何かするだけで広告が入るVRMMO
VRヘッドギアを被り、新作ゲーム「遊戯の皇国」にログインした。基本無料のMMOだ。人工現実内でプレイするゲームとしては、基本無料は珍しい。
俺はキャラクターネームをモカとし、性別は女を選択。今のゲーム、とくにVRものでは性別を選べない。俺がこのゲームをやりたかったのは、自由に性別を選べるという理由からだ。誰しも美少女になりたいものだろう。黒髪サイドテールの女の子になれる。
キャラメイク画面から真っ白に変わり、ガラスが砕けるような演出が入って、街が目の前に飛び出した。中世ヨーロッパを現代技術で掃除したような光景。異世界に来たみたいだ。
俺は早速、このゲームの売りを試してみる。地を蹴って、跳んだ。三メートルぐらいジャンプ。目に映る景色が下に行く。体が軽い。
このゲーム遊戯の皇国の売りはそのアクション性の高さだ。自由自在に動き回って、人外じみた機動で楽しめる。走り回るだけで世界記録を足蹴にできる。これほど愉快なことはない。
ステータスを開くと、化粧品の広告が隅にある。頬の汚れがペロッ! と書かれ、画像は皮膚を剥いだかのようなグロさ。顔をしかめながらオプションなどを調べる。早速、歩き始めた。
NPCが近付いてくる。おそらくチュートリアル要員だろう。俺は説明書をしっかり読み込むタイプ。話を聞く。
「よう新入り。戦闘は初めてだろう。俺が文花堂に連なる本の如くレクチャーしてやるぜ」
文花堂。実際現実にある本屋だ。世界観はどうなっているのかと眉を潜めつつ、彼に着いていった。
街を出て、草原に出た。途中にプレイヤーとも出会う。会話はない。こちらがまだ初心者だからか。ポップアップした画面を見てイライラしているようだ。レアドロ狙いか。
モンスターが現れた。NPCが「ゴブリンだ。素早いから気をつけろ」と助言。俺は初期装備の剣を抜く。
と、唐突に体が動かなくなった。目の前に画面が現れ、CMが流れる。今すぐ百万円を稼ぐ方法とやらが一分三十秒もある。さっさとスキップボタンを押した。体が動くようになり、ゴブリンを見る。
奴は何と、俺と同じように三メートル跳んだ。なるほど、身体能力は互角なのか。CGを過剰に使ったヒーローものみたいな戦いができるということだ。
俺もジャンプして、空中で激突。弾きあって、着地。ゴブリンが地を蹴飛ばして迫る。
「ステップだ!」
NPCが叫ぶ。指示通りステップすると、無敵時間が発生。フレーム回避を推奨されるのか。これは面白い。
しばらくゴブリンと遊んだ。解ったことは、このゲームはコンボが主体で、ステップを上手に使って攻撃をかわす。そしてステップとコンボは空中でも有効。ずっと空中を舞いながら戦える。しかし、一戦ごとに広告が入るのはどうにかならないのか。
「よし、大分戦えるようになったな」NPCが締めに入る。「世界にはこういった脅威が山ほどある。お前のような奴が必要だ。最後になるが、アヌオス5Gをよろしくな!」
最後にスマホの宣伝をして彼は去った。これでチュートリアルは終了だ。俺はレビュー催促のポップアップを消しつつ街に進む。視界内に時折入る脂肪云々の広告が鬱陶しい。
街中では金を払ってポーションを買った。買い物終了時に広告がドカコーラを宣伝していたのが印象的だ。知らないアイドルがどうこう。俺はゲームをやっているのであってテレビは見ていない。
再び街の外へ。気を取り直してバトルを楽しもう。まだまだハイスピードな戦いになれていない。こういったアクションゲームで楽しいのは、やはりノーダメプレイだろう。俺はそんなに得意じゃないから、向上心と羨望を振りまいてしまう。
そう考えているとゴブリンと遭遇。三体いる。もしも昔のTPSゲームなら、簡単に相手できる。けど、VRものは一人称。背中に目をつけているように立ち回らなければならない。
剣を抜き、いざ、というところで広告がポップアップ。身動き出来なくなる。ゴブリンが気付き、脱毛のCMを見せられている俺に斬りかかる。だが一太刀も当たらない。どうやら今は無敵時間。スキップしようとボタンをタップするも、スクロール形式の広告に判定を吸われ別のポップアップが開いた。しばらく格闘を続け、やっと広告が終わる。すぐに後方へステップ。ゴブリン共の攻撃をかわす。
