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リングのホスピタル  作者: 天主 光司
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第三話 就職

 銀河帝国歴二八九三年。

 地球人が銀河帝国に発見されてから、五十年が経った。地球人は宇宙の文明や科学力に追いつく為に、宇宙へと旅立って行く。宇宙に飛び出した地球人は、瞬く間に自分たちの科学文明を進歩させていった。

 アルムヘイム星は、それを証明するかのような星だ。地球人が発見した時のアルムヘイムはとても生物が住めるような星ではなかった。

 砂嵐と岩と砂漠が支配する星であったが、この星を発見したエルフは、大気の構成と重力の強さから住めると判断し、移住を始める。

 それから開発を始め、今では首都リングを中心に千五百万人の人口を抱えるまで開発が進んだ。


「高過ぎだ!」

 エリザベスは叫んだ。

「普通ですよ」

 不動産屋の店員が言った。

「どこの世界に六畳一間トイレ共同バスなしで、家賃二十万エルフ円なんてあるんだよ」

 エリザベスが怒りながら言った。

「あんたアルフヘイムの住人じゃないだろ。こんな紹介状を持ってくるぐらいだからな」

「どういうことだ」

「ちゃんとサクラちゃんの説明聞いて来なかっただろ」

「だから、どう言うことだ」

「アルフヘイムは、開発途中の星だ。そんでもって、人口に対して宅地が少ない。それで、家賃や部屋代に非常に高い税金がかけられている。それでも、星を急いで開発する必要があるから、労働者には税の優遇があるんだ」

 エリザベスは、そこまで言われて思い出す。この星に住民票を移すには、この星に住む必要がある。この星に住むためには、この星で就職する必要があると、サクラは説明した。その際、家賃が高いだの、税制上の優遇を受けるために云々だのと説明もあった。

「サクラちゃんが、労働者の住宅税免税制度を説明しないわけがないと思うがな」

 不動産屋店員の言うことは図星だった。

「そ、そんな事はない」

「でも、この紹介状。不動産屋向けじゃなくて職業案内所向けだよ」

 エリザベスと店員は、目と目が合う。店員は自分の考えが正しいと確信し、ニヤリとする。

「うるせい。ないったらない」

「でも、サクラさん。口は悪いが、性格は……良い……とは言えないが、むしろ悪いが、性格の悪さに似合わず律儀な人だ」

「うるせえ」

 そう叫びながら、エリザベスは店員に鉄拳を喰らわす。

 店員は白目剥いて倒れた。

「パンチが命中すると気持ちいいなあ」

 サクラには神業的ディフェンスで紙一重ですべてかわされていた。そる為、パンチを当てていなかった。

「お客さん。うちの店員になにするんですか」

 強面の男が三人、拳を鳴らして、エリザベスの後ろに立っていた。


 三分後

「ギャフン」

 エリザベスはタコ殴りにされた挙句、店の外に捨てられた。

「一昨日きやがれ」

 三人組は、エリザベスに唾を吐き、店の中へ入っていった。

「チクショウ。三人で殴りかかるなんて卑怯だぞ」

 エリザベスは復活して言った。

 予告もなしに殴るのも卑怯だと思わないのがエリザベスであった。

「しかたないなあ。ムカつくがあの凶悪女の所へ戻って相談……するだけ無駄か。とりあえず職業案内所に行くしかないか」

 家を借りる前にアルバイトでも良いから就職して社宅を借りるのが早いと、サクラはアドバイスしていた。その際、エリザベスの学歴と職歴では希望の職業に就けないとエリザベスは言われる。それで、エリザベスは反発して職業案内所ではなく、不動産屋に来たのだ。

「ところで、職業案内所はどこにあるんだ」

 エリザベスはそのことにやっと気がついた。

 不動産屋は、病院もあるリング城の市内地図であっさり見つかった。それで、リング城にもどる事にした。

 リング城とは、アルフヘイムの首都、リングの中央にある美しいお城のような建物だ。その建物の中には、役所と国会議事堂と役人や政治家の宿舎を兼ねた公共施設を集めた物であり、アルフヘイムの政治の中心地であった。

