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14. 食事、お風呂、ベッド。この世の全てがここにあった

X(旧Twitter)始めました!

更新情報やキャラ紹介をポスト予定:@doubloom0415(https://x.com/doubloom0415)

チラッとでものぞいてくれると嬉しいです!


 しばらく歩くと賑やかな通りにでた。

 もうすぐ日が沈む時間だけど、人通りはそれなりに多いと思う。


 そこかしこに明かりが設置されているが、これは光石というものを利用しているらしい。消耗品だけど誰でも使えて、屋内の明かりもこの光石が使用されているんだとか。

 電気はないのかな。ないとすごく不便そうだけど。


 何気なく道行く人々を眺めながら歩いていると、その中にたまに妙な人がいるのに気がついた。

 獣のような耳やしっぽがついている人。耳がとんがっている人。私よりも小さいのに、どうみてもおじさんのような顔な人。

 ソフィの格好がただのコスプレじゃなかったところからすると、あの人たちもホンモノなんだろうな。

 まぁそれは追々わかってくるかな。


「ここよ」


 いつの間にか目的地に到着したみたいだ。

 宿屋だけあって周りの建物よりも大きい。三階建てかな?

 看板がついている。『宿屋 ピリーゼ』。


 私が初めて見る建物を観察していると、ソフィは慣れてるように扉を開けさっさと入ってしまった。


 カランと音が鳴る。


「いらっしゃいませ!!」


 元気な声が聞こえたけど、その声の主の姿が見えない。


 正面には受付とかするようなカウンターがあるけど、そこには誰も座っていなかった。

 人がいるのは左手に見える広い空間だ。いくつもテーブルが置いてあり、食事をしている人がいる。なかなか明るくて賑やかな様子だ。なるほど、一階が食堂になっているんだね。

 さきほどの声は食堂の奥から聞こえたようだ。


 すぐにエプロン姿の小さな女の子がパタパタと走ってくる。

 見るからに活発そうな子だ。10歳くらいかな?


「お待たせしましたー。お客様、お泊りですか——ってソフィさん!? お帰りなさい!」


「ただいま、タニア。夕食の忙しい時間にごめんなさいね」


 近づいてきた女の子の頭をソフィが撫でる。


「あっちは今はお母さんだけで大丈夫です。それよりソフィさんが無事戻ってきてくれてよかったです!  今回は何泊に——あ! すみませんでしたっ。お客様もお泊りですか?」


