27. 絶望からのエンジェリックスマイルはきくね
ジョシュアさんに別れを告げて、冒険者ギルドに戻る。
本日三回目だよ、冒険者ギルドの扉を開けるのは。
でも、やっとここまできた。本当に長かった。
ビースクを出たときには、昼過ぎに街に着いてすぐご飯だと思ってたのに。
いくらなんでも、さすがに今回はスムーズに報酬もらえるでしょ。もう私を阻む障害はなにもない、はず。
「リコさん。戻ったんですね。お疲れ様です」
アネットさんから声をかけてもらえた。
早速ギルドカードを渡す。
「うん、報告お願いします」
「あ、ランクもEに上がったんですね。おめでとうございます。では少々お待ちください」
私のカードを見てそんなことを言う。
マイデルさん、ランク上げたことも伝えてなかったのか。
「うわー、本当にレオの納入依頼三十回達成になってますねー。初めて見ましたよ。……はい、これで完了です。それからこちらが報酬になります」
「ありがと」
カードと一緒にお金の入った小袋を受け取る。
やった。これで借金は完全にチャラ。それに少しだけど本当に私のお金ができた。
そして、遅れに遅れたけど、ようやくお昼ご飯を——どこで食べようか。正直どこでもいいし、なんでもいいんだけど、近くにいいところがあるなら嬉しい。なるべく近くがいいな。
そういうのはこの近辺に勤務している職員とかが詳しいよね。
ということで、目の前の職員に聞いてみる。
「アネットさん、ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「この近くで、すぐ食べられそうな食べ物屋さんってある? できれば美味しいところで。この際、屋台でもいいんだけど」
「すぐ? ないですよ」
「……はい?」
いやいや、なにを言ってるのかな、この職員さんは。
ここは結構な大通りでしょ? ほら、今も多くの人が行き交ってるし。
冒険者、職人、商人の三つのギルドもここに集まってるって言ってたし、日本でいうところのオフィス街みたいなものじゃないの?
そんなところに食べ物屋がないわけないよね? 聞き間違いかな?
「あのー、どこか食事ができるようなお店があったら教えてほしいんだけど……」
もう一回聞いてみる。
アネットさんからの答えは——
「ですから、ありませんよ。いえ、正確にはお店がないわけではないですが、これからすぐということですよね? 飲食店は、お昼が終わったら休憩だったり、夜の仕込みだったりで営業していませんから」
えぇええええ!?
「ちなみに屋台も同じ理由で今はやっていないですね。屋台によってはお昼を過ぎてもしばらく営業していますが、それも長くて午後3時くらいまでですから。ついさっき3の鐘が鳴ったでしょう?」
う、うそ、でしょ……?
やっとお金が用意できたと思ったのに、食事する場所がない……?
「そもそもこれから食事したいって、もうすぐ夕食の時間——って、リコさん!? どうされましたか!?」
「……だいじょうぶ」
アネットさんが私に声をかけていたが、なんとか一言だけ告げて、自分でも分かるくらいふらふらした足取りでギルドをあとにした。
日はまだ傾いていない。
宿屋の夕食が午後5時からだから、あと約二時間……。
我慢するしかないか。はぁ。
元の世界にいたときは、お腹が空いたらコンビニに行けばよかった。
二十四時間いつでも温かいご飯が食べられるなんて幸せなことだったんだね。
それにしても今日は、いかに私が日本の常識にとらわれているか、思い知らされたよ。
魔法もあるくらいの世界なんだから、常識が違うのは当たり前なのに全然分かってなかった。
移動速度のこともそうだ。元の世界じゃ移動する方法なんて無数にあるし、速く移動しようと思えば、極端なことを言えば音速を超えることだってできる。そういう常識にとらわれているから、多少速く移動したくらいであんなに驚かれるとは思ってなかった。
もっと想像力を身につけていきたいね。でも、残念ながら、これからもそういうこといっぱいあるんだろうな。
よし。終わったことは仕方がないし、切り替えていくよ。
それじゃあ、夕食までどうしようかな。
……ご飯はまだだけど、ピリーゼに戻って部屋で休もうかな。
お昼抜きになってしまったショックもそうだし、なんか色々あって結構疲れたよ。
というか土地勘がないから、どこでなにをしたらいいのかわからない。今から散策する気にはなれないし。
そう考えるとピリーゼしかないね。
そんな結論を出して、とぼとぼと宿屋までの道を歩いていたんだけど、その途中でちょっと気になるお店を見つけて足を止めることになった。
朝も通った道だけど、その時はソフィとしゃべりながら歩いていて回りを気にしていなかったから、気がつかなかった。ここは——服屋さんだよね?
