第56話 シヤの戦い。
「そうだその方向だ。シヤ、相手の位置と情報を送る。弟を抱えているのは大男だ。先に殿についた剣士から倒せ」
「了解マスター」
シヤは木々を気にする事なくスイスイと土の上を滑る。
驚異的な反応速度と言うより必死になっていてどこかに残るディーサンの記憶が無意識に手助けをしている感じだった。
数分前に家を飛び出したシヤはあっという間に会敵距離に迫る。
「マスター、相手の姿見せてくれるかな?」
「これだよ」
シヤの脳裏に4人組が歩いているのがわかる。Y字のように先頭を2人。真ん中に大男、そして殿が剣士だった。
シヤは大男の抱える弟の姿を見て怒りに支配されて「…ふぅ…ふぅ…」と息遣いが粗くなる。
「落ち着け、シヤなら余裕だ。不意打ちで剣士だけは確実に倒せ」
ミチトの言葉に「うおおおぉぉぉっ!!」と吠えながらシヤは飛び出すと剣士の背中にエクシィから贈られた剣を突き立てて殺すと剣を構える。
強襲で1人を失った人攫いは慌てた声を出す。
「何だ!?」
「敵?」
「アンチ兵?子供?」
目の前にはシヤ1人しかいない。
そして周りに人の気配はない。
シヤが睨みながら「その子を返せ!」と言うと1人の人攫いが「…あのガキ…前に攫わなかったか?」と言う。
「ああ、納品物だな」
「貴族様は逃したのか、まあまた納品して金せびろうぜ」
余裕を見せてニタニタと笑う人攫いを見て一瞬恐怖に飲まれるシヤだったがミチトの「シヤ!飲まれるな!まずは右のボウガン使いから殺せ!」と言う声に気持ちを戻して「はい!」と言った。
シヤは一気に距離を詰めてボウガン使いに斬り込むが踏み込みがどうしても甘い。
「重ねろ!ファイヤーボールも撃て!」
「はい!」
右手を前に出した所で「矢が来る!よけろ!後ろのやつは魔術師だ!アースボールが来るぞ!」と更に情報が入る。
シヤは一瞬後ろを見て魔術師の位置を確認すると左手を出して「うおおお!ファイヤーボール!」と言って両腕からファイヤーボールを放つとボウガン使いを焼き。魔術師のアースボールを焼き尽くした。
「な!?なんだこの術は…」
驚いて青くなる魔術師と大男。
「シヤ!よく聞け!エグゼの所の連中は二流以下だ!後はスードさんにも注意しておく。
皆子供の体型に合わせて教えてないんだ。
だから剣を振る時、拳を使うときはもう一歩踏み込め!」
この後で更に一歩踏み込んで振り抜いたシヤの剣は簡単に魔術師を切り裂く。
トロイを殺した時とは違い落ち着いているシヤは「あと…1人」と言って大男を見る。
大男は「ガキがぁぁ…」と言ってシヤを睨み返す。
「その子を返せ」
「…わかったよ!ほらよ!」
大男はディブロをシヤに投げつける。
剣を手放してディブロを抱き抱えるシヤに大男が拳を振り上げた。
「シヤ!拳が来る!よけろ!」
「くっ!」
ミチトの言葉が聞こえていない大男はシヤの超反応に驚き距離を取る。
「ちっ、反応しやがった。小僧、俺の手下になれよ?3人も殺されたから人手が足りねえ。そのガキも売らないで手下にしてやる」
「断る!」
「ガキはバカだな。そのガキを下ろせばソイツから殺す」
この言葉にシヤの動きは限定される。
手を塞がれてしまうと攻撃のパターンが限られてしまいシヤは困ってしまう。
「シヤ、足技だけで対応しろ」
「マスター?」
「術を授ける。術を体に流し込んで身体強化をするんだ。そしてファイヤーボールにしても手から撃つなんて考えは捨てるんだイメージだ」
そう言ったミチトはシヤにイブが身体強化をする姿を見せる。
イブの姿は今のような女性のモノではなく少女の姿で身の丈にあっていない大きな剣を「魔術!身体強化!」と言って持ち上げていた。
「術を体に?やってみます!魔術!身体強化!」
シヤは大男の振り抜いた拳に向かいカカト落としを決めて蹴り足には足を当てて吹き飛ばす。
ミチトは見ていてシヤが初めて使う身体強化に振り回されない事に驚いた。
「シヤ?君…身体強化をした事があるね?」
「多分…、ヨンゴとシーナを止める時にやった気がする」
シヤは必死になってヨンゴとシーナを止めた時の自分を思い出す。
きっとあの時無意識に身体強化をしていたのだと思う。
蹴り飛ばされた大男は「ガキがぁぁぁっ!!」と言って何とかシヤを捕まえようと駆けこんでくる。
その後もシヤの一方的な戦いは続いた。
ヨンゴとシーナを助けた経験からシヤの格闘技での対人戦闘はフラとライより格段に強くなって居た。
そして最後に「…奴の顔に当てる…。足から出ろファイヤーボール!」と言った掛け声で放たれたファイヤーボールが大男の顔を焼いた。
大男は何かを言いながら必死に顔の火を払うが火は消える事がない。
すぐに男は倒れて死んだ。
シヤは剣を拾ってしまうと弟を背負いなおす。
「身体強化は疲れるからすぐに解いて弟さんと帰っておいで。もうお兄さんから記憶は貰ったよ」
「マスター、本当に指示出ししながら記憶も貰ったの?」
シヤは驚きの声をあげるとミチトは「まあね。俺は器用貧乏だからね」と言って声が途切れた。
行きは駆けたが帰りは走る必要は無い。歩いていると背中のディブロが動く。
ディブロは周りを見回して自分がディーサン…シヤの背中に居る事に気付き、「あれ?サン兄ちゃん?」と話しかける。シヤは振り返らすに「起きたのか?」と聞く。
「うん。俺どうして…あ!人攫い」
「奴らなら倒した。帰るぞ」
この言葉にディブロが「兄ちゃん記憶戻ったの?」と聞くとシヤは「いや、まだだ。だが人攫いに気付いて来たんだ」と言う。
「そっか…、助けてくれてありがとう」
「いや、アイツらからブロを守れて良かったよ」
「兄ちゃん、前の兄ちゃんも良かったけど今の兄ちゃんも格好いいね」
「そうか。ありがとう」




