19. 冒険者になったよ
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「ソフィアさん!? ソフィアさんじゃないですか!!」
……びっくりした。いきなり大きな声だったんだもん。
でも、一番びっくりしてるのは名前を呼ばれたソフィに決まってる。
何事が起きたのかと、そばのギルド職員の注目が集まる。
ソフィは慌ててカウンターに近づいてその職員に声をかけた。
「ちょ、ちょっとアネットさん!? 急に大きな声で呼ばないでもらえますかっ」
「あっ——す、すみません……」
アネットさん?はすぐに落ち着きを取り戻すと、隣のギルド職員に大丈夫だというように頷いてから、改めて私たちの方へ向き直った。
ソフィが仕切り直すように挨拶する。
「アネットさん、おはようございます」
「は、はい、おはようございます。——じゃないですよ! 生きていらっしゃったんですね。本当によかったです!」
「タイロンたちが報告に来たんですね?」
「え、ええ。ソフィアさんが死んだかも、なんておっしゃっていたので、本当に心配していました」
「ご心配おかけして、申し訳ございません」
「いえ、とんでもないです。生きていてくださってなによりです。それで——クインレオが出たというのは本当なんですか?」
「ええ。申し訳ないですけど、私も逃げるのが精いっぱいで倒せませんでした。調査依頼の方は?」
「それは仕方ありませんよ。いくらソフィアさんがお強くても一人で倒せる相手じゃないですから。しかし、やはりまだ危険があるかもしれないんですね。調査依頼は現在準備中です。とりあえずは門番に報告して、街道を使おうとする人に注意喚起を行っています」
「そうですか、わかりました」
私は二人の会話をただ見ていることしかできない。
アネットさんは、第一声以降は落ち着いてソフィと話をしていた。
そうだよね。一緒にいた仲間だけ帰ってきて、その人たちが死んだかもしれないなんて言っていた人が帰ってきたら取り乱すのも仕方がないか。
そしてクインレオの調査はこれから行われるみたいだ。そういえばキングレオは私が倒したけど、クインレオはまだ健在だし、調査はした方がいいかもしれない。
「それで今日は依頼達成の報告でよろしいでしょうか? ……それとそちらのお子様はソフィアさんのお連れさんですか?」
視界に入ってなかったわけではないと思うけど、ようやくアネットさんが私の話題をだしてくれる。目が合ったのでぺこりと頭を下げる。
でもお子様って。女性とか言ってくれないものかね。……無理かな。
「ええ、この子の用事もあるのだけど。先に報告からお願いします」
ソフィがギルドカードをアネットさんに渡す。するとアネットさんはカードを金属でできたような薄い板の上に乗せる。そして何か操作でもしているように空中で手を動かしたのち、カードをソフィに返しながら言う。
「はい、ありがとうございました。依頼達成ですね。ではこちらが——報酬になります」
カウンターの下で何かを数えていたと思ったら、小さな袋をソフィに渡す。
お金が入ってるんだろうな。
「ありがとうございます」
「いえ、今回も助かりました。それでそちらの方に関してですが、なにか依頼をお申込みということでしょうか?」
私のことだ。依頼者に見えたのかな? まぁ私くらいの身長の子が冒険者ギルドに来るのは依頼をするときくらいなのかも。
アネットさんはソフィに聞いたみたいだけど、私自身の話だ。ここはソフィに任せないで私がちゃんと話すべきだよね。一歩前に踏み出して答える。
「いいえ、冒険者の登録をしに来ました」
「……えー、と。あなたが冒険者になる、ということでしょうか?」
「はい」
アネットさんは困ったような顔になり、ソフィの方に視線をやるがソフィは黙って頷くだけだ。
え、なにこの無言のやり取りは。だから! ソフィは私の親じゃないんだって! はじめてのおつかいじゃないんだから。
アネットさんからすると、ソフィからの詳しい説明はないけど黙ってみているということは、一応保護者の許可は下りているとみたのか、一枚の紙をおずおずと差し出してくる。
「で、では、こちらに必要事項を記載して頂けますか?」
必要事項と言っても名前と生まれ年だけだ。
生まれ年はソフィの2年後と。ささっと記入して渡す。
それにしてもこの情報だけで正確な管理ができるのだろうか。
偽名で複数枚カードを作ったりできそうだ。と、このときは思っていたけど。あとで聞いた話によると最初に偽名で登録することはやろうと思えばできるけど、たとえ別の名前を使ったとしても同じ人が再度登録しようとするとギルド側には分かるそうだ。逆にそうなっているからこそ、これだけの情報登録で大丈夫なんだと思う。
「はい、ありがとうございます。お名前はリコさん。生まれ年が——ええと、この年の生まれですと今16歳ということになるのですが……?」
よかった。年の記入はうまくいったみたいだ。
「はい、16歳です」
「……えー。リコさん? 冒険者に年齢の制限はありませんので嘘をつかなくても……。といいますか、虚偽の申告は罰則の対象に——」
「16歳なので」
「……」
アネットさんは再度チラッとソフィを見たのち、ひとつ息をつき、
「わかりました。こちらの情報で登録いたします。これからギルドカードを作らせますで、その間に冒険者ギルドの説明をいたしますね。少々お待ちください」
ニコっと笑顔を見せてから席を立って、記入用紙を持って近くの職員に話しかける。
……全っ然信じられてなーい!
