# 5
今回はアクションの巻きです。
結果だけお伝えしよう。
瞬殺である。
いや殺してないよ流石にね。こんな弱い者のせいで殺人犯に成り下がりたくはないし。
でも私の力というか、大半はシルのおかげで勝てた訳なのだ。
魔法にはたくさんの種類があり、火属性や水属性。氷属性や光属性なんかがある。それらは皆才に応じて使えたり使えなかったり個人差があるのだが、人それぞれ物凄く特化した得意な魔法属性というものが存在する。
他はあんまり得意じゃないけど、雷属性だけ何故かめちゃくちゃ得意なんですよね。という人は紛れもなく雷属性が得意魔法属性だという風に。
私は元々全ての属性をほどほどに使え、特化してるとは言いにくいけれど、多少他よりは得意な属性が火だった。
けれども、シルという超規格外なモノと一生友達ですみたいな契約をしてしまったおかげ?で風属性が本当にマジでおかしい程に超特化してしまったのだ。
あと何故か光魔法も上がった。ついでに闇まで。多分その理由はシルが見かけたら人生の運を使い果たしたと言い伝えられる程の幻の存在、精霊だからなのだろう。色々規格外すぎる。精霊の力恐ろしやである。
「ーーーほーらよっとっ」
なのでその風の力を使い、自分の俊敏性を上げて相手を掴み、弱い旋風で浮かせて吹っ飛ばしたときには、改めて自分の力が恐ろしいと感じた。
普通ならば魔法を使うときは決まった魔言を発し、精霊が生まれる聖霊樹の杖がなければならないのだが、私の場合そんなものはいらない。心で思うだけで勝手に魔法が発動するのだから、目を点にするばかりだ。しかし、言葉はまだしも杖を持たずに魔法を使ってしまえば、私がおかしいことに人々が気づいてしまうので、杖だけはお飾りとして振っている。
おまけで飛ばした相手に、重力を倍乗せて落としたので流石にガタイのいい男でも気を失っていた。
やりすぎたかな?でも煽られてイラついてたし、スカッとしたからいっか。
と、すぐに気を取り直し、歩き出すリーディア。
その後もバッタバッタと相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し(殺してはいません)、とうとうお目当ての二人組の部屋の前に来た時は、十分もかからなかった。
「‥‥‥お邪魔します」
一応、彼ら貴族な訳なのだし?何も言わずに入ってしまうのは、例え助けに来たからと言って許されるものなのか。
数秒考えて礼儀正しく挨拶をしてドアを開けた。
キイイィン
耳を塞ぎたくなるような金属と金属が触れ合う音に、目を伏せる。
「ッッまた増えたぞ!一体何人いるんだ!?」
「もう、矢も残り僅かですわ!ライ様の魔力はまだ残りはありますの?」
「いやもうすぐ尽く。参ったな、ここまでか?」
二人組の男性の声と女性の悲痛な叫びが聞こえてきた。
話からして、もう戦える術が消えかかっているらしい。
当たり前といえば当たり前。さっきからぶっ通しで魔力と矢を使っているのだから尽きるのも早いというものだ。しかも地味にこの盗賊、弱いくせにいい武器を持っている。攻防するのは大変だっただろう。
私はよく耐えきったなと頷いていたが、少し不思議に思うところがあって目を開けた。
「ーーーッお前、誰だ!!」
「は?」
「え?」
そうなのだ。私は盗賊ではない。
まさかとは思うけれど賊だと勘違いされていたのだろうか。
無神経にも程がある。こんなにいい服でしかも動きずらいスカートなのに、あの小汚い賊と勘違いされるだなんて。
ひとりだけみんなとは違う良い服を着た賊の長みたいな人に、「誰だ?」発言されたおかげで、二人の視線が鋭いものから困惑した表情へと変わる。
「失礼な。私はあなた達を助けにきたものです!盗賊さん、さっさと帰ってくれませんか?」
『ぶぶぶ。さっきまで自分が盗賊と間違えられてたのに‥‥クスクス』
はい、そこ笑わない。
そういうことは無かったことにするの!!
リーディアは金泥棒に向き合った。
泥棒は部屋の中にいるので四人。ここに来る途中、私が取りこぼした他の奴らはシルに任せて来ていたので、シルがここにいるということはきっともう他の賊は皆んな気絶させるのに成功したのだろう。
つまり、ここに居る四人を気絶させれば私の勝利であるのだ。
ん?何の勝利かって?
