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リングのホスピタル  作者: 天主 光司
9/12

第九話 遺伝子操作

 エリザベスが土木作業員になってから満二年目が過ぎ、三年目に入った。

 エリザベスは、土木作業員の新人王を決める大会『D新人王決定大会』に参加して、準優勝する。その為、土木作業員仲間の中で、有名になっていた。

 その大会の賞金や、地道に貯金し六百万エルフ円を貯金する。アルフヘイムに来る前から持っていたお金も合わせると、一千二百万エルフ円以上のお金を貯めた。

 エリザベスは休日の土曜日に病院に予約を入れる。そして今、リング城病院へやって来た。

「おい、予約した通り来たぞ」

 そう言って、受付に行って見るが、そこには誰もいなかった。

 机に置かれているベルを鳴らすとサクラが奥から出て来る。

「良く来たな珍獣」

 サクラが言った。

「珍獣言うなー!」

 エリザベスが殴りかかると、サクラはあっさり避ける。

 サクラの神業的ディフェンスを知っているので特に驚かないが、反撃のパンチが飛んできた。エリザベスはそれをバックステップして避ける。

 机越しなのでサクラのパンチは全然届かなかったし、追撃もない。

「チッ」

 サクラは舌打ちする。

 エリザベスに問診票を渡すと、サクラは手続きをする。土曜日の今日にやって来た患者は、特別予約をしたエリザベスだけだった。

「シェレン先生が、診察室で待っている」

 サクラは事務的に言う。

 エリザベスは指示された通り、診察室へ行く。自動扉が開き中に入ると、シェレンが待っていた。

「本日はどんな用事で来たんだ」

 シェレンが聞く。

「性転換手術の費用が貯まった。手術をして欲しい」

 エリザベスが言った。

「それはガンバッたな。四年位掛ると思っていたのだがな」

「そりゃ、血の滲む努力をしたからな」

 エリザベスは胸を張って言った。

「それじゃあ、私の案を言おう。健康診断は前回から大分経っている。だから、今日もう一度やろう。後日、遺伝子検査を朝一番にやって、次の日の晩から遺伝子操作を始めるのはどうだ」

 シェレンの提案にエリザベスは首を傾げる。

「どうして遺伝子操作の手術を晩から始めるんだ。朝からやれば良いじゃないか?」

「遺伝子操作の手術をどうやるか知っているのか?」

 エリザベスは首を振ったので続けて説明する。

「遺伝子操作用の施術ポットにお前さんを入れて、スイッチを入れるだけだ」

「なんじゃそりゃ。それじゃあ、全自動洗濯機みたいじゃないか」

「そこまでお手軽じゃないぞ。事前にどのように遺伝子操作を行うのか決めて置いて、機械がそのように遺伝子を操作するように機械に指示を出さないとならない」

 エリザベスはキョトンとしている。明らかに理解できる領域を超えていた。

「人件費が掛らないのにどうしてそんなに費用が掛るんだ?」

「施術ポットを稼働するのに大金が掛ると説明したはずだが。ちなみに昼間より、夜の方が使用料金が安いから晩からスタートした方が若干安上がりになるはずだ」

「なるほど」

「そこで問題になるのは、お前さんが会社を連続して休めるかなんだ」

「何日間休みを取れば良いんだ」

「手術自体は九日間ぐらいで済むと思う。それと遺伝子検査をする日が加わるから十日間だな。手術時間がもしかすると延びるかもしれないから、余裕をもって十五日間ぐらいは取っといて欲しい。まあ、土日を利用すれば、有給休暇を節約できるかもしれないな」

 シェレンは言った。

「なるほど……、休みの方は、今まで有給を全然取っていなかったから多分問題ないと思うが、仕事の都合もある。明日からすぐに休むわけにはいかない。現場監督と相談する必要がある」

