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ライク・ア・ローリング・ガール  作者: EDA
-Side:V-

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335/363

08 交錯


     --SIDE:H--


『ジェイズランド』のライブから一週間後の、土曜日――中野晴佳は意気揚々と、スタジオを目指していた。

 浅川亜季の提案で、遊びの合奏に取り組むことになったのだ。それが決定して以来、中野晴佳の胸はずっと弾みっぱなしであった。


(確かにあの三人の歌と演奏は、あたしにとっても魅力的だったもんね。ていうか、どう考えてもあたしが一番へたくそなのに、ドラムを引き受けちゃって大丈夫なのかなぁ)


 そんな思いを抱えつつ、中野晴佳にこの誘いを断るという選択肢はなかった。ライブを終えて一週間は骨休みというのが『バグライフ』のルールであったし、そうでなくともあの二人と顔をあわせるのは気が重いのだ。中野晴佳としては、秘密の浮気に励んでいるような後ろめたさもなくはなかったが――さりとて、この行いをあらためる気持ちにはなれなかった。


(コトノちゃんだってあたしに隠れて好き勝手やってるんだから、おあいこさ)


 そうして目的の駅を下りた中野晴佳は、スタジオに向かう道中で慕わしい後ろ姿を発見した。

 中野晴佳と同じぐらい小柄な女性が、ギターのギグバッグと小ぶりのエフェクターボードを抱えて歩いている。自前のスネアとバスドラペダルを抱えた中野晴佳は歩調を速めて、その女性に追いついた。


「ナツさん、お疲れ様! 今日はよろしくね!」


「わっ、びっくりした。……道端で、そんな大声を出さないでくださいよ」


 眉をひそめながら振り返った土田奈津実は、ぎょっとした様子で目を見開いた。


「な、中野さん、その髪……どうしたんですか?」


「えへへ。ばっさりやっちゃった。変かなぁ?」


 中野晴佳はセミロングであった髪を、土田奈津実に負けないぐらいのショートヘアーに切り落としたのだ。土田奈津実は可愛らしく動揺しながら、目を泳がせた。


「べ、別に変じゃありません。よく似合ってると思います」


「それなら、よかったー! おすすめしてくれたナツさんに似合わないって言われたら、どうしようかと思ったよー!」


「お、おすすめ? あたしがですか?」


「あはは! やっぱり忘れてたかー! フユさんと二人がかりで、野暮ったいからショートにしろって言ってたじゃん! ま、あのときは二人とももうベロベロだったからねー!」


「マ、マジですか……す、すみません。年上の人に、そんな失礼なこと言っちゃって……」


 やたらと年齢を重んじる土田奈津実は、気の毒なぐらいあたふたとしてしまう。そんな彼女の心を安らがせるために、中野晴佳は心からの笑顔を届けた。


「一歳しか変わらないのに、気をつかいすぎだよー! それにね、家族とか友達とかバイト先の人とかにも、大好評なんだー! ……文句をつけるのは、メンバーぐらいだったなぁ」


「……そうなんですか?」


「うん。ゴスロリの衣装にショートヘアーは似合わないってさ。あと、余計に子供っぽいって言われちゃった」


 コトノとはまだ顔をあわせていないが、大学で出くわしたミナがわざわざ撮影をして画像を送りつけたのだ。土田奈津実はたちまち不機嫌そうな顔になって、「そうですか」と言い捨てた。