 不動産屋を見つけた市内地図の場所に戻ってきた。

 エリザベスは地図を端から端まで、じっくり見回す。しかしながら、職業案内所は見当たらない。

「チクショウ。どこにあるのか全然わからん」

 横に簡易端末があり、それを使えば知りたい場所がわかる仕組みになっている事に気付く。職業案内所と記入し、検索ボタンを押すとリング城が示される。

「俺が知りたいのはリング城じゃねえ」

 癇癪を起しながらエリザベスは装置を蹴り壊す。

「こんなところで何やってんの?」

 突然現れたサクラがいた。実は不動産屋から病院へ連絡があり、エリザベスを捜しに来たのだ。

「職業案内所を探していただけだ」

 エリザベスは不機嫌そうに言った。

「私には、公共施設を破壊しているようにしか見えないが」

「壊したんじゃない。故障していただけだ」

「装置はリング城を示していなかったのか?」

 サクラは怪訝な顔をする。

「職業案内所を探しているのになんでリング城を示すんだよ」

「やっぱりリング城を指していたんだ」

 サクラのセリフにエリザベスはギクリとする。

「さて、何のことかな」

「しらばっくれても、そこの監視カメラに記録されているからわかるけどね」

「うっ」

「やっぱり故障していなかったんだな。お仕置きだ」

 サクラの腰が下がったかと思うと、右足に体重を乗せ、腰から回転した右フックがまっすぐエリザベスのみぞおちへ。

「コークスクリューブロー」

 エリザベスは窓を突き破って、リング城の外まで殴り飛ばされた。そして、地面に体を強かに打ちつけられ、動けなくなった。

 そこにサクラがやって来て、エリザベスを見下ろす。

「職業案内所は、リング城内にあるんだから市内地図で探したら、リング城を示すに決まっているでしょ」

 呆れ切った顔でサクラが言った。

「そ、そうだったのか……」

 無念そうに言うと、エリザベスは果てる。サクラはそれをみると、足首を掴むとズルズルと引き摺り始めた。そしてリング城の中へ入って行く。しかし、病院ではなく職業案内所へと連れて行った。躊躇することなく職業案内所の中へと入る。

 するとサクラの姿を認めた職員がやってくる。

「サクラさん。こんなところに来るなんて珍しいですね」

 男の職員が言った。

「このバカに仕事を紹介してやって欲しい」

 そう言うと、愛想もなく立ち去る。

「相変わらず無愛想だなあ」

 男の職員が苦笑する。

「あの女と知り合いなのか?」

 エリザベスが苦笑した職員に聞く。

「以前ある会社を紹介したことがあったんだ。だけど、面接でセクハラを受けて、面接官を一発で仕留める事件があってね。もはや伝説になっているよ」

「あの殺人パンチで殴ったのか?」

「ええ。それを聞いた騎士団が、スカウトに来たほどの威力だったらしいよ」

 エリザベスは首を傾げる。

「騎士団がスカウトに来るほどの威力ってどの位だとスカウトされるんだ?」

「直接見てはいませんので本当かはわかりません。でも、エルフを全治三日間にする威力があるそうですよ」

「俺は一応数分で立ち直っているって事は、その面接官より、俺の方が強いってことだな」

 エリザベスは、ちょっとずれていた。

「サクラさんが手加減しているってことだと思うけどなあ」

 職員が言った。

「うるせえ」

 エリザベスは職員を殴ろうとする。

「痛てえ」

 殴ったのはエリザベスだが、ダメージを負ったのはエリザベスだった。なぜなら、トゲトゲのスパイクが付いた盾でエリザベスのパンチを受けたからだ。それより、トゲトゲスパイク付きの盾を持っていること自体謎。