 ソフィとのやり取りをぼーっと見ていた私にようやく気がついたようで、ソフィから離れて私の方を見る。


「ええと……」


 ソフィに何泊するかとか聞いてなかった。

 しかも自分のお金で泊まるわけではないから、私に決定権もない。


「タニア、その子はリコよ。私の友人といったところね。私と一緒にここに泊まるわ」


 私が言いよどんでいると、ソフィが簡単に説明してくれた。


「ソフィさんのお友達さんですか! 私はここピリーゼの一人娘でタニアっていいます。お客様のお世話は私がさせていただきます!」


「私はリコ。よろしくね、タニア」


「はいっ。よろしくお願いします、リコさん!」


 元気な子だ。そしてこの笑顔と一生懸命さ。接客向きの子だなぁ。この子の接客で嫌な気分になる客はきっといないよ。


「それじゃ一人部屋を二つ。とりあえず十日間でお願いできるかしら。いつも通り朝食と夕食つきで」


「はいっ、大丈夫です! あ、今日のお夕食はどうしますか?」


「今からでも間に合うならいただきたいけど、大丈夫?」


「もちろんです! お父さんに言ってきます!」


 パタパタと食堂の奥に消えていく。食堂の奥が厨房になっているのかな。

 タニアがいなくなるとソフィが話しかけてくる。


「かわいい子でしょう? ここの看板娘よ。あの子が接客全般をしているのよ」


「ちっちゃいのにすごいね。まだ入ったばっかりだけど、いい宿みたいだね」


「でしょう? でもまだまだよ。タニアのお父さんの料理もとっても美味しいんだから」


 そう聞くと急にお腹が空いているのを思い出してしまう。

 思えば、この世界に来て美味しい料理を食べてない。というか、口にしたのは携行食だけだ。あれは料理とは呼べないよ。

 つまりこれから食べるのがこの世界で初めての料理だ。どんなのだろ。俄然楽しみになってきた。


「お待たせしました! すぐできるそうなので座ってお待ちください! お荷物もないようなので、お部屋にはお食事の後でご案内しますね」


「わかったわ、ありがとうね。はい、それじゃお金、二人分の十日分ね」


「はい、確かにいただきました! ありがとうございます!」


 横目で十日分の宿代を確認しておくのを忘れない。

 これは借りたお金なんだから。絶対にすぐ返すんだから。


「ではあちらのお席へどうぞっ」


 二人がけの席に通される。

 しばらくしてタニアが料理を運んできてくれた。


 主食はパンのようだ。そしてサラダと果物。温かいスープ。メインディッシュにお肉を焼いたもの。

 うん、すごく美味しそう。見た目から食欲をそそってくるよ。


「「いただきます」」


 ソフィと同時に言って食べ始める。

 どれも美味しい。やっぱり食事は温かいものに限るね。


 それにしても、元の世界でも外国とかの文化の違うところだと、料理が口にあわなかったりするらしいけど。私はこの世界の食事も美味しく食べられそうだ。

 それに意外なことに、食材は日本で一般的に使われているものと大して変わらないみたいだった。


 久しぶりの美味しい食事で、ソフィとしゃべったりすることもなくぺろっと平らげてしまった。


「はー、美味しかったー」


「口に合ってよかったわ。タニアのお父さんが全部作ってくださってるのよ」


「そうなんだ。料理ができるってすごいよね。ソフィは料理とかするの?」


「……前はしてたけれど、最近は全然ね。リコは——」


「しない」


「……そう」


 ソフィが言いきる前に、きっぱりと否定する。

 日本は便利だったからね。一人暮らしで料理なんかしなかったよ。


 ソフィもちょうど食べ終わったころに、タニアがやってきたので私から声をかけてみる。


「ごちそうさま。とっても美味しかったよ」


「ありがとうございますっ。お父さんに伝えておきます! ではお部屋の準備もできていますのでこれをどうぞ」


 鍵を私たちに渡してくれる。

 鍵には部屋番号がついていた。


「それとリコさんは初めてなので、お食事やお風呂の説明をしたいのですが——」


「あぁ、それなら私が言っておくから大丈夫よ。タニアも忙しいでしょう?」


「本当ですか! ありがとうございます! ではご自由にごゆっくりとおくつろぎくださいっ」


 ペコリとお辞儀をするとまた奥へと走っていった。

 本当に忙しそうだな。この世界では子供も働くのは当たり前なのかな?


「さて、さっそくお風呂に——といきたいところだけど、一回部屋に行ってもいいかしら? 私、ピリーゼに少し荷物を預かってもらっているの。着替えを取りに行きたいわ——ってリコは……」


 そうだった。着替えもないんだ。

 野営ならともかくベッドで寝るならさすがに着替えたい。そして今着ているのも洗いたい。


「もう時間的に服屋も閉まっているわね……。そうね、今日のところは私の服を適当に貸してあげるわ。サイズ大きいと思うけど我慢してね。明日にでもお店で買ってくるといいわ」


 着替えを貸してくれるのは、正直すごく助かる。


「ありがと。それとこの服も洗いたいんだけどどうすればいい?」


「洗濯は宿でやってくれるわ。でも急ぎの人は洗濯場でいつでも自分でできるようになってるわよ。宿は朝にまとめて洗濯するみたいだからね」


 なんと。宿が洗濯までしてくれるのか。

 ご飯が出てきて、掃除もしてくれて、しかも洗濯もしてくれる。確かにお金さえあればここで暮らせるね。ソフィが家を持たないのも納得かも。


「洗濯場はお風呂の隣だから、あとで案内するわ。まず部屋に行きましょう」


 部屋は二階だった。ソフィの隣の部屋だ。

 ソフィが自分の部屋に入ってしまったので、することもないけど私も自分の部屋に入ってみる。

 小さな部屋だ。といっても一人部屋だから当たり前だ。設置されているのはベッドと机に椅子、クローゼットくらいだ。でもベッドがあるなら十分すぎる。

 それと今更だけど部屋の中まで土足で入ってきている。全体的にビジネスホテルっぽいな。ちなみに私も一人でビジネスホテルくらい泊ったことあるよ。


「リコ、行くわよ」


 廊下から声をかけられたので、部屋からでる。

 そこには手ぶらのソフィが立っていた。……手ぶら? 着替えは?

 そう思うままに疑問を口にしようとした瞬間に思い出す。

 『収納箱』だ。そういえば私も使えるんだったよ、そんな有能魔法。忘れてた。

 

 お風呂に向けて歩きながらソフィが宿について説明してくれる。


「お風呂は一階よ。食堂とは反対側ね。夜の12時まではいつでも入れるわ。それと食事の時間も決まっているの。朝食は6時から8時まで、夕食は5時から7時までね」


「わかった。ちなみに今は何時なの?」


「さっき午後の7の鐘が鳴っていたから、7時過ぎってところね」


 そういえば鐘が何回か鳴っていたな。一時間ごとに鳴るのかな? 話を聞く限り、時間の数え方も同じっぽいね。わかりやすくていいな。

 でも時計のようなものは見ていないので、もしかしたら存在しないのかもしれない。


「あと、洗濯を希望する場合は、洗濯場の洗濯物置きに袋に入れて夜のうちにおいておくこと。ま、下着とかは自分で洗濯する人が多いわね。……っとここが洗濯場よ。隣がお風呂ね」


