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02 会場入り

 ハンバーガーショップで小一時間ほど過ごしたのち、『KAMERIA』のメンバーは一丸となってイベント会場を目指すことになった。

 先月の『V8チェンソー』のライブ以来、ひと月半ぶりとなるライブハウス『千葉パルヴァン』だ。そちらの階段を下っていくと、受付のカウンターには若い女性スタッフが待ち受けていた。


「本日の出演者の方々ですか? 登録ユニット名と、年齢のわかる身分証の提示をお願いします」


「はーい! ウチらは、『KAMERIA』でーす!」


 意気揚々と宣言する町田アンナを筆頭に、『KAMERIA』の四名はそれぞれ学生証を提示してみせた。

 そちらの内容を確認してから、女性スタッフは一枚のプリント用紙と四枚のステッカーを差し出してくる。


「こちらのステッカーが、バックステージパスになります。出演者の方々は出入り自由ですが、公道にはたまらないように気をつけてください。間もなくイベントの説明会が始まりますので、客席ホールでお待ちくださいね」


「了解でーす!」と、町田アンナが率先してそれらの品を受け取った。彼女はライブハウスに出演の経験があるので、手慣れたものである。


「外から戻ってきたときは、このバックステージパスを見せるんだよー! 体のどこかに貼ってもいいけど、ウチはいつかエフェクターボードにでも貼りたいから、やめておこーっと!」


 そんな言葉を聞かされて、めぐるもバックステージパスとやらはポケットに忍ばせることにする。めぐるこそ、あとひとつでもエフェクターを購入したならば専用のケースを準備する必要が生じるのだった。


 そうしてホールの入り口をくぐってみると、そこにはすでに大勢の人々がひしめいている。しかもその大半が楽器を持参しているため、なかなかの混雑っぷりであった。


「ふむふむ。けっきょく今日の出演者は、十組きっかりになったんだねー。ウチらの出番は、真ん中あたりだってよー」


 と、町田アンナがプリント用紙を差し出してくる。そこに記載されていたのは、本日のタイムスケジュールであった。

 午後の一時から説明会、一時半に開場、二時にイベント開始、五時二十分からスペシャルゲストのライブショー、五時四十分に授賞式という時間割で、『KAMERIA』の出番は三時四十分とされていた。


「このスペシャルゲストのライブショーっていうのは、何なんですか?」


「なんか、司会進行でアイドルバンドが呼ばれてるらしいよー。どうせだったら、アイドルじゃないバンドを呼んでほしいところだよねー」


 どこに関係者がひそんでいるかもわからないため、町田アンナも普段よりは声をひそめている。

 めぐるは胸を高鳴らせながら、あらためてホールの様子を見回してみた。

 十代限定のイベントであるため、その場にたたずんでいるのはおおよそ同世代の少年少女たちだ。それらの過半数がギターやベースのケースを携えているだけで、めぐるはむやみに昂揚してしまう。そういえば、めぐるは同世代の人間がどれだけの演奏力を持っているのかも、まったくわきまえていなかったのだった。


 そして――そんな中、ひとりだけ異彩を放っている人物がいた。

 どう見ても小学生にしか見えない、女の子である。そのかたわらには、保護者と思しき年配の女性がたたずんでいた。


「あー、アレが噂の天才少女かぁ。なんか、例の動画サイトでピアノの弾き語り動画がバズってるらしいよ」


 和緒がそのように説明してくれたので、めぐるは「へえ」と応じてみせた。


「そういえば、弾き語りとかでもエントリーできるんだっけ。でも、あの子はまだ小学生みたいだけど……そんな年齢でもエントリーできるんだね」


「たしか小学四年生だったから、誕生日を迎えてればぎりぎり十代ってことになるんだろうね。SNSとかでは、優勝まちがいなしって騒がれてたよ」


 そのような言葉を聞かされても、やはりめぐるは「へえ」としか答えられなかった。この段に至っても、めぐるは演奏の出来に優劣をつけるという行為にピンときていなかったのだ。


