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<幕間> リコの独白


 投稿時間が遅くなりました。危なかったです。


 話を分けたくなくて、少し長めになってしまいました……。



 ——みんなは前世の記憶って持ってる?


 胡散臭いテレビ番組とかでよくあるよね。胡散臭い占い師が「あなたの前世は……」とか胡散臭いこと言ってるの。

 その占いが当たっているかはともかく、そんなことを占う商売が成り立つくらいだから前世のことを知らない、知りたいって人は一定数いるのかな。


 ちなみに私は前世も人間だったよ。

 ごく一般的な家庭に生まれて、それなりに幸せで平凡な暮らしだった。あんまり細かいところまでは覚えてないんだけどね。


 え、お前も占ってもらったのかって?


 いやいや、こんなつまらない占い結果はないでしょう?

 私の偏見かもだけど、ああいうのはエンタメなんだからもっと劇的な内容じゃないと。


 別に占ってもらったわけでも、超能力で前世を覗いたわけでもないよ。


 私は生まれた瞬間から、生まれる前に何をしていたのか覚えてたの。

 前世の記憶を持って生まれたってこと。


 え? ズルい? 羨ましい?


 あー、ええと、もしかして『~前世の記憶と知識を駆使してスタートダッシュ! 今世は無双します!~』みたいなサブタイトルでも考えたんじゃない?

 転生ってよく物語で使われる設定だしね。


 ……本当に羨ましいとか思うんだ?


 ははは。


 乾いた笑いもでるよ。

 今の私を見てもらえれば、実際にそんなことになってないのは一目瞭然。

 そもそも前世の私、高校生で死んだからそこまで高度な知識持ってないし。

 時系列も前世で死んでから転生するまでほとんど期間空いてなかったから、現代人が知らないチート技術とかもなかったし。


 え、それでも生まれた瞬間に高校生並みの頭脳を持っているのはズルいって?

 子どものうちは苦労しないって?


 ……そうだねー。

 本当にそうならよかったんだけどね。


 じゃあ話してあげようか。前世の記憶を持って産まれた赤ん坊のやらかし劇を。




 いやー、生まれた直後は大変だったよ。

 なにせ私の時間軸では、刺された直後なんだもん。


 あ、私、殺されたんだよね。

 多分、通り魔に。簡単に、ぐさりと。享年16歳ね。……お? そういえばいつの間にか前世の年齢に追いついてたんだね。

 っと、それはともかく、恐らく私の事件は世間的にはニュースでも取り上げられないような、ちっちゃい事件だったんだろうな。

 ただ、私本人からすれば、文字通り一生に一度の大事件だったよ。


 それで自分がどうなってるか現状も分からないまま、恐怖と混乱でひたすら泣き叫んでたよね。

 まぁ泣くのは赤ちゃんとしては正解だったかもしれないけど。親からしたら、元気な産声をあげていると思ったかもね。


 やがて涙も声も枯れ果てて、少しだけ落ち着いてきたんだけど、そこでようやくなにかがおかしいことに気がつき始めたよ。

 身体の感覚がおかしい、目が開かない、それに自分の泣き声もおかしかったし。

 目が開かなくて見えはしないものの、周りの音と肌で感じる感覚で次第に状況が飲み込めてきたよ。

 ……いや、飲み込めたって言っていいのかな。

 だってそれが現実だって気がついた瞬間に意識失っちゃったし。


 ——そう、私の身体は生まれたばかりの赤ちゃんになっていたんだよ。




 何日かが経過して、ようやく現実を受け入れられるくらいの精神状態になってきたかな。

 意味が分からないけど、私は通り魔に殺された直後に赤ちゃんとして産まれた。あり得ないけど、これが現実なんだってね。

 事実は小説よりも奇なり、なんて言葉も真っ青になるんじゃない? この体験を聞いたら。

 とにかく、こうなってしまったものはどうしようもないから、ありのままを受け入れることから始めることにしたんだ。


 赤ちゃんの身体はつらかったな。

 意識は高校生レベルなのに赤ちゃんの身体って、めちゃくちゃ退屈なんだよね。

 なにもできないんだもん。見えない、動けない、話せない、だよ?

