みにくいままのアヒルの子
時は流れ、ユカもマリコも二十歳になっていた。
ユカは隣県の短大を出て都会にある商事会社に勤務している。
マリコは定時制の高校を出て役場に勤めている。
元々、地味なマリコは、みにくいままのアヒルの子だった。
ユカは有名ブランドの服飾を扱う商社勤務の為、着替え人形振りは健在で給料の半分以上を洋服だの、バッグだの、靴だの、アクセサリーだのに使っている。
毎日、違うファッションに身を包みオフィス街を颯爽と歩く彼女に、声がかからない訳はない。
色白の目鼻の整った美しい顔立ち、細身のプロポーションも手伝ってふり向く人の多いこと。
ユカはもう得意満面だ。
交際を申しこんでくる男性は後を絶たないが、とにかく理想が高いため気に入った男性はなかなか居ない。
美しいものが好きなユカの心をつかむには、高身長、男前でカッコウ良いこと、性格は明るく誠実、ユーモアを介せる賢い人という条件をクリアしなければならず、現実には難しい。
結局、ユカは独り身のまま二十八才になった。
マリコは職場の上司の紹介で、五才年上の同僚の男性と二十三才のとき、お見合い結婚した。
外見は小柄でお世辞にもハンサムとは言えない、どちらかと言うと不細工な顔だが、実直で働き者、マリコを育ててくれた祖母も引き取り大事にしてくれる男性だった。
何よりマリコとひとり娘を愛してくれる、やさしい人でもありマリコは幸せだと思っている。
マリコは娘の小学校入学の祝いを買うために久しぶりに都会のデパートに来ていた。
長い間会わなかったユカにも会いたくて。二人はデパートの喫茶店で待ち合わせをしていた。
マリコは贅沢は出来ない為、ニ、三年前に買ったプリント柄のワンピースに白いカーディガンを羽織っている。
長く伸ばした髪は後ろで一つに束ねている。
約束の時間より五分遅れてユカがやって来た。
日曜日は会社が休みなので、いつもよりおしゃれに一層磨きをかけている。
当時の人気ファッションデザイナー花井幸子の茄子紺の前開きワンピースにイヴ・サンローランのスカーフ、セリーヌのショルダーバッグと靴という出で立ち。
髪もセミロングでゆるくパーマをかけて自然な流れを作り出している。
二十八才になったが、実年齢より五・六つは若く見える。
「久し振りね、マリコちゃん」
「本当に。相変わらずユカちゃんはキレイだわ」
「ありがとう」
そう言うとピンクに塗ったマニュキュアの指をなでている。
ユカは有名店のフルーツあんみつを頼み、マリコも同じ物と促される。
マリコにとってはコーヒーで十分なのだが、折角来たのだから美味しい物にしようと提案されたのだ。
二人は昔話から近況報告まで、時間が経つのも忘れて話しこんだ。
マリコにはユカは相変わらず眩しいビスクドールだし、ユカにとってマリコは白鳥になりそこねた醜いアヒルの子だった。
けれど、マリコは初めて出来た友達だったし、やさしい子だとも分かっているのでユカは大切に思っている。
マリコの娘の入学式祝いにと、
有名子供服ブランド ファミリアのワンピースをプレゼントした。
「こんな高い物頂けないわ」
「いいのよ。マリコちゃんの娘さんなら私も可愛いいもの」
マリコは両手にデパートの紙袋を下げて駅の方へ歩いて行った。その後姿を見ながら、もう、マリコに会うことはないだろう。
マリコはどこから見ても美しくもかわいくもない、野暮ったい田舎のオバサンだったからだ。