16. 散々な日だわ(ソフィア視点)
今回と次回、ソフィア視点のお話になります。
本当におかしな女の子と出会ってしまった。
どう見ても小さな子供なのに一人で草原にいる。
なんの装備も持っていない。
服装に見覚えが全くない。
ここから近い街も知らない。
それどころか国の名前すら知らない。
魔法なんか概念さえも知らない。
傷の手当は的確で素早い。
きらめく漆黒の長髪。
吸い込まれそうな黒の瞳。
少し目つきが悪いのも愛嬌がある。
すごく可愛い。
一言で言ってしまうと、私の常識が一切通用しない子だった。
こんな状態にも関わらず、唯一言葉だけは通じるのは奇跡だと思える。
今日は散々な日だと思っていた。
一時的にパーティを組んだ仲間が最低の奴らで。
その仲間におかしな女の子と二人きりで草原に置いていかれて。
魔物が出るような場所じゃないのに、クインレオに襲われて大怪我して。
でもリコとの出会えたってだけで、この程度の不幸は全部チャラになるどころか、むしろこれまでの人生で最高の日だったと確信できるわ。
もっとも、こう思えるようになるのは、本当にずっとずっと後のことだけれどね。
クインレオをなんとか撃退して数刻歩いた後、少し休憩するという流れになった。
リコは意外に体力がある。
小さな可愛らしい女の子なのに。
ああ、16歳だったわね。今でも信じられないわ。
ただし話をしてみると、確かに受け答えはしっかりしているし、16歳と言われても納得できる。
知識が全く無いのは遠い故郷の環境が異なっていたからだという話だし。でも魔法のない国なんて本当にあるのかしら。
リコは私の話のことごとくに驚いたような表情を見せた。
その中でも特に興味があるのが魔法についてだったようで、なんと魔法を使いたいなどと言い出した。なんでも冒険者になりたいそうだ。
確かにお金が無いなら働く必要はあるでしょうけど、冒険者は無理よ。
魔法を使いたいって言って使えるようなら誰も苦労しない。そもそも16歳の今、使えていない時点で諦めた方がいい。
そう言って諭しても、リコが頷くことは無かった。
そして休憩というていで、リコに魔法を教えることになる。
はぁ、魔法は教えてと言われて教えられるものではないのだけれど。そんなことができるのなら私も苦労はしなかった。
案の定、リコは自分の魔力が分からないようだ。
自分の魔力を自分で認識できなければ魔法を使うことはできない。
そこに教えるも何もないのよね。
でもリコは諦めが悪かった。
「えぇー。あ、じゃあなにか魔法使ってみてくれない? そういえば魔法使うとき何か言ってたよね? あれを言えば私でも使えるってことはない?」
魔法を使える使えないに呪文は関係ない。私だって使おうと思えば呪文無しでも魔法は使える。威力はほとんどなくなるけれど。
ただ、やっぱりリコは納得できないようなので、仕方なく簡単な魔法を使ってみせることにする。
「『風よ』」
それを真似してリコが同じ呪文を唱えたけど、当然魔法は発動しない。
ショックを受けている様子のリコには悪いけど分かっていたことだ。
やっぱり冒険者は無理そうね。
そもそも仮に魔法が使えたとしたってこんな小さな女の子に冒険者なんて似合わない。
……私の紹介ということで、どうにか治癒院で働かせてもらえないか聞いてみようかしら。
いざとなったら領主様にも相談しましょうか。
「さ、そろそろ出発するわよ。今日中にもう少し進んでおきたいわ」
すでに日は傾き始めているが、暗くなるまではもう少し進めるだろう。
ぱぱっと片付けをして、街道の方へと向かう。
……あら? リコがついて来ない?
振り返ると、リコは街道とは逆の広がる草原の中に目を凝らしていた。
「どうしたの?」
問いかけても、リコは私の方を見ずに答える。
「……なにかが向こうから迫ってきてる感じがするんだけど」
「え? なにが? ……何も見えないわよ?」
私も動くものを探すように見渡してみるが、何も見当たらない。
「うん。見えないけどなにか迫ってきてる気配がしない?」
「……しないけど」
見えないけど? リコにも何も見えてはいないらしい。でも気配がするとか。
真後ろに人が立っていたりしたときに気配を感じることはあっても、視界にも入らないような遠くの気配なんて分かるわけがない。
もちろん私には何も感じられない。
「そろそろ行くわよ」
さすがにリコの気のせいだと思って、歩みを進めようとしたとき、
「あっ、あれ!」
リコが小さく声を上げた。
思わずリコの近くに駆け寄って、リコがさす指の先に目を凝らす。
確かに、なにかがいた。
この距離で見えるということはかなりの大きさ。
そして私たちのいる方面に向かってきているようだ。
「あれは……魔物かもしれないわね。レオ系かしら。……まだ距離があってわからないけど、かなり大きい……。っと、リコ! 気づかれる前に逃げるわよ!」
「う、うん!」
その魔物の通り道に私たちがたまたまいただけだったら、私たちが避ければ接触はしないはずだけれど。
まだ見つかっていないことを祈るしかないわね。
それにしても、リコは気配が迫ってきていると言っていたが、本当に魔物が迫ってきていた。どういうこと? そんなことが分かるなんてあり得るの?
どうしても気になって、走りながらではあるけれど声をかけてしまう。
「——それにしてもっ、よく気がついたわねっ、リコっ」
「うんっ。あの魔物? からすごく嫌な魔力を感じるのっ! 変なこと言ってるかもしれないけどっ」
「魔力っ? そんなわけ——」
自分以外の魔力が感じられるわけがない。
しかも魔法を使えないリコの言うことだから、尚更あてにならない。
でもそれによって魔物の接近を言い当てたことは事実だ。
「ソフィ、ダメ。やっぱり私たちのことを狙ってるっ。すぐ追いつかれるよ!」
その言葉に無意識に後ろを振り向く。
そして迫る魔物がどういうものか理解した瞬間に、自然と足が止まってしまっていた。
どうして!? なんで!? おかしい! あり得ない!
頭の中が意味のない言葉で埋め尽くされ、思考までも止まってしまったようだ。
でも私の視線だけはその魔物を捉えて離さず、現実を突きつけてくる。
巨大な体躯。
雄々しく広がるたてがみ。
圧倒的な威圧感。
夕暮れの日の光を浴びて、まるで燃え盛る黄金の魔物。
キングレオだ。
もちろん実際に見たことはないけれど分かってしまう。
人間一人二人でどうにかなる相手ではない。
今私たちに迫っているのは死そのものだった。
ソフィアのキャライメージをXにて公開しました!
X → https://x.com/doubloom0415