というかこういう時のためのソフィじゃないの? なんで黙ってるわけ? ちょっとはフォローしてよ!
と、ソフィの方を伺うと——笑ってる! 声を出さないようにして笑ってるよ!? この人!
え、なに? この人、このやり取りを見て楽しむために来たわけ!? 私で遊ぶのはやめてよ。
……ん、まぁさすがにアネットさんが登録を拒否するようなことがあれば、助け舟をだしてくれたとは思うけど。一応はアネットさんがここまで所定の手続きを取ってくれてるのは、ソフィがいるからってのもあると思うし。でもムカつく!
記入用紙を他の職員に渡したアネットさんはすぐに戻ってきた。
「改めまして、私はここのギルド職員のアネットと申します。見ての通り受付をしております。以後よろしくお願いします」
「リコです。よろしくお願いします」
「では冒険者ギルドについてですが——」
大まかな話についてはソフィから聞いていた通りだったけど、初めて聞く内容もあった。
驚いたのは依頼達成の確認方法だ。
依頼を達成してギルドカードを提出すると、さっきアネットさんが使っていた金属の板、報告板によってギルド側で本当に達成されているかがわかるらしい。虚偽の報告をしてもそこで発覚してしまうそうだ。便利だ。日本でもその技術を取り入れたら犯罪も減るかも。
また、通常の依頼以外に指名依頼、緊急依頼というものがある。
指名依頼は名の通り依頼者が特定の冒険者を指名して依頼するもので、指名された者以外は受注できない。もちろん指名されても依頼を受けるかは冒険者の自由だ。
緊急依頼は街に危険が迫るなどの非常事態のときに、ギルドが冒険者に招集をかけ対処にあたらせるというギルド主体で発行する依頼で、これは強制的。ただ滅多にあることじゃないし、招集されたとしてもCランク以上の冒険者とかになることが多いらしいので、私には当分関係ないかな。
というか話が長い!
最初だから仕方ないのかもしれないけど、細かい規則とか全部は覚えきれないよ。
とりあえずは「依頼を受けて達成して報告」。これだけ押さえておけばオッケーでしょ。
「——説明は以上です。最後に、こちらがリコさんのギルドカードになります。ギルドカードは身分証にもなりますし、依頼の受注・報告にも必要になりますので失くさないようにお気をつけください」
アネットさんがカードを渡してくれた。いつの間にできあがっていたのか。ランクの記載はF。
でも身分証か。これでようやくこの世界の市民権を得た気分だよ。
「それでは規則をお守りいただき、健全な冒険者生活をお送りください! ……でも無茶はしないでくださいね。冒険者は一歩間違えれば命を落としてしまう仕事なんですから」
と、いきなり今までの事務的な様子から心配するような不安そうな顔に変わって忠告してくる。どうやら説明中は仕事に徹していたみたいだ。
「依頼は危険なものや力仕事がほとんどですが、例えば近場の薬草収集などの依頼であればリコさんでもできるとは思いますので、自分にできそうな依頼を探して地道に頑張ってくださいね」
真剣に心配してくれているようなので一応頷いておく。
うーん、でも話を聞く限り魔物討伐が手っ取り早そうなんだよなぁ。
まぁまずは依頼を見てみないと始まらないか。
そしてソフィ、とりあえず笑うのをやめようか。声を抑えてもバレてるからね?