反撃開始だ。前方へステップ。距離を詰める。ゴブリンがジャンプして斬り下ろしてきた。俺も空中に跳び、激突。空中で横にステップ。ゴブリンも追ってくる。俺達二人は落ちながら戦った。前方にステップ。フレーム回避。攻撃。ゴブリンが地に落ちる。地上へステップ移動。突き貫いた。敵を撃破。
今、俺は空中戦をした。下へステップできた。となるとあちこち動き回れるということになる。これは楽しくなってきたぞ。マンガやアニメみたいに戦える日が来るとは。
また現れた広告ウィンドウを消しながら残りの二体へ突撃。二体同時に空中で相手取り、我ながら優美かつ雄々しく勝利した。塔を建てる安っぽいゲームの広告を飛ばし、草原をブラブラ。その間も広告まみれ。そろそろ怒りの水が泡立ち始めた。
あてもなくさまよう。すると、巨大なモンスターを発見。グリフォンだ。さらに追加すると、そいつに襲われているプレイヤー達を発見。レベルもこちらと大差あるまい。助太刀といこう。
グリフォンは空を羽ばたき、プレイヤー三人を苦戦させている。俺も天へ跳び、奇襲の一撃を食らわせてやる。よろめく敵。羽を動かし後退した。大剣を持った女性が斜め上にステップ。敵へ肉薄。連撃を叩き込む。ヘイトが彼女に向いた。隙を逃さず、俺はグリフォンの背後へステップ。猛攻。大ダメージを叩き出す。男性が魔法を使ってくれた。攻撃力アップのバフっだ。さらにもう一人の女性が敵にデバフをかけた。
グリフォン、移動能力低下。大剣の女性が叫ぶ。
「名も知らぬあんた! 一気にやるぞ!」
「解りました!」
ステップ、斬撃、ステップ、斬撃。四方から斬り、とどめに俺は背中を。女性は腹を突き刺した。飛行できないグリフォンと共に落ちていく。
敵が消滅し、経験値となる。すると現場作業を題材とした漫画の広告が流れる。俺の不満顔を見たのか、大剣を担いだ女性に話しかけられる。
「うっとうしいよな、広告。オレのところはミステリー漫画の広告だよ」
「俺は現場のほうです」答える。「よく見ますよね」
「全く。ありがとな。助かったよ。攻撃役がいなくて苦労していたんだ」
「いえどうも。俺は・・・・・・頭の上にある通りモカです。よろしく」
「オレはサラシ」
僅かな鎧を身につけたサラシはニカッと笑う。他二人も広告が終わったのか、こちらに来た。自己紹介をしてくれる。最も頭上に名前が表示されているのだが。
「ボクはマネイです」先程バフ魔法をかけてくれた男性。ボクと自称するには不似合いの筋肉質である。僧侶服がパツパツだ。
「バフ以外にも回復ができるんだけど、戦闘が速すぎてパニくるよ」
「あたしはイデオット!」こちらはデバフをかけた女性。魔女といった格好。「アクションRPGで後方支援って地味よね」
「そんなことないですよ。デバフ役は必要です」
「ありがと、モカくん。さて」イデオットは勝気なのだろう。先導する。「体力も減ったことだし、街で食事にしない? ご飯はVRものの楽しみよ」
俺達は街へ向かって歩き始めた。サラシがヨダレを垂らしそうに口を開ける。
「いやはや後はお楽しみだ。この前のゲームではキャビアを食べられた」
「へぇー」キャビア。俺も食べたことはない。「どんな味でした?」
「いや珍味よ珍味。でも、それより旨かったのはワニだな。鶏肉みたいな、違うような。あれはハマる」
「味覚ありのVRものはここが面白いのよ」
イデオットさんも同調。俺も本格的に会話に混じる。
「皆さんはゴキブリを食べたことあります? 俺は現実でもVRでも食べたんですが、VRの再現度はそれはすごかったですよ」
「おいおい」サラシ、苦笑。「となるとスタッフは実食したということか」
マネイが腹を抱える。笑いのツボが浅いらしい。
街に着き、レストランへ。中世ヨーロッパにレストランがあったかは知らないが、あくまで風なのでいいのだろう。
中に入り、テーブル席へ。メニュー表を開く。ハンバーグだのホットケーキだのよりどりみどり。ここは味を優先しようと思い、イチゴジャムチキンステーキを注文した。サラシはハンバーグ。マネイはきのこパスタ。イデオットはクリームパンケーキ。
注文を取りに来たNPCによるファミレスのCMを聞き流しつつ雑談に興じた。彼らの多様なゲーム体験や俺の軽い自己紹介。話はポップに弾んだ。俺が男であると言えば、サラシもそうだと言う。やはり美少女になりたい人は多いのだ。彼、いや彼女とは同士である。