 エリザベスが表情を曇らせながら言った。

「使っていない施術ポットはいくつかある。こちらはいつでもいい。とにかくお前さんの都合で日程を決めてくれて構わない」

 シェレンはサラリと言う。

「わかった。明日、現場監督と相談して電話する」

 この日は、健康診断して終わった。


 お昼休みの工事現場。

 エリザベスはシェレンとの約束を現場監督に話す。現場監督は、エリザベスが休めそうな日程を教えてくれる。

「お前が二週間以上抜けるのはきついが、その日程ならなんとか大丈夫だ」

 現場監督が言った。

「ありがとう、監督」

「それにしても、目標金額まで、良くがんばったな」

「それも監督のお陰だぜ」

「いいや、お前自身の頑張りだ」

「実は病院に連絡する事になっているんだ」

「なら、連絡しな」

 早速、エリザベスはリング城病院に電話をする。

「こちらリング城病院です」

 やっぱりサクラが出る。

「エリザベスだ。一昨日の事で話がある」

「エリザベスなんて患者は知りません」

 サクラはビシッと言いきる。

「嘘つくな!」

 思わずエリザベスは怒鳴る。

「一昨日診察したのは、ナカムラ ケンジだけだ」

 サクラは言い切る。

「ナカムラ ケンジ言うな」

「なら、珍獣」

「もっと悪いわ!」

 毎度お馴染みの挨拶だ。

「手術の日程の事で電話したんだろ」

「そうだよ」

「で、いつになったの」

「今度の金曜日からで大丈夫か?」

「それなら大丈夫だろう」

「じゃあ、そう言うことで先生に伝言頼んだぞ」


 そして、金曜日の朝のリング城病院。

 朝一番でエリザベスはやって来たが、患者はエリザベス一人だけだった。

 国営病院でなければ、潰れているはずだ。

 患者どころかサクラも現れないので、エリザベスはベルを鳴らす。いつもならすぐに出て来るはずのサクラが出て来ない。

 エリザベスはしょうがないので、ベルを連打する。

「うるさいわ。一度ならせばわかる」

 奥から出て来たサクラが言った。

「患者が来ていると言うのに、全然出て来ないからだろ」

「このベルは連打するようなものじゃない。バカたれが」

「うるせえ。さっさと出てくれば連打なんかするか」

 悪態を吐きながらも、エリザベスは診察券を出す。

 サクラはそれを受理して、エリザベスに診察室へ行くように指示する。エリザベスは指示に従い、診察室へ行く。自動ドアが開き、中にはいるとシェレンが待っていた。

「体調はどうだ?」

 シェレンが聞いた。

「至って健康だ」

「よろしい。では、本日は遺伝子検査を行う。そして、明日の手術の為に入院してもらう」

「どうして入院が必要なんだ?」

「安静にしてもらうためだ。暴れてケガでもして遺伝子に変化が起きても面白くないからな」

「でも、あの凶暴な女がいるんだし、ここでも安静にしていられる保証はないような気がするがな」

「凶暴な女とは私のことか! 珍獣の分際で生意気な」

 診察室にやってきていたサクラが言った。

「珍獣いうな」

 そう言うとエリザベスは積年の恨みをはらす為、殴りかかる。しかし、サクラは神業的ディフェンスで避ける。

 サクラは反撃をしようとする。しかし、モンスターと戦い続けたエリザベスは、動きが速く、ディフェンスも大分巧くなっていた。その為、サクラは攻めあぐねている。

 シェレンはその様子をヤレヤレと言わんばかりに呆れながら見ていた。

「喰らえ。エリザベスパーンチ」

 エリザベスが必殺パンチを繰り出す。しかし、これはサクラの得意とするカウンター攻撃のパターンだ。

 しかし、これはエリザベスの誘いであった。サクラのカウンターパンチの軌道を見て、エリザベスは激しいモンスターの攻撃も避け切るくねくね避けをしながら攻撃する。

 エリザベスの攻撃も避けられたが、サクラの攻撃も当たらなかった。そしていったん距離を取る。

「いける。エリザベスパンチ」

 エリザベスは再びパンチを繰り出す。

