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23. この世界の常識を知らなきゃね


 依頼を終えて、無事ガザアラスに到着した。


 門番にギルドカードを見せて街の中に入る。

 依頼を受けたときは、今日中に帰ってこれたらいいなと思ってたけど、予想以上の早さだ。

 そのままギルドを目指して歩いていく。


 今はもう昼過ぎだけど、通りの飲食店や屋台はまだまだお客さんが多く入っている。

 私も既にお腹がペコペコだ。

 今すぐそこの屋台で売っている焼いた肉が刺さった串焼きとか、揚げ物とか買って食べたいところだけど。でもまずはギルドに報告だ。

 お金がないわけじゃないけど、これは借りているお金だからね。なるべく使いたくない。


 なんとか食べ物の誘惑を断ち切りギルドにたどり着く。

 そして、何気なく扉を開けたところで、若干の不安がよぎった。

 そういえば、さすがに戻ってくる時間が早すぎるんじゃ。泊りがけになるってソフィも言ってた依頼を受けたのに、数時間で戻ってくるってかなり驚かれるんじゃない?


 いい時間帯にお昼ご飯を食べることだけを考えていたせいで、そこまで気を回せていなかった。

 依頼の達成は報告板で確認できるから、信じてもらえないってことはないだろうけど。

 虚偽の報告ができないってことは、逆に言えば、どんなに疑わしくても異常がでなければギルドも認めるしかないってことだ。


 でもここまで来て引き返すのもな。時間調整するのも時間のムダだし。

 そもそも、もう扉開けちゃってたよ。気がつくのが遅すぎた。

 あとはもうなるようにしかならないね。


 ギルドの中に入ると、午前と同じ位置にアネットさんが座っていた。

 一体どんな反応をされるのか、恐る恐る近づいていく。

 と、アネットさんも私のことに気がついたようだ。

 アネットさんは特に驚いている様子もなく、笑いかけてくれた。これはちょっと予想外の反応だね。


「リコさん、お帰りなさい」


 普通に声をかけてくれる。

 意外だけど、驚かれて話が進まないよりずっといい。

 私はギルドカードを差し出した。


「ただいま。報告お願いします」


「はい。かしこまりました」


 アネットさんはカードを報告板にかざして操作しながら言葉を続ける。


「でも早かったですね。安心しました。今回のことはもう気にしなくていいですから、次の依頼はもっと自分にできそうなものを——たっせい……?」


 アネットさんが不意にぴたりと動きを止めたかと思うと、ゆっくりと私の顔を見てくる。あ、口が開いてる。

 続いてまたゆっくりと報告板に目を落とす。そしてまた私の顔。

 無言で私の顔と報告板の間で視線を往復させている。なにこれ。


「あの、アネットさん」


「……」


「アネットさん?」


「——が、——れた——」


「え?」


「——ほ、報告板が、こ、壊れたぁああああ!?」


 ——は?


「あ、あぁ、す、すみません、リコさん。ちょっと報告板が壊れてしまったみたいのですので、取り替えてきますね。報告板が故障するなんてありえないはずなんですが……」


「え、動かなくなったんですか?」


 こんなよくわからない超システムの報告板でも壊れることがあるんだ。

 アネットさんが席を立ちながら答えてくれる。


「い、いえ、取り消しの操作をしようとしても、なぜか依頼達成済みとなっていて操作を受けつけてくれないんですよ。少々お待ちください」


 ——はい? 今なんて?

 なぜか依頼達成済みになっている? 達成したから達成済みになっているのでは?

 取り消し? どういうこと?


「ちょ、ちょっと待って」


「はい?」


 今にも報告板を持ってどこかに行きそうなアネットさんを呼び止める。


「あの、それで合っているんじゃ? というか取り消しってなに?」


「え? リコさん、依頼の取り消し、つまり依頼放棄の報告に来てくれたんですよね? こちらで受注の取り消しをしないといけないんですがうまくいかなくて」


「……」


 ——あ。あぁー。なるほどなるほど。そういうことか。


 アネットさんは私の姿を見たときから依頼放棄のために来たと思っていたわけか。私が達成不可能な依頼を受けたと思ってるし、私が戻ってきた時間的にも、アネットさんの中では疑いようもなかったんだろう。だからこそ、こんなに早く戻ってきたのに全く驚いてなかったわけだ。

 それなのになぜか依頼達成済みになってたら、それはおかしいと思うよね。


 つまり、今回のことは私が思ってる以上に、常識外れの行動だったってことかぁ。

 まさか報告板のほうを疑いだすとは。

 ちょっとこれは今後気をつけないとかも。めんどくさいね。


 さて、この状態からどうやって説明したら納得してもらえるのか。

 うん、分からない。とりあえず事実を言うしかないよね。


「アネットさん、ごめんなさい。私の言い方が悪かったんだけど、今回は依頼達成の報告にきたんです。レオの群れの討伐依頼。あとついでにさんじゅ——いや、な、何体かのレオの納入の依頼も。だから報告板が間違っているというわけではないというか……」


 レオ三十体と言いかけたけど、ごまかしておく。ソフィ曰く、普通は『収納箱』にはクインレオすら入らない。ここで追い打ちをかけても仕方ないよね。でも結局、最後には全部出して納入させてもらわないといけないんだけど。


「……達成、した?」


 アネットさんは無表情だ。

 ちょっとこわいよ。


「は、はい。達成して帰ってきました」


「……え、でもあれから数時間ですよ? この依頼はビースクからの依頼で……」


「えっと、それは……」


 それを言われると説明しにくい。

 ぴょんぴょんしながら行って帰ってきたって言っても意味が分からないと思うし。


「……でも、報告板では達成済みに……。報告板に間違いは……」


 なんかぶつぶつ呟いていたかと思うと、急に立ち上がった。


「リコさん、申し訳ございません。私では対応できかねますので、ギルマス、いえ、上の者に代わらせていただきます。確認を取りますので、少々お待ちください」


 と言って、報告板と私のギルドカードを持ったまま奥の扉に消えて行ってしまった。


 え、ギルマス……? ギルマスってギルドマスターだよね。多分ここで一番偉いよね。

 なんか大変なことになってない?


 だいたい、アネットさんじゃ対応できないってなに?

 報告の受付をして報酬渡してくれるだけじゃん。今朝、ソフィのときやってたじゃん!

 というかお腹空いてるんだけど。

 空腹を我慢してギルドに先に来たってのに、こんなに時間がかかるとは思わなかったよ。


 しかもなかなか戻ってこないし。

 近くのカウンターに座っている受付嬢の視線も感じる。

 うぅ、なんでこんなことに。


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