食事が運ばれてきた。ゲームなのだから待ち時間なしでよさそうなのに。しかし食事前のコミュニケーションもご飯の一部だ。
イチゴジャムがかけられたチキンステーキにナイフを通す。ジャムを落とさないように口へ運んだ。ジャムの甘さと酸味が、チキンの脂を中和する。肉の弾力とゴロゴロの果肉がマッチ。白米には合わないかもだが、故に単体で完結している。
そう感動している最中。広告が入る。最近流行りの虫食だ。なぜこんなものを食事中に見せるのか。スキップしてもセミの腹と足が目から離れない。幸い、ステーキが旨いおかげで食欲は失せなかった。
食べ終わる。ウィンドウが現れ、レビューを催促してくる。味はどうかとか、五つ星評価とか。確かにおいしいから星五つ。サラシはスキップしようとしている。だがそんなボタンがないのに気付き、しぶしぶ評価した。
そんなサラシが愚痴をこぼした。
「なんでこうも広告まみれなんだ。鬱陶しくてkかなわん」
「課金要素もないですから」俺が答える。「広告費で稼ぐほかないのでしょう」
「じゃあなんでレビューなんて書かせるんだ。これのどこに広告要素があるんだ」
「さぁ・・・・・・。ところで、ハンバーグどうでした?」
「オレが作ったより旨い。飯の旨さは実際星五だな。イチゴジャムのステーキって旨いのか?」
「旨いですよ。フレンチっぽいと言われたらそうですね」
「アジア圏でもありそうだけどね」
イデオットの言う通りだ。少なくとも日本の料理ではない。和食なら醤油をかけている。
話しているうちにもいくつか広告が挟まった。この分だと電話の間にも広告が流れてしまいそうだ。夢の中だけはCMなしにしてほしい。
誰も言わないが、広告まみれのこのゲームに腹が立ち始めている。そう誰もが。ただこのままやめるのも何だか癪だ。まだ遊べる。最低でも戦闘は楽しいのだ。まだ良いところがあるに違いない。じゃないと今までの時間が無駄だったことになる。
俺たちは店を出て街中を練り歩く。クエストでも受けよう。RPGでやることはお使いなのだし。そして一人、頭上のアイコンがクエスト関連であるNPCを見つけた。馴れ馴れしいナンパ師の如く近寄る。
「よう。どうしたんだ」サラシが聞く。
「あ、あの、私、大変なことになってしまって。聞いてくれませんか?」
NPCの少女は保護欲をくすぐられるあどけなさで頼んできた。これで受領しなければ人間性が問われる。サラシの表情筋も緩んだ。
「おーよしよし。聞かせてくれないか」
「はい! でもその前に」コホンと咳払い。「藤沢駅に住んでいる貴方だけにお届けしています! 借金が返せなくなった貴方! 国が認めた物理的返済法をご存知ですか?」
その後、二分に渡って怪しげな広告を聞かされた。これのせいで頭が空洞化している最中に、クエストが追加された。この娘の友達をたすけるためにダンジョンに潜るらしい。なぜ友達が行ってしまったかは憶えていない。広告のインパクトのせいだ。
「はぁ・・・・・・」
マネイがダンジョンまでの道中、長い息を吐いた。彼の心が解らぬほど鈍いワケでもなく、俺達も同調する。まずはイデオット。
「そうよね。広告まみれだわほんと」
サラシも口角を下げる。「そこらの少女とか、NPCがペラペラと現実の企業を宣伝するっておかしいと思わなかったのかね」
「サラシ、あたしもそう思うけど、広告ってニューロンに焼き付けた奴が勝利だからね」
「でもさぁ、おかしくない? それだったら、コーヒーの広告で人殺しをしてもいいことになるじゃないか」
「自主規制って奴とかがあるんだし。そんなことしたら解るでしょ。まぁそれでも、世界観ガン無視なのはムカつくけど」
「これならフルプライスのほうがいいよ。オレはゲームをしたいのであってCMを見たいワケじゃない」
言っているうちにダンジョン前に着いた。推奨レベルは・・・・・・問題ない。街からも近い。初心者用だろう。いじわるなゲームならここで負けイベントか課金を促すところだ。
だがこのゲームは違う。ダンジョンに入るなりまず暗い通路に出くわす。視界が黒に吸い込まれた。イデオットは少し怯えている。そんな暗闇に光が現れた。見事なネオン。知らない、いや見た事のある広告だ。ゲームアプリの広告。現実でも至るところに登場し、しかし中身は広告と別物。詐欺もいいところだが訴えられていない。
