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3. ええ!? いきなり命の危機!?

※5/1誤字修正

 

 こんなよくわからない場所に来たけど、最初に出会ったのがソフィアさんみたいな優しそうな人だったのはとんでもなく運がいいと思う。

 神様には感謝しないとね。

 あとは馬車に乗せてもらって街まで行けばどうとでもなるよ。きっと。



 ——ヒヒーン!!!



 突然馬車に繋がれている馬がいなないた。

 ……まるで私の甘い考えをとがめるようなタイミングなんだけど、気のせいだよね?


「な、なんだぁ!? どうどう!」


 御者台の男の叫びも聞こえた。

 多分さっき降りてきた剣士の人。なんか慌てたような声だけど。


 ……馬車が動き出した。


「ちょっと!? なんで動かしてるのよ!」


「違う! 馬の、制御、が、き、きかねぇ!」


 ソフィアさんが叫んでも、男はそれどころではない様子だ。

 馬は狂ったようにいななき続けている。


 そしてそのまま私たちを乗せることなく速度を上げていく。

 ……もう走っても追いつけそうにない。



 え?



「嘘でしょう?」


 ソフィアさんが呆然と馬車を見送る。



 ええ?



 その数秒後、後方からザッザッと音が聞こえる。

 これは足音?


 振り向くと、大きな四足の獣。

 こっちに向かってゆっくり歩いてきてる?



 えええ?



「ク、クインレオ……」


 ソフィアさんがつぶやき、顔を青ざめさせる。


 クインレオ? レオ、つまりライオン?

 見た目は確かにライオンっぽい。たてがみが無いからメスかな。

 それにしても、かなり大きいけど。

 私くらいは丸飲みにできそうだ。

 確実に肉食だよね。


 そしてソフィアさんの表情が物語っている。

 この獣、絶対に友好的じゃない。

 さっき神様に感謝するって言ったけど、前言撤回していい? 神様ふざけんな。


 いきなりの命の危機に、半ば呆然としていると、そいつは私のことを見て動きを止めた。

 ——と、思ったのもつかの間、次の瞬間、一気に駆け出してきた。


 私は何も反応できなかった。

 避けようとすることすらできなかった。

 

 でもここには私以外に動いていた人がいた。

 

 ソフィアさんは杖を高く掲げ——


「風、来りて、我らを守れ! 『風の結界』!」


 は?


 ソフィアさんが叫んだ直後、私たちを囲むように風が竜巻のように吹き荒れる。


 は??


 獣は竜巻の手前で急停止し、少し後退した。

 こちらの視界もかなり遮られているけど、なんとか獣の動向が見える。


「……リコさん、狩りとかしたことある? 魔法は使えるかしら?」


 獣から目を離さないままソフィアさんが早口で聞いてくる。

 獣も一旦、私たちの動きを探るような態勢になったみたいだ。


 ……

 ……

 ……


 ……えーと? つまり? こういうこと?

 この辺りでは魔法が一般的に普及している感じ?

 日本でいうところのスマホみたいに? 中学生以上だとみんな持ってるの? 一人一台なの?

 ソフィアさんは格好はただのコスプレじゃなかった?

 んー??


「リコさん?」


 ソフィアさんがちらりと振り向き、怪訝な顔で聞いてくる。


 っと、思考がショートしてしまっていたよ。この一瞬で情報量が多すぎるよ。

 まず目の前のこの光景を見る限り、ここでは魔法っていうのは本当にあるものなんだろう。ソフィアさんはそれを使って私を助けてくれた。

 魔法なんて普段なら信じるはずもないけど、こうやって実際に見せられたら受け入れるしかない。

 そしてもちろん私が魔法を使えるわけもない。

 それに私は人間の相手なら散々してきたけど、大型の獣と戦う(すべ)はない。

 つまり——


「……なにもできないです。ごめんなさい」


「いいのよ。一応確認しただけだから」


「退治できるんですか?」


「……」


 ソフィアさんは杖を掲げたまま、汗を垂らしながら苦しそうな表情をしている。


 私も力になれればいいんだけど、今まで稽古してきた格闘技なんか役に立たないと思う。

 なにせ魔法が使えるソフィアさんでも苦戦しているくらいなんだから。

 でも悔しい。理不尽な死に抗うために鍛えてきたのに、なんの役にも立たないなんて。

 さすがにこんな巨大な獣に襲われる想定はしてなかったから、仕方ないといえば仕方ないけど。


「……リコさん。正直、私一人でクインレオは倒せないと思う。首を切り落とせばいいんだけど、私の『風の刃』じゃ通らないから。でも、一か八かの勝負はできるわ。クインレオの弱点は顎と言われているの。顎を強打すると怯んだり逃げだしたりするって聞いたことがあるわ。ただ……」


