なりに考察してみたら、ちょっとだけ分かってきたような気になってきた。
この知識が役に立つのかは知らないけど。
最後に、一番気になっていた『収納箱』について。
結論から言うと、私の『収納箱』の中は時間が経過しなくて、容量はおそらく無限に近いと思う。
できたての料理を丸一日入れた後に取り出してもそのままだったし、容量を確かめるために大量に岩とか入れてみたけどいっぱいになる気配は全然なかった。
正直、この魔法だけでもあればこの世界での生活は困らないと思う。
私は時間が経過しないと分かった瞬間に屋台で色々な食べ物を買い込んだ。これであの日みたいにご飯抜きなんて悲しいことは起こらないはず。
そして、結局キングレオはまだ私の『収納箱』に眠っている。今後も長い付き合いになりそうだ。ジョシュアさんのときみたいなことが起こらないように気をつけなくちゃね。
それと、一応試してみたけど生きているものは収納することができなかった。でも、もしできてたら更に便利に使えるかもしれないけど、更に恐ろしい使い方も手軽にできそうなので、むしろできなくてよかったのかもしれない。
ちなみにソフィに確認したけど、やっぱりソフィが使っているのも含めて普通の『収納箱』は時間経過するそうだ。
今のところ私の『収納箱』の特殊性について知っているのはソフィだけだけど、これは無理には隠さないことにした。というか容量については既に冒険者ギルドと職人ギルドにほぼバレてるし、時間停止についてもこれから素材の納入とかしていくならいずれ知られると思う。まぁわざわざ自分からは話さないってとこかな。