「言っちゃ悪いですけど、メンバーさんたちはセンスがないですね。あたしはすごく似合ってると思いますよ」


「ありがとー! これからはショート仲間として、よろしくね!」


「なんか、キャラがかぶっちゃいますね。……あたしも思い切って、ブリーチしちゃおっかな。昔はけっこう、髪で遊んでたんですよ」


「おー、似合いそー! ステージでも映えるんじゃない?」


 土田奈津実を前にすると、中野晴佳は自然に笑うことができた。

 いっぽう土田奈津実は口もとをごにょごにょさせながら、曖昧な表情だ。どうも彼女と布由井照美は、人前で笑うことをためらう性格であるようであった。


「あ、そういえば、メンバーさんたちは大丈夫でしたか? ライブ以降、うちの馬鹿がずっと静かにしてて、なんか気味が悪いんですよね」


「うん、大丈夫のはずだよー。ライブの前にもきっちり忠告しておいたし、うちのメンバーはオトコに興味がないのかなーってぐらい浮いた話を聞かないしねー」


「……そういうやつって、陰で火遊びしたりしますからね。くれぐれも、油断だけはしないでください」


 そんな言葉を交わしている間に、スタジオに到着した。

 階段を下ってロビーに入ると、テーブル席で布由井照美がひとり座している。中野晴佳たちが近づいていくと、布由井照美はワイヤレスのイヤホンを外した。


「お疲れさん。……髪、切ったんだ? 似合ってるじゃん」


「あんたねー! 誰のせいで、こんなことになったと思ってんの?」


 土田奈津実がたちまちいきりたつと、布由井照美は「あん?」と小首を傾げた。


「誰のせいって、私とあんたでショートのほうが似合いそうだってアドバイスしたんでしょ? 予想通り、似合ってるじゃん」


「ひ、人の髪型にケチをつけるなんて、失礼だと思わないの?」


「一緒になってそそのかしてたやつに言われたくないよ。似合ってるんだから、結果オーライでしょ」


 今日も今日とて、布由井照美は凛々しいたたずまいである。なおかつ、寝起きの無防備な姿を見た後だと、ギャップの魅力も生じるようであった。


(普段はかっこいいし、寝起きだと可愛いし、フユさんはずるいなぁ)


 そんな微笑ましい心地を抱きながら、中野晴佳はテーブルの脇に機材を下ろした。


「じゃ、受付を済ませてきちゃうね」


 このスタジオを利用しているのは中野晴佳と浅川亜季のみであったので、自分が予約を受け持つことにしたのだ。残る両名はもっと上り方面の区域に住まっているが、ひときわ下り方面である浅川亜季に合わせてこちらのスタジオが選ばれたのだった。


 そうして受付を済ませた中野晴佳がテーブル席に戻ってみると、二人は喧々言い合いをしている。それでライブ当日の楽屋を思い出した中野晴佳は、また温かな気持ちを抱くことになった。


(あの日もこうやって、二人は言い合いをしてたんだっけ。それでこんなスタジオにまで入ることになったんだから……人の縁って、不思議だなぁ)


 中野晴佳も空いている席に腰を下ろして、二人に笑いかけた。


「どうしたの? 何か問題でもあった?」


「いや。こいつが小難しいパートを浅川のやつに丸投げしたっていうから、説教してやっただけさ」


「あんなの、あたしに弾けるわけないじゃん! こっちは、歌がメインなんだからさ!」


「ワンドもベイビーも、ギタボじゃん。ワンドなんてスリーピースだから、ひとりで歌とメインギターを受け持ってるんだよ」


「あんな凄いバンドと比べたって意味ないでしょ!」


「じゃ、いっそ歌もあいつに譲ったら? ワンドのカバーなんて、どう考えたってあいつのほうがハマるしね」


「だったら、あたしがいる意味ないじゃん!」


 中野晴佳は微笑ましい心地のまま、「まあまあ」と取りなした。


「この編成でワンドとベイビーのカバーをやりたいって言い出したのはアキさんなんだから、いいんじゃない? その難しいパートも、アキさんが引き受けてくれたんでしょ?」


「それを陰でこっそりお願いしてるのが、また小ずるいよね」


「うるさいなー! あんたには、関係ないでしょ!」


「これから合奏しようってんだから、関係ないわけが――」


 そこまで言いかけた布由井照美が、うろんげに中野晴佳を見やってきた。


「何をにこにこ笑ってるのさ? こいつのエキサイトした顔が面白いの?」


「ううん。うちのバンドでこういうぶつかりってないから、なんか新鮮だなぁと思ってさ」


「ふうん。とことん、ご主人様と下僕の関係なわけだ。それであんたは、黙って見てるだけなの?」


「うん。あたしはドラムのことしかわからないから、口の出しようがないんだよね。ギターのフレーズとか音作りとかも、ベースの子がガンガン仕切ってて……昔は頼もしいなあって思ってたけど、裏事情を知ってからはちょっとねぇ」


