一話/不可解
学校帰り、私は歩いて最寄りの駅まで行く。駅までは10分くらいで着くけど、その間に通るカラオケ店からは最近デビューした男性アイドルの曲が流れっぱなしだ。カラオケ店だけでなく、そんなに新しくもないビルに“いかにも”付いている広告を垂れ流す屋外ビジョンも最近は彼らのミュージックビデオが流れている。
実際学校でも、友達の女子はだいたい誰かのオタクだ。コンサートがどうだとか、シングルがどうだとか、毎度毎度そんな話をしている。その話しかしてない。
休み時間には彼らのミュージックビデオの動画を流し始めきゃあきゃあ騒いでいる。
「やばい、見てココ、この横顔、天才すぎる。」
「分かる、マジで首筋が国宝すぎる。」
だいたい毎日こんな感じ。私は3人グループでつるんでいるが、私以外の2人はアイドルオタクだ。
「ちょっと椎香見て!」
「見たって、昨日も見たって!」
確かにテレビでも見るし友達に毎回見せられてるし、飽き飽きするほど顔は見た。
「何回も見るんだよ!あっほら、もうかっこいい」
「あ〜、次のツアー絶対参戦したい」
「それはいつなの」
「期末に被るんだよね…当てたら行くけど」
堀内椎香、17歳、高校2年生。
周りはだいたい自分と縁のない男性を崇め奉っているが、私はアイドルとかそういうものが、正直言って好きではない。
かっこいいとか、かわいいとか、それなりに思うことはあるけど、会えるわけないし、会えたところでどうこうなれる存在でもない人間に金や時間を費やすのが理解できない。
しかも最近のアイドルなんて個性がないじゃない。皆同じような感じで、歌もまあまあ。
私は自己紹介とかそういう機会に趣味を問われることも嫌いだ。
本当に特に好きなこともやることも無い。
毎回適当に音楽を聴くこと、とだけ答えている。嘘じゃない。でもいいな、と思ったものを流しているだけで、アイドルオタクみたいに彼らが生み出すもの全てが良いとか、そういうんは全く無い。
駅までは友達と歩いている。今日も別れるまで推しがどうたらこうたら喋っていたが、電車に乗りこんだら中学生らしい子達もどうやら同じ話をしていた。
友達のことは嫌いじゃないが、やっぱりアイドルが分からない。
同じ人間なのに、何を。と口に出しては言わないものの、最近はモヤモヤが大きくなってきている。
自分から聞いた事なんてないのにCMから何から流れるアイドルの曲が口ずさめてしまうことも。
帰宅して、スマホをいじっていれば直ぐに夕飯の時間になる。
高校生の時は短い。
父親は平日は帰りが遅く、夕飯はいつも母と弟と私で食べる。
うちは夕飯時、テレビをつけるタイプの家庭だ。
今日は音楽番組が堀内家のチャンネル権を勝ち取ったようで、聞いたことあるような無いようなバンドが演奏する中、ワイプの芸人さんがしょうがなしにリズムに合わせて揺れていた。
「ここで、懐メロコーナーです!さぁ…」
司会が意気揚々に話し出した。
「あら、いいわね」
母親が箸を止めてテレビを見つめながらそう言った。
そしたら若い時はこんなだったんだ、みたいな人の歌と映像が流れ出す。
弟はそうそうに食べ終わりスマホをいじっている。母親は何かにつけて懐かしそうに話している。
「ママは全部知ってるの?」
「そうね〜だいたい分かるわよ。あっ、ほらこの人達とかママが高校生のときにめっちゃ流行ってたの!」
そうタイミングよく映し出されたのは5人組の男性アイドルグループだった。
今だったら絶対ダサい訳わかんないピンク色のブカブカしたスーツでセンターがスタンドマイクで歌っている。周りの4人はコーラスと、控えめなダンス。昔は序列が激しいんだな、とかありきたりな感想を持ちつつ、母親に
「ママは好きだったの?」と聞くと
「そりゃもうね!あ〜、やっぱり男前だあ〜」
とテレビの方を見たまま私に答えた。
やっぱりそんくらい前からアイドルはいたんだ。母親も好きだったのか…。にしたって分からない。
なんでアイドルに夢中になれるのか。
昭和アイドルにハマりだしたので何となく書き始めました。
一話ではなんの話しも進まないのでごめんなさい。