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人形姫の物語  作者: 夕鈴
番外編 人形姫の昔話
7/11

人形姫の反抗期

「姫様、どうか、お話ください」


突然話さなくなったアル。

ルアほどではなくても、表情豊かだったアルは声を掛けられても、静かに見つめ、微笑むだけになった。

言葉はもちろん、表情や仕草でも意図を伝えないアルに周囲は戸惑い、受け入れられなかった者ばかり。


「お姉様が話したくないなら話さなくていいじゃない。王族の心を理解し動くのが臣下じゃないの?」

「アル姫様は話さなくても、意思疎通はしてくださる。汲み取れないのは己の力不足。未来の女王陛下に歩み寄りを求めるのは傲慢だと思うが」


アルの変化に戸惑うこともなく、すぐに順応したのは二人だけ。

傍目には全て同じ反応を返すアルと意思疎通が一番できているのは妹姫のルア。

次点は姫殿下ではなく気安く姫様と呼ぶことが許されている公爵家嫡男のセオドア。


「優しいお姉様のために私が代弁してあげる」


愛らしく微笑むルアにアルに話すことを求める貴族達は困惑した顔を向ける。

アルはどんな言葉をなげかけられても、優しく微笑んでいるだけ。

王族に向けられるべきではない不敬な言葉をかけられても表情は変わらない。

最近はアルの褒め称えられていた美しい金髪も、色素が抜けてしまっている。

女王によく似た小顔で整った顔立ちは、丸みをもった顔になり、大きな瞳は小さく見えるようになった。

妹のルアは女王によく似た美しい成長を遂げているのに、アルはどんどんふくよかになり、平凡になっていく。


「美しいことは武器になる」


美女によって落とされた国にアルを連れていったことをセオドアは後悔していた。

アルの美しさの活かし方を教えるつもりが、アルは正反対の道を選んだ。

美への興味を持ったアルにセオドアは快く協力したが、アルの目的には気付いていなかった。

アルは美の研究をして、ルアを美しく磨いた。


「アルの努力は認めるが、方向性が違うだろうが」


呆れているセオドアにアルは優しく微笑むだけで何も言わない。

アルがセオドアの言葉を流す姿勢にセオドアは大きくため息をつく。


「お姉様は美しいわ。ぽっちゃりされたから抱き心地最高!!」


ルアは満面の笑みでアルに抱き着き、アルはルアを優しく抱きしめ髪を撫でる。


「ルア姫様が美しくなることに不満はありません。でも、」


変身魔法を覚えたアルは外見を少しずつ変えはじめた。

美しく着飾る令嬢達に見劣りする平凡な容姿に見えるように。

魔法で変化させていると気づかれないように注意しながら。

アルの努力の方向性はセオドアの望むものとは違うが、常に変身魔法を使っているため魔力のコントロールの精度は上がっていた。

アルは成長している。

時と共に話さなくなったアルを受け入れる者が少しづつ現れはじめたが、まだまだ受け入れられない者の方が多い。

その一人は母親である女王である。

母親は様々な作戦を仕掛けるがアルが話したことは一度もない。

その一つがイーサンとのお茶会である。



「母上から姫様のお茶の相手をするように言われたけど、全然楽しくない」

「社交デビュー前の姫様にお近づきになれるのはありがたいことだよ。私的な席だから多少の無礼は許されている。どうしても嫌なら相談すればいい」


セオドアは母親に溺愛され育てられているせいか貴族らしくない性格に育っている弟のイーサンに優しく言葉をかけて出かけてきた。

貴族らしく計算高い者なら姫達と近付く機会を与えられれば喜ぶだろう。

爵位を継がない次男ならさらに。

セオドアの目に映った4歳の双子姫と7歳のイーサンのお茶会は貴族のお茶会ではありえないほどの無法地帯である。

楽しそうなルアと遊んでばかりいるイーサン。

イーサンは放置しているアルに甘い菓子を献上するとアルは微笑みながら受け取る。

アルはイーサンが妹と遊びはじめると、ルアさえも食べない甘すぎる菓子を砕いて鳥の餌にしてしまう。

鳥を見つめていたアルの視線が突然ルア達のいない方向に注がれる。


