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第28話 シーシーと老人。

シヤがトロイとエグゼを討ちに行った姿を見たときにシーシーは堪らなく不安になった。


シヤを見送るのはこれで二度目。

帰りを待つ不安を思い出していても立っても居られずにその場から逃げるように動いた。


孤児院の方に行くとミチトの弟子と呼ばれた男が今も暴走の危険があった女の子の支配権の強奪をしてくれていて邪魔になるだろうからそこから北側に行く。


この街はトウテという名前だとヒノが教えてくれていた。

トウテの北側は武器屋や防具屋、工房に道具屋がある。

これはヤオが教えてくれていてその後で「天使様達は訓練はしても実戦の必要はありませんよぉぉっ!このヤオとヒノを筆頭に大人達でお守りしますからねぇぇっ!」と笑顔で言ってくれてヒノも「そうよ、怖い戦いなんてしなくていいのよ」と言ってくれた。

戦わなくていいと言われた事は正直嬉しかった。

やはりシローが居たら泣いて喜んだだろうなと思って少し嬉しい気持ちになる。


「おや?お嬢さん?どうしたんだい?」

そこに来たのはさっきの焚き火で話しかけてきた老人だった。

老人はシーシーが何かを言う前に「あ、話す必要はないけど退屈しのぎ感覚でこのお爺さんに付き合ってくれないかな?」と言う。シーシーは何も言わずに頷いた。


老人はわざと名乗らない。

それはシーシーに名前が無い前提での話。


「シヤ君が心配かな?」

この言葉にシーシーは頷く。


「そうなんだね。僕はミチト君がやり過ぎてこないか心配なんだよね」

この言葉にシーシーが驚いた顔で老人を見ると「ふふふ」と笑って「彼はねひっそりと静かに暮らしたいんだよ。それなのに皆を背負って皆の為に命を張るんだ。僕たちは遠く東の地で生贄にされる所をミチト君が力を奮ってくれたから今があるんだ。そしてミチト君は敵がこれ以上調子に乗らない為にもやり過ぎてくる。そうすれば怒りと恨みは彼に向かうし誰も周りを攻撃しようなんて思わなくなるからね」と説明をしてくれた。


「もし良かったら秘密にするから話してご覧」

この言葉を聞いて縋るような気持ちでシーシーは「…本当?」と聞いた。

老人は優しく微笑むと「勿論さ」と言う。


「僕なんてお爺さんだから皆ボケたと思って話なんて真面目に聞かないよ」

「…シヤ…。シヤを待つのが怖いの」


「うん。見送る人は皆心配だよね。リナちゃんもイブちゃんもライブちゃんもアクィちゃんやメロちゃんも皆心配しながらミチト君を待ってるよ」


シーシーには意味がわからない。

神のようなマスターの何を心配するんだろう?


「ふふ、力があっても常勝無敗でも待つ方は姿が見えない以上心配するんだよ」

そう言われて何となくわかるがやはりミチトは頼りになるマスターで神のような人。

きっと老人達の心配と自分の心配は違うと思ってしまう。


シーシーは気持ちを切り替えて不安な気持ちを吐露した。

「前に…エグゼの所からシヤはヨンゴとシーナと脱走して王都に居ると言われたマスターに助けてもらう為に行ったの…。心配だったけど3人ならきっと王都に行ってマスターに出会えて助けに来てもらえるって思っていたけど何日かして戻ったのはシヤだけで、捕まって戻っていて、シーナもヨンゴも死んでた。

さっきも私はライブさんに助けてもらってここで温かいご飯を貰った時、シヤももうすぐ来ると思っていたら死にかけていた…」


「だから待つのが怖いんだね」

「うん!わかってくれる?」


シーシーは話を聞いてくれるだけでも嬉しいのに理解までして貰えて嬉しい気持ちになる。

「わかるよ」と言った老人は「君も皆と殺せって言った?」とシーシーに聞く。

シーシーは皆と大声で言った殺せの声を思い出して「うん」と答える。


「僕も言ったよ。楽しかったよね。胸が熱くなった。本当にこの気持ちがシヤ君の力になる気がしたよ」

そう、シーシーも本当に声を出すたびにシヤの力になると思っていたので「私も」と言う。

そのシーシーを見た老人は嬉しそうな顔で「なら平気さ。僕と君の言葉が彼を守る」と言ってくれた。シーシーは本当にそんな気がしてしまう。


「まあシヤ君にばかり声援を送ったからミチト君はやり過ぎるかもね。まああの顔はまだまだやる顔だから覚悟して楽しまないとね」

「楽しむの?」


「そうさ、物語の英雄を見るように彼を見る。そして次に何をしでかすか予想するのが僕の楽しみ方だよ。お嬢さん、僕の予想ではそろそろミチト君がシヤ君と戻るよ。広場に戻るといい。僕は道具屋に居るから何かあったらいつでもおいでよ。逆に僕の話し相手になってくれたら嬉しいな」