「ただ?」


「ええ、顎を狙うと暴れだして、余計に手強くなる個体もいるって。だから普段パーティでクインレオを狩るときは顎は狙わないのよ、逃げられても困るしね」


「でも今はそれしか方法がないんですよね?」


「そうね。だから申し訳ないけど、リコさんの命も一緒に賭けのテーブルに乗せることになるわ」


「気にしなくていいですよ。もともとソフィアさんがいなかったら私もう死んでますし。だからもし失敗しても気にしないでください」


「ごめんなさい……」


 ソフィアさんは悲しげに顔を歪ませる。


 本当に気にしなくていいのに。

 私だって死にたくはないけど、死ぬときは死ぬんだって身をもって知っている。

 いくら祈ったって、いくら努力したってどうしようもないこともある。


 それに私が死んでも誰も悲しむ人はいない。

 しかもここで死んだら、多分あのクインレオが私のことを食べるんでしょ?

 死体の処理で他人に迷惑をかけることもないよ。


 私はわざと少し明るい声をだしてみる。


「それで、どうするんですか?」


 その言葉にソフィアさんはさっと顔を引き締めた。


「大きな魔法は二つ以上同時には使えないわ。だから、攻撃魔法を使うために一度『風の結界』を解除する。解除してから、攻撃魔法の詠唱を完成させるまでが勝負ね」


「私はどうすればいいですか?」


「ふふ、私の後ろで、心の中で応援してくれればいいわよ。可愛い女の子の応援は何よりも力になるわ。あと危ないから結界を解いたら少し離れててね」


 はぁ? 可愛い女の子? どこ?

 ああ、お世辞にもならないジョークで場を和ませようってことか。

 とりあえず私はやっぱり役立たずみたいだ。


「わかりました」


「それじゃ、いくわよ! 風よ、弾けろ!」


 ソフィアさんが杖を振り下ろす。

 すると、今まで私たちを覆っていた竜巻が暴風を伴って周囲に拡散した。


 今まで竜巻を突破できず、つかず離れずで私たちのことを伺っていたクインレオは、驚いたように吠えると、風に押されて後ろへ大きく弾かれる。

 すかさずソフィアさんがまた杖を掲げ詠唱を始めた。

 私は言われた通り少し距離をとる。


「風、来りて、敵を撃て——」


 でもクインレオもすぐに体勢を立て直し、こちらへ駆けてくる。

 速い。けど、ソフィアさんの魔法の方が早そう。


「『風の弾丸』!」


 そして杖を振り下ろした瞬間。

 クインレオの巨体が真横に大きく飛ばされた。


 やった!


 私は、ソフィアさんへ視線を戻す——


「——外した!」



 え。



 ソフィアさんが私を振り返る———


「——逃げてっ!」

 


 思わずクインレオがふき飛ばされた方に目を向ける。

 クインレオは——大きく咆哮しながら、真っ直ぐ私めがけて突っ込んできていた。



 あ。

 死んだな。



 かなりのスピードのはずなのにクインレオの動きがゆっくりに見える。

 噂に聞く走馬灯とかと同じ原理なんだろうか。


 それでも身動き一つできず、視線を逸らすこともできない。

 だいたい動けたとしても、こんな身を隠すものもない平原で逃げるっていうのは無理な話だ。


 痛いのは嫌だなぁ。

 でも絶対痛いよね……。はぁ。


 ぼんやりした頭にそんなどうしようもない思考がよぎった時。



「——リコさん!」



 ソフィアさんが私の方へ走っているのが視界に入る。


 え!? なんで!?


 こっちに来ちゃダメ!

 そう叫ぼうとしたけど、私の喉は音を発してはくれなかった。


「か、風、来りて——」


 ソフィアさんは走りながら呪文を唱え始める。

 その顔は苦痛に歪んでいる。


 クインレオは大口を開けて向かってくる。


 その光景がスロー再生でもしているように私の目に映る。

 このままだとソフィアさんとクインレオが同時に私のところにたどりつく。



「——敵を、撃て——」



 ソフィアさんが私の前に割り込んだ瞬間。

 獣と魔法使いが交差する———



 ガッッ!!



 ソフィアさんは左腕を自ら差し出し、大きな口でそれに喰らいついたほんの一瞬だけクインレオは動きを止めた。



「——ッッッッッ! ——『風の弾丸』!!!」



 ソフィアさんは歯を食いしばるような音を漏らしながらも杖をクインレオに突きつけて呪文を言い切った。

 


 ドッ!



 鈍い衝撃音がして、クインレオの巨体が後方数メートルも弾き飛ばされる。


 くるくると宙を舞い——スタッときれいに着地した。


 うそ!?

 効いてないの?

 ソフィアさんは腕に怪我を負ったし、もうこっちに対抗手段はないよ?


 しかし焦る私をよそに、クインレオはこちらを睨んで低く唸ったかと思うと、くるりと反転して走り去っていってくれた。


 助かった……の?


 私はただただそのうしろ姿を見送ることしかできなかった。


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