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リングのホスピタル  作者: 天主 光司
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第四話 診断

 エリザベスが、カモシカ建設に就職して、一週間が過ぎた。すると、住民コードの通知書と健康保険証が送られてきた。

 早速、エリザベスは休暇をとって病院に行こうとした。それで、現場監督に休暇を申し出ると「試用期間中は休暇を取れないぞ。休みの日に行け」と言われた。

「休みの日じゃ病院も休みじゃないのか?」

「休みの日でも、予約を取れば診察してくれるぞ。サクラちゃんの知り合いなんだろ?」

「まあ、一応」

「なら大丈夫だろ」

 エリザベスは、昼休みが終わる前に急いで電話する。

「こちらリング城病院です」

 サクラが出た。

「エリザベスだ。平日は行けないので、休日に予約をとりたい」

「症状はどんな状況でしょうか?」

「おまえ知っているだろう」

「ああ、珍獣になっちゃう病ね」

「そんな病気あるか。性同一性傷害だ」

 エリザベスは思わず大声を張り上げる。そのため、工事現場の他のメンバーが一斉にエリザベスに注目する。なんとも痛い状態だ。

「とにかく予約を取りたい」

「それでは、今度の土曜日の午前十時ではいかがでしょうか?」

「ああ、それで良い」

「それでは、お待ちしております。歓迎はしませんけど」

「なんだと!」

 エリザベスは電話を切る。

「あの女ムカつく」

「サクラさん。性格キツいからなあ」

 電話の様子を見ていた現場監督が言った。

「知っているのか?」

「まあ、建設会社で働いていると、危険が付き物だからね。病院にはいろいろ恩がある」

「それで知り合いなのか」

「ルックスはあの通り美人だから、色目を使う男も少なくないんだが、全員返り討ちにあっているよ」

「あんな性悪な女に色目を使う方がどうかしている」

「おまえも手厳しいな。オカマってみんなそうなのか?」

 エルフしかいないアルフヘイムでは、オカマはエリザベスしか存在しない。それだけで、エリザベスは有名人だった。

「そんなの知らないよ」


 エリザベスが予約を入れた日。

 エリザベスはリング城病院の受付に行く。患者は一人もおらず、受付にサクラもいない。ベルを鳴らすとすぐにサクラが出てきた。

「あ、ナカムラ・ケンジ」

「ナカムラ・ケンジいうなあ!」

「それじゃあ、珍獣」

「もっと悪いわ」

 サクラは、受付の席に座る。

「さっさと保険証をだせ」

 エリザベスは渡す。

「ナカムラ・ケンジ。問診表を記入しろ」

 サクラはそっけなく言った。

「看護士がそんな態度で良いのか!」

 エリザベスが文句を言う。

 するとサクラがギロリと睨みつける。

「ご、ごめんなさい」

 サクラの殺気にエリザベスが恐怖を感じた。仕方なく問診票を記入し、サクラに渡す。

