25. 投げやりはキングレオの始まり?
ギルドマスターの部屋を出た私は、来た道をたどってアネットさんのもとまで戻ってきた。
「戻りました」
「あ、リコさん、お疲れさまでした。先ほどは取り乱してしまい、大変申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げてくる。
「気にしなくていいよ。それよりギルドマスターに報酬を受け取るように言われたんだけど」
「そうでしたね。こちらが報酬になります」
「ありがとう」
小さな袋を受け取る。金属のずっしりとした重みを感じる。
初めて自分で稼いだお金だ。ちょっと感動するね。
でも、ほとんどソフィへの返済に充てられるんだけどね。世知辛いね。
「それと、Fランク依頼のレオの納入もされたいとか。……さ、三十体ほど」
少し声を震わせながら聞かれる。
ギルマスの部屋をでてまっすぐここに来たのに、いつの間に話を通したんだろう。
「うん。どうすればいいの?」
「……ちなみに今どこに置いているのでしょうか?」
「え? 『収納箱』に入ってるけど」
そこまでは話が伝わってなかったみたいだ。
「——!? ……『収納箱』ですか。ではいつでも出せるということですね」
また驚かれるのかと思ったら、アネットさんは案外冷静だ。
もしかしてソフィやギルマスが大げさなだけじゃない?
「アネットさんはあんまり驚かないね」
「いえ、十分驚いてます。ただリコさんの非常識さに関しては、もうなにがあってもおかしくないから、いちいち騒いでたら心臓が持たないぞとギルドマスターに言われましたので。よく意味が分かりました」
「……」
失礼じゃない? 失礼だよね。
人のこと非常識だとか、思っても言わないもんだよ。
というか、そんなことを言うギルマスもだけど、アネットさんもアネットさんで意味が分かったって。
「それでお話の続きですが、まず納入依頼は職人ギルドからの依頼となっております。よって、基本的に職人ギルドへ直接納入していただく必要がございます。例外として、数体であれば冒険者ギルドで引き取り、すぐに報酬をお渡しさせていただくことも可能なのです。そちらの方が効率がよいですからね。ただ、今回は数が数ですので、お手数ですが原則通り職人ギルドへの納入をお願いします」
えぇええええ!?
こ、これから職人ギルドとやらに行かなくちゃいけないの?
しかも報酬を受け取るのは冒険者ギルドなんでしょ?
言ってることはわかるけど、二度手間だー。まるで元の世界のお役所のたらいまわしみたいだよ。
というかさっき午後2時の鐘が鳴ってたよ?
私は一体いつお昼を食べられるの?
絶望的な気持ちになりながら力なく尋ねる。
「職人ギルドって……どこ……?」
「隣ですよ。ここをでてすぐ左手の建物です。...って、リコさん? 大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない。
大丈夫じゃないけど、すぐ近くなのは助かった。
確かに大きめの建物があったね。あれか。
「近くにあると何かと便利ですからね。ついでに言うなら、ここの向かいが商人ギルドです。ギルド同士の連携も大事なので、ほとんどの街でこのように——」
「行って、きます……」
今そんな情報はいらないよ。
今はお昼ご飯を食べるためのお金が欲しいんだよ。
もうここまできたら意地でもソフィのお金は使いたくない。
冒険者ギルドをあとにして職人ギルドに向かう。
本当にすぐ隣なので徒歩数秒だった。そのまま職人ギルドの扉を開く。
職人ギルドの中は、冒険者ギルドとは全然違った雰囲気で、私にとっては新鮮な光景——なんだけど、正直今はどうでもいい。
いくつかカウンターがあって、それぞれに受付っぽい人が立っている。冒険者ギルドでは受付は女の人ばかりだったのに、こっちは男性ばっかりだ。
ここでは目的別にカウンターが分かれてるみたいだね。
とりあえず、一番近い正面のカウンターに行ってみる。
「あの、レオを納入したいんだけど」
「納入だ? ここじゃねえぞ。あっちのカウンターに行きな」
一番端のカウンターを指さして教えてくれた。
かなり大きなカウンターだ。魔物を引き取るから広くなってるのかな。
お礼を言ってそっちに向かう。
「レオを納入したいんだけど、ここでいいの?」
教えてもらったカウンターに立っていたおっちゃんに念のため聞いてみる。
ひげ面で髪がもじゃもじゃの前掛けを着用したおっちゃんだ。しかもでかい。縦にも横にもでかい。
「おう、ここで大丈夫だが。嬢ちゃん、初めて見る顔だな?」
「私はリコ。昨日この街に来たから」
「そうだったか。……それでレオの納入だったか? ここに持ってきてもらえれば引き取るが。もし近くに置いてあるなら運ぶの手伝うぞ?」
またこのパターンか!