(それに、わたしが好きなのはバンドサウンドなんだろうからなぁ。ピアノやギターの弾き語りっていうのは、今のところ興味を持てないや)


 めぐるがそのように考えている間に午後の一時となって、説明会が開始された。

 ドラムセットとアンプの並べられたステージに、三名の人間が登場する。いずれも立派な肩書きを持っていそうな大人たちである。


『みなさん、お疲れ様です。時間となりましたので、本日のイベントの説明会を開始いたします。わたしは本日の審査員長を務めさせていただきます、シバウラ楽器の南関東エリアマネージャーの鈴木と申します』


 恰幅のいい壮年の男性が、にこにこと笑いながらハンドマイクで語り始めた。もうひとりの男性は音楽雑誌の編集長、比較的若めの女性はかつてこちらのイベントをきっかけにプロデビューしたシンガーソングライターで、この三名が本日のイベントの審査員であるとのことであった。


『シバウラ楽器は若年層における音楽文化の復興という理念を掲げて、この「ニュー・ジェネレーション・カップ」を再開させることになりました。本日は、お若いみなさんの熱い演奏を期待しております。どうか普段の練習の成果を発揮して、全国大会への出場を目指してください』


 そんな挨拶の言葉が語られたのち、華やかな姿をした若い娘さんが四名ほど紹介される。これが本日の進行役にしてスペシャルゲスト、『オーバードライバーズ』なるアイドルバンドであった。


『はじめまして! 「オーバードライバーズ」のヴォーカル、ミッキーでーす!』


 立て続けに、『ナッチでーす!』『サーヤでーす!』『トモリンでーす!』という周波数の高い声音が響きわたる。いかにもアイドルらしい愛嬌にあふれた表情とたたずまいであった。


『それじゃあわたしたちから、今日の進行の説明をさせていただきますねー! 演奏時間は十分間、入れ替えの時間も十分間なので、時間厳守でお願いしまーす!』


『ステージでは機材の準備が整った人から、どんどん音を出してくださいねー! そうしたら、PAさんが外音の調整をしてくれますので!』


『機材トラブルで音が出なくなったりしたときは、すぐスタッフさんに声をかけてくださーい! 熟練のローディーさんが、すぐに何とかしてくれますよー!』


『演奏時間内であればMCも自由ですけど、演奏以外の内容は審査に反映されませーん! あと、客席へのダイブなんかは危険なので、禁止でーす!』


 四人の娘さんが代わる代わるで、そのように説明してくれる。彼女たちは学校の制服とメイド服を足して二で割ったような衣装であり、大きく動くたびにミニスカートの裾がひるがえっていた。ひとりだけ金髪のショートヘアーであったが、それ以外はいずれも黒髪のセミロングで、とりあえず容姿はアイドルそのものである。


『自分たちのひとつ前の出演者が演奏を開始したら、楽屋で待機してくださいねー! それ以外の時間は、なるべく楽屋を空けるようにしてくださーい!』


『それ以外の時間は何をしても自由ですけど、なるべく他の出演者の演奏を楽しみましょうねー!』


『あと、お客さんには外でたまらないように伝えておいてくださーい! トラブルが起きないように気をつけながら、みんなで今日のイベントを盛り上げていきましょー!』


『ではでは、楽屋のほうに機材を搬入しちゃってくださーい! なるべくバンドごとに、荷物をまとめてくださいねー! あと、貴重品の管理は自己責任でお願いしまーす!』


 そんな言葉に従って、出演者の一行は楽屋という場所に案内されることになった。

 しかしそちらは、せいぜい八帖ていどの空間である。それで部屋の真ん中にはテーブルやソファなどが置かれているため、十組分の機材を詰め込むとそれだけでいっぱいになってしまった。


「……こんなところに楽器を置き去りにして、大丈夫なんでしょうか?」


 めぐるが眉を下げながら耳打ちすると、町田アンナは「へーきへーき!」と陽気に笑った。


「普通のライブでは出演者も半分ぐらいだけど、狭苦しいことに変わりはないしさ! 音楽をやってる人間なら楽器の大切さを知ってるから、人の楽器を蹴飛ばしたりはしないはずだよー!」