歩いて広告を通り過ぎると別の広告。去れば広告、行けど広告。この暗闇はロードを兼ねているのだろうが、それならトピックスでも見ていたい。
CMの愚衆を超え、やっとダンジョンに侵入。よくある洞窟だ。松明が壁面にかかっている。しかしよくあるものと違うのは、このゲームのバトルシステムに合わせた大きさだということだ。広い。
早速敵の一団とエンカウント。多い。三十は超えていないか。その代わり弱そうなスライム人間。
俺とサラシが前に出た。敵も気付き、飛び上がる。空中戦を挑むため、俺達も跳んだ。
空中で一閃。一撃で相手を屠る。さぁ次だとステップで滞空時間を伸ばす、というところで広告が入る。俺は空中で止まった。敵は構わず攻撃してくるが、当たらない。サラシが叫んだ。
「広告で身動きできん!」
「俺もです!」俺だってそうなのだ。困るのはマネイとイデオット。イデオットが眼前に迫る者を見て毒づく。
「敵一体倒しただけで広告の入るの!? 全くとんだクソゲーなんですけど!」
彼女も戦闘。魔法でデバフをかけ、少しでも優勢を作ろうとする。
俺達近接二人の広告が解けた。着地。すぐ援護に向かう。背後から突き、倒す。また広告が入る。イライラしていると、戦闘音がないことを知る。マネイ達を見る。二人共固まっていた。
「広告ですか」俺が聞く。「そうなんだよ」とマネイは肩を落とす。テンポが最悪の底にある。
広告が終わり、手近な敵を斬るとまた広告。一体倒すだけでこういうのが入る仕様上、長期戦は避けられない。結局、十分以上かけて蹴散らした。その十分のほとんどは広告だ。
その後も戦闘が起こる。レベルアップ。当然広告が挟まり、不快度指数は過去最高を記録しつつある。
九割ぐらい広告だったダンジョンを突破。ついにボス部屋に着いた。仰々しい扉を開け、中へ。古代遺跡か何かの石造建築。玉座にいるは、ビッグトロール。とんでもない巨体と筋肉。俺達四人は見上げることしかできない。
ビッグトロール。奴は立ち、棍棒を手に、獣の雄叫びを上げた。
「さて、やりますか」
サラシが大剣を構える。イデオットがデバフをかける。俺が走り、マネイがHPに気を配る。
敵は巨体を活かした歩行で距離を詰め、棍棒を横に一閃。俺は飛び上がり、奴の顔面を斬った。すかさず横にステップ。頭突きをかわす。攻撃を乱打。肩を切り裂く。すると、ビッグトロールは天高くジャンプ。ステップで滞空していると、落ちてきて、周囲に衝撃波を放つ。俺も吹き飛ばされた。
俺の隙を埋めるようにサラシが突撃。地上のまま足を斬る。ビッグトロールが大地を踏みつけて揺らす。俺は背中へ行き、張り付き、突き刺した。ものともしない。奴は一回転して全てを薙ぎ払う。
中々手強い。そう思っていたが、甘かった。敵は突如動きを変える。HPバーのアイコンが一つ減っている。イデオットのデバフが消えたのだ。
途端、空気が変容。その巨体が嘘のように、地を蹴って距離を詰めてくる。跳んで距離を置こうとして奴の棍棒が一閃。俺を無造作に殴る。壁に叩きつけられる。
「おいイデオット!」サラシは焦り叫ぶ。「デバフを切らしたのか!」
「時間経過の広告に捕まったのよ!」
「そんなのスキップしろ!」
「できないタイプなの!」
つまりイデオットは何も悪くない。このゲームが悪い。いい加減ゲームを割り砕きたいが・・・・・・マイボディは俺の統制下にない。
俺は壁に足をつけ蹴飛ばし、空中に躍り出る。ステップを駆使しビッグトロールに接近。奴もステップを刻み俺とドッグファイト。だが奴の足元にはサラシ。彼(外見は彼女だが)は足を斬ってくれた。移動速度がほんの少し低下。その一瞬の隙に斬撃。HPを減らす。一撃では終わらせず何度も。コンボを稼ぐ。ビッグトロールがこちらを見た。棍棒をやけくそ気味に振るう。ステップでフレーム回避をした。
その間もサラシが足をしつこく攻撃。そして、移動速度もより低くなる。HPバーにアイコン一つ。デバフだ。イデオット復活。一気呵成。顔面に突きを連発した。目を潰して、が、やれなかった。
俺は奴の手に阻まれたのだ。掴まれ身動きがとれず、そのまま地面に叩きつけられた。HPが大きく減少。死にかけだ。だが回復魔法が来ない。追撃が来る。