これは丁度よかったよ。時間も余ってることだし入ってみよう。
ソフィに着替えを貸してもらったけど、いつまでも借りっぱなしってわけにもいかないと思ってたんだ。今の今まで忘れてたけど。
ちなみに私の衣料品店での買い物はかなり早い。
とにかく動きやすい服で色は黒、と店に入る前から毎回買うものは決まってるからだ。
その結果、いつも同じようなジャージが入ったレジ袋を提げてお店からでてくることになる。
女子としてどうなのっていう意見があるのは私も重々承知しているよ。私だって色々考えたこともある。でも考え抜いた末に、ジャージでよくね? ってなるんだから、もうしょうがないよね。
そしてこの世界初の買い物も済んだところでお店からでる。
手ぶらだけど、全部『収納箱』にしまってあるんだよ。
買ったのは寝巻用のゆったりした服に、肌着と下着数セット。自分のお金の範囲内で買えてよかった。
ただ、残念ながら、このジャージに匹敵する動きやすくて軽そうな服は売ってなかった。
しばらくこのジャージが私の戦闘服、ってことにして冒険者をやっていくことになりそうだ。
乾くのも一瞬なんだから毎日洗濯すればいいしね。
というかソフィも何着持ってるかわからないけど、今日も同じような白のローブだったし。そんなものなのかもしれない。
ちなみにこの服屋さんは、庶民用の服を販売しているようで、ギルドにいた冒険者がつけていた防具みたいなのは売っていなかった。ああいうのは、また防具屋とかが別にあるのかな。
カーン、カーン——。
鐘が5回鳴った。5時だ。
同時に私のお腹もくぅーっと鳴った。
私の思ったような服がなかったので、意外と服屋で時間が経ってしまっていたようだ。
でも、ついにご飯だ。ピリーゼまで一気に跳んで行きたいところだったけど、ぐっとこらえて早歩きで我慢する。
「いらっしゃいませー! 少々お待ちくださいーっ」
カラン、とピリーゼの扉を開けると昨日と同じように食堂の奥から明るい声がした。
そのまま食堂の方へ歩いていくと、こちらに走ってくるタニアと鉢合わせる。
「ただいま」
「あれ、リコさん!? ……お帰りなさい、ませ? 少々お待ちくださいー」
なぜか疑問形だ。
そして私の横を通り過ぎてカウンターまで行ったかと思うとすぐに戻ってきた。
「はい、お部屋の鍵です?」
どうやらカウンターに鍵を取りにいってたらしい。
でも、まだ疑問形だ。なんだろ。
「どうしたの?」
「あ、はい。ソフィさんが、リコさんは今日は帰ってこないと言っていたので、ちょっとびっくりしちゃいました」
あぁ、そういえば依頼を受けるとき、村に泊まれとか言ってたね。
気をきかせて宿に伝えてくれたみたいだ。
……えっ。ちょっと待ってよ、それじゃあ、もしかして……
「あ、あの、夕食って食べられる……よ、ね……?」
「はい、もちろんです! すぐにご用意いたしますか?」
よ、よかったぁああああ。
ニッコリと満面の笑みを浮かべるタニアが、まるで天使のように見えた。
ep.26のエピソードタイトル『冷凍庫の完全上位互換じゃん』ですけど、全然そんなことなかったという……。
冷凍庫は氷を作ったりできるし、よく考えるとその本質は冷やすことでしたね……。『収納箱』にはない機能です。
冷凍庫を食品の長期保存容器程度にしか考えていない作者なのでしたorz
でも今更タイトルは修正はしません!