 見知らぬ相手の善意に期待するというのは、めぐるにとって苦手な領分である。しかしこの際は、ライブハウスの流儀に従うしかないようであった。


「それじゃあ最初に出場するバンドの方々は、セッティングをお願いします」


 そんなスタッフの案内で、さっそく最初のバンドが準備を始めることになった。

 男女混合の、五人組のバンドである。ヴォーカルもサイドギターを担当する上にキーボードまで加えられており、ずいぶんステージが手狭であるように見えてしまった。


 客席のホールに舞い戻っためぐるは、メンバーたちとともにセッティングのさまを見守る。しかし、五つの楽器がわちゃわちゃと鳴らされて、演奏力の程度もあまり把握できなかった。とりあえず、ベースはピック弾きであり、ゴリゴリとした硬い音色である。


「それにしても、音作りの時間は十分きっかりかー。リハ無しのイベントって、出演者はもちろん外音の調節をするPAさんも大変なんだろうねー」


 町田アンナは頭の後ろで手を組みながら、そのようにつぶやいている。

 めぐるは小首を傾げながら、そちらを振り返ることになった。


「あの……外音って、何ですか? 音の調節をするのは、自分たちでしょう?」


「いやいや。ドラムの生音やアンプからの音だけじゃ、音量が足りないっしょ。だから、ドラムやアンプの音をマイクで拾って、あのスピーカーから出してるんだよ。その音量や音質なんかを調節するのが、PAさんの役割ってことだねー」


 やはり初めてのライブであるめぐるには、何もかもが驚きの連続であった。

 よくよく見てみれば、ステージの両脇には巨大なスピーカーが設置されている。そちらから、ヴォーカルの歌声を含めたすべての楽器の音色が鳴らされているわけであった。


(そんなことも知らないで、わたしはライブをやろうとしてるんだなぁ……)


 そんな風に考えると、不安の念がむくむくと大きくなっていく。すると、それに対抗するように期待の念もふくれあがっていき――結果、めぐるの心臓をいっそう高鳴らせるのだった。


 そうして十分ほどで最初のバンドのセッティングが終了したならば、いよいよ開場の時間である。

 ただ、なかなかお客が入ってくる気配はない。午後の六時近くまで及ぶ長いイベントであるため、そんな早々に入場する気にもなれないのだろう。後半の出順である出演者なども、ぞろぞろと会場を出ていってしまった。


「ウチらはど真ん中の出番だから、ビミョーなとこだよねー。みんなは、どうしたい?」


「わ、わたしはなるべく、他の出演者の演奏を観てみたいですけど……ベースを置いて外に出るのは、ちょっと不安ですし……」


「外は暑いから、あんまりうろつきたくないかな。ただ、ずっと客席に閉じこもってると、耳をやられちゃいそうだよね」


「じゃ、とりあえず耳が疲れるまでは居残ってよっか。ウチも他にどんな連中が出るのか、気になるしさ!」


 そうしてめぐるたちは、薄暗い客席ホールに留まることになった。

 しばらくすると、お客がぽつぽつと入場してくる。そうすると、あちらこちらで歓談の場が形成された。チケットを売った出演者が、来場してくれた人々を歓待しているのだろう。今日という日は、めぐるたちももてなす側であるのだった。


「けっきょくチケットも完売したんだもんね。『V8チェンソー』で三枚、軽音部の先輩がたで三枚、町田さんのご家族で四枚か。……家族総出でライブを観られるってのは、どんなご気分?」