魔法を使える人は少ないとはいえ、『収納箱』って一般に知られてる魔法のはずなんだけど。
私が使えるようには見えないのかな。
なんかまた話が長くなりそうな嫌な予感がするよ。
「……私の『収納箱』に入ってるから、その必要はないよ」
「『収納箱』? お前さん魔法が使えるのか。ってことはお前さんが倒したレオってことか? 『収納箱』が使えることといい、その年ですげえな。そんじゃこっちの台の上に出してくれ」
その年ってどの年のことを言ってるのか気になるところだけど。それよりも……。
指示された台をよく見る。
せいぜいレオが十体乗る程度だ。
「えっと、全部は乗らないと思うんだけど」
「全部? 一体じゃねえのか?」
「三十体だけど」
「……は?」
もういいよ、その反応は。見飽きたよ。
戻ってきてからやたらと拘束されるし、空腹も相まってイライラしてしまう。
「だから『収納箱』に三十体、レオが入ってるの。この台には全部乗らないと思うんだけど、どうすればいい?」
「お、おう、そうか? た、確かに三十体は無理だな……? じゃあ、裏の解体場で出してもらえるか? こっちだ」
「わかった」
理解しているのかいないのか不思議な顔をしたままだけど、私の言葉に押されたのか解体場とやらに先導してくれた。
そこは広い倉庫のような空間になっていた。解体場には何人かの反応がぽつぽつとある。遠目なのでよく見えないけど、解体場ってことはここで魔物を解体してるのかな。
「ここなら三十でも四十でも余裕だろ。さあ出せるもんなら出してくれ」
ひげのおっちゃんは解体場の端の広いスペースまで行くと、そんなことを言い出す。
いや、出せるもんならって。全く信じてないよね。まぁ出すからいいけど。
私は投げやりな気分になり、『収納箱』に入ってる魔物をいっぺんに出した。
今はレオくらいしか入ってないからね。
「「——は?」」
私とおっちゃんの声が重なった。
……え? ちょっと待って? これは……これは、なに? なんで?
完全に思考がパニック状態だ。
レオの死体がいくつも転がっているのはいい。
これを納入しにきたんだから。
問題はその隣なんだけど、なに、このでっかいの?
でっかい獣っぽい形をしてるけど、首から先がないなー? あ、もしかしてその隣に転がってる、これまたでっかい頭っぽいものが元々乗ってたのかなー? なんか、ふさふさのたてがみがついてるー?
これって、もしかして、もしかすると——
「——ッ!!!!」
思考が追いついた瞬間、光をも超える速度でソレを『収納箱』に戻した。
そして首がもげるくらいの勢いでおっちゃんの方を振り向く。心臓がばくばく音を立てている。
おっちゃんは口を開けたまま虚空を見つめていた。
まるで一瞬前までなにかがそこに転がっていたとでも言わんばかりだ。
「……」
「……」
「……み、見た?」
見てないわけがない。
また数秒の無言のあと、私の方を見てゆっくりと頷く。
「あ、ああ……。い、今の、は——」
「別になんでもないよ」
「いや、まさか、キ、キング——」
「なんでもないよ」
「……」
「……」
まぁ無理だよね。ばっちり見られたし。




