第一話
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます……」
4月、ついに始まる高校生活。
よーし今日から高校生だ。三年間楽しむぞー!ってことはなくさっさと帰ってゲームしたいしか頭にはなかった。
長々と続く先生の話。
早く終わってくれないかなーと欠伸をする。
ぼーっとしてると後ろから男子の話し声が聞こえる。
「なぁ!あの人可愛くね?」
「ほんとだ。どこ中なんだろ?」
「俺あの子と同じ中学だけど話してんの見たことないぜ。」
「え?じゃあどうすんの?」
「なんかスケッチブックを使うらしい。」
「…は?なんか…変わった子なんだな…」
そんな会話が聞こえてきた。
まぁ女子が苦手な俺には縁のない話だな。
あー早く入学式終わらないかなー。
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なんか…すごい形相で固まってる人がいる。
高校生活が始まり数日後、俺は昼飯を買いに購買に来ていた。
売られてるパンを目の前に店員さんに何を買うのか聞かれているのだろうが、びしっと固まり動かない。
購買のお姉さんもこちらをちらちらと見て目で助けを訴える。
いや俺にどうしろと…?
これ俺が動かないとずっとこのままだよな…。
覚悟決めるか。
俺は一つ大きく深呼吸して、一歩踏み出す。彼女のすぐ隣まで近づいて、横から声を掛けた。
「木下さん、だよね…?パンを買いに来たの?」
彼女の名前は木下さん――関わったことがあるわけでもないし、下の名前までは知らない。
ただ多分入学式で後ろの男子が喋っていた子はこの子のことだと思う。
俺に気づいた木下さんは目だけをこちらに向けた。
そして俺に小さな紙を渡した。
「クリームパンとあんパンを一つ…。これを買えばいいのか?」
彼女はほんの少しだけ小さく頷いた。
「じゃあ彼女にクリームパンとあんパンを。俺にカレーパンとメロンパンください。」
やっと状況が動いたことにお姉さんもほっとして、俺たちからお金を受け取りパンを渡した。
もらったパンを持って、俺はそのまま回れ右――教室へと向かって歩き出した。早くしないと昼飯の時間が無くなっちまうからな。
「お前もさっさと教室戻ってパン食べろよ。授業遅刻するぞ」
俺の言葉を受けて、彼女はコクリと顔を上下に動かした。
この一連の出来事に対し、木下さんがどういう風に思ったのか、俺にはわからない。だって彼女は喋らないし。
でも女子を目の前にしていたのに気は楽だった。
喋らない木下さんは意外と俺にとってはいい相手かもしれない。