もちろん秘密だ。
きっと私の勝利に終わるのだと信じているからこそ、言葉にしてしまえばそれが事実になってしまいそうです怖いから言わない。
ま、まあ。言わなくても勝つのは私なんだけどね。
「君は、あの時の銀貨の!」
「助けてくれた方ですわ。どうしてここに‥‥」
やっと私のことを思い出してくれたようで何よりだ。
私は彼らを安心させるようににっこり笑って言った。
「騎士団が来る前に無かったことにしたいので、私も手伝いますよ。この人たち倒すの」
「は?ふざけるのもたいがいにしな。どうせ、こいつらに良いとこ見せて恩でも売っておこうっていう魂胆だろうが、そう簡単にはいかねーぜ!」
「てめぇ、そんなひょろひょろで俺たちに勝てる訳がないじゃねぇか。俺らが怖すぎて頭イカれたか?」
「いえ、多分楽勝かと」
君達よりは強いしね。
舐めないでもらいたい。ふふん。こう見えても私、シルのおかげで、魔法試験一位を勝ち取っているのだ。どんなに使っている武器が一級品だろうが、その物を扱う人が一級でなければただ素人同然。そんな者に魔法試験一位の私が負ける結果があり得るだろうか。
答えは否。
あり得ない!
魔法試験首席の実力得とみよ!!
「んだと!!お前らやっちまえ!!」
逆上した男四人が私に向かって、武器をかざす。
まずは素早いナイフの男が私の首を狙ってきた。
もちろん、避けることもできるのだがここはあえて避けず、風で少し相手の勢いを抑えつつナイフの刃先を指先で捕まえた。
「え?」
まさか受けたり避けずに捕まるとは思ってなかった男は拍子抜けした声を漏らした。
うんうん、わかる。びっくりするよね、私も前、学園祭で開催された競技大会の時にそれされて驚いたもん。
その日は、剣を掴まれたことにより勢いを無くしてしまった私は、優勢だったのに同級生に負けてしまい、瞼を泣き腫らしながら悔し泣きをしたものだが、今思えば奴、よくそんな危険なことをする勇気があったなと思う。私には風魔法があるからできることだけれど、彼は魔力がほとんどなかったのでただの体術だけで剣の穂先を捕まえたのだ。彼は凄い勇気をお持ちのようである。
まあ、そのおかげで今、私はこの戦術を閃いたのだから感謝している。
一応。でも奴には言ってやんないけど。
そのまま、ナイフだけ私は男から抜き取り、手に持った。
男は私が避けきれずにナイフを受けるとばかり思っていたものだから、勢いよく飛び込んできていて、後ろでべしゃりと床に顔を打っていた。
余計な筋肉と脂肪がたまっているようにお見受けできるので、多分相当痛いだろうから、ある程度は動けないだろう。
「あ、危ない!!」
「ーーーうわッ」
と、横から繰り出される拳が突如として現れた。
二人組の男性の方の声が聞こえたお陰で、間一髪で避けだが、飛び退いた先には杖を持つ、私よりもヒョロイ男が。
ニタリと不気味に笑った瞬間、
「ーー力尽きて灰になっちまえッッ! 『魔炎牢』!!」
炎が私の周りを覆うように円を描き始めた。赤ではなく、赤い炎より熱量がより上回る、青い炎の蒼炎が私を逃さないとばかりに渦を巻き、私の皮膚を焦がす。
『リーディア。おかしい、おかしいよね?』
「うん。本当おかしいわ」
しかし、この魔法は炎魔法の中でも上級の技。普通平民が容易く扱えるものではない筈だ。
予想だが、あまりこれは安定していない魔法だと思われる。その証拠に魔法の展開が格段に遅い。
なら、こちらがすることはひとつ。
強く安定している魔法には効果がなく、逆にこちらが爆発する危険を伴うが、迷っている暇はない。
『魔炎牢』に囚われてしまえば、相手を焼き尽くすまで燃え続けるのだ。
急がなくてはこちらが危ない。
幼少期みたいに丸焼けになりたくないし。
私は中指と親指を擦り合わせ、指を鳴らした。音は不気味なほどに部屋中に何十も響き渡り始める。
まるで水紋のように一つ鳴れば、その音が部屋の壁に当たり、音が二つ三つになる。
静かにゆっくり空気を揺らしていく。
その間にヒョロイ男は魔法の構築で忙しいみたいだけれど、大柄な男は暇らしく随分と自慢な拳を何度も私に向けて来た。
あまりこいつには近距離で相手をしたくないと、部屋の隅へ避ける。だって私の得意は風だ。本当なら野外の方が風魔法の上級をぶっ放して、終わらせることができるのに、ここは狭い部屋。つまり私は遠距離派だけど、相手は格闘系だから近距離派。そしてこの場所はいい具合に近距離だ。不利にも程があるのだ。
すんごく私戦いたくないし、戦いにくいんですけどもう辞めていいですか?