「うちの弟は俺に似ていないだろう?」


物陰に隠れて観察していたセオドアはアルに見つかったことに気付きアルに近づいていく。

アルは魔法でお茶を淹れて、セオドアの前に置く。

セオドアはカップを持ち、弟の席に座る。

セオドアから見ればこのお茶会は自由に遊ぶ子供と見守る保護者のような光景。


「ルア姫様が楽しんでいるから黙っているのか。まぁ、平和ってことか」


アルとはできない過激な遊びをルアが楽しんでいるのでお茶会を面倒に思っているイーサンの態度にアルをはじめ大人達は何も意思表示しない。

友人を持たない姫のために女王の友人の公爵夫人の次男と過ごす時間がいつの間にか設けられるようになった。

イーサンが選ばれたのは双子姫達と年の近い令息達の中で最も高位な公爵家の出身であり、魔力も武術も優秀な成績だから。

嫡男ではないイーサンが姫に見初められれば、という公爵夫人の思惑に気付いているのはこのお茶会の参加者ではアルだけである。


「イーサンも才能はあるんだけどな」


公爵家の跡取りは優秀すぎるといわれるセオドア。

イーサンに求められる及第点は嫡男であるセオドアほど高くないので、セオドアほど厳しい教育を受けていない。

その立場はアルとルアにも似ている。

背負うものの違いによる差は仕方がないことである。

イーサンは才能に恵まれているので努力しなくても、年相応の貴族として必要な及第点がとれてしまう。

もし、セオドアのように磨かれれば、神童といわれていたであろう。

鳥に餌をあげおえたアルは優しい瞳で遊んでいるルア達を見つめる。


「才能があっても、伸ばすことがいいとは限らないか。アルも俺も魔法の才能に恵まれているから、人より少ない努力で及第点を取れる。でもその分面倒なこともたくさん多いからなぁ」


セオドアの言葉にアルはゆっくりと首を横に振る。

アルが覚えた新しい魔法は多くの者に歓迎されている。

王国で最年少記録保持者となったが、セオドアはそれがいいこととは思えない。


「成長途中なんだから無理はするなよ」


セオドアの気遣う言葉にアルは頷く。


「人は誰しも弱くていい。そんな世界をつくりたいな」


昔は子供騙しで口にした言葉を今のセオドアは切に願っている。

才能があるゆえに、どんどん抱えるものが増えていく小さなお姫様。

人の期待は欲のように加減を知らず、上限もない。

突然アルが立ち上がり、転移魔法で出かけようとするのでセオドアが腕を掴む。

首を傾げるアルをセオドアが睨むとアルは頷く。

睨んでいるセオドアにアルは微笑みかけ、手を握り転移魔法を使う。

光りに包まれた二人が転移したのは庭園の隅。

アルは木の上に潜む男を魔法で拘束する。

警備の兵が気づく前に、不審者をアルが捕縛するのはよくある光景である。

セオドアは幼い姫より劣る騎士達を呼び、冷たい声音で命令し不審者を預ける。

狼狽える騎士に気遣うことなく、セオドアは微笑んでいるアルを抱き上げ移動する。

不審者の捕縛でアルの貴重な自由時間は終わり。

これからアルはセオドアとのお勉強の時間である。


****



セオドアの目の前にはルアから贈られた刺繍入りのハンカチを見つめているアルがいる。


「刺繍を学ぶ時間を作るか?」


アルのスケジュール管理はセオドアも携わっている。

アルは首をゆっくりと横に振る。


「趣味ややりたいことのための時間調整なら歓迎する」


セオドアの言葉にアルは首を横に振る。


「アルはまだ子供だ。アルの弱点はほとんどが経験不足によるものだから、いずれ、いずれじゃ遅いって、君は高みを急ぎ足で駆け上がりすぎなんだよ」


ため息をつくセオドアが重ねる言葉を聞いたアルから微笑みが消える。

真剣な瞳でアルはセオドアを睨む。

セオドアが本音で話すときはアルも素直な反応を返すと気づいてから、セオドアはアルへの本音を隠さなくなった。


「人が多く、騒がしい場所だと集中しにくいのは当然だ。集中力が乱れれば、魔法の発動も遅くなる。アルの使う魔法は難易度が高いものばかりだから、場所によって発動できなくても恥じることじゃない。ほとんどの者はアルの使う魔法を使えない」


