12. 16歳にして就職先を決めてみた
途中でお昼ご飯のための休憩をはさみつつ、平和に馬車は進んでいく。
ちなみにパブロもまともな食料は持ってなかったから、またアレを食べたよ。ちょっともううんざりだよ。
でも、これで最後になると思う。どうやらこのペースでいくと、日が落ちる前には街に着けそうだって。
野営もしなくてよさそうだね。
「ねぇ、ソフィ。冒険者ギルドの調査報告って何? というかそもそもギルドって?」
さっきパブロがそんなことを言っていた。
調査報告が上がるまでは街道を使わない方がいいって。
ふと気になったので、ソフィに聞いてみる。
「私が冒険者だっていうのは話したわよね? そういう冒険者が所属しているのが冒険者ギルドで——」
ソフィはすごく詳しく説明してくれた。
冒険者ギルドは冒険者と依頼人の仲介役らしい。依頼を募って冒険者に斡旋するのが基本の仕事だ。
しかしそれとは別に、特定地域の魔物分布や危険度の計測などもギルドの仕事なんだそうだ。それによって人々が安全に街道を使用したり、予め危険な場所を知るといったことが可能になる。だから特定地域の生態や出現した魔物の異常に気づいたら、冒険者はギルドに報告する義務があるという。それを受けてギルドは調査の依頼を発行する。そして正確な危険度の把握をするそうだ。
「——だから今回のことも、私の仲間がギルドに報告して依頼が発行されてるころだと思うわ。この街道付近にクインレオが出没したことなんてなかったしね。……あら? というかあの人たち、襲ってきたのがクインレオだって気づいてたかしら……?」
「え、じゃあキングレオのことも報告しなきゃなの?」
「もちろん。信じられないようなことだけど、死体を見せれば認めるしかないでしょうね」
「……ソフィが倒したことにしてくれるんだよね?」
「はあ!? なんでよ、嫌に決まってるでしょう! また出たときに倒してほしいなんて言われたらどうするのよ!」
「いやいやいや! ソフィが言ったんだよ!? 私の魔法のことを他人に知られないように気をつけろって! それなのに、私がこれ倒しましたってキングレオを出すわけ!?」
「……あ」
あ、ってなに!? あ、って!
なにも考えてなかったの?
「だいたい売るつもりで持って帰ってきたんでしょ? なんて言って出すつもりだったの? 売ることができなければ、ソフィだってお金もらえないんだよ?」
「え、お金って?」
「だからキングレオを売ってもらえるお金。貴重な素材だから大金になるって言ってなかった?」
「どうしてそのお金を私がもらうのよ。リコが倒したんだからリコのお金に決まってるでしょう? それにリコ、お金ないんだからちょうどいいじゃない」
「……え? は?」
本当に不思議そうにするソフィを見て、思わず絶句してしまう。
え、ちょっと待って。じゃあこの人、自分が受け取るつもりもないのに、売ってお金にするためにキングレオをどうやって持ち帰ろうかってうんうん唸ってたわけ?
……私がお金ないのを知ってたから?
……はぁ……本当にこの人はまったく、どれだけお人好しなの?
「……ソフィ。とりあえずキングレオを売るのはやめとくよ。キングレオを出しちゃったら、今の時点じゃどうやっても言い訳のしようがないと思うから」
「それはそうだけど。でもリコお金ないんでしょう? どうするの?」
「——私は冒険者になるよ。それでお金稼ぐから大丈夫」
「え。……それは——それはそれで目立ちそうね。こんなお子様冒険者なんて見たことないわ」
お子様は余計だよ。
「でもほかの仕事もこの見た目じゃ難しいんでしょ? なら冒険者しかないんじゃない? なんか魔法も使えるようになったしね」
それに固定の職場に縛られるわけでもないっぽいし、自由に生きていけそうだ。
かなり私に合っている気がする。
「……確かにあれだけ強ければ十分すぎるわね。ただ、どんな依頼を受けるかにもよるけど、冒険者は基本的に危険な仕事よ。いくら魔法が使えるっていっても、ちゃんと気をつけるのよ?」
ソフィは私の親か!