ふと、今私がいたところを見れば穴が深く空き、拳が床を貫いていた。
恐ろしい馬鹿力だ。きっと頭は筋肉のことしかないのだろう。
いわゆる筋肉バカって奴だ。
はっきり言って、私が一番嫌いで相手にしたくないタイプ。
「なぁなあぁ。俺、強いかなぁ。すんごい気になるんだよなぁ、教えてくんねぇかな」
その証拠に、さっきからこの言葉をずっと繰り返してるんだから、面倒ったらありゃしない。
うるさい。黙ってほしい。切実に。
やっぱり私の好きなタイプは優しくて紳士的な人をご所望なのですよ。彼みたいなのはお呼びじゃない。
「教えてほしいんなら、とっととここを出て、騎士団に喧嘩売りに行った方が早いですよっ。早めにボコられて人生やり直してはいかがですかッ!!」
「ハハッそれはやだなあ。ーーー俺捕まっちゃうじゃんってねッッ!!!」
頰の皮をかすめて、拳は後ろの壁へめり込んだ。
男は細い男とは違い、純粋な笑みを浮かべて私へと迫ってくる。
「オマエ、最初会った時から思ってたけど。強いんだなぁ。びっくりするよ、女なのに男の俺と渡り合うんだもんな。ほんと魔法ってつくづく便利だと思うわ。でもさ、思わないか?魔法って筋力じゃないんだぜ」
「それが、どうかしました?」
「だったらさ、おかしくないかなぁ。まるで鍛え抜いた筋力と同じように魔法も扱われるんだ。おかしいよなあ、だって魔法はただ言えば誰でもできるんだから。それに比べてこの拳は、俺の努力の結晶だ。だからさぁーーー」
「オマエみたいな魔法しか使わない奴、俺めっちゃイラつくんだよねぇ」
その言葉を皮切りに、男はパッと消えた。
いや、消えたのではない。ただ、走っただけなのだ。
本来なら走っただけでは見えてしまうものだが、彼は違った。元から備わっていた身体能力と努力によって生まれたあらゆる筋力の強化。それに伴い、瞬発力は人の目に追いつけないほどの速さへと進化したのだろう。
どこからやってくるか分からない不安に、私は守りの姿勢に入った。
人の弱点の顔を腕で隠し、その間から男がいつ来るのか注視しる。
しかし、予想とは反対の後ろから
「残念、正面じゃなく背後だ」
と
「ハマったね」
という私の声とが重なった。
そして瞬間、バンッッという部屋の壁を叩き割るような激しい爆発音が鳴った。ついでに私の唇の端も上がる。ニンマリとしてやったりという笑顔だった。
だから言ったのだ。魔法試験首席を舐めるなと。‥‥まぁ。言ってないけれどもね。
風の精霊であるシルの力ならば、私の濃度の薄い魔力を風魔法で充満させ、例え見えなくとも相手がどこにいるかなんて丸わかりなのである。
でもそんなとしなくとも、流石にあんなに分かりやすく前を防御していたのなら後ろを狙うは当たり前。前を狙えば、腕はやれるかもしれないけど、命までは取ることができない。だから男は後ろにくるだろうと予想して、ちょうどヒョロイ男が背後にいるところに誘い出し、ヒョロイ男を爆発させたのだった。
も、もちろん殺してなどいない。程々に、でも最低でも拳がご自慢の人に届かなくてはいけないので、多分魔法を使った男の腕はひどい火傷を負っているだろう。
え?どうやってヒョロヒョロ男を爆発させたのかって?
そんなの簡単。
男の魔法には歪みがあったからそこにつけ込んで、指を鳴らした時に魔力をこめて放たれた僅かな魔力波が歪みを刺激し、魔法としていられない程に損傷させて、行き場のない魔力が爆発を起こしただけなのだ。
うん。こうしてみればわたしはなーんにも悪いことをしていないのが手に取るようにわかりますなぁ。
なんだ。勝手に相手が魔法を使って、相手が自爆しただけ。
いや、運が悪かったね。ヒョロヒョロ。
そしてたまたまその方向に立ってた拳くん。どんまい。そんなこともあるって。
ふふん。ま、この結果は全てこの魔法試験首席を舐めた結果なのだからね。君達の責任なのだ!!