「貴様、なにしやがる」

「自分の身を守る為に、盾で防御しただけですよ」

「それじゃあ、そのトゲトゲはなんだー」

「トゲトゲは盾のアクセサリーです」

「それは明らかに攻撃用だろうがー」

 しかし、職安職員は無視して所定の席に戻る。

「はい。次の方~」

 エリザベス以外に窓口に用事のある人はいなかった。

「仕事を紹介して欲しい」

「ここには、そう言う方しか来ませんよ。間違ってもエロ本を買いに来る人はいません」

 職業案内所だから当たり前だ。

 となりの窓口にサングラスした大男がやってくる。

「とびっきりスケベなエロ本を売ってくれ」

 大男が言った。

 となりの窓口を受け持っていた女性職員が拳銃を構える。

 パンッ!

 男は「うわあっ」と悲鳴を上げ倒れた。

「間違ってエロ本を買いにくる奴はいるようだな」

 エリザベスのツッコミもズレている。

「そのようですね。でもご心配なく。あの拳銃の弾はゴム弾なので、少し痣ができるだけで死んだりしませんから」

「なんでここは武装している奴ばかりなんだ」

「希望する職業に就職できる人が少ないので、逆恨みされるからですよ」

「どうして希望する職に就けないんだ」

「そりゃ、産業に偏りがあるからですよ。この国では土木作用員を志望する人以外はほとんど希望通りになりません」

「なぜ土木作業員だけなんだ」

「土建業が活発で、人手が不足しているからですよ」

 いたって当たり前の答えだ。

「ちなみに土木作業員の給料は良いですよ」

「そんな事はどうでもいい。俺はダンサーになりたい。良い店を紹介してくれ」

 地球でのエリザベスは、ショーパブでおかまダンサーをしていた。

「無理だから諦めろ」

 職員が即答する。

「ふざけるなー」

 エリザベスが職員に殴りかかる。しかし、「イテッ」と叫んだのはエリザベスだった。

「チクショウ。その盾をよこせ」

「断ります」

 自分の身を守る武器を渡す者などいるはずはない。

「じゃあ、聞かせてもらおうか。なぜ、俺がダンサーになれないのか」

「それでは履歴書をみせください」

 エリザベスは見せる。

「どうだ。ショーパブで九年間踊り続けた実績を見ろ」

「ショーパブでの踊りなんて実績になりませんね。それになんです? この学歴は」

「学歴が何だと言うんだ」

 ノーマルの学歴で言うところの商業高校卒程度の学歴である。

「アルフヘイムでダンサーをやるには、芸術大学の演劇科の修士課程か、体育大学の修士課程を卒業している必要があります。書類選考で弾かれます。以上これについて議論終わり」

