26. 冷凍庫の完全上位互換じゃん
うっかりキングレオの死体を出しちゃった。
イライラしてたのもあって、つい投げやりになっちゃったツケかな、これは。バカだね、私。
ただ、このおっちゃん以外には見られてないのは不幸中の幸いかな。
このおっちゃんさえ、どうにか黙っててくれればいいんだけど。
自分の愚かさに軽くため息をついて、まだ呆然としているおっちゃんに声をかける。
というか、このおっちゃんの名前まだ聞いてなかった。
「あの、できれば今のは黙っててくれるとありがたいんだけど」
「……今のって、キングレオ、だよな? 見間違いじゃ、ないよな?」
「そうだけど」
「はぁー……。実物は初めて見たぜ……。なんであんなもんが入ってるんだ?」
「倒したからだよ」
「お前さんが、か? 首が切り落とされていたみたいだったが、それも?」
「うん」
「……そうか。……お前さん何者だ? キングレオを倒すとかありえんぞ? それにお前さんの『収納箱』の大きさも」
「普通に冒険者だよ。ランクはE」
「……っくく、はは、はっはははは!」
急に笑い出した。別に笑わせることは言ってないと思うんだけど。
というか、マイデルさんもそうだったけどいきなり笑いだす人多いね。
「はっはは……いやー、普通ときたか。お前さん、面白いな」
「……それで、このことは誰にも言わないでもらえると助かるんだけど」
もう一回お願いしてみる。
「それは別に構わんが。このことってのはキングレオを倒して、その死体を隠し持ってるってことか? それともその異常な『収納箱』のことか?」
「どっちも黙っててほしいけど、特にキングレオの方。『収納箱』のことはもう冒険者ギルドにはばれちゃってるし」
「お前さん冒険者なんだろ? キングレオのことなんか、ギルドに言えば一気にランクを上げてもらえるかもしれねえぞ? それに売れば一財産になるぜ?」
「今はどっちも興味ないよ」
「そうなのか? ま、お前さんが黙っててほしいってんなら他言はしねえよ。安心しな」
よかった。このおっちゃん、いい人かも。ひげだけど。
「ありがとう」
「だが、その死体はどうするつもりなんだ? 黙ってるってことは売りもしねえってことだろ? せっかく新鮮なのにどんどんダメになっちまうぞ?」
「それは……検討中だよ」
「そうか。俺としてはウチに売ってくれると嬉しいんだが」
確かにこのままずっと持ってるわけにもいかないかな?
でも、どうすればいいんだろう。このおっちゃんの反応を見ても、やっぱり私が出したりしたらめんどくさそう。マイデルさんに知られたら、「あっはっはー、君は今日からCランクねー、おめでとー」とか言い出しかねない。
ただ、おっちゃんの言う通り、せっかくの素材をダメにするのももったいない……のかな。
なるべく新鮮なうちに——って、え? 今、このおっちゃん、新鮮って言った?
「ねえ」
「なんだ?」
「さっきのキングレオって新鮮だったの? というかそんなの分かるの?」
「ああ、分かるぞ。俺は解体師だからな。ま、じっくり見たわけじゃなかったから違ったかもしれんが」
「もう一回よく見てもらってもいい?」
「? 別に構わないが。むしろ見せてくれるなら俺もよく見たいくらいだ」
見えるような位置に他の人がいないことを確認してから、キングレオをとりだす。
たしかに私の目から見ても腐ったりしていないことは分かる。
おっちゃんはキングレオの周りをゆっくり歩きながら観察し始めた。
「こいつは……想像以上だな……」
なにやら感心したように独り言を漏らしているけど、私が聞きたいのは一つだけだ。
「それで、さっき新鮮って言ってたけど、このキングレオいつ倒されたように見える?」
「ん? ああ、そのことか。やっぱり倒したばっかりだろ? キングレオじゃなくても、ここまで新鮮なのは珍しいぞ。一時間も経ってないようにも見えるな。ま、ここから一時間圏内にキングレオが出るはずもねえから、本当はもっと経ってるんだろうが」
「うーん、まあそんなところかな」
なんとなく予想した通りの答えだ。
適当にごまかしたけど、キングレオを倒したのはもう二日前だ。倒してからしばらくして『収納箱』を使えることに気がついたので、今まで入れておいた。おっちゃんの言う通り、倒してからしまうまで一時間も経ってない。
これは、ひょっとすると——『収納箱』の中では時間経過しない?
