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コレクター  作者: 悠木 泉
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哀しきビスクドール

 ユカは子供の頃から近所でも評判の美しく可愛いい女の子だった。

キレイなもの、可愛いいものが大好きなユカの母はわが子のかわいらしさに大いに満足し、娘をより素敵にすることに全力を傾けていた。

それが、生き甲斐だった。

ユカが生まれて間もなくユカの父親は若い愛人を作り、そのままどこかへ行ってしまった。

その悔しさ、淋しさを紛らす為もあったのか、母のユカへの執着心は日増しに強くなっていく。

 髪を長く伸ばし、その髪にヘアアイロンで縦ロールを作る。美容師の母はユカを可愛くする幾つもの魔法をもっているようだ。

洋服も誰もが着ている、ありきたりの物ではない。ロココ風の衿元にはフリル、身ごろにもスカートにもフリルやリボンがたっぷり配われているクラシックなドレス。

母は西洋人形に似せていた。少し褐色がかった瞳の色、真白い肌の色、ユカは本当にビスクドールそのもの。

 小学校に上がってもユカの母の情熱は醒めるどころか増々エスカレート。

着せ替え人形のように毎日変わるクラシックなドレス、ヘアスタイルも様々に変わる。

ストレートのロングヘア、ポニーテイル、大人の女性みたいなアップスタイル等々。

ユカも自分の愛らしさを十分に承知しているから、母の手による変身がとてもうれしかった。

 しかし、クラスメイトには受け入れてもらえない。

絶対多数の子供とは違うスタイルのユカは格好のいじめのターゲット。

髪の毛を引っ張られたり、上履きを隠されたり、机の上に落書きされたり。

ユカの母は娘をいじめる輩を家に招き、菓子やジュースやら大盤振舞いした。

 その結果、いじめっ子たちはなりを潜め、ユカへのいじめは止まった。

ユカの住む町は日本海に面していたため、毎日浜辺には大量の漂着物が流れ着く。

韓国語や中国語、アラビア文字の書かれた衣料品食料品のパッケージ、片方の靴、何に使うのか分からない物、電化製品まである。

ユカは時間があると浜辺に来ては、それらの中からキレイでかわいい物を探す。

中国風の髪飾り、異国情緒あふれるペンダント、色とりどりのガラス玉、ブローチなどが見つかるとうれしくなる。

少し位欠けていてもいい。何も見つからないときは貝殻でも小石でも構わない。

気に入った物があれば持ち帰る。そして以前ニューヨークに出張と称して出かけた父の土産の金髪の男の子と女の子が踊っている絵のついたクッキー缶にためていく。

時々は缶の中の今まで集めた戦利品を眺めるのも楽しみ。

 相変わらずビスクドールスタイル。人から見れば唯のガラクタにしか見えない物の収集。

どこか、風変わりな女の子で通っていた。


中学生になった四月のこと。

ひとりの女の子が転校してきた。

その子は浜辺近くの廃屋に近い古い家を住まいにしている。

両親はすでに亡く、祖父母とくらしている。

裕福ではないらしく、筆箱も使い古しの壊れかけた物、ノートも小さい文字を書き連ねて紙を節約している。

あの頃流行った花柄のシールやシャープペンシル、三色ボールペンも持ってない。

中学に上がると大部分の子供が親に買ってもらう物が、万年筆と腕時計だ。

その転校生には、どちらも縁がないようだ。

虚栄心の強いユカの母は都会にあるデパートに出かけ、高級なパーカーの万年筆、外国ブランドのカルティエの腕時計を買い与えた。

父親がいないから安物しかもたせられないのかと思われるのが口惜しかったようで、母の意地でもあった。

周りの子供たちとかけ離れた感覚のユカに当然ながら仲良くしてくれる友達はいない。

そんな中で転校生のマリコだけは違っていた。

いつも、ユカの近くに居てユカを見ている。

ユカの行く所、行く所へ少し距離をおいて付いてくる。

「何か、私に用なの?」ユカが尋ねるとマリコは黙っている。

でも、ついてくる。

「だから、何?ちゃんと言ってよ」ユカが腹立たしそうに言うとマリコはうつむきながら小さい声で

「キレイだから。お人形さんみたいだから見ていたの」と言う。

「本当にキレイ?かわいい?」

「とってもキレイでかわいい」

「ありがとう」

ユカは気嫌が良くなって

「あなたもキレイな物が好きなの?」と聞き返す。

「大好きなの。でも何も持っていないの」

「そうなの。じゃ家に来ない?見せたい物があるの」


翌日の土曜日、授業が終わるとマリコはやって来た。

美容院を経営しているユカの母は土曜日は特に忙しい。

けれど、娘が初めて連れてきた友達のため、朝からイチゴケーキを焼いたり、ランチにとハンバーグやチキンライス、コーンスープ、エビフライ等を作っていた。

マリコは中学の制服のままやって来た。

着替えるにもよそゆきの服がないのだ。

それでも、祖母が庭で作っている、プチトマトやナスビなど土産に持って来た。

ユカの母は少々形が歪な野菜類をチラッと見ただけで受け取りはしたが、そのままゴミ箱に捨てようと思っていた。

母の作ってくれたランチを食べ終えるとユカは待ちかねたように自室にマリコを連れて行く。

父が買ってくれたニューヨーク土産のクッキー缶のフタをあけた。

そこにはいろいろな物が入っている。

壊れている物もあったが、どれもキラキラ輝いて美しい。

マリコは「わぁ、すごい。とてもキレイ!」と感嘆の声を上げている。

ユカは嬉しくなって「触ってもいいわよー」マリコは恐る恐る手にとっていく。

特に気に入った物は、石がひとつ欠けている花のブローチだった。

花火を思わせる色とりどりの石がはめこまれている。ガラス玉と思われるが、窓から差す陽光に照らされ、その輝きはより美しい。

「それが気に入ったのなら、あなたにあげる」

「本当にいいの?」

「いいわよ。沢山あるから」

マリコはうれしそうに礼を言うと手の中のブローチをじっと見つめている。

大切な物をしまうようにハンカチに包むと、布バッグの底に丁寧に納めた。

それをきっかけに、ユカとマリコは仲良くなっていった。

マリコはユカから教えられたように、毎朝登校前に家の前の浜に出て漂着物からキレイなもの、ステキなものを探した。

見つかれば学校に持参してユカに見せる。

お互いに見せ合いっこをして楽しむ。

とりかえっこすることもあった。

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