 サクラはそれにカウンターを合わせるのを、エリザベスは目視する。

 右のエリザベスパンチはフェイントであった。そして左手でエリザベスパンチを放つ。

 明らかにサクラのカウンターははずれたはずだった。

 しかし、飛ばされて壁にめり込んだのはエリザベスであった。

「まったくもう。お前ら良い加減にしろ。それとナカムラ。お前はサクラに勝てないから、手術が終わるまでケンカは止めておけ」

 シェレンが言った。

 エリザベスは久しぶりにナカムラと呼ばれた。

「一発殴らなきゃ気がすまない」

 エリザベスが、呻きながら言った。

「サクラには、瞬間未来視と言う特殊能力があるからお前のパンチは当たらない」

「な、なんだ。その瞬間なんとかって?」

「瞬間未来視だ。数秒先の未来を予知して見える範囲の空間を完全に把握する能力。一種のESP、予知能力だな」

「それってどういう能力なんだ」

 エリザベスが聞く。

 シェレンは思い切りコケる。

「数秒先に起きる事がわかる能力でな。パンチを相手が出そうとしているとか、蹴りを出そうとしているとか、わかる能力だ」

「それって、こっちの手の内が全部ばれちゃうってことか?」

「お前にわかりやすく言うとそう言うことだな」

「なに人の能力をばらしてんですか」

 サクラが文句を言う。

「とにかくだ。手術が済むまでケンカはダメだからな」

 そう言うと、エリザベスの遺伝子検査をする為に、サンプル細胞を取得する準備に取り掛かる。

 エリザベスは針みたいなものを体中数回刺された。それで細胞を少しずつ取ったのだ。

「いって~」

 エリザベスが痛がった。

 少しと言えど、細胞が切り取られたのだから当り前だ。

「では、今日はもう病室で寝ていろ。病気なわけではないから、三度の食事も通常食を出す。サクラはナカムラを病室に案内しろ」

 シェレンはテキパキ言った。

「珍獣。来い」

 サクラが言った。

「珍獣言うなあ」

 この時、シェレンが強力な殺気を発する。

「ケンカしたら殺す」

 シェレンがキレ気味に言った。

「は、はい」

 二人が同時に言った。

 診察室を出て、エリザベスはサクラに連れられて病室へと歩いていく。

「シェレン先生の殺気は尋常じゃなかったな」

 エリザベスが言った。

「シェレン先生と殺しあいで勝てる気がしないのは確かだな」

 サクラが言った。

「前におまえとシェレン先生は、互角の強さだって言ってなかったか?」

 エリザベスが聞いた。

「スポーツや格闘技の試合ならな。私が言ったのは殺しあいだ」

「どういう意味だ?」

「スポーツや格闘技では、相手を殺すところまではしない。殺しあいは、命のやりとりのことだ」

「シェレン先生が、人を殺すなんて想像つかないけどな」

「普通の人間があんな殺気を放つわけないだろ。昔軍隊にいたに違いないよ」

「たしかに、オシリペンぺの殺気より怖かったけどよ」

 サクラはエリザベスの病室を案内し、使用方法について説明すると、さっさといなくなる。

 エリザベスは、安静にしていろという指示に従ってベッドに横になる。

「やることねえ。暇だー」

 そう言いつつ、横になるといつの間にか寝てしまった。今日の事を思い、昨晩は全然眠れなかったので、眠かったのだ。

 エリザベスは昼食の時間に起こされた。

「飯の時間だぞ。さっさと食え」

 サクラが起こす為に言った。

 エリザベスはムクリと起きる。

「飯はどこだ」

「寝ていたんじゃないのか?」

「飯の時は全力で起きるんだ」

 エリザベスは真顔で言った。

「意地汚い奴だ」

「お金を貯める為に、ただ飯を食える時は食べていたんだよ。悪いか」

 エリザベスも涙ぐましい努力をしていたのだ。

 サクラはエリザベスの食事の準備をするとさっさといなくなる。

 エリザベスは、食べ始める。

「うお。結構美味いじゃないか!」