アルが一番多く使うのは転移魔法。

不審者を捕縛するときは、アルは魔法で相手の感覚を麻痺させ、抵抗されないように相手の魔法を封じてから捕縛する。いくつもの魔法を同時に使うことは難易度が高く、できる者は少ない。

アルが日常生活をおくるために使う魔法は難易度が低いが、王国のために王族として使う魔法は難易度の高いものばかり。


「王族は守られる立場だから、そこまで強さを求める必要はないが」


アルはセオドアの言葉を首を横に振り拒む。


「アルが王族の義務として学んでいること以外はほとんど男が学ぶことばかりだが…」


アルは貴族令嬢が学ぶ男を喜ばせる技術に興味を示さない。

刺繍も貴族令嬢の嗜みの一つで、恋する異性に刺繍入りのものを贈るのが流行している。

アルはマナーやダンスは学んでも刺繍は学ばない。

時間があるなら魔法と武術を学ぶことに力を入れている。

セオドアは武術を学びたいアルにまだ早いと言った時、アルは変身の魔法を使い外見を変え騎士見習いの訓練に混ざっていた。

いつの間にか元暗殺者の王配に師事して正攻法以外のものも学んでいる。



「姫殿下!!よろしいですか!?」


粗々しく扉を叩く音と切羽詰まった声にアルはセオドアを睨むのをやめて微笑みながら頷く。


「どうぞ」


セオドアが入出許可を出すと血まみれの少年が運ばれてきた。


「やめれば?女王陛下もほとんど使われない。パフォーマンスとしての魔法をアルが使う必要はない」


嫌そうな顔のセオドアの言葉にアルは首を横に振りゆっくりと椅子から立ち上がる。

床に寝かされた血だらけの少年の前にアルが膝を折る。

訓練のための手合わせで瀕死の重傷を負った見習い騎士の額にアルが手を置くと見習い騎士の傷が消えていく。

アルは固く目を閉じ、体を襲う痛みに震える。

ゆっくりと目を開けたアルは見習い騎士の傷が全部自分の体に移せたか確認する。

顔色の良くなった騎士を見て、アルは唇を噛みしめて自分の体の傷を治す。

真っ赤な血に染まったドレス姿のアルの体が傾いたのでセオドアは抱き寄せ床に崩れ落ちるる前に支える。

セオドアは血で汚れた自分達の服と床を魔法で綺麗にした。

気を失ったアルをソファに寝かせ、セオドアは驚いている見習い騎士の少年に微笑む。


「記憶を消すよ。助かったんだからいいだろう?」


セオドアが少年の頭に手を伸ばすと、少年は振り払った。


「言いません。だから記憶を消さないで」


治癒魔法の原理は調べればわかることである。

人が操れるのは自分の運命と命だけである。

他者の傷を自分に移すことはできても、他者の体を治すことは神の領域である。

命の恩人のアルに忠誠を捧げ、盲目的に仕えるならそればそれでいいかと必死に縋る少年への考えを改めるセオドア。


「二度目はないから覚えておいて」