 中野晴佳が思わず溜息をつくと、土田奈津実は心配そうに眉を下げ、布由井照美は肩をすくめた。


「このスタジオは、鬱憤晴らしみたいなもんでしょ? 思い悩むのは、スタジオが終わってからにしたら?」


「うん、そうだね。今日はどんな感じになるのか、すごく楽しみだよ。……ナツさんも、心配させちゃってごめんね?」


「い、いえ。メンバーに悩まされてるのは、おたがいさまなので……」


 土田奈津実がそのように答えたとき、布由井照美が「おっ」と声をあげた。出入り口から、浅川亜季が姿を見せたのだ。


「お待たせぇ。あやうく遅刻するところだったよぉ」


「ふん。あんたに合わせて、こんな場所まで出張ってきたんだからね。これで遅刻してたら、百叩きだよ」


「あはは。フユっちは相変わらずだなぁ。……ハルっちとナツっちも、お疲れぇ」


 そのように挨拶をする浅川亜季も、相変わらずのふにゃんとした笑顔である。

 それで中野晴佳も、いっそう微笑ましい心地を授かることがかなったのだった。



     --SIDE:F--


 予約の時間に達したため、即席お遊びバンドの一行はスタジオに入室した。

 布由井照美にとっては、初めて利用するスタジオである。しかし、どうせアンプヘッドは持ち込みなので、キャビネットさえ不備がなければ問題はなかった。


「……それにしても、あんたは毎回大荷物だね。どうしてベースが、ギターよりも馬鹿でっかいボードを掲げてるのさ?」


 と、土田奈津実がさっそく文句をつけてくる。彼女のエフェクターボードは、布由井照美の半分ていどのサイズしかなかった。


「ベースのほうが、足もとで音を作る人間は多いんじゃないの? まあ、世間の連中がどうだろうと、私には必要な機材なんだよ」


 布由井照美は特大のエフェクターボードとアンプヘッドを持参している上に、ベースはハードケースに収納している。それらの機材をロビーからスタジオに持ち運ぶには、二往復する必要があった。


 そうして布由井照美がアンプヘッドをキャビネットに接続して、エフェクターボードの蓋を開いたタイミングで、二本のギターが鳴らされる。いずれのバンドでももっとも準備に時間がかかるのは布由井照美であったので、これも慣れっこの話であった。


 浅川亜季のギターサウンドは、やはりなかなかのものだ。彼女はそうまで技巧派ではないが、フレーズや音作りには独自のセンスを感じる。彼女が凡庸なプレイヤーであれば、『ドープドランカー』もありきたりのガレージロックに成り果てていたはずであった。


 いっぽう土田奈津実のギターサウンドは、きわめて頼りない。アンプは出力が小さいジャズコーラスであるし、そもそも技量も足りていないのだ。『ペッパーフロート』では、彼女も軽薄な男ヴォーカルもシンプルな単音のフレーズかバッキングぐらいしか担当していなかった。


 そしてそこに、中野晴佳のドラムも入り交じる。

 彼女のサウンドは、とにかく野太い。その小さな身体のどこにそんなパワーがひそんでいるのかというぐらい、パワフルで荒々しいサウンドであるのだ。布由井照美の周囲に彼女のようなパワードラマーはあまりいなかったので、今日のスタジオはひそかに楽しみにしていた。


(ドラムがこれぐらい野太いと、私もローを出したほうがいいのかな。それとも逆に、輪郭を出したほうがいいのかな)