「酷いぞ。そこにある苦情箱にお前の悪口書きまくってやる」

「酷いとは聞き捨なりません。ダンサーはね。第一次選考の書類審査。第二次選考の水着審査。第三次選考の学力審査」

「ちょっ、ちょっと待て。なんで、学力審査なんてあるんだ」

「この国のダンサーは高学歴でないとなれない理由の一つですよ。それにダンスの歴史や文化や表現力を学ぶには博学じゃなきゃ無理でしょ」

「うっ」

「第四次選考の論文。これらを突破して初めて第五次選考の実技テストに辿りつけるんです。あなたには、一次選考すら無理ですよ」

 エリザベスは敗北感に支配され、ショックのあまり膝をつく。

「お、俺はどうしたら良いんだ~」

「そうですねえ」

 職員は至って冷静だ。そしてコンピュータにエリザベスの学歴、職歴を入力し、求人情報を検索する。

「あなたに合った職業は、土木作業員です」

 職員はコンピュータ端末を見て言った。

「や、やっぱりそう来たか」

「やっぱりって期待していたんですか」

「するかボケ!」

「土木作業員ならあらゆる種類で採用可能と出ていますよ」

 職員は楽しそうに言った。

「なにがそんなにうれしいんだ」

 エリザベスが言った。

「土木作業員の中でも安全地域で軽作業しかできない人から、危険地域でモンスター退治をしながら作業ができる人までランクがあるんですよ」

「なんだって!」

「もちろんランクが高い方が危険でハードですが、給料がいいですよ」

「家が欲しいだけだから、ランクは低くても良いよ」

「まあ、そう言わず」

「病気が治ったら、さっさと地球に帰るんだからよ」

「何の病気なんだい? 病歴に書いてないけど」

「仕事には関係ねーよ」

「仕事に関係ないなら書きなよ。ツッコミ入るよ」

「嫌だ」

 エリザベスは頑なに拒む。

「全く。そんなんじゃ就職に不利だよ。サクラさんから紹介状もらってないの?」

 エリザベスは職員に紹介状を渡す。

「サクラさんじゃなくて、シェレンさんが書いてくれているようだね」

「あの病院の医院長はシェレンだろ。シェレンが紹介状書くのが普通だろう」

「そうだけどね。こういうことは、サクラさんが代筆することが多いんだよ」

「あいつそんなに偉いのか?」

「まあ、この国で唯一の看護士だからね」

「看護士が一人で大丈夫なのかよ。この国は」

「この国はエルフしか住んでいないからね。だから、病院が殆どいらないんだよ」

 エルフはノーマル地球人がかかる病気に耐性があり掛らない。エルフ特有の病気に掛ることがあるが、それは滅多にない。

「事故とかはどうするんだ」

「この国の保健所には、簡易治療施設があって、そこで殆どのケガは治せるから事故でも病院は必要ないんだよ」

「エルフだって病気になることがあるだろ」

「それでリング城に病院があるんだよ」

「なるほど」

「その為に、唯一の医者のシェレンさんと唯一の看護士のサクラさんが必要なんで、皆一目置いているんですよ」

「なるほど。必要悪と言うわけなんだな」

 エリザベスは意味不明な納得をする。

「いや悪じゃないから」

「悪だろう」

「サクラさんに告げ口しますがよろしいか?」

「すみません」

 エリザベスは土下座する。

「あと、履歴書には本名書くように。ナカムラ・ケンジさん」

「ナカムラ・ケンジ言うなあ。だいたいどこでその名を知った」

「紹介状の中に、サクラさんの手紙が入っていて書いてあったから、それとあなたの病気のことも書いてありましたよ。それを面接の時に面接官に渡してくださいね」


 エリザベスは、職業案内所の職員に紹介された土建業者、カモシカ建設にやって来た。

 職安に来たその日に仕事が紹介され、その日に会社に来るとはエリザベスも思っていなかったので驚きの展開だ。

 面接会場には面接官が一人待っていた。

「ナカムラさんじゃなくてエリザベスさん」

 エリザベスは涙を流す。

「どうかしたんですか?」

「いえ、ちょっと感動を」

「えーと、職安の資料によると、かなりランクの高い職種も選べますよ。本当に最下級ランクで良いんですか?」

 面接官が尋ねる。

「ああ、それで良い」

「なんにせよ。土木作業員としての経験はないので、三十日は試用期間、さらに三百三十日は、研修期間になりますがよろしいですか?」

「住む所を提供してくれるなら構わないぞ」

「それはもちろん。今日から提供しますよ。試用期間中に首になるか、あなたが依願退職をするか、定年退職するまで」

「凄い気前が良いな」

 エリザベスは驚く。

「この国の政策で、人が住んでいない住宅には、未住住宅税がかかるからね」

「酷い税金だな」

 エリザベスは何となく言った。

「そうでもないですよ」

「なんでだ」

「広く人々に住宅が行き渡るようにする為の施策だよ」

「どうして住宅が行きわたるんだ?」

「その税金のお陰で、金持ちに住宅が独占できないようになっているんだ。手軽に住宅を持つ事が出来るから、欲しがる人が多い。欲しがる人が多いから家を作る。家を作るから会社が儲かる」

 面接官が得意げに説明する。

「なるほど~」

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