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17. この子……なに? え、本当に、なに??(ソフィア視点)

前回より引き続きソフィア視点です。


「ソフィ!」


「…………はっ!?」


 リコの鋭い声で我に返る。

 回転の鈍る頭をどうにか動かして声を絞り出す。


「……あ、あれは、キングレオ、ね。……リコの言う通り、魔力を持った魔物よ……」


 キングレオは魔石を持つと言われているほどの魔物。魔石持ちの強さは、そこらの低ランクの魔物とは比べ物にならない。


 魔石を持つということは、魔力を持つとほぼ同義だ。つまり魔力を使って様々な現象を引き起こすことができる。原理は人間が魔法を使えることと大差はない。ただ一点、魔力の容量が桁違いだということを除けば。


 冒険者としてはクインレオまでなら狩りの対象とする者もいるが、キングレオを討伐しようとする者は恐らく皆無だろう。

 こんなのが街の近くにでも出没しようものなら、その街の全滅すらも想定されるほどの危機だ。


 リコにどうするのかと問われても、クインレオのときとは違って弱点も何も知らない。

 少なくとも私の知る限りでは、キングレオを倒したなんて話は聞いたことがないのだから。


 そのキングレオの背後からクインレオが姿を見せた。

 あのクインレオはさっき私たちを襲ってきた……。


「……ふふっ。さっきのクインレオ、どうやらあのキングレオのつがいだったみたいね」


 思わず笑いがでてしまう。

 一体どうすればよかったのよ。


 クインレオに襲われたときだって命からがらだった。

 最大限の力を駆使して、なんとか命だけは繋ぎとめたようなものだった。

 なのにそのせいでこうしてキングレオを呼んでくるなら、どうしたって私たちが生き残る術は無かったっていうの? そんなの虚しすぎるわ。


 でも心の中でなんと思おうと、キングレオはこれ以上待ってはくれなかった。

 咆哮したかと思うと、大きく開いた口を私に向ける。

 普通なら死を覚悟して目を瞑りでもする場面なのかもしれないけれど、恐怖で固まってしまったのか、私の瞼は最期まで視界を閉ざしてくれることはなかった。


 ぼんやりと瞳に映される現実を受け入れながらも、脳裏に浮かぶのはなぜかリコのことだった。

 私がいなくなって、リコはちゃんと仕事に就けるの? お金がなくて困らない? いや、そもそも街にたどり着けるのかしら。

 いやいや、私が死んだとしてもキングレオがリコだけを見逃すはずがない。私は何を不毛なことを考えているの。

 だいたい、死ぬ間際になってまで思うことが、会ったばかりのリコのことばかり? 今までもっとお世話になった人がたくさんいるでしょう?

 それもこれも目の前にリコがいるからかしら?



 ……え、どうして、リコが、私の、目の前、に??



「——、リコォォォォーッ!!!!」



 無色透明の暴力が私をかばったリコを襲った。

 恐らくこれが魔力攻撃。

 地面を見るとものすごい力でえぐられたような跡がキングレオから伸びている。

 リコがかばってくれたおかげか、私に衝撃は全くなかったが、こんなものを身体に受けた人間が生きていられるはずがない。

 私のせいでリコが……



 え?



 相変わらず目の前に立っている。

 私に背を向けているから顔は見えないけれど、両手を前に突き出した姿勢で無傷で立っているように見える。



「……リコ……?」



 声をかけても返事がない。

 それどころかピクリとも動かない。

 やっぱり死んで……?

 え、でもこれは。


「リコ!!」


「なに? ソフィ」


 リコがようやく振り向く。

 その顔にはなにやら不満げな雰囲気が漂っているものの、傷一つ見当たらない。


「……リコ、あなた……大丈夫なの?」


 既になにもかもに理解が追いついていないが、リコの無事だけは確かめなければならないと、なんとかそれだけの言葉を絞り出す。


 私の疑問を受けて、リコは自分の身体を確かめるように、足元を見たり、頭を触ったりし始めた。

 その動きにぎこちなさはなく、どうやら五体満足であるらしい。

 そんな奇妙な光景を視界に捉えながらも、頭ではぐるぐるととりとめのない思考が巡る。


 リコが無事ということは、キングレオってそんなに強くなかったの?

 いえ、そんなわけはないわ。それだとあの地面のえぐれ方は説明できない。

 だとしたらリコが防いだ?

 それこそ無理な話よ。魔力の攻撃なんて少なくとも同等以上の魔力を使った魔法で対抗しないと防げない。キングレオと同等の魔力を人間が持っているはずがない。

 だいたいリコは魔法すら使えないじゃない。

 じゃあリコはどうして——あっ——


「リコっ、危ないっ!」


 私が叫んだ時にはもう遅かった。

 リコの背後から迫ってきたキングレオが、リコの頭に勢いよく噛みつく。


「リコ!!」


 私は激しく後悔する。

 どうしてリコが無事かなんてあとで考えればいいことだった。

 あまりの出来事に理解が追いつかなくて、とるべき行動をとれなかった。

 そのせいで今度こそリコが——


 両腕をキングレオの口の中に突っ込んだ。

 自分の頭を口の中から引き抜くとキングレオを投げ飛ばした。


「……」


「……」


 自分でも思考がそこで完全に停止したことを自覚する。

 リコと目が合っても微動だにすることもできない。

 リコに声をかけられるまで、リコの行動をただただ眺めることしかできなかった。




「ええと、ソフィ——あぇ?」


 いつの間にか目の前にいたリコを思わず抱きしめてしまっていた。


「ソ、ソフィ?左腕の傷が開いちゃうよ?」


 バカなの? 今はそんなことどうでもいいでしょう?