セオドアは冷たい物言いでアルの体を上着で覆い隠し、抱き上げ部屋を出ていく。

治癒魔法を覚えたばかりで痛みへの耐性はないアルが倒れたのは仕方のないこと。

アルが家族に弱い姿を見せたくないことを知っているセオドアは隠し通路を使いアルの部屋を目指す。


「一人で背負わず、人を使えばいい。天才のくせに、不器用すぎる。治癒魔法の最年少記録なんて誇れるものじゃない。治癒魔法を施されるのは栄誉ではなく、恥だろうが」


小さなお姫様の治癒魔法を頼りにする騎士は王族の近衛騎士には選ばれない。

守るべき王族の力に縋る騎士を王家は信用しない。



「嫌なら自分の口で言いなさい」


話さないアルへの教育はどんどん過酷になっていく。どんな難題もアルは静かに頷き、片付けていく。

口頭で命じられるよりも、書類にわかりやすくまとめ、命じるアルを支持する声もある。

セオドアには思いどおりにならない娘に女王が癇癪を起こしているように映っている。

アルはルアへは慈愛に満ちた瞳を向けるが、両親へは感情を宿さない瞳で礼節を尽くしている。

他人の傷を娘の体に移し、治癒させる魔法を安易に使わせる女王。

王配は女王を支えることが第一優先なので、娘の優先順位は低い。

騎士の選定方法などいくらでもあるのに、苦痛を伴う方法を選ぶ親に子供が心を閉ざしても当然である。

親子喧嘩に関わるなと父に命じられているセオドアにできることは少ない。

アルがゆっくり休めるように家族を遠ざけるように仕組むくらいである。

ベッドで眠るアルは輝かしい金髪と華奢な体の美少女である。


「平凡な顔の魔法に優れた賢いだけのお姫様。魔法に優れ、賢いことがどれだけ凄いことなのかわかっている者はどれだけいるんだろうか。アルが難なくすることは、他の者にはたやすくできないことばかりなのにな」


アルは美しく成長しているが、その姿を知るのは一部の者だけである。

セオドアの弟はアルに惹かれているが、アルは気付いていない。

可哀想なお姫様の呪いを解く王子を女王は待っているが、アルは可哀想なお姫様ではない。


「でも、出逢いはあってもいいか。アルの僕が増えるのは悪いことじゃない」


人の悪い笑みを浮かべるセオドアの呟きは眠るアルには届かない。

アルが起きていたら寒気に襲われただろうが、深い眠りについているおかげでアルは師匠の悪巧みに気付かなかった。


***


社交デビューを終えて、公務を任されるアルの補佐にセオドアが選ばれた。

宰相の息子でアルの師匠という肩書ではなく、ルア以外で一番アルと意思疎通ができることが大きかった。

セオドアはアルが読んでいる書類を取り上げた。


「根を詰めすぎだ。今日の勉強も執務もやらなくていいから一人でお忍びしておいで。防御魔法はかけておくよ。たまには一人で風にあたるのも、気分が変わるかもな。おすすめは…」