「珍獣になっちゃう病以外は、至って健康のようだな」

「そんな病気はない」

「無駄口を叩かず診察室へ行け」

「診察室って、どこにあるんだよ」

 サクラは席を立つ。

「ついてこい」

 サクラは病院の奥への通路をサクサク進む。エリザベスは仕方なく、ついて行く。サクラが診察室と書かれた扉の前に立つと自動で開く。

「シェレン先生。珍獣がきました」

「珍獣いうな」

 シェレンは診察室の椅子に座っていた。

「おう。良く来たな」

 そう言うと、シェレンは振り向く。

 診察室は、清潔感のある綺麗な部屋で、机にはパソコンが二台とモニターを始めとするいろんな機材が整然と並んでいる。

「早く女に戻してくれ」

「戻してくれは変だろう。お前は元から男なんだから」

 サクラがツッコミを入れる。

「うるせえ。俺は女だ」

「その言葉遣いや態度からすると、性同一性障害とも思えなかったが、本人がそうだと言うならそうなのだろう」

 シェレンが椅子を指差す。

「とにかく座れ」

「で、女になるので本当に良いのか?」

「ああ、頼む」

「性格の方を男に矯正する治療もあるし、その方が安全だぞ」

「俺は女だ。それは譲れない」

「なるほど、アイデンティティと言いたいのだな」

「この珍獣にそんなこと言ってもわかりませんよ」

「うるせい。俺だってアイアンチャティぐらいわかるわ」

 シェレンとサクラが、意味が理解できなくて固まる。

 サクラがエリザベスをド突く。

「アイデンティティの意味もわからない癖にわめくな」

「う、うるせえ。なんか文句あるか」

「文句ある。頭が悪いくせに賢い振りをするな」

「二人ともジャレるな。こっちは休日出勤で気分が悪いんだ」

 シェレンが面倒そうに言った。

「休日出勤は私も同じです」

「俺だって、平日に休みが取れたらそうしたかったよ」

 エリザベスが愚痴を言った。

「試用期間は、休暇が取れないのはどこでも同じだ」

「地球ではそんなことないぞ」

「アルフヘイムはそういうもんなんだ」

 サクラは譲らない。そしてサクラの言う事は事実であった。

「とにかく、私の治療方針を聞いてくれるかな」

 シェレンが機嫌悪いのを隠そうとしない口調で言った。

 サクラはその様子を見て黙る。

「わ、わかった」

「まず、健康状態を検査する。健康である事が確認できたら、遺伝子検査を行う。遺伝子検査結果を元に遺伝子操作方法を決定する」

 シェレンはここまで言うと、エリザベスの表情を窺う。

「遺伝子操作って意味をわかっているか?」

 シェレンはエリザベスが理解していないと見てとると確認の為に尋ねた。

「トウモロコシを虫に喰われ難くしたり、病気にかかりにくくする奴だろ」

「確かにそれも遺伝子操作だな。だが今の話は、前にも少し話したが、男が男であるように決めている遺伝子がある。それを女が女であるように決める遺伝子と取り換える。それが君に施そうとしている遺伝子操作だ。そして、これ以外に君を女にする方法を私は知らない」