「んー、親父だけが余計かなー! 音楽の善し悪しもわかんないくせに、どうしても来るんだーって言い張るんだもん! おとなしく留守番してりゃいいのにさ!」


「父親ってのは、娘に疎まれる宿命なのかねぇ。ま、疎む相手がいるだけ幸せなのかもしれないけどさ」


 和緒がそのように答えたとき、町田アンナが「あれれー?」と大きな声をあげた。入場口から、見覚えのある女性たちが姿を現したのだ。


「わーっ、ブイハチのおねーさまがたじゃん! 出番は三時すぎって連絡を入れたのに、もう来てくれたのー?」


「うん。若い人らのエキスを吸収させてもらおうと思ってさぁ」


 先頭に立っていた浅川亜季が、のんびりと微笑みかけてくる。本日は最初からタンクトップの姿であり、肩にワークシャツを引っ掛けていた。


「外でうだうだしてるより、ライブハウスのほうが落ち着くからさ! どんなバンドがエントリーしてるのかも気になるしねー!」


 そのように声をあげたのは、ドラムのハルだ。そちらも相変わらずTシャツにハーフパンツという身軽な格好で、おひさまのような笑顔であった。

 そして最後のひとりである、ベースのフユは――ひとりだけ、普段と様子が違っている。タイダイ柄のトップスにだぼだぼのアラジンパンツにウッドやシルバーのアクセサリーというエスニックな装いに変わりはなかったが、本日はロングのスパイラルヘアーを自然に垂らしており、おまけに巨大なサングラスで目もとを隠していたのだ。長い前髪のせいで顔の陰影も濃くなり、普段以上に冷ややかで威圧的に見えてしまった。


「あ、あの、今日はわざわざありがとうございます。立派なベースに負けないように、頑張るつもりですので……」


 めぐるがおそるおそる声をかけても、「そう」としか答えてくれない。

 それでめぐるがまごまごしていると、和緒がすかさず割り込んできた。


「何かご機嫌ななめのご様子ですね。無理にお誘いしたつもりはないんですけど、ご迷惑だったんならお詫びしますよ」


「あはは。フユはちょっとわけあって、ナーバスになってるだけだよぉ。フユもさぁ、そんな仏頂面をさらしてたら、いたいけな娘さんたちが心配しちゃうじゃん」


「うるさいな」とフユが苛立しげに言い返したとき――小柄な人影がこちらに近づいてきた。アイドルバンドたる『オーバードライバーズ』のひとりである。


「みなさん、こんにちはぁ。ちょっとだけ、お話をいいですかぁ?」


 周波数が高くて甘ったるい声でそんな風に言いながら、めぐるたちをまとめてぐいぐいと押しやってくる。そうして一同が客席のコーナーにまで追い込まれると――その人物の表情と口調が一変した。


「……手前ら、何しに来たんだよ?」


 そのドスのきいた太い声に、めぐるは思わずのけぞってしまう。それはメンバー内でただひとり金色のショートヘアーをした娘さんであったのだが、つい先刻までにこにこと笑っていたその顔が険悪なる形相に豹変していた。