うわ、もし本当にそうだとすると、使いやすさが格段に上がるんだけど。
元々便利すぎる魔法だけど、これはもう便利の一言で収まらないよ。
キングレオだっていつまでも持ってても大丈夫ってことだし、食べ物を入れればいつでもどこでも出来立ての温かい食事ができる。
元の世界の冷凍庫も保存するのにはすごく便利だったけど、それどころの話じゃない。
ヤバい、すごくテンション上がってきた。あとでちゃんと検証しないとだね。
でも、おっちゃんの口ぶりから、普通は『収納箱』に入れておくと素材はダメになるらしい。
そのあたりソフィにも聞いてみよう。
「ありがと、色々わかったよ。もうしまってもいい?」
「ああ、いいぞ。こっちこそ貴重なもんを見せてくれてありがとよ」
ほかの人の注目が集まらないうちにキングレオをしまう。
ちょっと予定外のことが起きてしまったけど、おっちゃんも黙っててくれるって言ってるし大丈夫かな。
さてと——あれ? なにしに来たんだっけ?
「いやー、それにしてもキングレオかあ。解体してみてえもんだけどなあ」
おっちゃんがまだキングレオが消えたあたりを見つめながらつぶやいている。
そして、その周りには数十体のレオの山が。
あっ、そうだった。レオの納入のために来たんだった。
「えと、キングレオのことはおいといて。レオはこれで三十体あるはずだけど。依頼達成ってことでいいの?」
「レオ……? お、そうだったな。少し待ってろ。簡単にチェックだけさせてもらう。ま、ぱっと見ただけでも問題なさそうだがな」
チェック? 素材として使えるかとか調べるのかな。問題ないならいいけど。でもやっぱり粉々にしちゃったりするとダメってことかな。
というか、まだ時間がかかるのか。まぁキングレオのことで時間をとられたのは完全に自業自得だけど。
早く終わらないかな。このあとは冒険者ギルドに戻って報酬を受け取って、やっとお昼ご飯だね。
「お、おい!」
頭の中でこのあとの予定を考えていると、レオの山を調べていたおっちゃんから焦ったような声が聞こえる。
えー、問題ないんじゃなかったの?
「なに? ダメだったの?」
「い、いや、素材としては問題ねえ。というか問題なさすぎる。さっきのキングレオ並みに新鮮だし、倒し方もきれいだ」
「そうなの? じゃあなに?」
「ああ、倒し方がきれいなのはいいんだが……きれいすぎねえか? こっちのやつらは傷を見ればわかるが、多分殴打系の武器でも使って倒したんだろう? それは理解できるんだが、そっちのやつらは外傷が一切ねえぞ? まるで自然に死んだのを持ってきたみてえだ。どうなってやがんだ?」
私の拳は殴打系の武器だった……?
というのはまぁいいとして、水魔法で窒息させたレオが疑問みたいだ。
この世界だとどういう倒し方が一般的なのか知らないけど、この倒し方はされないみたいだね。ソフィは首を切り落とすとか言ってたっけ。
このおっちゃんにはキングレオのことを黙っててもらうこともあるし、別に隠す必要もないよね。
「水魔法で倒したんだよ。水でレオが息できないようにさせたの。一応素材として使うって聞いてたから、なるべく傷つけないようにと思って」
「そりゃ、ありがてえ話だが……。水魔法でそんなことができんのか? 聞いたこともねえぞ。そもそも水魔法は火に強い魔物相手でもなければ、戦闘向きの魔法じゃねえんだがなあ」
「そうなんだ。まぁできたんだからいいでしょ? えっと、それとも普通に首を切ったりした方がよかった?」
「いやいや、とんでもねえ! こっちの方が断然価値は高いからな。ウチに持ってくる素材は、なるべく傷つけねえでもらえると助かる。ただ、なるべくでいいからな。それで無理して死んだなんていったら目も当てられねえ」
「うん、分かったよ。あとついでに、どうやって倒したかってことも、他の人に言わないでもらえると助かるんだけど」
「おう、わかった。お前さんはこれから何度もここに来ることになりそうだからな。機嫌を損ねるようなことはしねえさ。そういや、まだだったな。俺はジョシュア。リコ、だったな、よろしくな。ここ職人ギルドの解体師だ。今日はたまたま受付に駆り出されてたがな。だいたいはここで作業してるから、来たときは声かけてくれや」
別に秘密をばらされたからって怒ったりはしないけど。
そもそもただの口約束だ。強制力もなにもない。
「こっちこそよろしく。それじゃこれで納入は完了でいいの?」
「大丈夫だ。ありがとな。助かったぜ」
当作品の連載開始以来初めて、読者様に評価をつけていただきました。
初めてのことかつ、それが思いがけず高評価だったため、作者が驚きと嬉しさのあまり悶え苦しんでおります。笑
また、作者はブックマークも1件増えるたびに、のたうち回って喜んでいます。笑笑
本当にありがとうございます。
もちろんチラッと斜め読みしていただくだけでも十分すぎるほど嬉しいので、これからもほどほどにお付き合いいただければと思います。




