11. ツンデレは可愛い女の子がやってこそだよね
ガタガタガタガタ……
街道を馬車が進む。
御者台にパブロ、少し後方に離れて荷台に私とソフィが座っている。
おお、これはいいね。歩くより速いし、座っているだけで運んでくれる。
ただちょっとお尻が痛いかな。結構振動が伝わってくる。椅子があるわけじゃないから、荷台の床に直に座ってるしね。
でも歩きより楽だし、このくらいは平気だよ。
まぁさすがに速度も乗り心地も元の世界の自動車とは比べられないな。
それよりも、一つ気になっていたことをソフィに尋ねてみる。
「ねぇ、パブロって魔法使えるのかな?」
「え? パブロが魔法? 使えないわよ、多分。どうして?」
「いや、なんとなくだけど……」
そうだよね。使えないんだろうなとは思ってたけど、じゃあ一体これは——?
ソフィが御者台のパブロに声をかける。
「ちょっとパブロー? あなたって魔法使えたっけ?」
「あぁん!? なんだてめえ自分が使えるからってケンカ売ってんのか!? 使えねえよ、バーカっ!」
「あらそう。わかったわ」
「はぁ!? なんなんだよ、お前——」
まだパブロがなにか言ってるが、ソフィはどこ吹く風で私に向き直った。
「使えないって」
「……みたいだね」
私にもソフィがケンカを売ってるようにしか見えなかったけど。
これが二人のコミュニケーションの形なんだろう。そういうことにしておこう。
それはともかく、それならこれはどういうことなんだろ。
パブロから魔力の反応がある。さっき馬車の接近に気がついたのは、パブロの魔力を感じ取ったからだ。
魔法を使えるソフィから魔力を感じるのは分かるんだけど、使えないはずのパブロからも?
もっと言うなら本当にごくわずかだが、馬車を引っ張っている馬からも感じる。
もしかして魔力はみんな持っているものってこと?
「なにか気になることでもあったの?」
ソフィが聞いてくるけど、そもそもソフィからしたら他の人の魔力を感じるということ自体あり得ないことらしいし、今はまだおかしなこと言う必要もないかな。私も半信半疑だし。
「んー。なんでもないよ」
「そう?」
少し引っかかってるみたいだけど、これ以上は聞いてこないみたい。
もうちょっと確認してからソフィには話したいね。
そこに御者台で一人でぶつぶつ言い続けていたパブロから声がかかる。
「はぁ……ったく。……それで、リコ? 乗り心地はよくねえだろ? わりいな、荷運び用の馬車だからそんな上等なもんじゃねえんだ」
名指しで私に声をかけてきた。
まぁソフィとはさっきのやり取りの後だしね。気を使うのもバカらしいとか思っててもおかしくない。
「いや、十分快適だよ。歩くより速いし、楽だし。でも荷運び用の馬車のわりに荷物が積まれてないみたいなんだけど」
今積まれている荷物といったら私とソフィくらいだ。売り物はないように見える。……いや、ソフィは高値で売れそうだけど、そういうことではなくて。
「ああ、ナルサヤで商売してきた帰りだからな。全部売れちまったからカラなわけだ」
「そうなんだ。……で、ナルサヤって……ああ、ソフィがいた村だっけ?」
「そうよ。この街道を逆方向に行くと着くわ。ま、小さな村よ」
ソフィが補足してくれる。
ソフィはその村からガザアラスに向かう途中だったって言ってたね。
「それで、パブロ? あなた相変わらずナルサヤでも商売してるわけ?」
「別に俺がどこで仕事しようが自由だろうが」
「それはそうでしょうけど。ナルサヤに行ったって利益なんてでないでしょうに。ほかの行商人だってナルサヤで商売なんてしないでしょう?」
「なーに言ってんだ。ほかのやつらがやってないからこそ、儲けのチャンスなんじゃねえか。しかもこの街道なら魔物がでることもねえから護衛も必要ねえしよ。経費も浮いて丸儲けだぜ?」
「……はぁ。ま、あなたがそう言うならいいわ」
へー?
