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コレクター  作者: 悠木 泉
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二枚の絵

買い物に出かけたユカは、いつも行く目抜き通りから一本脇に入った静かな通りに足が向く。

何かに導かれるように進んでゆくと、ユトリロの絵に出てくるような落ち着いた街並みが広がっている。

少し先に画廊が見える。

絵の具のイラストの小さい看板が段々大きくなってくる。

通りに面したウィンドウには数々の絵がかけてある。どれも淡い色彩の風景画だ。

ヨーロッパの街のようだ。

絵に魅せられて店内に入る。やさしい音色のチャイムが鳴る。

全体を白で統一したインテリア、受付のデスクも応接セットも壁も白だ。

店内にも白壁を背景にして何枚かのリトグラフが掛けてある。

ユカが分かるのはビュッフェぐらいだが、どれも現代的でステキだ。

一枚、一枚眺めていると、奥の部屋から人が出て来て「こんにちは」とやわらかい声がする。

振り向くとにこやかな微笑みを浮かべた若い男性が立っている。

よく見ると長身で、かなりのイケメン。

どこかで見た日本人ぽい顔立ちの中国人俳優に似ている。

少女漫画に出てくる王子様ほどか弱くないが、上品で端整な顔立ちだ。

「こんにちは」ユカも返す。

「お気に入りのものがあればご遠慮なくお申し付け下さいね」

正直、絵のことはよく分からないが、どれもキレイでステキだ。

折角来たのだからと小さい花の絵を買うことにした。

お値段も手頃だし、野に咲く可憐な花が描かれている。

「ありがとうございます。とてもかわいい花々でしょう。お客様のイメージに似ていますね。」そう言われると照れてしまう。

華やかな商社勤めをしていても、男性にチヤホヤされることがあっても、ほとんど縁なく来てしまった。

初めて聞く言葉だった。

花の絵はキレイに梱包されて赤いリボンを付けられてユカの手に渡った。

店の外まで見送りに出た男性に「またいつでもお越しくださいね。お待ちしています」と声をかけられて、ユカは通りに出た。

振り返ると彼はまだそこに居て小さく手を振っている。

あの画廊だけが時間と空間を超えて別の次元に存在しているような気がする。

それも一時ではなく永遠の時空を生きているような、どこか懐かしい特別な感覚。

 花の絵はコンパクトだか色使いが美しい。

パステルカラーの淡いブルー、ピンク、パープル、白の四色しか使われていない。

シンプルな分、心が落ち着く。

こういうのもありだなと寝室の壁に掛ける。

これもコレクションのひとつにしよう。

 花の絵を見ていると、あの男性のことが思い出される。まだ三十才になっていないだろう。

物腰が落ち着いているから、そう見えたのかもしれない。もっと若いかもしれない。私より年下かもしれない…。

ユカは花の絵の右端にかかれているサインに目をやる。

「SAKUYA」

サクヤ?誰だろう?

 

 次の休日、ユカはまた画廊に足を運んだ。

あの青年に会いたかったのだ。

美青年は結構いる。しかし、唯 美しいだけでは物足りない。

宝石だって各々の色に輝いて美しいが、人が皆 宝石に魅せられるのは、そこに妖しさがあるからだ。

人の心を虜にして放さない危険で少し邪悪な妖しさを奥深く秘めているからだと思う。

そう思えば、あの青年は宝石の妖しさを隠し持っている。

そんな人はなかなか居ないし、今まで会ったことはない。

 しかし、応待に出て来たのは若い女性だった。

「こんにちは」

壁を見るとユカが買った花の絵のあとに夏の青空に浮かんでいるのか、飛んでいるのか麦わら帽子がひとつあるだけの絵があった。

右下に同じくSAKUYAとある。

「あの、ここにかかれているサクヤというのは画家の方のサインですよね。」

「はい。そうです」女性は、にっこり微笑んで

「先日、花の絵をご購入頂いたお客様ですよね。その節はありがとうございました。」

「あの花の絵にも同じサインがあったものですから」

「同じ画家です。うちのオーナーが描いたものです」と言う。

女性によると先日 応待に出て来た青年がオーナーで、今日は生憎外出しているとのことだ。

 ユカは少しがっかりしたが、彼の描いた作品なら欲しくなり、その「夏」と題された絵を買うことにした。

さわやかで嫌味のない女性に見送られてユカは歩き出す。

先日と同じように絵の包みを大切に抱えて。


寝室の花の絵、タイトルは「春」その横に「夏」を並べる。

何よりうれしいのは二枚とも、あの宝石のような青年が描いたということだ。

一体彼はどんな顔をして絵を描いたのだろうか。

涼しい顔か、それとも眉間にしわを寄せて描いたのか、想像するのも楽しい。

サクヤの描いた「春」と「夏」の二枚の絵は寝室の壁を輝かせいた。

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