「ごめん!」マネイによる悲痛の叫び。「こっちも広告だ! スキップしようにも他の広告が上から被さってくる!」
「クソ!」
サラシが連撃。ヘイトは彼に向いた。俺はその間にポーションを飲み回復する。
だけどもサラシの猛攻は激しい。HPを無視して、湯水を飲むが如く減らしていく。そして、足を攻撃した甲斐あり、奴は膝から崩れた。とどめだ。サラシは飛び上がり、空中から両断しようとして、静止する。
「オレもかよ!」
剣を振り上げたまま固まっている。広告だ。今手が空いているのは俺のみ。疾駆、奴の頭部へ鋭い斬撃。朽ち果てたHPはついに底へついた。ビッグトロールは全身が床と接した。
勝った。余韻に浸るまでもなく広告が挟まる。
マフィアがどうこうする話のゲームだ。あまりにもネイティブから乖離した日本語を聞かせてくる。
サラシが空中から地上へ降り立つ。つまらなさそうに剣を肩へ手をかけた。とどめを奪われたのだ。恨まれても仕方あるまい。俺の表情をどう見たか、口角を曲げる。
「あんたのせいじゃねぇよ、モカ。このクソゲーが悪いんだ」
「そう、ですね。すみません」
「いいってことよ」
俺達はダンジョンから出る。入口へのショートカットを広告を飛ばしつつ通り、外の世界へ。時間が経っており、夕日が草原を赤く染める。美しい太陽の隣には、脱毛の広告が輝いていた。
街に戻り、NPCに報告する。そういえば友人がどうこう言っていたが、見かけなかった。もしかしてクエスト失敗か。
だが彼女は笑顔だ。
「ありがとうございます! 友人は無事に逃げられたようです。よかったぁ。これも貴方達のおかげです。何度感謝してもしきれません。このゴールドはお礼です。あと、なんですけれども」
「なんだよ」サラシは首を傾げる。
「皇国プレミアムに加入しませんか? 月の支払いにより、広告なしでゲームを楽しめます! また特典として強武器、爆煙神龍セットをプレゼント! これで貴方も全サーバーの一位のトッププレイヤー! さぁ、皇国プレミアムに加入しましょう!」
クエストクリアの文言が前に現れた。達成感を失わせる天才の所業に、俺達の目は冷めきった。
NPCと別れ、広場のベンチに座る。息を落とし肩を落とし。こんな、異世界というべき空間で、現実を、しかも広告という商業を前面に押し出されるとは。せめてゲーム内の広告に絞ってほしかった。
サラシが言葉を探し、目を迷わせ、口を開いて嘆息。俺に言った。
「なぁモカ。リアルの連絡先交換しね? SNSとかのさ」
「いいんですか?」俺の問いはプライバシーの共有以外への確認があった。
「あぁ。別のゲームでも誘おうかと思っている。そこでも楽しもうぜ」
「いいですよ」快諾「何かあったら誘ってください」
「おう。みんなも」
俺は全員とSNSの連絡先を交換した。新しいコミュニティへの参加。だがつまらない映画を見たあとの空気感が故、手放しには喜べない。
三人と別れ、俺はログアウトすることにした。ログアウトボタンに透明の広告がスクロールしてきて、中々押せなかった。それでも何とかタップし、意識が現実へ帰還していく。何であれ、もう二度とこのゲームはやらない。
あれから幾日か。俺は「パーセントゲーマー」というゲームをプレイしている。リリースして直後かつ俺も初めて。サラシ達に誘われたのだ。彼らとは現実でも仲良くなった。共に遊べるなら断る理由もない。
だが今回も苦渋を舐めている。目の前にはサイボーグ。俺は拳銃の引き金を引こうとした。トリガーに指をかけて握り込む。するとウィンドウがポップアップ。ガチャの画面。弾丸が命中するかどうかさえ、ガチャに左右される。演出が終わり、ようやく弾が放たれる。九十パーセントで当たるハズが、外れた。
勝ったとしても、アイテムドロップもガチャ。今回もSSRはでなかった。あまりにも確率が渋い。サラシも舌打ちする。
「なぁ。俺はギャンブルをしようとしてゲームしてはいないんだが」
「全くですよ。これゲームソフト自体もフルプライスなのに」
俺達は不満をこぼした。しかし文句を言っても始まらない。今時、集金が露骨でないゲームなどありはしない。
遊び場で金をせびられることほど萎えることはないな。どうせ搾取するなら嘘で隠せ。ふと、そう思った。