「それでかまわない」

「考えなしに答えないで欲しいな。遺伝子操作に失敗したら、どんな副作用があるのか想像もつかないんだぞ」

 シェレンの言葉に、さすがにエリザベスも絶句する。

「副作用もなにも、元から珍獣ですけどね」

 サクラがポツリと言った。

「珍獣いうなあ」

 エリザベスが怒る。

 シェレンがサクラの頭にチョップを入れる。

「真面目な話をしている時に、チャチャを入れるな」

 シェレンがサクラをたしなめる。サクラは舌を出す。

「失敗の確率はどの位あるんだ」

 エリザベスもちょっと心配になって来て言った。

「正直わからない。前例がないからな」

 シェレンは医者なので正直に言った。

「どの位危険かさっぱりわからんな」

 エリザベスが言った。

「バカだな。もの凄いリスクがあるってこともわからんのか?」

 サクラが言った。

「そ、その位わかるわ」

 エリザベスが言った。

 しかし、本当の所エリザベスは全く理解できていなかった。

「失敗したら、死んだり、化け物になったりするって事だ。簡単に言うと医学の進歩の為の礎として利用されるって事だよ」

 サクラがここまで言うと、エリザベスは以前似たような事を言っていたのを思い出す。

「さすがに死んだり、化け物になったりはない。ただ、体にどのような副作用があるのか、想像もつかないと言う事だ」

 シェレンが言った。

「副作用かあ……」

 やっとエリザベスにも事の重大さがわかってきた。

「確かに危険が付きものだと言うことはわかった。でも、ノーマルの性転換手術もそれなりにリスクがあるって言われている。今更怖がっていても仕方ないだろう」

 エリザベスは大まじめに言った。

「その顔で言われても、不気味だけどな」

 サクラがツッコミを入れる。

「うるせえ」

「では、ここに誓約書がある。書かれている内容に同意するならサインしてくれ」

 シェレンが誓約書を渡す。すると、エリザベスは読まずにサインを書こうとする。

「チェスト!」

 シェレンがエリザベスの脳天にチョップする。

「な、何するんだ」

 サクラの暴力は頻繁だが、シェレンは珍しいので驚く。

「誓約書にサインする時は内容をちゃんと読め」

「そ、そうだな」

 エリザベスは言われたように読む。そしてサインをする。

「良しわかった。お前の覚悟はわかった。私も全力で取り組もう」

 シェレンがそう言うと、資料をエリザベスに渡す。

「これがお前の治療プランだ。お前が予約をした時から作り始めたものだ」

「俺の為にここまでしてくれるとは」

 エリザベスは心底感動している。

 シェレンが、先ほど口頭で説明したことが詳しくなっている内容だ。

「そこでだ。現状の健康状態を調べる為の検査をしたい。もちろん今日できるし、後日でも構わないがどうする?」

 シェレンが聞く。

「健康検査と遺伝子検査は、間が空くと良くないとかあるか?」

「そこは間が空いてもさほど問題ない。遺伝子検査から遺伝子操作を行うまでの期間が長くなると良くないな」

「なぜだ」

「エルフは遺伝子が変わる場合があるからだ。大きく変わってしまったら検査からやり直しになる」

 エルフとノーマル地球人との最大の違いがこれだ。強力な自然治癒力を発動させたり、環境適応の変異をすると遺伝子が書き変わるのだ。そして強靭な体へと進化する。

「それなら、健康診断はすぐしたい」

 エリザベスは答えた。

「でも、遺伝子検査は、まだ先になるのに良いの?」

 サクラが言った。

「どうして先になるんだよ」

 エリザベスが聞く。

「研修期間中は、有給休暇は十日間しか取れないはずだ」

 サクラが言った

「な、なんだと」

 エリザベスが驚く。

「何を驚いてんだ。一般常識だぞ。普通の企業に勤めていればな」

 サクラは呆れ顔で言う。

「それに費用の事全然考えていないだろ。ちゃんと費用の見積もりを読め」

 サクラはここまで言うと溜め息を吐く。

「この国の健康保険に加入したら治療費が無料になるんじゃなかったのか!」

「保険内医療ならな。今回の治療は保険外医療だ。保険外医療は一割負担だ。地球の十割負担に比べるとかなり親切だろ」

 サクラの言葉にエリザベスは絶句する。そして、資料を見直し、費用の項目を見つける。

「げ、なんだこの金額は!」

 エリザベスが驚くのも仕方がない。概算であるが、総額九百万エルフ円もするのだ。

「お、俺こんなに金持っていないぞ」

 エリザベスは事の重大さに初めて気が付く。

「この金額なら止めるか?」

