15. 一家に一台、私?
明日の予定も簡単に確認して、そのあとはだらだらと雑談しながらまったりとお風呂を堪能した。
お風呂から上がって、タオルで体を拭いているときに、ふとドライヤーがないことに気がつく。
私の髪は無駄に長い。自然に乾くのを待つのはめんどくさいな。というかほぼ不可能だよ。
とりあえず服は着た。ソフィから貸してもらったやつだ。やっぱりぶかぶかだけど、あとは寝るだけだから問題ない。けど、髪がなぁ。
ソフィの髪も長いんだけど……。チラッとソフィの方を見ても、タオルで拭く以外になにかをする様子はない。
うーん、ドライヤーがないなら……代用するしかないよね。幸いこの世界には風魔法というものがある。
右手に魔力を集めてみる。それを弱めの風に変えて、ついでにその風が温かいイメージをしてみる。
あ、できた。ちゃんと温風だ。右手がドライヤーになった。
うんうん、やっぱりささっと乾かしてすぐ寝たいよね。
私が即席のドライヤーで髪を乾かしていると、ソフィが怪訝な顔で聞いてくる。
「リコ? なにしてるの?」
「髪を乾かしてるんだけど」
「?」
分かってくれていないようなので、ソフィに右手を向けてみる。
「きゃっ!? なにこれ……温かい風?」
「うん。これを髪にあてると早く乾くでしょ?」
「いや、そうかもしれないけど。貴重な魔力を髪を乾かすためだけに使うの?」
「だけって。髪が乾かなきゃ寝られないでしょ? お風呂からあがったらさっさと乾かしてすぐベッドに入りたい。大事なことじゃん。それに私魔力多いみたいだから心配ないよ」
「……はあ。あなたはそうだったわね。しかもこれ風と火の複合魔法じゃない。私には無理ね。しかも魔力の消費も大きそうだし」
炎をだしたりするのが基本的な火の魔法なんだけど、ものを温めるような魔法も火魔法に含まれるらしい。火魔法はこれまで使ってなかったけど、使えるみたいだね。まぁ火なんてイメージ簡単だし、使えて当たり前かもしれない。
また、あとから聞いた話だけど、違う属性の魔法を組み合わせて使う魔法を複合魔法っていうんだって。使うのが難しいらしいよ。
「ソフィの髪も私がやってあげるよ。ほら、そこ座って」
「ちょ、ちょっと」
ソフィが立ったままだと腕が疲れそうなので、椅子に無理やり座らせる。
そのまま背後に回って手櫛で髪をとかしながら乾かしてあげる。
「あ、これ気持ちいいわね」
それにしてもきれいな銀髪だな。
髪もそうだけどソフィはスタイルもいいし、顔もいい。おまけに超お人好しだ。さぞ男性にモテるんだろう。恋人もいるのかな?
言うまでもないけど、私には恋人なんかいなかったよ。いたことないよ。
「はい、終わりっ」
ソフィの髪を乾かし終える。
洗いたてなだけあって、出会ったときよりもサラサラできれいだ。
自分の髪を触りながらソフィがお礼を言ってくる。
「ありがとう。本当にもう乾いてるわ。便利ね」
「うん。私もすぐ乾かしちゃうね」
途中だった自分の髪もすぐに乾かし終える。
それから隣の洗濯場に向かった。
洗濯場は広い水場があり、大小多くの桶が置いてあった。そして天上の近くには紐がいくつも通してある。洗った後はそこで干すってことみたい。
やっぱり機械みたいなものはない。桶があるってことは手洗いかな。どうやってやるのかな。
「それじゃ洗っちゃいましょうか。あ、ちなみに宿に洗濯を任せる場合はそこに置いておくのよ」
ソフィが指さした部屋の角にはいくつかの袋が転がっている。
ほかの宿泊客のものだろうね。あの中に衣服が入ってるってことだね。
ソフィが桶に水をくみはじめるのを見て、私も隣で真似してみることにするのだった。
衣服の手洗いなんてほとんどしたことなかったけど、思ったより時間がかからず終わったよ。
この世界での洗濯も大丈夫そうかな。
「洗濯物はこの部屋に干してもいいんだけど。私はいつも自分の部屋に干しているわ」
そう言いながらソフィの手から洗い終わった衣服が消える。……ああ、はいはい、『収納箱』ね、『収納箱』。未だに慣れなくて、一々びっくりしてしまう。私も使えるのに。
それはそうと自分の部屋に干すのか。まぁ下着とかもあるからね。女の子なら当然かもしれない。私もそうしよう。
でも、ある程度水はしぼったけど、全自動洗濯機みたいに乾燥機能がついてるわけじゃないから、まだかなり濡れている。
これ明日までに乾くかな?