 どうしてそんなに呑気なの? どうして無事なの? どうして私をかばったの? どうして、どうして、どうして——


「——バカリコっ! ど、どうして、あっ、あんなっ……」


 頭の中がぐちゃぐちゃでうまく言葉にならない。

 冷静でいられない。


「落ち着いて、ソフィ」


「——バカっ! なんで、私の前に、出てきたりしたのよっ。リ、リコが、し、死んじゃったと思ってっ。わ、私のせいでっ……」


 ようやく意味を持った言葉が出てくるも、それは幼児が癇癪を起こしたような、なんとも拙い感情をぶつけるだけの言葉だった。


 でもリコはあやすように私の背中を優しく叩きながら、困ったように言う。


「あー……。ごめん。なんか体が勝手に動いちゃって」


 ……なにそれ。

 自分の身体でしょう?

 こんなふうに他人をかばうために勝手に動くようじゃ、この先命がいくつあっても足りないわよ。

 本当にバカなんだから。


「……なによ、それ。本当にバカじゃない。……でも、生きててくれたから……許すわ」


 ……ようやく落ち着いてきたわ。

 リコと抱き合っていると、生きている実感でも湧いてくるのかしら。

 というか、年齢はともかくこんな小さな女の子に背中をポンポンされてるの恥ずかしいわね。


「ありがとう、リコ。もう大丈夫。取り乱してしまってごめんなさい」


 リコから離れて、努めて冷静に現状を整理しようとする。


 ええと、リコが——

 頭を嚙みちぎろうとしたキングレオを投げ飛ばした。

 投げ飛ばしたキングレオの首を撥ね飛ばした。多分風魔法で。

 それを見てクインレオが逃げ出した。


 思考が止まっていた間も、視界には収まっていたリコの異常な行動が思い起こされる。

 そしてキングレオの切断された死体だけが残っているという、今のこの有様だ。


 えー、どういう状況なのかしら。冷静に考えても分からないわね。

 目に映った光景の一つ一つ全てが非現実的過ぎて、頭が理解を拒否しているようだ。


 いえ、理解なんてしなくてもいいわ。

 今はこのあとどう動くのかを考えないといけないわね。




 もうすでに一生分驚いたと思っていたけど甘かった。

 その後もリコの異常さは留まることがなかった。


 なぜか魔法を使えるようになっていたり。

 その魔法が桁違いの威力だったり。

 『収納箱』まで使えたり。

 その『収納箱』にキングレオを仕舞うというあり得ないことをしたり。


 私の常識という常識がガラガラと崩れていく。

 でも、ここまでならギリギリまだなんとか耐えられたかもしれない。

 広い世界にはこんなことができる人もいるかもしれない、と。


 だけど私の腕を直してくれた治癒魔法。

 これだけは絶対に駄目よ。

 こんなのが他の人に知られたらリコはどんな扱いを受けるか分からない。

 権力者に囲われて軟禁される程度ならまだマシ、悪質な者なら拘束、監禁されるなんて当たり前にありそうだ。自由なんて望むべくもない。

 それほどにリコの治癒魔法はある意味で危険な能力だ。

 どんな種族であれ万人が求める価値の高い能力。

 強い攻撃魔法が使えたり、容量の大きな『収納箱』が使えたりすることも、もちろん必要な人にとっては喉から手が出るほどにほしい能力かもしれないけれど、あくまで必要な人にとっては、だ。

 その点、治癒魔法は別格。断言できるけれど、全ての人が必要とする能力ね。

 なにせ生きている以上は必ず怪我をするから。それが原因で二度と戻らない後遺症を負ったり、最悪死んでしまうこともある。なのに、リコが一人いてくれるだけで自分自身はもちろん家族、友達、仲間、果ては知り合いまでも、そんなことがなくなる。破格も破格だ。


 そしてもっと悪いことに、リコ自身がその価値を理解していない。

 なによ、『ソフィの腕を治しただけだけど』って! 呑気にもほどがあるわよ!


 なんとか自身の危険性に気がついてもらおうと、気がついたら色々まくし立てていた。余計なお世話なのは百も承知なんだけれど、言わずにはいられなかった。

 そんな中、リコは私の言葉を遮って告げてくる。


「ソフィの言う通り、私の魔法のことは他の人に知られないように気をつけるよ。少なくとも自分自身でこの世界を見極めるまで。それに私だって利用されるなんて絶対にごめんだしね。……心配してくれてありがと」


 はぁ……本当に分かってくれたのかしら。

 でも今はその言葉を信じるしかないわ。本当に気をつけなさいね。あなたが不幸になるところなんて絶対に見たくないんだから。




 ちなみに、これも後になって知ることだけれど、リコの『収納箱』も治癒魔法と同等かそれ以上に危険な性能をしていたわ。

 もう、この子は、ホント……。


ソフィア視点は一旦ここまでとなります。

次回からリコ視点の本編に戻ります。

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