「おー、ひさしぶりぃ。すっかりアイドルが板についたみたいだねぇ」


 めぐるたちの驚きもよそに、浅川亜季はのんびりとした笑顔を返す。しかし娘さんのほうは、眉間に深い皺を寄せたままであった。


「うるせーなぁ。何をしに来たって聞いてんだよ。冷やかしに来たんだったら、とっとと消えやがれ」


「アタシらだって、そこまでヒマじゃないよぉ。今日はお友達の初ライブを拝見に来たのさぁ」


「……お友達? 手前らが、十代のガキどもとつるんでやがるってのかよ?」


「そうだよぉ。ご覧の通り、すっかり親睦が深まってねぇ」


 と、浅川亜季がいきなり肩を抱いてきたので、めぐるはどぎまぎしてしまった。

 そして、驚くべき言葉が浅川亜季の口から放たれる。


「それじゃあ、紹介しておこうかぁ。このコがブイハチの元メンバーで、土田奈津実だよぉ。うちらはナツって呼んでたけど、今の愛称はナッチだったっけぇ?」


「えーっ! このアイドルちゃんが、ブイハチの元ヴォーカルだったのー? なんか全然、イメージが違ったなー!」


 町田アンナが声を張り上げると、土田奈津美の険悪な眼光がそちらに突きつけられた。顔立ちそのものはアイドルに相応しい造作であるのに、それを台無しにするような形相だ。


「あれー? でも、たしかアイドルバンドのヴォーカルは、別のコだったよねー?」


「うん。ナツはリードギターなんでしょ? あんたも出世したもんだねぇ」


 浅川亜季が呑気な調子で言いたてると、フユが冷徹なる面持ちで進み出た。


「こいつていどの腕でリードギターなんて、出世どころか大転落でしょ。ヴォーカルの座をアイドルなんかに奪われて、恥ずかしくないの?」


「うるせーなあ。売れないバンドマンにガタガタ言われる筋合いはねえよ」


 すると、ハルが「まあまあ!」と両者の間に割って入った。


「こんなとこでモメても、しかたないじゃん! ナっちゃんも、今はお仕事中なんでしょ? あたしらは本当に友達のバンドを観に来ただけで、ナっちゃんを冷やかすつもりなんてないからさ! そっちもお仕事頑張ってよ!」


 土田奈津美は「ちっ」と舌を鳴らして、身を引いた。


「……手前ら、こっちの邪魔をしたらただじゃおかねえからな。こっちはもう事務所をバックにつけてることを忘れんなよ」


「知ったことかよ。せいぜいアイドルらしく、尻でも振ってな」


 フユが冷然と言い返すと、土田奈津美はミニスカートをひるがえして立ち去っていった。その小さな後ろ姿を見送りながら、浅川亜季は「あはは」と笑う。


「ナツは相変わらずだなぁ。あんなんでアイドルがつとまるのか、こっちが心配になっちゃうよぉ」


「ふん。あんなやつ、せいぜい泣きを見るといいんだよ」


 フユがぷいっとそっぽを向くと、ハルが申し訳なさそうに説明を始めた。


「まあ、こういうわけでフユちゃんはちょっとナーバスだったんだよ。なんだかんだでナっちゃんと一番仲良くしてたのはフユちゃんだったから、色々と割り切れない気持ちも出てきちゃうんだよね」


「ふざけんな。あんな馬鹿女、私の知ったこっちゃないよ」


 すると、和緒がしたり顔で「なるほど」とうなずいた。


「でもきっと、割り切れないのはあちらさんも同様でしょうね。あたしだったら、元メンバーにあんなフリフリの姿を見られるのは死ぬほど恥ずかしいですよ」


「うんうん。だからナツのやつも、あんなにいきりたってたんだろうねぇ。ま、アイドルに転身したのは本人の勝手なんだから、そこは自力で乗り越えてもらうしかないさぁ」


「それは、あたしも同意見です。……ところでうちのプレーリードッグが、過剰なスキンシップに不整脈を起こしているようですよ」


「ああ、ごめんごめん。めぐるっちってちっちゃいから、抱き心地がよくってさぁ」


 浅川亜季はのんびりと笑いながら、ようやくめぐるから身を離してくれた。


「まあ、これ以上はお騒がせすることもないだろうからさぁ。みんなは心置きなく、初めてのライブを楽しんでよぉ」


「うんうん。あたしたちのせいで集中を乱しちゃったら、どんなに謝っても申し訳が立たないからね! 四人とも、こっちのことは気にしないで――」


 と、そこまで言いかけたハルが、「あれ?」と小首を傾げた。


「そういえば、ここには三人しかいないね。理乃ちゃんはどこにいったのかな?」


「あー、そっか! ハルちゃんたちにも、説明しておかないとねー!」


 町田アンナはにぱっと笑いつつ、視線を巡らせた。

 栗原理乃は少し離れた場所で、椅子に腰かけている。白いフレアハットもかぶったままで、その横顔は人形めいた無表情だ。そして大きなつばの陰から、アイスブルーのショートヘアーと黒いレースの目隠しが覗いており――それが『V8チェンソー』の面々を唖然とさせたようであった。

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