 そんな中、唯一できることが、思考することだけだったよ。


 そこで私は、ちょっとは有意義なことを考えようと思ってね。

 具体的には、生まれ変わってしまったこの新しい人生、どうやって生きていくかってことを。

 ……本当に、それくらいしかやることなかったんだよ。


 何はともあれ、まず一番の目標となったのが——強くなること、だった。

 道端で不意に襲われても殺されない、できたら返り討ちにできるくらいの強さを手に入れたいって思ったんだ。


 意外かもしれないけど、生まれ変わってある程度の時間が経って落ち着いてからあの殺された瞬間を思い返すと、そのとき湧いてくる一番大きな感情は『後悔』だったんだよ。

 もちろん最初は恐怖一色だったんだけど。

 もう少しなにかできることがあったんじゃないか、少しでも抵抗していれば違う結果になってたかもしれないって、だんだんと思うようになってきてね。

 それに、私ってただここで殺されるために生きてきたの? なんて思ったら、とにかく悔しかったし、二度とあんなことになりたくないって思ったんだ。


 そのために、強くなる。

 格闘技でも武道でもなんでもいいけど、自分を鍛えるのだけは絶対忘れないってね。


 で、その他の目標はっていうと……特に思いつかなかったよ。


 そもそも前世は高校生までしか生きていないから。人生のなんたるかが分かるわけでもないし、そんなに知識も豊富なわけではないからね。

 普通の高校生までしか人生経験がないんじゃ、そんなものだよ、多分。


 あ、いて言うなら、友達を作りたいとは思ってたかな。

 前世では私は所謂オタクだったから、家で一人で趣味を楽しむことが多かったんだよね。だから、友達は少なかった……いえ、すみません。いませんでした。

 でも今世は強くなるために体を動かすことが多くなると思うし、体育会系?なら友達もいっぱいできる……とか思ってたなぁ。この時期は。

 まぁそれどころじゃなくなって、結局一人もできなかったんだけど。悲しいね。



 と、そんなことを考えながら月日は過ぎて、転生してから数か月が経ったよ。



 この頃になると、目はとっくに見えるようになってて、だんだんと体も動くようになってきたよ。

 細かい動きは無理だけど、ハイハイで移動することも可能。

 さすがに、強くなるために鍛えるとかの段階ではないけどね。


 この頃の私は、日々のあまりのつまらなさから、とりあえず早くしゃべれるようになりたいと思っててね。自分なりに話す訓練をしていたんだ。

 声はでるんだけど、なぜか意味の分かるはっきりとした言葉として音になってくれないんだよ。

 こっちは必死で話しかけてるってのに、微笑ましいものを見るような目を向けられるのは悔しかったな。


 でも、自分でしゃべれなくても、他の人たちの話はちゃんと私にも理解できてたからね。

 おかげで今世での私をとりまく環境については、かなり分かってきてたよ。


 今世の私の名前は九條くじょう璃子りこ、この家の長女だった。

 両親は初めての子の誕生に、それはもう喜んだらしいよ。


 そしてこの九條家、ただの平凡な家系ではなかった。

 なんと有名な旧家で、東京のど真ん中に誰もが知っているようなお屋敷があって、土地も金も人脈も唸るほど持っているらしいんだよ。


 え、じゃあもしかして私、お嬢様!?

 と思いきや、それは全く違ったんだけど。


 というのも、うちは九條家の分家だったんだよ。

 件のお屋敷はもちろん、土地も金も人脈も、全部本家の所有だったからね。


 我が家も東京都心に居を構えていたけど、なんの変哲もないマンションの一室だったよ。

 貧乏ではなかったけど、そこの娘をお嬢様と呼ぶのはちょっと無理があるかな。


 だけど、本家のような豪華絢爛な生活ではなくても、会社勤めの父さんも専業主婦の母さんも幸せそうに過ごしているように見えたよ。


 ……私がしゃべれるようになるまでは、ね。



 後の人生でその時のことは何回も思い出すことになるんだ。

 そしてそのたびに、どうしてもっと考えて行動できなかったのかって後悔が押し寄せるっていうね。一種のトラウマってやつかな。



 ある日の昼下がり、九條家リビングにて、私は努力の甲斐あってついに言葉を話せるようになったんだけど。

 その第一声がこれだよ。


「あー、やっとちゃんと伝わるように話せるようになったみたい。よかったー。母さん、これからよろしくね」


 ……改めて思うけど、ひどすぎるよ。

 内容もそうだけど、物事には段階ってものがあること知らないの?


 ただ、言い訳させてもらいたいんだけど、私の中では毎日全力で言葉を発しようとしていて、段々とできるようになってきた実感があったんだよ。

 私の中ではしっかりと段階を踏んでたんだよ。


 当然、私の声を聞いた母さんにはそんなの知る由もなかったんだけど。


 もうね、母さんの表情が、なんて言うの?

 驚きとかじゃないんだよ。『無』なんだよ。

 感情が抜け落ちた顔? 魂を吸い取られたかのような無の境地?