「じゃあ、お風呂から上がったら私は今着てるもの自分で洗濯するよ」


 宿が洗濯をしてくれるのは嬉しいけど、できれば朝までに乾かして明日着れるようにしたい。ソフィが服を貸してくれるかもしれないが、サイズ的に動きにくいかもしれないし。


「そう。私も自分の服は自分で洗うから一緒にしましょう」


 ソフィは自分で洗濯する派みたいだ。よかった。全自動洗濯機があるわけじゃないだろうし、洗濯のやり方を教えてもらおう。


 今は洗濯場には入らずにお風呂に続く扉を開ける。ここは脱衣所だね。


 というか……何気なく流れでここまできちゃったけど、ソフィと一緒にお風呂入るってこと? もちろん私は友達とお風呂に入ったことなんてない。

 ちなみに魔力反応的に、今お風呂には誰もいないみたいだ。


「はい、タオル。ってリコ、なにぼーっとしてるのよ? 先に入ってるわよ?」


 いつの間にかソフィは服を脱ぎ終えていて、私にタオルを渡すと浴場へと消えていってしまった。どうやらタオルは脱衣所に置いてあるのを使ってもいいみたいだ。


 そうだ。いつまでもこうしてるわけにもいかない。ソフィとは既に一夜を共にした仲だし、今更だ。だいたいお風呂にはずっと入りたかったし、ここで引き返せるわけもない。


 腹をくくり、服を脱ぎ去りお風呂へと足を踏み入れる。


 浴場はそんなに大きくはなかった。体を洗うための洗い場?が三か所。湯舟も三人入るともういっぱいだろう。洗い場のひとつにソフィが腰かけている。

 どうやら蛇口をひねったらシャワーがでるというわけでもなさそう。ぱっと見で私には使い方がわからない。ソフィの隣に座り尋ねてみる。


「ソフィ、これってどうやって使うの?」


「そこのレバーを引くとお湯がでてくるわよ」


 言いながらソフィは自分の前のレバーを引いて桶にお湯をためている。

 私もそれに倣ってみる。おお、ちゃんとでてきた。ポンプみたいなものでお湯をくみ上げてるのかな。でも水じゃなくてお湯なのはどういう仕組みなんだろう。


「あと体を洗うときはそれを使うといいわ。嫌いな人もいるから使わなくてもいいけど」


 液体の入ったボトルを指さす。

 そんなソフィは既に全身泡に包まれていた。

 つまりボディソープか。もちろん使わせてもらう。


 全身洗ってお湯で流す。うん、さっぱり。


「はー、やっぱりお風呂はいいわねぇ」


 二人並んで湯舟につかるとソフィがそんなことを言い出す。

 完全に同感だ。日本にいたときはシャワーで済ませることもあったけど、疲れているときにはやっぱりお風呂にゆっくり浸かって疲れを癒していた。この世界にもお風呂という文化があって本当に良かったよ。できれば毎日入りたい。


 でもまだ他の人とお風呂で裸同士ってのは抵抗があるかも。

 ソフィは全く気にしてなさそうだけど。


「それで、リコ。明日はどうするの? 冒険者ギルドに登録に行くなら私も一緒に行くわよ? 街を案内してもいいけど」


「うん、ギルドに行くつもりだよ。街も見て回りたいけど、先に生活できるだけのお金がほしいかな。っていうか、ありがたいけど私についてこなくても大丈夫だよ。ソフィも自分のやることがあるでしょ?」


 ギルドの場所もわからないし、冒険者の仕組みも話に聞いただけだ。ついてきてくれるなら本当に助かるけど、私の事情でソフィを縛るわけにもいかない。


 でもソフィは首を横に振った。


「私もギルドに用があるからね。そのついでよ」


 本当? ソフィはお人好しだから疑わしい。


「用って?」


「依頼達成の報告よ。今回はナルサヤ方面の魔物討伐をしてきたから。本当は今日帰ってからすぐ行くべきなんだけど、夕方は受付が混むのよ。だから明日に回したってわけ。私も疲れちゃったし、それに報告の期限はまだ先だしね」


 どうやら用があるのは本当みたい。


「じゃあ案内よろしくお願いするよ」


「それにリコ一人で行かせても、ただの迷子と思われて保護者を探されるのがオチよ。冒険者の登録に来たって言っても話が進まなさそうじゃない」


 やっぱり私が心配なのが理由の大部分じゃないの? 全くこの保護者は……。

 まぁいいか。それで話がスムーズに進むならなによりだよ。


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