 それらもすべては、実際に音を合わせてのことである。

 布由井照美は内心で鼻歌を歌いながら、ベースのセッティングを完了させた。


 布由井照美が本日持参したのは、先週のライブと同じくワーウィックの『ストリーマー・ステージⅠ』だ。布由井照美は複数のベースを所有しているが、もっとも汎用性が高いのはこちらのワーウィックであるし、使い込めば使い込むほど指に馴染んできた。今ではもう、このワーウィックが堂々のメインベースであった。


 エフェクターも、とりあえずは普段通りのセッティングで持ち込んでいる。『ワンド・ペイジ』と『ベイビー・アピール』というのはまったく似たところのない音作りであったが、布由井照美が組んだボードの内容であれば問題なく対応できるはずであった。


『それじゃあ、みんなオッケーかなぁ? まずは、どっちの曲をやってみよっかぁ?』


 マイクを通して、浅川亜季がそのように告げてきた。

 準備期間が六日間しかなかったため、カバーの演目は『ワンド・ペイジ』と『ベイビー・アピール』の一曲ずつであったのだ。布由井照美としては、むしろ浅川亜季の意向が気になるところであった。


「あんたはそいつから、小難しいパートを丸投げされたんでしょ? あんたがやりやすいのは、どっちなのさ?」


『あたしは、どっちでもかまわないよぉ。まあ、小細工が少ないのは、やっぱりワンドかなぁ』


『ワンド・ペイジ』はもともとスリーピースのバンドであり、レコーディングの場でもギターの音を重ねることを嫌うため、ギターのパートはひとつしか存在しないのだ。つまり、土田奈津実はコード進行に従ってバッキングを重ねるか、あるいは歌に専念することも許されるのだった。


『だったら、ワンドにしようよ。あたしも最初は、歌に集中したいからさ』


 土田奈津実は、仏頂面でそう言った。

 やはり彼女は、こちらの曲のコード進行を覚える手間をはぶいたのだろう。ことギターに関して、彼女は確たる向上心を持ち合わせていないように見受けられた。


(で、演目はワンドなんだもんな。これは、お手並み拝見ってところか)


『ワンド・ペイジ』はオルタナティブロックにジャズの要素を持ち込んだようなバンドであり、人間臭い生々しさと疾走感を一番の売りにしている。そして歌は、切迫感に満ちみちたハスキーボイスのシャウトが主体であるのだ。男女の差はあれど、その特性を備えているのはどう考えても浅川亜季のほうであった。


 しかし浅川亜季は、ヴォーカルを土田奈津実におまかせしたいと言って譲らなかった。

 まあ本人も言っていた通り、土田奈津実から歌を取り上げたら何も残らないのであろうが――それならそれで、あまたあるバンドの中から『ワンド・ペイジ』を選ぶ甲斐もないだろう。土田奈津実に相応しい楽曲など、この世には数限りなく存在するはずであった。


(でもまさか、こいつに恥をかかせるためにヴォーカルを押しつけたわけじゃないだろうしな。いったいどういう目論見なんだか)


 ともあれ、すべての答えはこれから示されるのだ。

 布由井照美は気負うことなく、演奏の開始を待ち受けた。


「それじゃー、行くよー!」


 中野晴佳がにこにこと笑いながら、スティックでカウントを打ち鳴らす。

 そして、それに合わせてベースを鳴らした瞬間――布由井照美の背筋が、粟立った。それぐらいの迫力で、浅川亜季と中野晴佳の音が布由井照美の内側に食い入ってきたのだ。


(やっぱりこの選曲は、こいつらにぴったりだな)


 浅川亜季の荒々しいギターサウンドは、憎たらしいぐらい『ワンド・ペイジ』の楽曲に合致している。

 いっぽう中野晴佳のドラムにはジャズらしい軽妙さの欠片もなかったが、それは持ち前の迫力で補われていた。その野太くて弾むようなビートは、本家の『ワンド・ペイジ』とはまったく異なる形で疾走感を生みだしていたのだった。


