大叔母の死
今のユカの友達は皆、短大出の美人揃いだ。
油断すればユカも負けそうなくらい、おしゃれだし流行にも敏感だ。
今日もデパートの化粧品売り場で高級品を買うつもりだ。
肌に良いというローションや若返るという栄養クリーム等を。ユカは難しい年齢だ。
二十歳の若さはないが、三十代の老いもない。
自分で何とかこの若さをキープすることが大切だった。
出来れば二才でも三才でも若返りたい。
今でもユカはキレイなもの、かわいいものの収集は続けていた。
流石に浜辺での拾い物はしないが、デパートのアクセサリー売場での銀のネックレス、金のブレスレット、パールのリングなど欲しい物は目白押しである。
宝石店に行けばもう輝きの洪水。ダイヤモンドにルビー、エメラルド、サファイア等 美しい石たちが妖しい光を放っている。
ユカは給料を溜めては宝石を買っていた。
特に誕生石のブルーサファイア、ピンクサファイアは一番先に買い求めた。
五月に入ってすぐの連休二日目。
ユカからみて大叔母さんに当たるおばあさんが亡くなった。
九十才近くになっていて生涯独身。姪になるユカの母に全財産を遺してくれた。
お葬式の日、棺に横たわる大叔母さんは、髪は真白、しわは深く刻まれ、頬はこけて皮膚はたるみ、しみはファンデーションで少しは隠せたものの、どこから見ても立派な老婆だった。
死因は老衰。
ユカは涙があふれて止まらない。
彼女の死を悲しむ気持ちより、その醜い容姿が悲しかった。
大叔母さんは若い頃から美人で通っていた。
色が白く頬もポッチャリとしてかわいくさえあった。
老いというものがこれ程までに人を変えてしまうのか、そう思うと恐ろしくさえある。
私もあと六十年も経てばこうなるのか、恐怖で身体が硬くなってしまう。
勿論、若さも美しさも永遠のものではない。
誰にでも生きている限り老いは忍び寄ってくる。
よく分かっているつもりだが、こうして現実を目の当たりにして老いさばらえた彼女を見ると、逃れようのない現実にのみこまれそうになる。
「こうはなりたくない」ユカは心からそう思う。
大叔母さんはユカと同じように美しくかわいい物が大好きな人で、沢山の宝石をコレクションしていた。
小学生だったユカに彼女はよく話してくれた。
「キレイな物やかわいい物は心を癒やしてくれるの。辛いときや悲しいときには手にとって眺めていると力をくれる。元気になる力よ。だから大切にしてあげてね。」
相続した母は、ユカに気に入った物があれば持っていくように言ったので、ダイヤのネックレス、サファイアのリングなどを大切にしまった。
もう、宝石を集める必要はない。大方は揃ったからだ。
出勤するときには宝石は身につけない。
邪魔になるし盗まれる危険もある。
疲れて帰宅した部屋で大理石でできた宝石箱を開けて、宝石や珍しい南国の島の羽根ペンやガラス玉、金色の涙つぼなど、ひとつひとつ手にとって汚れを拭いたり、磨いたりするのが何より心いやされる時間だった。
しかし、宝石類も沢山手に入れたユカは空虚な心を持て余していた。
もっと美しい物、見ていてもっと心ときめくものが欲しい!彼女の欲望はとどまることはなかった。