「あと言っておくけど、魔法だって努力は必要よ。努力しなきゃ、こんな爆発が起きちゃうもの。努力しない者が嫌いと言っているけれど、あなたのお仲間、全然努力していないんじゃない?」
「‥‥‥」
声も出せないのか?もっと強くなくちゃ、男はモテないぞ。
立て!立つんだ拳くん!!
ヒョロヒョロ。君も頑張れ!期待はしてないけど。だってヒョロヒョロだし。
しかし、私の応援とは真逆に、私の目の前でガクッと二人とも膝から崩れ落ちた。
気絶したようである。
やはり立つのは無理だったみたいだ。
「はあ。やれやれ、最近の男は根性がなくて退屈なものだわ」
大きなため息が部屋に一つ、広がっていった。
*****
「い、一体‥‥何が、何が起こってるんですの!?」
隣に立ちすくむ私の連れが目の前で起きるあり得ないことに対して呟いた時、爆発音が響き渡った。
木屑が舞って、埃や塵で視界が見えづらくなる。
「ーーーよく、わからない。が、今戦っている彼女が本当に俺たちの為にしていることは確かだろう」
始め、挨拶をした後にドアを開け、何というかこんな状況なのにやけに緊張感のないマイペースな奴だと思った。
だから、そんな人は一般人じゃない敵《泥棒》だろうと私は思っていたが、それは勘違いで違う意味での一般人ではない、普通じゃな人だった。
魔法において非常に優秀だと言われていた私と、弓では国の一位を争うと言われていた婚約者が四人を相手に苦戦し、劣勢だったというのに、急に現れた彼女がただ一人で次々と己よりも大きな大人を倒していったのだ。
有り得ない。この目が信じられないと思った。
しかしながら、目の前では自分よりも幼い少女が楽々と大人を欺き、驚かせている。
その事実は本当なのだ。信じるしかあるまい。
「だとしてもだ。この強さは圧倒的すぎる」
もしかしたらだが、師団長や騎士団長と互角で戦えるかもしれない強さ。
今目の前で起こっていることも、相手が投げ飛ばされて初めて「あ、投げられたんだ」とわかる程度。多分、いいやきっと私とでは早々に決着がついてしまうかもしれない。
「ええ、本当に。一体彼女は何者なのでしょう?ここまでの実力がありながら、名前はまだしも、お顔やお顔の特徴を知られていないだなんて不思議ですわ」
「同感だ。彼女ぐらいの実力なら『風使い』として著名になっていてもおかしくはない」
婚約者の疑問に私も相槌を打つ。
そして、はたと気づいたように大海原を彷彿とさせる目をこれまでかと大きく広げた。
「___そう、そういえばいたような気がする。彼女よりかは数段落ちるものの、学園の魔法試験ではいつも十位以内に入っていた、風魔法が得意な一つ年下の令嬢が」
そして、此処へ来る際、いつも冷酷非情そうな顔がつくられていたというのに、珍しく嬉しそうに口角を上げていた近衛騎士がいて、どうしたらそんな君がそんな顔をするのかと聞けば、今日婚約者が来るのだと耳を少し赤らませて見せた。
私は、いつものキャラはどうしたのかと思って騎士の惚気話を聞き流していたのだが、確か風魔法が得意なのだと言っていた気がする。因みに年は二歳年下なのだと。つまり私からしてみれば一切年下なわけだ。
その話を聞きつけた私の婚約者が、「先にその婚約者とやらを見ましょうよ!」とせがんだので、騎士に婚約者が泊まる宿へと今日来たのだが___そうか。
すべての少女につながるものはただひとつ。
『風魔法が得意』だということ。
ならば、
「彼女が彼の婚約者であの後輩、か」
煙が晴れ、人の輪郭がうっすらと視認できる程度になった。
瞬間風が吹いて、ただ一人少女の姿しかなかった。
先刻までやりあっていた男たちとは無事、勝利したらしい。
私はフードの下から、ふうと肩で息する少女をじいっと見つめていた。
対して、私の視線に気がつかないのか、こちらを向くそぶりもない彼女の見つめる先には、もう味方がいなくなってしまった盗賊団の頭一人。
そいつは驚いたように少女を熟視して、さぞ面白そうにニタリと口角を上げた。
*****
「お前やるなあ、舐めてたわ。……なあ、俺らの仲間ってめちゃくちゃ強い、そこら辺の貴族じゃあ倒せないって結構名を馳せてんだぜ?そんな奴らをお前はあっけなく倒した」
「はあ」