「私とでも?」


「ああそうだよ。凄く素敵な時間をありがとう。またね」

老人は手を振って1人で歩いて行ってしまう。

シーシーにはこの距離感が有り難かった。



そして老人の予想通りミチトとシヤは戻ってきた。

シヤの剣は血に濡れていて震えていた。


駆け寄ったライブの質問に答えるシヤを見てトロイを討てた事、ミチトがエグゼを石にしてしまった事を聞いてあの性奉仕をさせられた地獄がようやく終わった気になった。


そして自分達と同じトロイの元術人間達は声を上げて喜びシヤとミチトに感謝を告げる。

これでシヤはようやく落ち着いた顔になった。


この後で孤児院にいたミチトの弟子、クラシは暴走しかけた術人間のマスターになって名前を付けたり大盛り上がりしている。

その間にシヤは宴会の前だが助かってから何も食べていない事を思い出して少し早い夕飯を食べる。

シーシーが盛り付けを手伝ってシイ達を連れてシヤの前に出るとシヤの横には51番が居た。


シーシーは食器を渡すと「シヤ、今いい?」と聞く。

シヤは食べ始めた手を止めずに「食べながらでもいいかな?なんでか手が止まらないんだ」と言って食べ続ける。


「うん。ここのご飯は本当に美味しいよね。本当、ヨンゴとシーナにも食べてもらいたかったよ」

シーシーはわざとシーナ達の名前を出してシヤの記憶を刺激する。


「本当だな。まだ記憶が所々抜けてて困ってるよ」

「シヤ、この子達と私とシヤでフォースロットだよ。同じ部屋で暮らしてた」


「…うん。顔はわかるんだ。見覚えもある。それなのに名前が思い出せない」

シヤの悲しげな言葉にシーシーは悪い事をしたと思ってしまう。

シイ達も「俺たちもごめん、何も思い出せないんだ」「だから謝らないでくれ、俺たちは仲間なんだ」「そうだよ、僕たちは助かったんだ、この子に聞いたけど45番…ヨンゴさんと47番…シーナさんとマスターの所を目指してくれたって聞いたよ」と言う。


シーシーが「皆の名前は?」と聞くがシヤはもう一度シイ達を見て「ごめん、覚えてない」と言う。

そしてシーシーを見ながら「君なら?」と聞くとシーシーは首を横に振って「…シヤが忘れたならもういいかなって思うんだ。でも番号聞いたら思い出すかな?あの子が41番、この子が42番、この子は43番、私は44番。シーナならなんて名前にすると思う?」と質問をした。


パンをかじったまま固まるシヤはシーシーを見て「よんよん?」と聞いた。


「ハズレ、シヤはセンスないね」

シーシーは悲しいながらも笑ってしまう。


外れて恥ずかしいシヤは「難しい」と言って渋い表情をするとシーシーも困り笑顔で「本当、シーナは凄かったんだよ」と言って51番の少女を見る。


「私も勝手に51番のその子の名前を考えたけどゴイしか思いつかなかったよ。シヤはなにかある?」


シヤはシーシーの言葉に合わせて横に座る51番の少女を見る。少女はニコニコとシヤに微笑みかける。

「………ダメだ。ゴイを聞いたらゴイにしかならない。皆は?」

この言葉にシイ達もゴイになってしまった。


シヤは横に座る51番に「すまない」と謝ると51番自身も「私もゴイしか出てこなくなっちゃった。でもゴイは男の人みたいだからちょっと…」と言って困り顔で笑う。


ここでシヤがシーシーに「すまない。46番は?」と聞いた。

「…最初に死んだよ。その事があってシヤ達は王都にマスターに助けを求めに向かったの」

シローは思い出せなくても46番で存在を察せられる。

この部分だけはナンバーで呼ばれていたことが良かったのかも知れないと思った。


「名前は?」

「シロー…。凄く優しい面持ちの男の子。詳しくは言わないけど超熱術で何も残らなかったよ」


「そうか。シロー、ヨンゴ、シーナ、俺たちは生きてマスターの…ミチト・スティエットのところに着いた。見ていてくれ。俺たちは生きる」

突然そう言ったシヤを見てシーシーは「シヤ…」と声をかける。


「シーナと約束をした。生きてと言われた。俺たちは生きるんだ」

この言葉にシーシーは「うん。皆で生きよう」と言う。


1人蚊帳の外の51番が「私…フィフスロットだけどいいかな?」と心配そうにシヤに聞く。

シヤは優しく頷くと「皆一緒だ。…あれ?49番と50番は?」と自分と51番の間に居るはずの2人を探して心配する。シーシーが「あっちでサードロット達と居るよ」と教えてあげるとシヤは「そうか、皆で幸せになろう」と言った。


そしてシーシーを見て「後は名前は頑張って思い出す」と言った。

シーシーは「うん。待ってるよ」と言って微笑んだ。

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