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2. 魔法使いには初めて会ったよ

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。 


 馬車まであと少しとなったところで、馬車から誰かが降りてきた。

 白っぽい格好をしているのはここからでもわかる。

 でもその人は多分こっちを見てるのに、立ち止まったままだ。


 警戒されてるのかな?

 まぁどちらにしてもここまできて引き返せないので、そのまま歩いてこっちから近づくことにする。


 出てきたのは鬼でも蛇でもなく、女性の魔法使いでした。

 ……大丈夫。頭おかしくなってないよ。私は正常だよ。


 当たり前だけどアニメ以外で魔法使いなんて見たことない。

 でも断言できる!

 この人は魔法使いだ!


 ただ、私のイメージでは魔法使いって黒が基本なんだけど、この人の姿は白がベースになっている。

 白のドレスに白のローブ、それとつばの広い白の三角帽子。ところどころに装飾はあるものの、身に着けているものは全て白を基調としている。

 さらには銀髪の長い髪。

 そして手には長い杖を持っていて、杖の先端には緑色に輝く宝石のようなものが付いている。


 うん、色はともかく、これで魔法使いじゃないというなら魔法使いって何? って感じ。


 でもなんで魔法使い?

 コスプレなの? こんな何もない平原で?? それともまさか本当にファンタジー世界に来ちゃった???


 さらに近づいて、ついに魔法使いさんの目の前に立つ。

 ここまで近づくと帽子のせいで見えにくかった顔が、はっきりと見えるようになった。


 ————めっちゃ美人さんだ!


 整った顔立ちはもちろん、それ以上に特徴的な長くこぼれるような銀髪と黄色がかった明るい緑色の透き通るような瞳が、現実離れした神秘的な美しさを醸している。

 あの瞳の色、ライムグリーンとでもいうのかな? 今まで見たどんな瞳よりも綺麗。

 

 あ、ヤバい。言葉も出ず、ぼけーっと見つめてしまってた。

 でもそれは魔法使いさんも同じだった。じっと私を見るだけでなにか行動を起こそうとしない。

 ただ、表情的に私のことを敵視しているというわけではなさそうだ。どちらかというと困っているような顔だよ。


 うん。このまま見つめあっているだけではどうにもならない。

 とりあえず話しかけるよ。


 けど絶対日本語は通じそうにない。

 銀髪だし、眼は緑だし。


 こうなったら、やってやる! 私の本気を見なさい!



「ハ、ハロー……?」



 ……ダメ?

 世界共通語で攻めてみたんだけど。


 む、無反応だー。

 日本人らしい日本語英語なのがダメなの? それでもハローくらいは通じると思ったんだけど。

 うぅ、色々聞きたいけど、英語なんてそんなにとっさにでてこないよ。

 

 俯いて、うんうんと唸っていると、すぐ近くから声が聞こえた。



「あの、どちら様でしょうか?」



 ……え?


 魔法使いさんに視線を戻す。


「大丈夫ですか?」


 心配そうな顔になって私の顔を見つめる魔法使いさん。

 


 んーーー……。


 いや、日本語しゃべれるのおおお!!?

 


 思わず頭を抱えてうずくまってしまった。

 え? 日本語通じるの?? その見た目で!?

 私の渾身の英語は何だったの? ただ恥ずかしい思いしただけじゃん!


「え!? どうされましたか!? 大丈夫ですか!?」


 私の行動に驚いたのか慌てた声で声をかけてくるが、やっぱり日本語だ。


 ま、まぁ言葉が通じるのはいいことだよ。

 ポジティブに考えよう。

 そしてさっきの私の第一声は忘れることにしよう。


 いつまでもこうして心配をかけさせているわけにもいかない。

 それに会話をして少しでも情報を得なければ。


 やっと立ち上がって涙目になりながらも答える。


「すみません。もう大丈夫です」


「そ、それならいいんですけど……。それであなたはどちら様でしょうか? あ、私は冒険者のソフィアと申します」


 ん? 冒険者って言った?

 聞きなれない言葉だがとりあえずスルー。

 一番知りたいのは、ここがどこかということだから。


 そういえば、情報を得るにしてもどういう風に聞けばいいんだろう。

 ストレートに、私が今いるここはなんという国ですか? なんて聞いて大丈夫かな。

 少なくとも私が東京にいるときにそんな質問されたら、頭のおかしい人だと思うよ。


 まぁそのあたりは会話の流れでなんとかなると信じて、とりあえず名前だけ答えておこう。

 苗字はいいかな。ソフィアさんも名乗ってないし。


「リコといいます」


「リコさん、ですね。一人ですか?」


「はい」


「ええと、親御さんとかは?」


「いないですけど」


 ソフィアさんは驚いたような困ったような表情になる。


 親御さんって聞かれるということは完全に子供扱いだけど、それは今は置いておこう。

 自分の見た目は理解してるし。


 ソフィアさんの反応からすると、ここに子供が一人でいることはおかしなことのようだ。

 私の常識で考えてもそう思うけど。


「ええと、あなたのような小さい子が一人で、なんの装備も持たずにどうしてこんなところにいるの?」


 疑問に思っているのと同時に、心配してくれているのが伝わってくる。

 他人とまともに関わらなくなって久しい私には、そんなソフィアさんの思いは新鮮さすら感じた。


 うん、この人に事情を話してみよう。

 信じてくれるかはわからないけど。


「えと、信じられないと思うんですけど、実は————」


「おい、ソフィア!そろそろ行くぞ————ってなんだ、そのガキは?」


 馬車の中から男がでてきて怒鳴った。

 この人はところどころ金属の防具を身に着け、腰には剣を下げている。

 うん、これは剣士だね。

 魔法使いに剣士。またファンタジー色が濃くなったよ。


「はいはい、分かったから。馬の準備をしててよ。あとこの子のことは今から聞くところ」


「俺に命令するんじゃねぇ!」


 ソフィアさんが呆れたように答えるも、別に私のことには興味がなかったかのようで、深くは追求せず、馬の方へ向かっていった。


「ごめんなさい。話をさえぎってしまって」


「大丈夫です」


「うーん、私たちはそろそろ出発するみたい。これからガザアラスに戻るの。リコさんはどこに向かっていたの?」


「……すみません。私ここがどこかもわからないんです」


「え? ど、どういうこと?」


「えっと、気が付いたらここにいたというか」


「……それはかなり込み入った話になりそうね……。それじゃ特に目的地はないってことよね。なら、よかったら馬車で一緒にガザアラスに行く? 詳しく話を聞かせてもらえれば、なにか力になれるかもしれないし」


「ガザアラスって?」


「ここから一番近い街の名前よ。といっても馬車で一日かかるけど」


 きた! 街!

 でも全く聞いたことない。

 本当に私はどこに来ちゃったんだろうね。

 まぁさすがに街に行けばなにかわかるでしょ。


「それじゃあお願いしてもいいですか」


「もちろん。道中話を聞かせてくれると嬉しいわ」


 やった。これでなんとかなりそうだよ。

 最初に会ったのがソフィアさんで本当によかった。コスプレ魔法少女だけど。

 神様ありがとう。


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