 リング城病院の通常食は非常に美味しい事で有名なのだが、エリザベスは知らなかった。

 エリザベスがのんびりベッドで横になっている間、シェレンは結構忙しかった。

 エリザベスの遺伝子に異常がないかの調査の他に一般患者の診察があるからだ。とはいえ、外来はたったの五人だけであった。

 診察前に遺伝子検査をする為の装置にエリザベスの細胞をセットしていた。その為、午前の診察が終了し、お昼休みが過ぎた頃には、エリザベスの遺伝子検査の結果は出ていた。

 エリザベスの遺伝子には特に異常はなかった。

 そこでシェレンは遺伝子操作計画を遺伝子検査結果を元に作り始める。条件をいくつか設定し、実現可能性のある遺伝子操作を割り出すのだ。もちろん割り出すのは、コンピュータである。

「しかし、不思議な物だな。コンピュータの性能は神々の時代のモノよりはるかに進化しているはずなのに……」

 シェレンが独り言を言った。

「何がそんなに不思議なんですか?」

 サクラがいると気付いていなかったシェレンが驚く。

「なんだ。サクラいたのか」

「そんなに驚くことないじゃないですか」

「集中していたので、お前に気付かなかっただけだ」

 サクラは、シェレンが操作しているパソコンを覗き込む。

「特に問題のあるデータとは思えませんが」

 サクラは言った。

「データの事を言ったんじゃない。この施術ポットと遺伝子操作計画実現可能性プログラムが不思議だと言ったのだ」

「なんで不思議なんですか?」

 サクラが首を傾げる。

「これを誰が開発したが知っているか?」

 シェレンが尋ねると、サクラは首を振る。

「神々の時代に、神々によって作られたとされている」

 シェレンは説明口調で言った。

「さすが神様ですね」

 サクラは感心なさげに言った。

「神々の時代のコンピュータは、現代の物よりはるかに低い性能だったのに、それでも、遺伝子操作に関するデータやノウハウはそろっていたらしい」

「それっておかしくありません? 機材や計算プログラムは残っているのに、肝心のノウハウやデータが残ってないなんてありえない」

「意図的に隠ぺいされたと考えるのが正しいだろうな。だから、今残っているのは、ハードウェア一式とこのプログラムの使用方法とプログラムのアルゴリズムだけだ」

「なんの為に隠ぺいしたのでしょう?」

「それがわかれば苦労はしない」

 シェレンもつれない。

「もう計算結果が出た」

 シェレンが驚いて言った。

「へえ。結構早いんですね」

 サクラが感心する。

「マニュアルでは一日、遅ければ三日掛ると書かれていた。このマニュアルが書かれた時代のコンピュータの性能より、今のコンピュータの性能の方がはるかに良い。だから一日あれば解析できるとは思っていたが、こうも早いとは思わなかった」

 とりあえず、シェレンは結果を読む。

「ここまで出れば良いだろう。ナカムラを呼べ。一応、結果を説明し、要望を聞く」

 サクラはエリザベスを呼びに行く。そして診察室へ通す。

「なんだ先生」

 サクラは、ただ先生が呼んでいるとだけ伝え、遺伝子操作計画の検査結果が出た事を伝えていなかった。その為シェレンが説明する。

残念なことにエリザベスには良く理解できなかった。

「まあ、いい。つまりお前を女性化する遺伝子操作方法がわかったと言うことだ」

「本当か! ならワザワザ明日まで待たなくても良いんじゃないか?」

「お前がそれで良ければ、今晩から開始しよう。ただし、その前にこの資料を見ろ」

 シェレンはエリザベスに二枚の紙を見せる。

「私が準備した女性化遺伝子操作は二通りだ。どちらが良いか選択しろ」

 エリザベスは二枚の紙を見比べる。

「うーん。どう違うんだ」

 シェレンとサクラはコケる。

「一つは普通に女性化するプラン。もう一つは女性化するだけでなく、顔も美人にするプランだ」

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