 とにかく言葉では言い表せないほどの顔だったよ。


 昨日まであうあうと意味の分からない言葉を話していた生後一年足らずの娘から突然こんなこと言われたら、こういう顔になるんだね。

 私が見たことのあるどんな表情よりもこわかった。


 母さんが凍りついたのに気がついて、ようやく自分がやらかしたことを自覚したんだけど。

 それに焦って発言したのがこちらです。


「あ、ごめん! えっと、わ、私、もとから言葉は理解できてて、えっと、今まではうまく喋れなかったんだけど、あ、ちょ——」


 私が言い終える前に、母さん、家を飛び出して行っちゃった。

 エプロン姿でなにも持たずに。しかも靴も履かないで。

 ヤバいと思ったけど、それを追いかけようにも、乳児の私が大人についていけるわけもないからね。ただ見送るしかできなかったよ。


 それから数時間は経ったのかな。

 玄関の扉が開く音で目が覚めたよ。部屋にはもう夕日が差してた。

 これから徐々に言葉を学ぶふりをすれば今回の件はなかったことにならないかな、とかどうしようもないことを考えていたら、いつの間にか赤ちゃんらしく眠っていたみたい。


 やがて私のところまでやってきたのは、父さんと母さんだった。

 父さんが夕方に帰ってきたことなんてなかったから驚いたよ。

 まぁそれだけのことを私がやらかしたってことだけどね。見たことないくらい厳しい顔してたし。

 相変わらず母さんは無表情だったけど。


「璃子、ここにいたか」


 父さんにそう言われても、私はどういう対応をするのが正解か分からなくて声を出せなかった。

 でも父さんはいきなり話の核心をついてきてね。


「母さんさんから話を聞いたが、璃子はもう話すことができるのか?」


「……」


「なにか話してくれないか?」


「……父さん」


 黙ってても埒が明かない気がしたから、私はとりあえず父さんのことをそう呼んでみたんだけど。

 ただ、これも沈黙を押し通せばよかったと思うよ。


「……本当にはっきりと話せるんだな。しかも母さんの話だと、教えてもいない言葉を違和感なくすらすらと話したということだったみたいだが、本当か?」


 母さんに聞かれている以上、否定しきれないのでコクコクと頷くしかなかったよ。

 また急に流暢に話し出すと驚かれるかもしれないから、一応なるべく声は出さないようにね。


「そうか。こっちの言うことも正確に理解しているみたいだな。……それにしてもどうして璃子はこんなに早く話せるようになったんだ? しかも昨日の今日で急に……」


 その言葉は、あるいは父さんの独り言で、私への問いかけではなかったのかもしれないけど。

 でも、それに答えてしまったことがその後の運命を決定的に分けたんだと思う。


「……前世の記憶があったから」


 父さんの目の色が変わったのがはっきりと分かったよ。


「り、璃子。前世の記憶と言ったか? それはどういうことだ?」


 焦ったように早口で質問してきて。

 私は勢いに飲まれるように正直に答えることしかできなかったよ。


「私には前世での死ぬまでの記憶があるの。だから言葉も分かる」


「……なん、だと。では、お前は、お前の人格はその前世の……? そ、それはもう、俺たちの子どもでは、な……。お、お前は……誰なんだ」


 父さんが怯えたような、泣き出しそうな目で私のことを見たとき、完全に取り返しのつかないことをしてしまったことを悟ったよ。


 私は、今世は目の前の両親から生まれてきたわけで、彼らが自分の親であることに疑いようはなかった。

 もちろん前世にも親はいたけど、私にとってはどちらも自分を生んでくれた私の親だから。


 でも、この両親からしたら、今目の前にいる私が本当に自分の子どもなのか分からないんだ。

 自分たちの待望の第一子だよ? 璃子って名づけて、これから大事に育てるはずだったんだろうね。どんな子に育つか不安を覚えながらも、立派な子になるように精一杯愛情を注いでいくつもりだったのかもしれない。

 だけど蓋を開けたら、前世の記憶があって、すでに人格も形成されていたって。

 父さんが言ったように、もうソイツは自分たちの子の璃子とは言えないのかもしれない、ね。


 お前は誰なんだ、だって。

 それまで深く考えたことなかったけど。

 あなたたちの娘ですって胸を張って言えなかったよ。


 ……そのあとは誰も口を開くことはなかったね。




 それ以来、もう二度と両親と口を利くことはできなくなっちゃった。


 なにせ、母さんは部屋から出てこなくなったし、父さんは家に帰ってすらこなくなったからね。


 おかげさまで、身体は0歳児、頭脳は高校生、その名は探偵でもなんでもないりこ! の自宅内での命懸けのサバイバルが始まることになるんだけど。

 それはまた別のお話かな。まぁなんとか生き残ることはできたよ。


 それから——


 九條家本家の人が来て、そのまま引き取られることになったり。

 本家では、私は完全にいないものとして扱われたり。

 お金だけは与えられたから割と自由には過ごせたり。

 取り憑かれたように自分を鍛え始めたり。


 ——って感じになるんだけど、それもまた別の機会に、ね。




 つまり私が言いたかったのは、転生ってみんなが思うほどいいことずくめってわけでもないみたいだよ? ってこと。

 結局、私の家庭うちは壊れちゃったし、私も死にかけたし。

 ……まぁ私がバカだったからだろって言われたら、それはその通りなんだけど。


 あ、そういえば、話の途中でトラウマだなんだって言ったけど、今となってはもう完全に割り切れてるから、それは気にしなくていいよ。

 やっちゃったものは、後悔し続けたってどうにもならないんだよ。後悔しちゃうのはもう仕方ないことだけど、いつかは切り替えていかないといけないんだから。


 とにかく、もしみんなが転生したときは、色々と細心の注意を払ってチートライフを満喫するようにね。



 ……

 ……

 ……



 ……え? 私、誰と話してたの? というか、ここどこ? ……あ、夢? な、なら、いいけど……。こわ。



 リコの過去編、いかがだったでしょうか。

 これまでの疑問が少しは解消できていたらなと。


 次回は本編の続きに戻ります。


 今後、過去編の続きをやるかは今のところは未定です。


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