でも一応、親からの許可もでたみたいだ。
「わかってるよ。それとキングレオのことだけど、ギルドに報告しないってありかな? いくら売らなくても、倒したって報告したら意味ないでしょ?」
「それは……ま、大丈夫かしらね。目撃だけして報告しないってのは他の人が危険にさらされるからマズいけど、倒したならもう危険はないしね」
よし。それじゃとりあえずは冒険者でもしながら生活してみようかな。ただ、どうも私みたいなのは見た目からして珍しいらしいから、変に目立たないように気をつけないとね。
でも案外ソフィが大げさなだけで同じような人もいるかもしれない。なんにしても自分の目で見てみないとだ。
そういえば、冒険者になると決めたはいいけど、具体的にどんなことするのか全然知らないや。
とにかく魔物を倒せばいいのかな。
「それでソフィ、冒険者って具体的になにするの?」
「リコ、あなたね……。はぁ、そうよね、あなた何も知らなかったのよね。そうね、冒険者はギルドから依頼を受けるってことはさっきも話したけど——」
呆れたような視線を向けられたけど、ソフィは丁寧に教えてくれた。
でも話が長かったのでまとめてみる。
まず冒険者は全員冒険者ギルドに所属している。
冒険者ギルドは国をまたいで世界中に存在していて、どこでも同じ統一された制度をとっている。
冒険者はA~Fにランク付けされる。Cランクで一人前といわれる。DからCに上がれない者は多い。
Fランクから始まり依頼を達成していくことでランクを上げることができる。ランクが上がる条件としては、規定回数の依頼をこなす、もしくはギルド判断で上げる場合もある。
依頼の種類は魔物退治、素材収集、生態調査、護衛などなど幅広い。要するになんでも屋。その中で自分に合った依頼を自分で選ぶ。ただどれをとっても、基本的に強くないと務まらないので冒険者には男が多い。
冒険者はパーティを組んでいる場合が多く、人数は3~4人程度が主流。けどソフィは固定のパーティは組んでいないらしい。
「ちなみにソフィのランクは?」
「私? Cよ。一応ね」
言いながらカードを渡してきた。
ソフィの名前とともに、大きく「C」と記載されている。
「これは?」
「ギルドカードよ。ギルドに登録すると発行されるわ。身分証みたいなものね。それがないと依頼も受けられないわよ」
へー。身分証ね。
もう一度カードに目を落とすと、他にもなにか数字が書かれていることに気がつく。身分証ってことはこの数字は……
「ねぇ、これってソフィの生まれた年?」
「そうよ」
ふむふむ。さすがに元の世界と同じ暦ではないみたい。ソフィは18歳っていってたから、もし私も生まれた年を聞かれたら、この数字の2年後を言っておけばいいかな?
とりあえずギルドカードには名前とランクと生まれた年が記載されるのか。
「でも話を聞く限りだと、Cランクってかなり高いランクじゃないの? ソフィ、すごいね」
「んー……実は最近ランクを上げられちゃったのよね……。でも正直、私はまだCランクの器じゃないわよ。実力も経験も不足しているし、肩書が重たいわ。Bランクの依頼なんて受けられるわけもないから、依頼の幅が増えたわけでもないし」
そう言ってソフィはため息をつく。
自分のランクよりも一つ高いランクの依頼まで受けることができるそうだ。制度上、ソフィがCランクならBランクの依頼も受けられることになるけど。やっぱり上のランクの依頼は難しいのかな?
「そうなんだ。ランクが高いってのも苦労するんだね」
「他人事みたいに言ってるけど、あなたならCくらいすぐよ。というかキングレオ単独討伐なんて言ったらB以上は確実じゃないかしら」
「まぁそれは公言するつもりはないからね。地道にFランクから頑張るよ」
私は自由に生きられるだけのお金が稼げればそれでいい。
高ランクになって、有名になって、他人に頼られて……なんて絶対めんどくさいだけだよ。