 シェレンが聞く。

「やめるもんか!」

 エリザベスは即答する。

「だが、ツケとか、分割とかは受け付けられない。一括術後払いだ」

 シェレンの言葉にエリザベスは絶望する。

「お、俺はどうすれば良いんだあ」

 エリザベスは叫びながら、頭を掻き毟る。

「お前の取るべき道は三つ。ただし、一つは多分NGだから、二つと言うべきだな」

 サクラが言った。

「その二つの道は、何なんだよ」

 エリザベスが詰め寄る。

「一つは借金して、治療費を準備する。もう一つは働いて治療費を稼ぐ」

「そんな当り前の事を聞きたくないわ」

「どうしたら良いのか悩んでいるから教えてやったんだろうが」

 サクラがやや怒りながら言った。

「聞くだけ無駄だと思うがもう一つの道はなんだ」

 エリザベスが聞く。

「時間の無駄だと思うのなら聞くな。私自身も無駄だと思ったから言わなかったのだから」

「一応言ってみろ」

「諦める」

「諦められるか」

「だから言わなかったのに、無理に聞いたのは貴様だろう」

 サクラの剣幕にエリザベスは怯える。

「不治の病の治療に金がかかる事を一番理解しているのはサクラだからな」

 シェレンが口を挟む。

「お前も性転換手術しようとしているのか」

「誰がするか」

 サクラのコークスクリューブローがエリザベスの顎にヒットする。いや正確には顎先を掠った。

「へ、へん。効くもんかそんなパンチ」

「サクラ。それはやり過ぎだぞ」

「これ以外の方法で殴ったら、診察室に被害が出ますから」

 サクラは腕組みしながら言った。

「あれ、目の前が、急に歪み。あれ、天井がグニャリと歪んで……」

 そう言うとエリザベスは昏倒した。

 サクラのパンチは、顎先を掠めることにより、テコの原理で頭蓋骨に振動を伝え、脳にダメージを与える攻撃だ。ここまで完璧にヒットされたら丈夫なエルフと言えど、エリザベスのように倒れることになる。

「あちゃー。これは一時間は目覚めないな」

「私を変態扱いした報いだ」

「エルフでは珍しいのは確かだが、性同一性障害は、病の一種で変態ではないぞ」

 シェレンがたしなめる。

「す、すみません」

 一時間ほどしたらエリザベスが目覚めた。

「ここはどこだ」

「診察室だ」

 シェレンが答えた。

 エリザベスは診察室の隅に置いてあるベッドの上にいた。エリザベスはキョロキョロ周りを見て確認する。

「もう、健康診断も済んだ。結果は明後日中にでるだろう」

 シェレンが言った。

 アルフヘイムの健康診断は機械で全自動なので、眠っていてもできる。

「明後日は仕事があるから、取りにこれないぞ」

「夜七時までやっているが、それでも来れないか?」

「そんな時間までやっているのか?」

「そうだ。この国の条例で決まっている事だ」

 シェレンは面白くなさそうに説明する。

「それなら、現場がここに近ければ間に合うと思う」

「その現場は近いのか?」

「当日にならないとわからん」

 エリザベスの答えにシェレンは考え込む。

「それじゃあ、取りに来れる日がわかったら電話くれ。それと一ヶ月以内に取りに来ること。いいな」

「休日でも良いのか?」

 エリザベスが言うと、シェレンは明らかにイラッとした表情になる。

「可能な限り平日にしてくれ」

 シェレンがプレッシャーを掛けながら言う。

「わ、わかった」

 タジタジになりながら言った。

「ところでシェレン先生。サクラの不治の病って何なんだ」

 エリザベスが疑問をぶつけた。

「マジで気付いていないのか?」

 シェレンが不思議そうに尋ねる。

「わからんから聞いているんだろうが」

「サクラの顔を見れば、すぐわかると思うが」

「性悪そうな顔つきをしている事しか思いつかないが」

 エリザベスが言った。

「本人が聞いていたらただじゃ済まないぞ」

「本人がいないから言っているんだ」

「卑怯な奴だな」

「そんな事より、不治の病って何なんだ!」

「サクラと言ったらメガネだろう」

「ふん。可愛く見せようと伊達メガネを掛けているに決まっている。あの腹黒女の考えそうなことだ」

「あのメガネは伊達じゃないよ。ちゃんと度が入っている。それとメガネを掛けていないと殆ど見えないほどの近眼だ」

「へえ」

「へえ。じゃない。近眼が不治の病だ」

「えー」

 エリザベスは激しく驚く。

 エルフは環境に適応する特徴があるせいか、近眼にならない特徴がある。だから、エルフはメガネをまず使わない。そしてエルフしかいないアルフヘイムではメガネ自体がレアアイテムである。