アルのスケジュールを管理しているセオドアの言葉にアルは頷く。

セオドアにいわれるまま転移したアルはしばらくして縛り上げられた男と共に転移魔法で帰ってきた。


「お帰り。もっと遊んできてよかったのに」


微笑んでいるアルがセオドアに両手を伸ばす。

セオドアはアルの前に跪く。

アルはセオドアと額を合わせて、目を閉じて魔法を使う。

同じく目を閉じたセオドアの頭の中に映像が流れてくる。

言葉を口にしていた頃のアルは念話しかできなかったが、成長したアルは念話を使わないかわりに記憶の共有ができるほどに成長した。

アルの記憶がセオドアの頭の中に流れていく。




アルがセオドアに勧められた通り、美しい建築物が自慢の魔法を持たない王族が統治する国を訪れた。


「やめてくれ!!やめて!!」

「殺してしまえ!!」


美しい王宮や建物の造形美を楽しむのを邪魔する物騒な声が響いている。

様々な展示物が並ぶ広場では人が群がり、公開裁判が行われていた。

物騒な声は裁判を傍聴するために集まった民達のもの。

高台に用意された豪華な椅子には煌びやかな衣装で着飾った王族達。

丸い顔で小さな瞳に分厚い唇のぽっちゃりした王と王によく似た姫達が座っている。

王は不機嫌な顔で罪人を咎める。王の横ではぼっちゃりとした姫が丸い顔から涙を流して泣いている。


「姫を悲しませた男を生かしておけん」


セオドアはあまりの醜い光景にアルに気分転換を勧めた場所が悪かったことについて心の中で謝罪した。


「お待ちください。隊長は命令に従っただけです。反乱軍は全員殺すように命じたのは陛下です!!それなのに、こんな判決おかしい」


青年の叫ぶ声が響く。


「黙れ。陛下の命に逆らうな」

「隊長!!」

「責任をとるのは俺だ。お前を道連れなどごめんだ」


縛られているのは反乱軍の鎮圧を命じられた将軍。

反乱軍の中に姫の恋人がおり、姫の恋人を殺し悲しませたことで処刑を命じられていた。

将軍を慕う騎士達が泣き叫び、将軍は部下まで巻き込まないように宥めている。


「殺すなら私にくださいませ」


もう一人の姫が手を上げた。

処刑するなら自分の奴隷にしたいと微笑む姫の言葉に将軍の顔が一瞬歪んだ。


「騎士として国に命を捧げます」


セオドアはあまりのくだらなさに言葉を失う。

国王は将軍を処刑するつもりはない。

将軍にフラれたのに、将軍を諦められない姫の恋を叶える茶番。

自分の意思で国のために尽くすことを選んだ将軍の体が突然炎に包まれ、姫が悲鳴を上げた。


「消せ!!消すんじゃ!!」


狼狽える王族。

将軍の体が煤となり、アルの額が離れた。


「悪かった。今日は祭りのはずだったんだ。アルの好きな物も屋台に並ぶから気分転換になるだろうと」


謝るセオドアにアルは微笑んで頷いた。


「まぁ、情報収集になったか。欲に目が眩み、家臣を罰した王族が統治する国は反乱が起き、荒れるだろう。うちの国境の警備を強化するか。でも芸術家達は引き入れたい、あとは俺がやるから、今日はもう好きに出かけていい」


アルは幻覚で民衆を騙し、茶番に巻き込まれた将軍を保護して帰国した。

無言のアルとセオドアのやりとりに縛られている将軍は困惑した目を向けている。

アルは困惑している将軍に微笑みかけ、目の前に金貨の詰まった袋を置いて転移魔法で消えた。

困惑している将軍の縄をセオドアが解く。


「この金で好きにしろだと」

「は?」

「姫様の幻影魔法を見破れる者はほとんどいない。姫様が助けた証拠がないから、貴方が話さなければなにも問題はない」

「なんで」

「さぁな。貴方がどう生きようと俺達は関与しない。姫様に害を与えないならだけど。外まで送るよ」



セオドアが戸惑う将軍を送ろうとすると書類を持ったローブ姿のアルが現れた。

アルは将軍の前に書類を置き、将軍の手を握り目を閉じる。

将軍の体にあった傷が全て消えた。

驚いてアルを見つめる将軍にアルは微笑んだまま一度だけ頭を優しく撫でた。


「言葉を覚えるまでうちで賓客として面倒みるよ。亡命するかはそのあと決めればいい。それでいいだろう?」


成長したアルは痛みへの耐性がついたので、痛くても姿勢を崩すことはない。

治癒魔法で自分の傷を治したアルはセオドアの言葉に頷き、また消えた。

アルは王族の欲に振り回され、理不尽な目にあったものを拾ってくる癖がある。

保護して、体の傷を治し、自由に過ごせるように金貨を渡す。

アルが渡す金貨は慰謝料として元凶の王族の隠し資産を探しあて、渡されている。

アルは国民から収められた税は国民のため以外には使わない。

セオドアもアルが国庫に手を出すことはないと知っているので金貨の出どころを調べはしない。

アルが自由になるように心を配った者はアルの予想を裏切り、アルに心を奪われ僕となってしまうことがほとんどである。

アルが外見を平凡に見えるようにしても、アルの行動は人の心を惹きつける。

特に醜いものに見慣れた者には、美しく映る。

アルは自国の貴族ではなく、他国の曲者達の心を奪う。



「どんな王子様が頑ななお姫様の心を手に入れるのか」


セオドアは親のような心境でアルを見守る。

天才だけど不器用な未来の女王には、信頼できる臣下が必要である。

絶望した真っ黒な世界に差し込んだ小さな光。

色褪せた金髪の小さな少女の持つ眩しさに気付けたのはほんの一握りの者だけである。

光の眩しさに気付いても、眩しさの根源をみることは難しい。

小さな少女の心に触れることができる者を見つけるのもなかなか難しいことである。

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