さっきのドライヤーをもう少し強くしてあてればすぐ乾くかも?
いや、そもそも水分をとばすだけなら……
ちょっと思いついたことがあったので、そのまま服を持って水場に戻る。
「リコ? 行くわよ?」
水魔法って魔力で水を作ったり、その水をとばしたり操ったりするらしいんだけど。魔力で水を操れるんだったら……。
洗いたての服を魔力で包んで、と。
こんな感じかな? 服の水分を抜きだすイメージ。
ばしゃあ。
「あっ」
「なにっ!?」
衣服から抜けた水分が、ばしゃあと音をたてて水場に流れていった。
これ、かなり水分抜けたんじゃないの?
……いや、完全に乾いてるよ。効果ありすぎじゃない?
「ちょっとリコ、なにしたの? 今の音は?」
「乾いた」
説明するよりも見せた方が早いと思って、すっかり乾いたジャージを渡してみる。
「乾いた……? え!? これさっき洗ったばかりの服よね!? どうして!?」
「えと、魔力で服の水を操って抜き取った?」
「……ごめん、意味が分からないわ」
これ以上説明のしようもないんだけど。
ソフィはできないのかな?
「んー、じゃあ乾燥魔法ってことで」
「……。聞いたこともないんだけど。非常識すぎるわ。ま、今までの含めて、リコに関しては深く考えるだけ無駄ね」
やれやれというように首を振りつつため息をつくソフィ。
私からしたら魔法が当たり前のように普及しているこの世界自体が非常識の塊だけど。
「よかったら、ソフィのも乾かそうか?」
「……じゃあ、お願いするわ」
『収納箱』から湿った衣服を取り出して渡してくる。
私は自分の服を『収納箱』にしまってから、ソフィの服にも乾燥魔法を使う。
「はい、できた」
「乾いてる……。あなた本当に便利な子ね。一家に一人ほしいくらいよ」
自分の服の状態を確かめながら、そんなことを言っている。
でも日本では乾燥機を使えば一瞬とまではいかなくても数十分で洗濯物は乾くし、髪を乾かすにもドライヤーがあればすぐだ。今思うとアレも魔法みたいなものだよね。科学ってすごいね。
そう考えると、自分が大したことをしているような気もしないよ。
「そう?」
「軽く言ってるけどね。リコの魔法は常識を変えるなものばかりなのよ。しかも恐らくリコ以外は使えない。悪いことは言わないから変なのに目をつけられたくなければ、他の人の前ではあんまりおかしな魔法使わないようにしなさいよ」
と言われても、何がおかしな魔法かわからないんだけど。ひとまず頷いておく。
それにしてもこの乾燥魔法があれば着替えの心配はしなくてよさそう。
ただ、一応の女の子としてはいつまでも着たきりすずめでいるわけにもいかない。せめて替えの下着とかはすぐにでもほしい。
ちなみに、髪を乾かすときもこの乾燥魔法使えるんじゃ……? ってふと考えたけど。もしかしたら、水分が抜けすぎて髪がパッサパサになるかも。それどころか、加減を間違えたら体の水分も抜き取っちゃって干からびちゃうかも!? なんて恐ろしい想像をしてしまった。
髪はドライヤーで十分だ。人体に試すのはやめておこう。
「それじゃ明日は8時くらいに出発するわよ。準備しておきなさいね」
部屋の前で別れる直前にソフィに念を押される。
「うん、わかった。おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
部屋に入って早速ベッドにダイブすると、たちまち眠気が襲ってきた。
今日はほとんど馬車に乗ってたし肉体的には疲れてないけど、精神的に疲れたみたい。
当然か。まだまだ初めてのことばっかりだもんね。
あー、柔らかいベッド最高。もう野営はしたくないな。
今日はパブロに会って、初めて馬車に乗って、冒険者になることを決めて……
無意識に今日あったことを思いだしているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていくのだった。
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