タダでこの馬車に乗せてもらえた時は商売っ気がないなんて思ったけど、なかなか商魂たくましいっぽいね。よく考えて商売してるみたいだ。
そんな風に感心してると、呆れ顔のソフィが私にだけ聞こえるようにささやいてくる。
「あのね、今の全部あいつの嘘だからね」
「……は? なにが?」
「儲けがどうのっていってたやつ。ナルサヤで商売しても儲けは出ないわ。それくらいわからないとでも思ってるのかしら」
「????」
「ええとね、行商ってのは基本的に行きと帰りでそれぞれ商売するの。例えばガザアラスからナルサヤに行くとしたら、まずガザアラスで仕入れをしてそれをナルサヤで売る。そして帰りは逆にナルサヤで仕入れをしてガザアラスに戻って商品をさばく。これなら効率がいいでしょう? 馬の餌代とかの往復の費用だってかかるんだからね」
おお、なるほど。
頭の上に疑問符を浮かべた私にソフィが丁寧に説明してくれる。
「で、パブロはまさに今回ナルサヤで商売をしてきた帰りらしいのだけど。見ての通り荷台は空っぽでしょう? つまりナルサヤで仕入れをしてないの。正確にはできない、ね。言いにくいけど、ナルサヤで仕入れられるようなものはガザアラスじゃ全く売れないのよ。だからこれで帰りの片道分の費用は完全にマイナスってわけね。それにね———」
お、おう……。まだ終わってないのか。
「ナルサヤは小さい村だからね。村自体にお金がそんなにないの。だから売値を高額にすることもできない。そのあたりの販売額、往復費用とかも考慮すると儲けなんてでないわ。いくらガザアラスで安く仕入れたとしても、よくてトントンてところじゃないかしら。というか実際、ナルサヤの人も私がガザアラスから来たってわかると、パブロの話をしてくれたわ。パブロさんが来てくれて助かってるけど、赤字になっていないか心配だって。ちなみにナルサヤに限らず、パブロはそんな商売ばっかりしてるわ」
思わずパブロの方を見てしまう。
つまり慈善行為みたいなもの? 感謝されてるみたいだし、いいことだとは思うけど、利益を追求する商人としてやることではないと思う。
なるほど、最初にソフィが言っていたように変わり者だね。
「え、でもじゃあ、さっきの商人のお手本みたいな強気の発言って……?」
「知らないわよ。いつもあんな調子なのよ。パブロが儲けを求めない商売をしてることを知ってる人はいっぱいいるけど、その理由を知る人はいないみたいね。本人に聞いてみたら?」
いや、誰も知らないようなことをぽっと出の私が聞いたところで答えてくれないと思う。
それよりこれは……ひょっとして、パブロって——ツンデレなのでは!?
——お、俺の儲けのために行商に来てやってるだけで、べっ、別にあなたたちのためじゃないんだから! かっ、勘違いしないでよね!?——って感じでナルサヤで商売してるに違いない!
……おえ。ちょっと吐き気がしてきた。こんな誰も得をしない想像は永遠に封印しなくては。
でもパブロはツンデレだ。間違いない。
「そういや、ソフィア。さっきの話の続きだけどよ。護衛がどうとか馬が逃げたとか言ってたろ? なにがあったか詳しく聞かせてくれよ。そもそもこの街道で護衛なんて必要ねえだろ?」
私が失礼な妄想をしているとは露知らず、パブロが今度はソフィに話しかける。
「私もそう思ってたわよ。でもガザアラスまで行くなら馬車に乗せてほしいって頼まれてね。どうせついでなんだから普通に乗せてあげればいいのに、それにかこつけてリーダーが護衛料とか言ってお金を取っちゃったのよ。本当にあんなやつらと組むんじゃなかったわ。それでいつの間にか護衛依頼になったのよ」
「へえ。そういえばお前、固定のパーティ組んでないんだったな。今回の仕事仲間はハズレだったってわけだ。で、馬が逃げたってのは?」
「あなたがさっき言った通りよ。魔物が出たの。それで馬がびっくりしちゃったみたいね。ま、それを思うと護衛にした意味はあったのかもしれないわね、皮肉にも」
「魔物ぉ? ったく、この街道でかよ。なにが出たんだ?」
「クインレオ」
「——ハ、ハァ!? クインレオだあ!?」
ぐりんとパブロの頭が回ってソフィと目を合わせる。
「ええ」
ソフィは真顔で頷く。
パブロはそんなソフィの顔をたっぷり数秒まじまじと見つめたあと、やっと振り向いた顔を戻した。
よかった。前は見て運転してほしいよ。
「はぁー……、信じられねえぜ。この街道で魔物がでるってこと自体滅多にねえのに、よりにもよってクインレオぉ? それで? そんなのが何もせず、そのまま帰っていったってこともねえだろ? 魔法が使えるソフィア様はそんな化け物を一人で倒せるくらい強えってのか?」
「なんかムカつく言い方ね……。一人で倒すなんて無理に決まってるでしょ。ただ——」
一度言葉を切って自分の左腕に視線を落としたあと私の方をチラッと見てくる。
クインレオのときは私は何もしていないけど。
「ただ……ええと、たまたま、私の魔法が弱点にあたってね。そしたら運よく逃げていってくれたのよ。あれは本当に運がよかったとしかいいようがないわね、ええ」
ソフィの歯切れが悪い。
左腕に重傷を負ったとも言えないんだろう。なにせ今となっては怪我の痕跡すらないんだから。
でもソフィが言ったことに嘘はない。
「そうか。なんにしても死ななくてよかったな。見たところ怪我もねえようだし。にしても、それじゃあ冒険者ギルドの調査報告が上がるまでは、しばらくこの街道も使わない方がいいな」
「そうした方が賢明ね」
どうやらキングレオの話までするつもりはないようだ。
まぁクインレオでこんなに驚いているなら、キングレオを倒したって言っても信じてもらえないかもしれない。
私もあえて自分から話すつもりはないよ。力は隠しておくようにソフィにも言われてるし。