なんか、何が言いたいのかよくわからず、気の抜けた声が出た。
なんだ?私が倒した奴らの治療費を請求したいのかな?だったら断固として拒否するよ?だって私悪くないもん。全部あっちが最初に手出してきたんだもん。最初に手出したほうが悪いってよく言うじゃない。
「仲間にならねえか?」
「なりません」
「即答かよ!いいのか?普通の平民よりかは良い暮らしができるぜ?」
「いや、そもそも私貴族だし」
「え?あ、なんだ訳あり没落落ちぶれ貴族かと思ったんだがな。例えば王子にけんか売って爵位を剥奪されたとか、王子に媚薬でも仕込んだとかで」
「どんだけ下町の恋愛小説、夢もりもりなのよッ!そんなことしたら私死!生きてないの!!身分剥奪だけで済む話じゃそもそもないの!そしてまだ貴族なの!」
おう、どんだけ私の服のセンスがだめだめか思い知らされてしまう、酷い言葉の刃だ。
そんなに悪いかな?このワンピース。
私の記憶によれば、町へ遊びに行ったときに全力でお店の人に「行かないでくださいいい、私たちの服のモデルにいいいい」なんて泣きながら食い止められた結果、適当な物を買わされ、無給で服の宣伝をやらされた、という何とも唐突に出会った一着である。
青空を模したワンピース。貴族らしからぬ、平民のような洋服ではあるものの、そこまでお金に困っているような感じに見えるような服でもない。
今回は、貴族だとお金をむしり取られる可能性があったので平民っぽい服装だったけれど、やっぱり男が言うほど、落ちぶれた貴族には見えないはずだ。
「いや、服装は平民なのに仕草が普通とはちげえからそう思っただけなんだが」
うん。まあそれはどうでもいい。男はそう呟き、私を指刺した。
「ここで仲間を置いて逃げるなんて、男じゃねえ。お前、俺と勝負しろ!!」
ーーーふうん?まあそう来なくちゃ面白くないってことよね。
リーディアは面白そうに戦闘体制を整えた。
同じタイミングで、男の手にある、存在感あふれる武器が薄く青に発光し始めた。
その武器、大剣を取り巻くように水が現れたかと思えば、鋭利な刃のように水が回転しながら変形しだす。
リーディアは思わず、舌打ちする。
なるほど、あれを作った人は中々いい腕をしているらしい。
「魔法剣か。初めて見たわ」
「そうだろ?これ、何でも切れる優れものなんだぜ」
男は舌なめずりしながら、こちらを覗く。
魔法剣とは、魔鉱石を原材料に作った剣で、ほかの剣とは違い、魔法を付与することができるものだ。それは森奥深くに眠るドワーフ族の国でしか作れないらしく、とてもじゃないが大量生産なんて無理だということで、使い勝手はいいものの、お値段が聞けば顎が外れるほどのものになっていて、普通は手が出せないのだ。
こんな市街地の者が持てるほど決して安くはないはず。なのに何故、男が持っているのか。そんな、まっとうに生きてなさそうなこいつが持っているのだ。なら私も欲しいし持っていたい。
リーディアは、不振に思いながらも、さあけんかしようぜと男と対面する。
バキン
その音と共に後ろのドアに拳が突き刺さり、そこにちょうど立っていた彼は、綺麗に弧を描きながらひとっとびして私を通り過ぎ、二人組の立っている間をを通り過ぎ、最終的にドスンと壁で全身を打ちまくって、ぐったりしていた。
男が打ちつかれた壁にはクレーターのような穴があき、今、何者かがこの部屋に来たことは一目瞭然だった。
「はあ?」
私がそう言っている間にも、バギンバギギン、と扉の壊される音が続いていく。
あのドア、空きっぱなしなんだけどなあ。壊したって意味ないんだけどなあ。私鍵してないし。
あれの請求書、私じゃないよ?私、なあーんにも壊してないもんね。
そんなことを思いながらリーディアは、少し。ほんの少しだけ、明後日のほうを向いてたそがれていた。
そのたそがれの時間にも開閉可能なドアはどんどん可哀想な姿へと変化していく。
木くずはあたりへ舞に舞って、私はケホケホと咳をした。
そして、ボケーとドアが破壊された慣れの果てを眺めてて、
やばい。賭けに負けたかもな。
終わったかな。
扉に開けた大穴の拳の所有者の姿を眺め、そうそうに悟りを開こうと思ったリーディアであった。
それは騎士団だった。