 そのメガネを掛けているサクラは、アルフヘイムではかなり有名人であった。

「地球じゃあ、メガネかけているのは珍しくないから、気にならなかった」

「地球でもエルフはメガネを掛けないだろ」

 シェレンは怪訝な顔をする。

「そんな事はない。確かに近眼のエルフはいないが、伊達メガネを掛ける奴ならいるぞ」

「ほう。そんなもんか」

「でも、なぜ近眼なんだ」

 エリザベスが聞いた。

「近眼になったきっかけはわかっているが、近眼の原因はわからないままだ」

 シェレンが言った。

「言っている意味がわからなかったのだが」

「交通事故にあって死にかけた事があった。その時、命は助かったが、失明してしまったのだ」

 エリザベスは首を傾げる。

「エルフって失明することってあるのか?」

「失明しない訳じゃない。ただ、普通は時間が経てば治るだけだ」

「じゃあ、奴はどうして治らないんだ?」

「いや。失明は治ったから。ただ視力が回復しないだけだ」

「そっか」

「お前と話していると疲れるな」

 シェレンはうんざりして言った。

「ああ、良く言われるぜ」

 エリザベスは自慢げに言った。

「自慢するな」

 シェレンはツッコミを入れる。

「でもどうして近眼を治そうとしないんだ」

 エリザベスが聞く。

「治そうと必死だから、アルフヘイムに移住して、看護士の資格まで取って、治療費を稼ぐと同時に、治療法の研究までしているんじゃないか」

「看護士になったのは、エッチな白衣を着たかったからじゃないのか!」

「サクラの前で言ったら殺されるぞ。それにこの病院の白衣はエッチじゃないだろ」

 シェレンが軽蔑の眼差しでエリザベスを睨む。

 ちなみにシェレンの白衣もサクラの白衣と色もデザインも同じ白衣だ。

「それとも私の白衣もエッチだと言いたいのか」

 シェレンの言葉にエリザベスは冷汗をかく。

 突然診察室の扉にノックがあり、扉が開く。

「ただいま戻りました。あ、珍獣起きた」

 サクラだ。

「珍獣いうなあ」

「一応、カモシカ建設の広報に問い合わせたところ、新入社員の年収は四百七十万エルフ円ぐらいだそうです」

 サクラはエリザベスを無視してシェレンに報告した。

「げ、どうしてそんなことお前が調べているんだよ」

 エリザベスが焦る。

「私がサクラに頼んで調べてもらったんだ。サクラは何をやらせても迅速にこなすからな」

「ちなみに二年目以降はランクによって、年収が大きく変わるみたいです。ランクが低い人で、五百四十万エルフ円。ランクが高い人だと一千万エルフ円以上になるとか」

 サクラは事務的に言う。

「ランクが高いと私の年収を楽に越すことになりますね」

 サクラがそう付け足した。

「よし、俺のランクを上げてこいつの年収を超えてやる~」

「必殺かかと落とし」

 サクラのかかとがエリザベスの脳天を見事にヒットする。エリザベスは再び昏倒した。

「サクラ。お前は少し手加減を覚えたほうが良いぞ」

 シェレンが言った。

「十分手加減はしました」

 シェレンはエリザベスを座らせると背後に回る。そして喝を入れて起こす。

「お、俺はどうなったんだ」

「お前は、サクラを挑発するな。どうせ勝てないんだから」

「どうして勝てないって決めつけるんだよ」

「サクラは私と互角の強さを持っている格闘の天才だ。お前に勝てる要素は全くない」

「先生と互角だとなぜ強いんだよ!」

「私は武芸百般に加え、魔術を使えるが、それに何か疑問でもあるのか?」

 エルフには稀に武道を極めている者がいる。エルフはちょっとのケガならすぐに回復するし、長生きだから、武芸を極めるのに適している。その上、魔術まで使える者は、間違いなく強いと相場が決まっていた。