(駄目だ。ローが足りない)


 布由井照美は本来と異なる場所で音をのばし、その隙にベース本体のツマミを操作する。アクティブサーキットの機能で低音域がブーストされて、強烈なバスドラに潰されていたベースの音色が浮上した。


(でも、まだちょっと物足りない。いっそブードゥーでも踏みたいところだけど……それじゃあ輪郭がぼやけて、原曲のイメージから遠ざかるよな)


『ワンド・ペイジ』のベーシストは、アップライトベースを使用しているのだ。エレキベースでアップライトベースの音を再現することは難しいが、そこで歪みのエフェクターを駆使するというのは、ある種の誤魔化しであるように感じられた。


(まずは歌の調子も見ないといけないし……ここは、大人しくしておこう)


 そうして布由井照美が、この六日間で体得した魅力的なフレーズを紡いでいると――Aメロに入り、土田奈津実の歌声が響きわたった。


 その瞬間、布由井照美の心がまた別なる方向から揺さぶられる。

 土田奈津実は日常でもキャンキャンと吠える子犬のような甲高い声質で、それは歌声にも反映されている。よって、『ワンド・ペイジ』の楽曲には不似合いなのではないかと考えていたのだが――彼女は本家と異なる歌声でもって、別なる魅力を完成させていた。


 男と女では声域に違いがあるが、それも支障にはなっていない。むしろ彼女は中音域で、ゆとりをもって歌っているように感じられた。

 ただし、雰囲気そのものは切迫している。ゆとりのある声域であるがゆえに、技巧でもって切迫感を演出しているのだ。これは、先週のライブでは見受けられなかった技量であった。


(そもそもこいつらの持ち曲に、こういう曲調はなかったもんな)


 彼女が所属する『ペッパーフロート』は、かなりポップス色の強い曲調であるのだ。また、演奏陣がいずれも軽快なサウンドであったため、歌にもパワーは求められていなかった。


 しかし今の土田奈津実は、きわめてパワフルである。

 原曲のイメージを意識して、乱暴に、荒々しく歌っている。その顔も、ずいぶん勇ましい面がまえになっていた。


 浅川亜季は、彼女がこんな一面を隠し持っていることを見透かしていたのだろうか。

 浅川亜季はいつものほほんとしているくせに、妙に鋭いところもあるのだ。そして彼女もヴォーカルとしては大した力量であるため、歌に関しては布由井照美よりも深い見識を持ち合わせているのかもしれなかった。


(まったく……腹立たしいやつだな)


 布由井照美がそんな風に考えたとき、浅川亜季がチェリーレッドのレスポールをかき鳴らしながら、ひょこひょこと近づいてきた。

 その指先は、粘つくような歪みのサウンドを奏でている。それもまた、本家とはまったく異なる魅力と迫力であった。


 布由井照美の正面に立った浅川亜季はチェシャ猫のように笑いながら、ヘッドを垂直に持ち上げる。まだ歌のパートであるのに、ギターソロに入ったかのようなアクションだ。そして、布由井照美を挑発するように本来とは異なる入り組んだフレーズを叩きつけてきた。


 中野晴佳のドラムも、遠慮なく野太い音を鳴らしている。

 そんな中――布由井照美のベースだけは、お行儀のいい音で原曲のフレーズを辿っていた。


(……ああ、そうかい。一曲目ぐらいは手慣らしで、大人しくしておこうと思ってたのにさ)


 布由井照美は浅川亜季の小憎たらしい笑顔を見据えながら、ブードゥーのエフェクターを踏み込んだ。

 とたんに、ベースの音が重々しく歪む。そして布由井照美は、その音色に相応しいうねりをフレーズに付け加えた。


 浅川亜季は、満足げに目を細める。

 そして、演奏がいっそうの圧力をともなったため、土田奈津実の歌声もそれに対抗するべく勢いを増したのだった。

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