 ちなみにシェレンは見かけは十六歳程度の美少女だが、実際には、六十歳である。

 エルフには肉体限界年齢と言うものがある。

 それは特に事故にあったり、病気にかかたりせずに天寿を全うした場合、その肉体で生きられる寿命の事である。ノーマルの地球人は生まれつき決まっており、それが伸びることはない。しかし、エルフは遺伝子変化に伴い寿命が延びる方向に変化する。その上、生まれつき寿命が長いエルフも居るので、見かけで実際の年齢を言い当てるのは難しい。

 また、実年齢が年上でも、肉体限界年齢が高いと成長・老化が遅くなり、肉体は若いこともあるので、実年齢も当てにならないのだ。

 そして、シェレンは生まれつき肉体限界年齢が高かったのだ。

「なんで病院の職員がそんな武闘派集団なんだよ」

 エリザベスが言った。

「ただの偶然だ」

 シェレンとサクラの二人が同時に言った。

「とりあえず、内訳を説明しよう。健康診断と遺伝子検査までは、保険が効くので無料だ。遺伝子操作方法の決定と、実際の遺伝子操作に金がかかる」

 シェレンは資料を指差すとエリザベスはそこを見る。

「遺伝子操作の方法の決定には、五十万~百万ぐらいだ」

「なるほど。でも、どうして金額に幅があるんだ」

「遺伝子検査の結果によって、遺伝子操作方法の結論が複数出ることも考えられるのでな」

「なるほど~」

「そして、実際の遺伝子操作に金がかかる。遺伝子操作は、一日当たり百万かかる。そして九日間ぐらい治療にかかるので九百万だ」

「な、なんで一日百万もかかるんだよ」

「遺伝子操作をする為の施術ポットの使用量が一日百万ぐらいするんだ。装置自体がとても高価であることもあるが、装置を稼働させるのもかなり高コストなんだ」

「実際には、一時間当たりで費用を算出するから安心しろ」

「はあ」

 明らかにエリザベスは理解していない。

「人体には六十兆個の細胞が存在する。それらの細胞全部の遺伝子を書き換えるのだ。精密且つ素早い動作が必要な装置だ。どれだけ大変なものかわかるだろ?」

「な、なんとなくわかった」

 エリザベスは額から汗を流しながら答えた。シェレンは理解していないとわかったが、とりあえずツッコミは入れない。

「治療方針には、理解してもらえたかな」

 シェレンが確認の為聞く。

「ああ、とにかく頼むぜ」

「それなら、次はどうする?」

 シェレンが聞く。

「次って?」

「遺伝子検査をいつするかと言う意味だ」

「来週はダメか?」

 シェレンはこける。

「遺伝子検査から遺伝子操作までの間は時間が空けられないと言っただろう。金はいつ頃たまりそうなんだ」

 エリザベスは腕組みをする。

「そ、そうだな、地球の性転換手術で必要な五百万クレジットを貯金している。五百万エルフ円ぐらいに換金できるだろう」

 エリザベスが言った。

「ならあと四百万じゃないか。一年はまるまる我慢した方が良いな」

「一年で済めば良いが、こっちは結構物価が高いから、一年で四百万も貯金できるとは思えないんだが」

 エリザベスが言った。

「確かにどんなに倹約しても一年は無理です。一年目の年収は四百七十万なんですから、そこから税金がひかれるんですよ。手取りだけでも四百万に足りません」

 サクラが言った。

「そうですね。一年目の手取りを三百万だとして、給料の七十パーセントで生活することにして、残りを貯金したと仮定します。すると九十万貯まる。まあ、がんばっても一年目は百万貯めるのが限界でしょうね」

 エリザベスは額から汗を流す。

「二年目も同様な計算をすると百十万ぐらいか。単純計算では四年ぐらいは見た方が良いわね」

 サクラは淡々と言った。

「よ、四年も我慢しないとならないのかよ」

 エリザベスがショックを受けて言った。

「やるしかあるまい」

 シェレンは励ます。

 エリザベスは、給料の七十パーセントで生活するようにして、残りを貯金することにした。そして四年以内に資金を貯めることにする。

お金が貯まったら、再度続きをするという事でまとまった。

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